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134 私と衝撃の出来事

学舎ニ階の開放廊下。

一階まで続く外階段の上で控えめな仕草で手を振っている人物が見えた。アメジスト色の髪を腰まで伸ばした少女。間違いない。アンネローゼ様だ。


私は大きく手を振り返し、隣に立つリリアの腕を取ると石造りの階段に足をかけた。


何のために作られたのかよくわからない、全く持って実用性のないこの外階段。

なかなかに急こう配な上、踏み面も狭く手すりもないため、余程の急ぎでもない限り誰も利用しようとは思わない謎階段。雨雪の日は滑るし、強風時は煽られとてもじゃないが登れない、というのが生徒たちの言い分だ。



(まあ近道だから、私はいつもありがたーく使わせてもらってるんだけどね)



その昔、まだ他国との関係が良好でなかった頃、実践的な剣術の訓練のために作られたという説もあるけれど真偽のほどは定かではない。



「ごきげんよう、アンネローゼ様」



駆け足で最上段まで一気に登り切ると、笑顔のアンネローゼ様と目があった。

彼女にしては珍しく、周りには人っ子一人見当たらない。



(いつもだったらエリオット殿下や取り巻きの令嬢とか必ず誰かしらいるのに。今日は珍しいわね)



「今日はお一人なんですか?」


「ええ、先生に呼ばれて教員室に向かう所だったの。降誕祭も近いから殿下もお忙しいし。ミッシェルたちともこのところタイミングがあわなくて…。だからあなたの姿が見えてつい嬉しくなって手を振ってしまったわ。呼びつけるつもりはなかったのだけど…」


「いえ、私もお話ししたい事があったので、お会いできてよかったです」


「そうなの?何かしら?」


「実はですね…」




その時、




「ス、ステラさーん…っ。ま、待ってくださーい」



と、階段の下の方から情けない声が聞こえてきた。



(あ、そうだ。リリアの事置いて来ちゃった。すっかり忘れてた)



階段の半分くらいのところで、登る事も下る事も出来ず踏み面に手をつきしゃがみ込むリリア。若干腰が引けている。



「お、置いてくなんて…ひどいです。この階段こんなに急だったんですね。知りませんでした。それをヒョイヒョイとあんな身軽に…。ステラさん凄すぎます」



数段戻り彼女の手を取る。



「ごめんごめん。大丈夫?」



彼女の手を取り今度こそ最上段まで引っ張り上げる。ぺたりとしゃがみ込むリリアの頭をよしよしと撫でてあげ、話の続きのしようと振り返った。

が、なぜかそこにアンネローゼ様の姿がない。

どこに行っちゃったんだろうと見回すと壁の後ろから片目と体の左側三分の一だけ出してこちらを伺う、目つきの悪い彼女と目が合った。



(ああ、そうか…)



私はリリアの顔をものすごい形相で睨みつけている(?)アンネローゼ様に歩み寄った。



「アンネローゼ様。この子はリリアです。リリア=アンダーソン。男爵家のご令嬢なんです。大丈夫です。噛みついたりしませんから安心してください」


「…え?噛みつく…?」


リリアが怪訝そうにこちらを見る。

私はアンネローゼ様の背中を優しく撫でながらそう言った。



「ステラのお友達…なの?」


「はい。料理部の部長さんをやっています。今年の降誕祭で一緒にクッキーを作る約束をしてまして…」


「料理部って事は、アルテイシアの星?」


「ええ、今年はリリアと二人でステンドグラスクッキーを作ろうと思ってるんです。もしよければアンネローゼ様も一緒にどうかな?と思って探していたんですよ」


「やるわ!」


「そうですよね。アンネローゼ様もお忙しいでしょうからすぐにお返事は頂かなくても…え?!やるんですか?」



そんな即答されるとは思わず、思わず聞き返した。



「やるわ!!クッキーよね?前から一度作ってみたかったの!!うれしいわ。誘ってくれてありがとうステラ。よろしくね。リリア=アンダーソン令嬢」



「あ…あああっ!はい!!こ、こちらこそよろしくお願いしますっ!!アンネローゼ様!」



突然名前を呼ばれリリアの背筋がピシッと伸びた。いつの間にか警戒も解けてるようでなによりだ。



「それで、いつやるの?」


「あ、えっと…これから試作品を作ってみようと思って、カフェに向かう所だったんですけど…」


「そうなのね。それじゃ、行きましょう」


「え?いえいえ…っ!教員室に向かう途中だったんですよね?」



確か先生に呼ばれてるって言ってなかったっけ?

アンネローゼ様は、はっとした顔をして自分の手元を見た。手にはたくさんの丸めた書類が抱え込まれている。そしてもう一度私の顔を見ると……ニコッと笑った。



「大丈夫。すごくヒマよ」



嘘ですよね!!



「そんなに慌てなくても大丈夫ですから。とりあえずその書類を置いてきてください。ちゃんと待ってますから」






そう言った私の視界の端っこに、一瞬何かが写りこんだ…ような気がした。


なんだろう?とアンネローゼ様の背後を覗こうとした瞬間、彼女の両脇から何かがにゅっと伸びてきた。



(え?なに?……手?)



アンネローゼ様の手…はしっかりと書類を抱きかかえている。

じゃ、これは誰の…?




そう思った瞬間だった。





ドンッッ!!、と。





強い力が私を押した。




油断していた私は2、3歩後ろによろける…。

と、そこにはあるべきはずの地面がなくて…

バランスを崩した私は、後ろ向きにぐらりと倒れた。



(お、落ちる…っっ!!)



私の後ろには急こう配の階段があるのみ。このまま落ちたら確実に、怪我をする。

そう思って咄嗟に伸ばした手の先に、同じく驚いた顔で手を伸ばすアンネローゼ様が見えた。

助けようとしてくれたのか、それとも巻き添えになったのか…。



(この手を掴んだら、確実に彼女も落ちる)



そう思った私は、無意識のうちに力いっぱい彼女を突き飛ばしていた。



(あれ……なんだろう。この光景、前にもどっかで見た事ある…)




頭の中で映画のフィルムのようにパチパチと静止画が流れる。



光る車のヘッドライト。

ガードレール越しに後ろ向きに倒れる私の前には手を伸ばした人影。

大きく開いた口が何かを叫んでいる…けどなんて言ってるかはわからない。

そして私はその人を……。




ガンッ、と。




ものすごい衝撃を頭に受けた。



痛みというより目の前が急に真っ暗になり、目頭に痛みが走る。

薄れる意識の中、誰かの悲鳴にも似た叫び声が聞こえた。




「だ、だれか――――っ!!アンネローゼ様がステラ嬢を突き落としたわ――っ!!」




本日も最後まで読んでいただきありがとうございました。


ステラを突き飛ばした犯人は…?


次回もどうぞよろしくお願いします('◇')ゞ

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