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118 私と殿下とアンネローゼ様の素顔

あと一日で休みが終わるなんて信じられない…

声の主は静かに私たちの傍まで歩み寄ると、無言でヴィクター様の手首を強く捕らえた。



「ぐっ…!」



そのまま手首をひねり上げ、もう片方の手で私を引き寄せ背にかばう。



「…ヴィクター様。当家のお嬢様に乱暴なマネをなさるのはおやめください」



痛みのあまり顔をしかめるヴィクター様。



「ア、アレン?…何やってるの?!手離して…」



光線が出そうなくらい鋭い目つきでヴィクター様を睨みつけるアレンに、いつもの飄々とした雰囲気はない。



(な、なんで?…アレン…めちゃめちゃ怒ってる?)



今までこれくらいの事で怒ったことなんてないのに…。



「ち、違うのよ、アレン。別にひどい事されてたわけじゃないから…落ち着いてっ」


「ずいぶんと楽しそうですね…僕も話に混ぜてもらっても?」



無表情のまま迫るアレンにヴィクター様が一歩後ずさる。



「い、いや…。大した話ではない。それよりステラ…。ずいぶん長く引き留めてしまった。エリオット殿下がサロンでお待ちのはずだ。早く行ってやってくれ」


「でも…」



流石にこの雰囲気の中で立ち去れるほど、私も能天気ではない。



「ステラそうしてあげて。呼ばれてるんだろう?エリオット様、さっき階段の所でウロウロしてたから…きっと君の事を待ってるんだと思うよ。もうすぐランチタイムも終わっちゃうし…早く行った方がいいよ」



こちらを振り返り、いつも通りの笑顔でそう私を促す。

アレンの向こうからも早く行けと目で合図するヴィクター様が見えた。



「じゃ、じゃあ行くけど…大丈夫?ケンカとかにならない?」


「大丈夫。元々ヴィクター様には話があると言われてここに来たんだ。君の事を羽交い絞めにしてるヴィクター様を見てつい体が反応しちゃっただけだから…。申し訳ありませんでした、ヴィクター様。お怪我はありませんか?」



掴んでいた腕をパッと離す。ヴィクター様は「ああ…」とだけ返事をすると掴まれていた腕をそっとさすった。



「問題ない。早く行け」


「は、はい…では…」



私は後ろ髪を引かれる思いでその場を離れた。








サロンのある二階へと続く階段を上ると、手すりに寄り掛かるエリオット様と目が合った。



「ああ、ステラ。待っていたよ。どうしたの?随分遅かったね」


「も、申し訳ありません…」


「あれ?ヴィクターは?一緒じゃないの?」


「ヴィクター様は少し用事があるとおっしゃって……」


「そうなんだ。じゃあ、とりあえず行こう。ローゼも待ちくたびれてるよ」


「アンネローゼ様もいらっしゃるんですね」


「うん。ローゼがね。君に頼みたいことがあるんだって」


「頼みたいことですか…?」



エリオット殿下にエスコートされサロンに足を踏み入れると、真正面からこちらをじっと見据えている少女と目が合った。



(え…なんか睨まれてる…?)



なんとなく目をそらしてしまう。感じ悪かったかな…と思いつつ、誤魔化しがてら室内を見回す。

見たところ部屋の中にはこの少女しかいないようだけど…。

それにしても、アンネローゼ様はどこ行っちゃったんだろう、トイレかな…?



「あの…アンネローゼ様は…?お手洗いですか?」



後ろからついてきていたエリオット殿下を振り返る。

エリオット様はきょとんとした顔で首を傾げたが、すぐにニコッと微笑むと私の後ろを指さした。



「君の前にいるじゃないか。あれ?もしかして会うの初めてだった?」


「……え、まさか…この方アンネローゼ様なんですか?!」



殿下が微笑みながらうんうんと頷く。

そう言われてみればツインテールチョココロネからハーフアップのストレートになった髪はアメジスト色だし瞳の色はアクアマリンの澄んだ水色をしている。それに例のオリエンタルな香りも今日の彼女からは一切していない。



(初めて…と言えば初めて…か)



白塗りの化粧を落とした素顔のアンネローゼ様は、見た目年相応の少女だった。というより額を出しているせいで少し幼く見えるかもしれない。上目遣いにこちらを見つめる吊り目がちな瞳が少し震えているように見えるのは緊張のせいなのだろうか?

素の状態の彼女に会うのは初めてだけど、なんていうか…、



「かわいらしい方じゃないですか…」



ついぼそっとつぶやいてしまった。すると…、



「そうなんだよ!!言ったろう?ローゼはねぇ、とってもかわいらしいんだよ。今だって君に会うのにすごく緊張していて、ははっ!ずっとこっちをにらんでるだろう。それがまたかわいいよねぇ。やっぱり君ならわかってくれると思ったんだ。本当にかわいい…僕のローゼ」



それを聞き逃さなかったエリオット様に力いっぱいのろけられてしまった。



(溺愛っぷりがいっそ清々しい…)



「やっ、やめてください!!ステラの前で…っ!!」


「じゃあ、二人っきりだったら言ってもいいの?」


「そういう事を言っているんじゃありません!!揚げ足を取らないでっ!!」


真っ赤になって言い返すアンネローゼ様が、なんていうかホントに…



「かわいいですね。殿下がからかいたくなるのわかる気がします」


「そうだろう。やっぱりステラとは気が合うと思ったんだ」



ヤバイ…これは完全に私のツボにもハマった。こういう女子めっちゃタイプなんだよね。



「もうステラまでやめてちょうだい!!」


「いいじゃないですか、照れなくても。かわいらしいですよ、アンネローゼ様」


「そうだよ、ローゼ。かわいいのは本当の事なんだから。照れなくていいんだよ」


「……やめてくださいと……言ってるでしょ―――っ!!」



バシャ――――ッ




えっ…?




なに?




突如上から降ってきた大量の水に、私は何が起こったのかわからず、思考が停止した。


本日も最後まで読んでいただきありがとうございました。


休み期間を利用してストックを書き溜めようと思っていたのに溜められないのはなぜなんでしょう(笑)


次回119話は明日19時頃更新予定です。

明日もどうぞよろしくお願いします('◇')ゞ

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