126 私とアンネローゼとカラフルニョッキ 4
本日、第一話目に登場人物一覧UPしてます。
もしよろしければ人物確認にご利用ください。
「え?」
殿下はにっこりと笑うと次の玉ねぎを手に持ち、同じように切り始めた。
「僕は基本誰にも…どの家門にも肩入れはしないようにしているんだけど、君の事だけはどうしてもローゼに引き合わせたかったんだ。見てよ、ローゼの笑顔。あんなに楽しそうな彼女の笑顔、僕も今まで見た事がない。僕以外の前では素の自分を出すことをためらってた彼女が、君たちの前では怒ったり笑ったり拗ねたり、いろんな表情を見せてくれる」
殿下は更に三つ目の玉ねぎを手に取った。
「かの令嬢たちには僕に近づきたいという欲があった。そのためにローゼに取り入ろうとしてた事は知っていたよ。彼女を騙してることも、陰で笑いものしていることも」
「殿下…」
慣れた手つきで薄切り玉ねぎの山を築いていく殿下。そんなにいらないとは言えない雰囲気に、ただ見守る事しかできない私。
「できればローゼ自身に気づいて欲しかったけど、見ての通り人を疑う事を知らない人だから…。だからね、僕が君を利用したんだ。そう言ったら、君は僕を嫌いになる?」
玉ねぎを切る手を止めて殿下がこちらを見た。その目にはうっすらと涙。
「その涙…玉ねぎのせいですか?」
かくいう私も涙が止まらない。
「うん。目が痛くて…泣きそう」
「もう泣いてますよ」
天然王子のとぼけた態度に思わず笑いがこみ上げる。
「嫌いになるはずないじゃないですか。むしろアンネローゼ様と知り合う機会を与えてくれた殿下には感謝しかありません」
私は殿下の手元からそっと玉ねぎを取り上げ、代わりにマッシュルームを置いた。
それを薄切りに切って見せると、殿下は頷いて同じようにマッシュルームを切り始めた。
「ありがとう、ステラ」
殿下がものすごい勢いでマッシュルームの薄切りの山を築いていく。
うん、手先も器用なんですね、殿下は。
「ステラ~ニョッキ茹で終わったよ~。次は何したらいいの~?」
離れた場所からシンディが声を上げる。そうだった、急がなくちゃ。
「ちょっと待って――っ」
私はベーコンの塊をつかむと急いで一口大にカットする。ついでにほうれん草もざく切りに。
「じゃあ、仕上げのソースを作っちゃいましょう。まずはフライパンにオイルをひいて…」
フライパンがあったまる前にベーコンと玉ねぎを投入する。
そう時間をかけず、ベーコンがジュワジュワと音を立てながら身を縮める。染み出したベーコン自体の油を玉ねぎがまとい、より香りが引き立つ。
「はぁ。なんだかいい香りがしてきましたわ」
おいしいものに目がないセシリアが鼻をクンクンさせる。
「香りが出てきたらマッシュルームを入れて少し炒めます。マッシュルームがオイルを吸ったらほうれん草を入れてニョッキの茹で汁と牛乳、クリームを入れて沸騰を待ちます」
フライパンの中からコトコトと音がし始める。それを5人でじっと見つめている光景がなんだかおかしい。
「なによ、ステラ。何笑ってんの?」
いち早く反応したシンディが首を傾げる。
「ううん、なんか楽しいなぁって思って」
みんながワクワクしながら出来上がりを待ってくれているのがなんだかうれしい。
料理って、一から作ると時間も手間もかかるからめんどくさいって嫌がる人は多いけど、食べてくれた時の笑顔を想像するだけでそれが一気に苦じゃなくなるから不思議。だから料理ってやめられないんだよね。
「沸騰したらニョッキを入れて、火を強めてちょっと煮詰めます。そこにさっき削ったチーズをたっぷり入れて塩胡椒で味を整えたら…」
お皿に盛りつけて、仕上げに胡椒を振りかけて…、
「ニョッキのホワイトクリームソースの出来上がりです!!」
「わーっ」と歓声が上がる。なぜか騎士様とお医者様たちも混じっていたのが気になった。
「とりあえず、出来上がった分から食べ始めてください。殿下、アンネローゼ様、お先にどうぞ」
フライパンで一回にできる量は限られちゃうからね。この人数だと何回かに分けないと作り切れない。
「いや、僕たちは最後でいいよ。まずはみんなの分を仕上げてしまおう。僕も手伝うから。手順はさっきので覚えたし」
殿下が別のフライパンにオイルをひいて調理を始める。見てただけなのに即戦力…。殿下、やっぱりかなりのハイスペック男子だ。
その間、皿に盛りつけたニョッキをシンディ、セシリア、アンネローゼ様がテーブルに運び、騎士様たちを席に促す。その場の全員が恐縮しながら移動する。
「おい…俺たち、殿下のお作りになったものを頂くのか…。恐れ多いな」
「ああ、こんなことが王妃の耳に入ったら俺たち首が飛ぶんじゃないか…」
そんな話をコソコソとしている。王妃様ってそんな怖い人なの?
殿下のおかげもあってあっという間に全員分の皿がテーブルに並ぶ。しかもお皿からはまだホカホカと湯気が立っている。
(す、すばやい……)
将来殿下と一緒にレストランが開けたら、ものすごい繁盛するんじゃないだろうか。
「どうしたの?ステラ。冷めちゃう前に早く食べよう」
欲のこもった目で殿下を見つめる私を殿下が促す。
「あの殿下、もしよかったら私と一緒にレストラン経営に乗り出しませんか?」
心の声がうっかり漏れ出た。
殿下はスッと真顔になると私の顔をじっと見つめる。
「すみません。冗談です…。忘れてください」
「いいよ」
「へっ…?」
「王太子じゃなくなったら、僕を雇ってよ。もちろん料理人として。僕、料理好きみたい。だからもっといろいろ教えてよ、ステラ」
ニコニコと、冗談なのか本気なのか分からない殿下の言葉にこっちが面食らう。
「持ち帰って…検討します」
会社員時代の便利な逃げ口上がつい口を出た。
殿下は首を傾げたが、
「さあ、もう待ちきれない。早く食べよう」
そう言って席に着くとスプーンを持った。
本日も最後まで読んでいただきありがとうございました。
ようやく作り終わりました!!がまだ食べていません…。
次回ようやく実食です。ニョッキ、手間はかかりますがおいしいのでよかったら作ってみてください。
次回もどうぞよろしくお願いします(^^♪




