137 私と殿下と皇女宮
一週間ぶりの更新です。祝日なのでちょっと早めのアップップです。
お待たせして申し訳ありませんでした。
迎えに来た馬車に乗って連れてこられたのは殿下のご自宅…なんと王宮殿だった。
「ここは僕の姉上が七つになるまで暮らしていた皇女宮なんだ。姉上がここを出てから誰も使っていないけど、ずっと手入れはされているから中はきれいだよ。父上たちの宮殿からも離れているし、内緒の話をするにはちょうどいいと思うんだよね」
怖い…。さっきからずっと微笑んでいる殿下の笑顔がすごく怖い…。
案内された皇女宮は想像していたよりもこじんまりとした、あまり華美ではない建物だった。建物内は明るくかわいらしい色調で統一されていて、甘めな印象が強い。おそらく主が幼い頃のまま時が止まっているんだろう。
「いつ姉上が戻ってきてもいいように…そう思ってたんだけどね。まもなく隣国に嫁ぐみたいだからその必要もなかったみたい」
そう言った殿下は少し寂しそうに微笑んだ。
「さあ、それはさておき。君には聞きたいことがたくさんあるからね。夜は長いし、じっくり話してもらうから覚悟して」
殿下の人間味のない笑顔に私は愛想笑いを浮かべるのが精いっぱいだった。
通された客間では数人のメイドがバスタブにお湯を張り、私を待ち構えていた。
階段から落ちたせいで制服も髪も土や血液でひどく汚れた私が鏡に映る。
(温かいお湯、めっちゃ嬉しい…はぁぁ、気持ちいぃ)
そんな殿下の心遣いが嬉しかった。
入浴を済ませ用意された服に着替えると、食事の支度が整えられたダイニングに通された。
そこには既に殿下とアンネローゼ様が席に着き、談笑している。
「遅くなって申し訳ありません」
急いで席に着くと二人は会話をやめ微笑んだ。
「構わないよ。ああ、その服よく似合っているね。間に合ってよかった」
「殿下がわざわざ用意してくださったのですか?」
殿下の言葉に思わず自分の着ている服を見る。淡いブルーグレーのドレスはウエストから裾にかけて一部分がプリーツになっており、広がった時にだけ見えるよう白いレースがあしらわれている。控えめで清楚なデザインはとっても私好み。しかも着心地の良い質感に良質さが感じられた。
「うん。ここにある姉上の服じゃ流石に小さすぎるからね。急遽持ってきてもらったんだけど、やっぱり僕の見立ては正しかった」
(7歳のクローディア様の服はさすがにね。でもこの服って殿下が選んでくれたの?それってちょっと問題があるんじゃ…)
私は以前ヴィクター様に聞いた贈り物のドレスの意味を思い出す。
「違うでしょ、エリオット。誤解を招くようなこと言わないで。これはあなたの選んだドレスの中から私が選んだの。だから私の見立てなの」
(ああ、そういう事)
「あれ?そうだっけ?っていうか…ローゼ、もしかして妬いてる?」
殿下が愛おしそうに目を細めながらアンネローゼ様をみる。
「そ、そんな訳ないでしょ!勘違いしないで…っ」
赤くなって顔を背けるアンネローゼ様が今日もかわいい。
はいはい、仲良くっていいですね。これならこの国の将来は安泰ですよ。王国万歳。
そう思いながら、注がれたグラスの水に口をつけた。
「それで…」
殿下が私の方に笑顔を向ける。
「ステラはいつから『白き乙女』なの?」
「ぶっ!!」
思わず含んだ水を吹き出した。突然投げられた直球ストレートにデッドボールを食らった気分…。
「あれ?ちょっと違うね。訂正。ステラはいつ、自分が『白き乙女』だって事に気づいたの?そもそも『白き乙女』は国家機密だから僕たち公爵家しか知らないはずなんだよね。それなのに君はその事を知っていた。って事は誰かに教えてもらったって事だよね?誰?そんなおしゃべり。まあ、君の周りにいる公爵家の人間なんてヴィクターくらいしかいないんだけど。全く…僕に隠し事なんてとんだ不敬だよ。そう思わない?あとで問い詰めてやらなきゃね。それで、ステラはいつからその力を使えたの?なんであの時、自分が白き乙女だって教えてくれなかったの?」
「え…えっと…」
矢継ぎ早やな質問攻めに、口を挟む隙がない。
しかも殿下、目が笑ってない…。
「僕に隠し事とか許せないんだけど。ステラだから大目に見るけど他の人間だったらただじゃおかない所だよ」
「エリオット…。ステラを困まらせないで。怯えているわ」
見かねたアンネローゼ様が助け舟を出してくれる。
ありがとうございます、アンネローゼ様。
私、さっきから変な汗が止まりません…。
脇の下ビッチョビチョです……。
「え?ああ、ごめん。そんなつもりはなかったんだけど。ステラは友達だと思ってたのに隠し事されてちょっと悲しくなっただけだよ。なんにもしないから安心して。それにまさか僕の代で本物の『白き乙女』に会えるとは思わなかったから、ちょっと興奮しちゃった。さあ、これでも飲んで」
殿下は私の前に水の入ったボウルを勧めてくれた。
「エリオット、それフィンガーボールですわ」
殿下はあれ?と首を傾げるとフフッと笑った。わざとなのか本気なのか区別のつかない天然王子の扱いに、愛想笑いすら出てこない。
「冗談はさておき、順序良く聞かしてもらおうかな。君の『白き乙女』としての経歴をね」
そう言って殿下は静かにグラスに口をつけた。
本日も最後まで読んで頂きありがとうございました。
次回138話、明日19時頃更新予定です。
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