121 オレと親友の思い
3日間すみませんでした。
いつもより少し長くなりましたがどうぞお付き合いください。
「ステラと何を話した。すべて話せ」
ステラがエリオットの元に向かう後姿を見送り、オレは場所を移すためヴィクターを促した。
ステラがヴィクターに抱きすくめられている姿を見て思わず頭に血が上った。
そんなはずはないと頭ではわかっていたのに、体が勝手に動き、気づけばヴィクターの腕をひねり上げていた。
(我ながら重症だな…)
自分の気持ちを押し殺すのに限界が来ているのは当の昔にわかっていた。彼女に触れたい。想いを伝えたい……。そう願い続けてどれだけの時が経ったのだろう。前世も含め気の遠くなるような時の流れの中でその焦燥感は募るばかりだ。
既に午後の授業は始まっている時間だが、念のため今は使われていない旧棟の一室に移動する。
室内に入り鍵を閉めると、近くにあった机に腰をかけヴィクターに視線を向けた。
ヴィクターは口を一文字に引き結びオレの顔をじっと見る。額には若干の汗とその目には怯えが見てとれた。
オレは今、どんな顔でこいつを見ているんだろう。
「……ステラは国王派と王妃派の派閥について教えて欲しいと、そう言ってきた。宰相のアドラム家が王妃派だと聞いたと…」
「ステラがなぜそんな話に興味を持つ?」
彼女の周りでそんな話題を持ち出す者はいないはずだ。
「それはわからない。街で聞いたと言っていたがおそらく嘘だろうな。王家の過去について少し話したが…特に問題はないだろう。派閥に過敏な反応を示す貴族も多いが、ちょっと調べればわかる話だ」
「じゃあ、なんでお前はステラを羽交い絞めに?」
自分でもわかるくらい冷たい声が響く。その口調にヴィクターの喉が上下した。
「……それは」
ヴィクターの目が泳ぐ。
「いいから話せ」
オレは再びヴィクターに鋭い視線を向ける。ヴィクターはしばらく言い淀んでいたが、やがて諦めたように口を開いた。
「アレクシス王子は本当に死んでいるのかと、そう聞かれた」
「……っ!」
「遺体を確認できなかったのならどこかで生きているんじゃないかと…」
「どうしてステラがそんな事をっ!なぜその事を知っているっ?!」
「わからない…。もしかしたらエリオットに聞いたのかもしれないが、違う可能性もある…。その事実を知る者は少ないからな。あんな場所で誰かに…それこそ王妃に近しい者にでも聞かれたらまずいと思い、つい口を塞いでしまった。そこをお前に見られて…俺は腕を痛めた」
ヴィクターがそう言って恨めしそうに腕をさする。
「ああ、悪かったな。お前がオレのステラにやましい感情を抱いてるんじゃないかと思ったら、つい本気が出た」
「…本気だったら今頃俺の手首は粉々だろう。手加減は感謝するが…俺がステラにやましい感情をだと?ふざけるな。俺は6つの時からエレオノーラ一筋だ」
「はいはい、わかってるよ。だけど……」
ステラがアレクシスの死について疑問を持った?
なぜ…?
単純にエリオットの昔話を聞いて可能性を疑っただけなら問題はない。だけどそうじゃないのだとしたら…?
「最近ステラの周りで変わったことはなかったか?」
ここ数日オレはヴェアトリーチェの周辺を探るため学園を離れていた。その間ステラの事はヴィクターに見守るよう言いつけておいたのだけれど…。
「そう言えば…先日、ヴェルナー家から客が来ていたようだな」
「客?誰だ?」
「さあ、そこまではわからん…。俺は寮生活ではないからな。というか、お前わかっているのか?俺はまもなく学園を卒業する身だ。本来なら学園に出向く必要もないというのに…。エリオットといいお前といい、俺を何だと思ってるんだ」
ブスくれたように腕を組み、ため息をつくヴィクターに、オレはここに来てようやく笑みがこぼれた。
「……親友、だろ?お前以上に信頼できる人間をオレは知らない。頼りにしてる。いつもすまないな」
「……なっ!」
ヴィクターが慌てたように口元を手で押さえ、誰もいないのに辺りをキョロキョロと伺う。
「お、お前というやつは…っ!昔からそういう所がずるいんだ!」
若干耳が赤くなっている気がするのは気のせいではないだろう。こいつのこういう所もまた、昔からちっとも変っていない。
「お前も変わらないな。昔から貧乏くじばかり引いている」
「……お前にだけは言われたくない」
オレの境遇を知る、これがこいつの本心なんだろう。
「で、誰が来ていたのか、それ以上の情報はないのか?」
「さあ…。令嬢たちがイイ男だったと騒いでいたから若い男ではないのか?」
「ヴェルナー家の若いイイ男……」
(ルーカスか……?)
しかし…、
まもなく冬期休暇に入るこの時期にわざわざあいつが訪ねてくる理由が見当たらない。
「……」
(そう言えば夏の休暇中、ステラとルーカスが何やらコソコソやっていたな…)
希望の街でなにか探っていたようだった。あそこでステラの知りたいことと言ったら…、
(オレの過去か……)
あの日の事をオレ自身、詳しくは知らされていない。オレを小屋に匿い、オレの身代わりとなって森に男たちを誘い込み、死んだことにしてくれた勇敢なステラ。その時の男たちの正体をオレはまだ完全につかみ切れていなかった。怪しいと思われる男に目星がついていないわけではないが、確固たる証拠を未だ見つけられずにいる。9年もの月日が経った今となっては当時の証拠を見つける事は容易ではなかった。
(まさかとは思うが、何か証拠を見つけたのだろうか…)
ステラの強運を持ってすればたやすい気がしないでもない。
「…ヴィクター」
「なんだ?」
「ヴェルナー家のルーカス。ヤツの最近の行動…夏以降の動きについて調べてもらえるか?」
「それはかまわないが…」
「もしかしたら人を探していたのかもしれない。その相手が誰なのか突き止めてくれ。オレが動ければいいんだが…どうしても今は手が離せない。頼れるのはお前だけだ。すまないな」
「……あまり深入りすると正体が割れるぞ」
「そんなヘマしないよ。オレを誰だと思ってるんだ」
ステラの力が完全に覚醒するまで、もうあまり時間がない事はわかっている。
攻略対象者と結ばれなければ、彼女の力が覚醒した瞬間、バッドエンドは確定し彼女はこの世から消えてしまう…。
(ゲームでステラは2年生にはなっていなかった。という事は遅くても残り4カ月で彼女の力は完全に覚醒する)
それまでにきっと何かが動く。
そこにはおそらくベアトリーチェ王妃とその周辺が大きく関わっていく事に間違いはないだろう。
ゲームのストーリーから、未来が少しづつ乖離していることはわかっている。
だからこそここから先、何が起こるかはオレにも全くわからない。
(早く真相をつかまなければオレはまた後悔する。彼女を失うなんて、もうオレには耐えられない…)
本日も最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回122話は明日19時頃更新予定です。
よろしくお願いします('◇')ゞ
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上記予定でしたが、家人が怪我をしまして救急病院ナウです。(10日17時半現在)
そのため誠に申し訳ありませんが更新は明日11日19時と変更させて頂きたいと思います。
最近、予期せぬ出来事が多くて更新が遅れがちですが何卒ご容赦ください。
よろしくお願いします(TT)




