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130 私とコフィアと職人たち 1

聖女祭りも後半戦、国の中心部である王都は降誕祭に向け、更に賑わいを見せている。


私はクッキーの型を作ってくれそうなその道のプロに会うため、職人街の鍛冶工房に足を運んだ。

路地を抜けたどり着いた工房は前回訪れた時と違い、なぜかシンと静まり返っている。



(あれ?いないのかな?お休み?)



開け放たれた工房の入り口に立つと、中から楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

いないわけではなさそうだ。



「ごめんくださーい。エヴァンズさん、いらっしゃいますかぁ?」



控えめに声をかけると笑い声が途切れ、奥から大きな人影が姿を現した。



「おお!!天使じゃねーか!!どうした?嫁に来たのか?」


「……はい。不束者ですがよろしくお願いします」


「え…っ?!はぁ?!ま…まじか!!」


「嘘です。冗談です」


「かぁ―――っ!冗談かぁ!!びっくりしたぜ!!」



エヴァンズさんがピシャリと自分のオデコを叩く。

この人のこういうノリが割と好きなんだよね。



「まぁいいや。とりあえず入れよ。ちょうどあんたの話をしてたとこだったんだ」


「私の話ですか?」



誰と?



「あっ!」



部屋の奥には優しそうな笑顔で小さく手を振る老紳士。



「クロノールさんっ」


「こんにちは、お嬢さん」



まさかこんなところで会えるなんて。



「どうしたんですか?こんなところで」


「こんなところで悪かったな」



苦笑しながらエヴァンズさんがマグカップを渡してくれる。お礼を言って受け取ったカップからは何とも言えないいい香りが漂う。



「コフィアですね」


「ああ、そうだコフィアだ。そしてそれはこれを使って入れている」


「あっ!!!」



エヴァンズさんの両手に乗せられているそれは…っ!!



「ミルとドリッパーの試作品ができたから、ちゃんと使えるかどうかクロノールさんに見てもらってたとこだったんだ。どうだ、女神が言ってたのはこんな感じのもんでよかったのか?」



「そうです!!これです!!最高です!!完璧です!!」


「そうだろう!!どうだ!!嫁に来る気になったか?!」


「ごめんなさい!!お断りします!!」


「かぁ―――っ!!まーた断られちまったぁ!!でも俺はあきらめないぜ!」



エヴァンズさんが腰に手をあててがははっと笑う。



「でも…3カ月はかかるって…」



あれからまだ2週間くらいしか経ってないんだけど…。



「そりゃ、あれだけの事してもらったんだから…な。…このくらい…させてもらわねーと申し訳ないっていうか…」



一転、真っ赤になってゴニョゴニョと言い淀むエヴァンスさん。

ううっ、なんだか罪悪感で胸が痛む…。あの時はホントにごめんね。



「俺は鍛冶屋としては超一流なんだが、からくりみたいなもんはからっきしだからな。ミルは回転させて豆を砕く構造だろ?その辺がどうにもお手上げ状態だったんでクロノールさんにも手を貸してもらったんだ」


「その辺は私の得意分野ですからね。彼を紹介した手前気になっていたもので。お役に立てて良かったです」



クロノールさんがコフィアを一口飲んで目を細める。



「味もいいようですよ。さっきミルで挽いた豆を見ましたが均等に砕かれていました。ハンドルを縦型に、大きく設計しましたのでお嬢さんのように力の弱い女性でも簡単に挽くことができると思います」


クロノールさんがミルの上部に豆を入れて私の前に差し出す。ハンドルに手をかけゆっくりと回すとガリガリと小気味よい音が響き、香ばしい香りが立つ。



「はぁ、いい匂い…」



ほんとだ。確かに楽にハンドルが回せる。



「こっちがドリッパー用のスタンドだ。この丸枠にフィルター用のネル生地をセットする」



見た目は理科の実験で使うスタンドのような形。上部に丸型の輪っかみたいなものがついている。



「こういうのはシンプルな作りの方が手入れも楽でいいだろ?ついでにこの灯熱石製のポットも付けてやろう」


「ほんとに!!ありがとう!エヴァンズさん!!」



思わずその大きな体に抱きついた。



「お…っおお?!おおおっっ……っ!」



急に引きつった悲鳴のような声を上げるエヴァンズさん。両腕が宙を泳いでいる。



「お嬢さんダメですよ。彼は口では大きなことを言っていますが、女性に対しては奥手なんです。そんな事をされたら大変な事になりますよ」



「そうなんですか?」



私は抱きついたままの体勢で彼を見上げる。そこには顔を真っ赤にしたエヴァンズさんが私を見下ろしていた。



「だ、ダメだ…っ。そんな上目遣いで見上げられたらオレ…っっ」



宙をさまよっていた両腕がピタリと止まる。その手がガバッと顔を押さえたかと思うと次の瞬間、




ツ――ッ




手の平の下から赤いものがしたたり落ちた。



(え…鼻血……?)



「はっはっはっ。若者は血の気が多いですからね。こいつの場合少し抜いた方がちょうどいいかもしれません」


「そんな、落ち着いてないで…っ!大丈夫ですか?!エヴァンズさんっ!」


「大丈夫ですよ。たかが鼻血です。ほっておいてもそのうち止まりますから」



はっはっは、と笑いながらコフィアをすするクロノールさん。

私は蹲るエヴァンズさんを黙って見降ろした。


本日も最後まで読んでいただきありがとうございました。


あの時の事って何だったっけ?ってなった方は、どうぞ97話辺りを参照してください。


次回もどうぞよろしくお願いします(^^♪



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