136 私とココアと光の関係
行間、元に戻しました。
「あ、ありがとう。リリア」
異様に高いリリアのテンションに思わず面食らう。
「あっ、ステラさん。目が覚めたんですね。ご要望のココアですよ。たくさん作って貰いましたからいっぱい飲んで元気になってください。皆さんもいかがですか?」
カップにココアを注いでくれようとするリリアだったが、その手がカタカタと震えている事に気づいてしまった。
「リリア…」
彼女の手にそっと自分の手を添える。
途端に彼女の瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
「ごめんなさい…ステラさん。私あの時なんにもできなくて…。怖くて…動けなくて…。でも、意識が…戻って…ほんとによかった…っ」
「ご、ごめんね。リリア…」
そうだよね。怖かったよね。
その様子を黙って見ていた殿下がリリアからポットを引き取る。そして執事のような美しい所作でカップにココアを注ぎ入れると私に渡してくれた。
うん、流石殿下。いい男はこんな何気ない仕草も絵になるのね。
湯気と共に広がるチョコレートの甘い香り。殿下はアンネローゼ様とリリアにもカップを渡し、自分の分も入れるとカウチに腰を下ろした。
「リリア嬢。改めて聞くけど、君はあの時何か見た?ローゼと君以外の誰か…。後姿でも足音でもなんでもいいんだけど、覚えている事はない?」
リリアは緊張した面持ちで顔を上げたが、すぐに下を向き首を左右に振った。
「…私の居た場所からはアンネローゼ様とステラさんしか見えませんでした。二人が向かい合って話していて…急にステラさんがよろめいたと思ったらそのまま階段の下に落ちて行って…。突然の事に驚いてしまって…。申し訳ありません…、私がもっとよく見ていれば…」
「いや、あの状況では無理もない。気にしなくていいよ。さあ、せっかくだから温かいうちに頂こうか。ステラ飲めそう?」
「はい、頂きます」
カップに口をつけ一口すすると甘さが口の中に広がる。
(ああ、おいしい…っ。体にしみる…っ)
暖かいココアが喉を過ぎた辺りで急に体がポカポカと温かくなった。
さっきまでの脱力感がうそのように消えていく。
注がれたココアを一気に飲み切りもう一杯おかわりを貰おうとして、はたと自分に注がれる視線に気がついた。なんだろうと思って顔を上げると、私を凝視する殿下とアンネローゼ様と目が合う。
(何だろう…ココアで口ひげ出来ちゃってる?)
慌てて手の甲で口を拭う。
アレ?何もついてない。
「ステラ…君、それ……」
「それ…?」
「その白い光……。どうして……っ?」
(光…?)
言われて、自分の体を見る。
ほの白い光の膜が私の体全体を包むように覆っている。
あれ?これって……。
もしかして『白き乙女』の力が発動してる?!
そう言えば頭の傷がちっとも痛くなくなっている。私は頭に巻かれた包帯を外し傷口と思われる箇所に触れてみた。
そこにはもう、なんの痕跡も残っていない。
(わーい!治ったぁ。よかったぁ……!)
じゃないっ!!
ヴィクター様とアレンにこの力は内緒にしてろって言われてるのに!!なんでいきなり発動するのよっ!!
バレたか?!バレてない?!いや、ワンチャン行けるかも…っ!
「その光……まさか『白き乙女』の…」
はい、行けませんでしたぁ!!
「どういうことですの…?まさかステラが伝説の『白き乙女』…?」
二人が信じられないと言った顔で私を凝視する。
そんな中リリアだけが意味が分からないという顔でこちらを見ている。
(あれ?リリアだけ反応が違う。もしかしてこの光、見えてない?)
「あの…どうかなさったんですか?ステラさん、いきなり包帯取ったりしたらダメじゃないですか。私巻き直しましょうか?」
そう言って立ち上がりかけたリリアを殿下が厳しい声で制した。
「リリア嬢!!!」
ビクッとしてリリアが動きを止める。
「あ、いや……ごめんね。急に大きな声を出して。それは僕がやるから、君は寮に言伝を頼まれてくれないかな?ステラは大事を取って、今日は僕の所で預からせてもらう。まだ聞きたいこともあるしね。外泊の許可をもらっておいて欲しいんだけど、お願いできる?」
有無を言わさぬ殿下の満面の笑顔。
「は、はい。分かりました」
後ろ髪をひかれるように出ていくリリアを、私はすがるような目で見ていた。
(できれば一緒に連れて行ってもらいたかった…)
リリアが出て行った後の室内に続く沈黙。
(気まずい…。そしてこの沈黙…重苦しい…)
その間、ほわほわと私の周りを包む白い光はまるで消える気配がない。
(いい加減消えてくれないかな…)
どうしたら消えるのか全く分からない。っていうか、なんで光ってるのかもよくわからない。
「ステラ」
長い沈黙を破り殿下が私の名を呼ぶ。
「…はい」
「ココア…もう一杯どう?」
殿下がにこやかにココアを勧めてくる。この笑顔…今日ほど怖いと思ったことはない。
「い、いただきます…」
そう言わざる負えない雰囲気にカップを受け取り一口すする。
ああ、こんな状況でもココアはおいしいね!!
投げやりな気持ちで一気に飲み干すと、
ピカァァァァ。
と私を包む光の輝きが増した。
(な、なんで…っ)
「ふむ…なるほど」
その様子を見ていた殿下が思案顔で小さくつぶやいた。
「ステラ」
殿下が輝くような笑顔で私を見る。
「…はい」
「君には聞きたいことと伝えたいことが山ほどあるんだけど、どうだろう?しばらくの間その体、僕に預けてもらえないかな」
「はい…」
そう答える以外どんな返事があるのか。
誰か知ってたら教えて欲しい…。
本日も最後まで読んでいただきありがとうございました。
犯人探しが置いてきぼりになってます…。
申し訳ありません。
次回もどうぞよろしくお願いします('◇')ゞ




