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122 私とアレンの告白

昨日は更新できず申し訳ありませんでした。

家人が右腕を脱臼しまして、大学病院の救急外来で足どめされました。

なぜ休みの日に…( ;∀;)

「ステラ」



殿下たちと別れ一人カフェを出たところで、木の陰に佇むアレンに声をかけられた。



「どうしたの?アレン。もしかして私のこと待っててくれた?」



なんとなく神妙な面持ちをしてバツが悪そうに目をそらすアレン。

アレンがこういう顔をする時は大抵なにか後ろめたいことがある時だ。



(ヴィクター様となんかあったのかな?あの後どうなったんだろう)



わたしが近づくと、彼は踵を返しゆっくりと歩き出した。それに倣い私もあとを追う。



「エリオット様、なんの話だったの?」



こちらを振り返ることなく歩きながらアレンが聞く。



「ああ、アンネローゼ様がね、私と一緒にお料理を作ってみたいんだって」



そう、殿下に呼びだされた理由はこれだった。



「この間、私が分けてさしあげたお弁当のニョッキを殿下がすごく気に入ってくれたみたいでね、アンネローゼ様にすっごく自慢されたそうなの。それでアンネローゼ様も食べたくなったって…なんなら自分で作ってみたいっておっしゃって」


「それだけ?」



アレンが立ちどまり、こちらを振り返る。その表情がどこか探るように見え思わず口ごもった。



「そ、それだけ…だよ」



白き乙女と魔法の話はアレンにはしない方がいいよね。なんか心配かけそうだし。

私は慌てて話題を変えた。



「それよりアレンは?ヴィクター様に掴みかかるなんてアレンらしくなかった。それになんかちょっと怖かったし…。イライラしてる?」



久しぶりに見るアレンはどこか顔色が優れない。疲れているようにも見えた。

アレンは私から視線をそらすと、そっと目を伏せた。



「そうだね…イライラしてたのかな…?怖がらせてごめん。でもヴィクター様にはきちんと謝ったから…。僕…そんなに怖かった?」


「…うん、見たことない顔してた。最近のアレン、なんだか忙しそうだしあんまり会えないから…疲れてるのかなってちょっと心配」


「それって、僕に会えなくて寂しいって事?」



少しおどけてアレンが言う。

私は正直にアレンに気持ちを伝えた。



「…うん、寂しいよ。今までずっと一緒だったんだもん、会えなかったらやっぱり寂しい。子供っぽい感情だって事はわかってるけど…」



同時に、もしアレンが本当にアレクシス殿下だったら…そんな考えが頭をよぎる。


彼がもし本当に王子で、すべての記憶を取り戻し、王族として本来あるべき場所に戻ることになれば今みたいに話なんかできなくなるだろう。気軽に会うことだってもちろんできない。



(もし私が今、この可能性についてアレンに話したら…なんて言うんだろう…)



思えばこの9年の間、私たちは彼の過去についてあまり話したことがなかった。理由はアレンがあまり話したがらなかったから。余程つらいことがあって思い出すことを拒絶しているのかとも思い、敢えて触れないようにしていた時期もあった。いつか落ち着いたら思い出すこともあるだろうと、彼の過去を探すのはそれからでも遅くないと。でも…、



(最初から記憶をなくしてなかったんだとしたら…?)



私はずっと騙されていたんだろうか。







「………。ねえアレン。私たち、出会ってからもう9年になるよね。あの日からずいぶん経つし、今更難しいのかもしれないけど…」


「……」


「昔の事で何か…思い出した事はない?私と出会う前の事。例えば……」


「……」


「本当の…名前…とか?」



アレンは私をじっと見つめたまま何も言わなかった。それを意味するものが否定なのか肯定なのか、それとも本当に心当たりがないのか…私にはわからない。



「あの時は……きっとあなたも混乱してただろうし、もしかしたらつい『アレン』って名前を口走っちゃっただけかもしれないでしょ?歳だってもしかしたらもっと下なのかも…っ!ううん、上かもしれない」



心の中の言葉が私の意志と関係なくポロポロと零れ落ちる。だけど止められなかった。



「ごめんね、アレン。私…もっとちゃんとあなたに向き合ってあげるべきだったよね。ずっとアレンを元の居場所に戻してあげたいって思ってたのは本当だよ。あんなスラムみたいな場所じゃなく、もっと大切にされていた居場所があったはずだから。でも…私は子どもで…あなたと一緒にいるのが楽しくて…いつの間にかそれが当たり前になってて、つい先延ばしにしてた。いつか思い出した時に考えればいい…そんなずるい考えをしてたばっかりに、こんなに時間が経っちゃった…」



