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128 私とリリアと降誕祭

学園がにわかに活気づいている。


それは一週間後に迫った「降誕祭」に向けての準備に多くの学生たちが追われているからだ。


「降誕祭」とは何か。


簡単に言えば「学園祭」のようなものだ。


元々は初代聖女アルテイシアがこの国に降り立ったとされる前後を三日間を「聖なる三夜」と呼び、その間を「降誕祭」とすると国で定めた事が始まりとされるが、この学園でもその期間中は独自の祭りを行う慣習がある。


普段、外部の人間に対し堅く門戸を閉ざしているこの学園も、この日ばかりは広く扉を開け放ち外部の人間が気軽に立ち寄れる唯一の期間となるのだ。


通常学園に入れるのは、「現時点で学園に籍を置く子息令嬢」と「その保護者となる貴族家門」、「そのどちらかの許可を得たもの」だけと決められている。その理由は、今後この国の要人ともなり得る子供たちを守るため。

要は悪い虫がつかないための万全の措置。


だが、この「降誕祭」の期間だけは学園に通う生徒の家門と紐づきたい商人や貴族たちが簡単な名簿の記入のみで入校を許される。

貴族たちは将来有望な貴族家門との縁をつかむため、商人たちは御用商人の地位を手に入れるためこぞって学園に訪れ、コネを作る。特に商人たちは学園内での出店許可が与えられるため、各々が自慢の品をアピールするため毎年大々的な出店合戦を行い、祭りは大いに賑わうらしい。


祭りの最終日には広場に大篝火(おおかがりび)が焚かれ、皆思い思いの願いを書いた木製の星型を火にくべる。それらは灰となって空高く舞い上がり聖女の元に届けられ願いはかなえられる…。


というのが「降誕祭」のおおよその流れになるそうだ。





祭りの準備と言っても生徒たち自身がクラス単位で出店をしたり、企画や展示で人を呼び込んだりするわけではもちろんない。


部として活動している、運動系の馬術部や剣術部、社交ダンス部はそれぞれの会場で大会が催されるためその練習に励み、文科系の音楽部や演劇部は講堂にて行われる発表会に向けて連日練習に勤しむ。


料理部は例年、降誕祭最終日に皆で送り合う「アルテイシアの星」をお菓子で作る作業に追われるらしい。

何を作るかはその年ごとに違うようだが、作ったお菓子はイルミネーションで飾りつけられたメイン広場の大木の下という特等席で販売されるようだ。


それ以外の生徒たちは親類縁者に送る招待状を書いたり、当日着用するドレスやスーツを作ったりとそれぞれに祭りの準備を楽しんでいる。



(なんでもそうだけど、祭りってワクワクするよね…!)



とはいえ、部活動に参加していない私は特にすることがない。



(招待状は送ったし、ドレスなんか一着あれば十分だし…。こんなことならなんか部活にでも入っておけばよかった)



前世ではなんとなく入りそびれて、中高共に帰宅部だったし、ホントはちょっと憧れていた。



「見に行ってみようかな……。料理部」



「アルテイシアの星」作り、ちょっと興味がある。








(まさかカフェの中に部室があったなんて…)


カフェの厨房奥、てっきり料理人たちの休憩室だと思っていた扉の前で私は目を凝らした。

掛けられているプレートには小さく控えめな文字で「Cooking,C」と書いてある。しかもかすれた文字は消えかけていてほとんど読めない。



(これ…ホントに活動してるの?入って大丈夫かな…?)



ノックをしようか、それとも引き返そうか躊躇していると目の前の扉が勢い良く開いた。



「ふげっ…!」


「あっ…ごめんなさいっ!!大丈夫ですか…っ!……ってあっ、ステラさん?」


「ふえ?」



強く打ち付けた鼻を押さえながら顔を上げるとびっくり顔のリリアと目が合った。



「リリア?」


「どうしたんですか?こんな所で…」


「料理部を覗きに来たんだけど…リリアこそどうしてここに?」


「…私、料理部の部長なんです。と言っても部員は私しかいないんですけど…」



オレンジブラウンのおさげの先をくるくるといじりながら恥ずかしそうにリリアが言う。



「え?!そうなの?」



リリアはトレードマークの眼鏡を押し上げた。



「私が入部した時には3年のお姉さま達がいたんですけど、みんな卒部してしまって…」



そう言ってへへっと笑った。



「そうなんだ…。それじゃ降誕祭で売るアルテイシアの星は?もしかしてリリア一人で作るの?」



そう尋ねた私に、リリアは困ったような顔を私に向けるとそのまま抱き着いてきた。



「ステラさん…っ!図々しいお願いなのはわかっています。でも…どうかもう一度だけ、私を助けて頂けませんか?!」








部室に案内されソファに腰を下ろす。待たずしてお茶を運んできたリリアに私は訊ねた。



「つまり…あと一週間しかないこの時期にきて、まだ作るものも決まってないと?」


「…はい」



肩を落としてリリアが返事をする。



「それで私にアイデアと手を貸してもらいたいと?」


「その通りです…」


「もっと早く声かけてくれればよかったのに」


「そうも思ったんですが、ステラさんもお忙しそうだったんで…」



まあ、エリオット殿下との調理実習とかミッシェルたちとのカバディ対決とか、アレンとのその…まあ、ね?とか…、確かに濃い日常ではあった。



「去年までは何を作ってたの?」


「クッキーです。アルテイシアの星の定番ですから。大抵はチョコやアイシングでデコレーションしたものを配っていたようですが正直あまり評判はよくなかったみたいです」


「どうして?」


「……おいしくないからではないでしょうか?というより硬くて食べられないというか…」



ごにょごにょとリリアが言い淀む。

確かにロクシエーヌの定番クッキーは硬めなのが特徴だけど、食べられない程硬いクッキーって何?



「私も去年は部にいなかったのでわかりませんが、知り合いから頂いたクッキーは歯が折れるかと思うほど硬くて…その…石のようでした」


「石…!」


「なので、今年は違うものがいいかな?って…。これまでの悪いイメージを変えたいなって思ったんです。それで色々考えてるうちに時間ばっかり過ぎてしまって。私一人で作れるものは限られますし…。そもそも作れるレシピも多くないので…。気がついたら何も決まらないまま今日まで来てしまいました…」



しょんぼりとするリリア。心なしか本体の眼鏡も元気がない気がする。



「なにかいいアイデア、ありませんか?」


「あるわよ」


「そうですよね…。いきなりアイデアをなんて言ってそう簡単に浮かぶわけ……えっ?!あるんですか?」


「ええ。あるわよ」



私は入れてもらった紅茶を一口すする。



「クッキーで失敗したんだったら、クッキーで挽回するしかないんじゃない?」


「え…でも、そんな方法があるんですか?誰も手に取ってくれないかも…?」


「だからね。みんなが喜ぶクッキーを作りましょう。サクサクしてて、しかもキラキラと星みたいに輝くクッキー。『ステンドグラスクッキー』なんてどうかしら?」




本日も最後まで読んでいただきありがとうございました。


久しぶりのリリア登場です。

知らない方は53話~70話辺りに出て来ますのでそちらをご参照ください。


次回もどうぞよろしくお願いします(^^♪

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