私は自分の両手を強く握りしめる。



「もしアレンが…昔の事を少しでも思い出していて、それが私の聞いてはいけない話だったとしたら…それは黙っててくれていい。これは怒ってるとかじゃなくて本心だから…。アレンがやりたい事、やるべき事を見つけて一生懸命取り組んでるんだったら私も嬉しい。まああんまり無理して欲しくはないけど。私はただあなたに幸せになってもらいたい。その気持ちだけはずっと変わらないわ。そのためだったらなんだって協力する」


「……ステラ」


「だから、ね。私の事は心配しなくて大丈夫だから。白き乙女なんて大層な肩書を貰っちゃったけど自分の事は自分でできる。ずっとそうやって生きてきたの知ってるでしょ?前世からの知識も結構役に立ってるし、白魔力のおかげでそう簡単には死なないみたいだし。アレンがいなくても私はちゃんと自分の足で立って生きていける。おばあちゃんになるまでちゃんと生きるから…。だからアレンも…ちゃんと自分のために生きて」



アレンが王子であろうとなかろうと、彼は私に話せない何か重大な秘密を持っている。それがどんなことなのか私には見当もつかないけど、おそらく気のせいではないだろう。

でも彼が話してくれないのなら、これ以上深入りするのはやめようと、そう思った。

彼の負担になるような真似だけは絶対にしたくない。彼が私のために無理をしなくてもいいように、これ以上アレンに関わらない事が唯一私にできる事なのかもしれない。



そう思い、アレンを見上げようとした瞬間、



突然、強い力で引き寄せられた私はあっという間に彼の胸の中に抱きすくめられていた。背中に回った腕の強さに思うように息ができない。



「…っアレン、苦しい…」


「…いやだ」


「ア、アレン…?」


「いやだ。そんな事言わないで…。頼むから…。オレの事いらないなんて…オレから離れるなんて、そんな事言わないで…っ」



かすかに震えているアレン。泣いているんだろうか…。



「…ごめん。今の僕はどうしても君には話せない秘密が…確かにある。話してしまえればどんなに気が楽か…考えない日はないよ…。でも今はまだ…どうしても話せないんだ…」


「うん大丈夫、分かってるから。私の事は気にしないで…」


「違う!!そうじゃない!!僕は…君しかいらないのに…っ!本当は…君だけを連れてどこかに逃げてしまいたいのに…っ!叶うなら…っ。でも…っ!それじゃ何の解決にもならない…」


「アレン…」


「もう時間がないんだ…。急がないと…。必ず…君を死なせはしないから…。君を失うのは一度で十分だから…」



アレンがゆっくりと体を離す。ようやく息ができるようになった私は彼を見上げようとして顔を上げ、思わず固まった。





「……っ?!」





唇に、優しく押し付けられた何か。




それが彼の唇だと気づくのにそう時間はかからなかった。




今まで共に過ごした時間の中でここまで近く、彼と触れ合ったことがあっただろうか…。

優しく押し当てられた彼の唇が啄むように何度か触れ、やがて名残惜しそうに離れた。

そしてもう一度、今度は優しく抱きしめられた。



「待ってて…。もう二度とお前を悲しませたりしない。約束する。だからオレを信じて待ってて……」


「……っ!!」


耳元で静かにささやく彼の言葉。


最後に、吐息と共に吐き出された…かろうじて聞き取れたその名は私にも聞き覚えのある名前で……。


私はゆっくりと彼を見つめた。


アレンは切なげな微笑みを浮かべると私の額にキスを落とすと、その場を後にした。





本日も最後まで読んでいただきありがとうございました。


次回123話は明日19時頃更新予定です。

今年に入ってからおもがけない事故(?)に遭遇してばかりで油断できませんが、また何かありましたらこちらでご連絡させて頂きます。


それでは明日もどうぞよろしくお願いします('◇')ゞ

↑  ↑  ↑

今月に入ってこればっかりですが…。本日1/12の更新は明日に延期させて頂きたいと思います。


仕事の方のイレギュラーが続いておりまして…決算月という事もあり思うように自分の時間が取れません。出来れば毎日更新が理想なのですが…。

申し訳ありませんがよろしくお願いします。

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