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113 私とルーカスの情報 1

「だから言ったじゃない!やっぱりあのメイクは流行の先取りメイク術だったのよ!私を馬鹿にした事謝って!」


「どうよ!」とばかりに胸を張る私を、冷たーい顔で見るシンディと仏のような微笑み浮かべるセシリア。



「謝んない」

「なんで?!」


シンディにきっぱり言い切られて、あまりの驚きに目が丸くなる。


「あのメイクが王都で流行る事は絶対にないから」

「…そんなことない!」

「……セシリア」

「はーい」


シンディが額を押さえながら指でセシリアに合図する。セシリアはニコニコと笑顔を浮かべ私の前に立つと両手の指に挟んだメイク道具をジャーンと見せた。


「ふふっ、今すぐ王都一の美女にして差し上げますからね。ちょーっと待っててくださいね」

「…いやっ…私は別にメイクは必要な……い…んだけど…っ!」

「まあまあ、何事も経験ですから」

「……っ!!」







コンコンコン。



「ステラ=ヴェルナーさん。ご実家からお客様がお見えですよ」


寮母さんの声に私は扉を開けた。


「よかった、いましたね。ご実家からお客様です。交流棟にお通ししていますから早く行って…さ…しあげ…………。あなた…ステラさん?」

「……そうです」


後ろでシンディとセシリアがクスクスと笑っている。


「さあ、最先端のメイクなんだから早く行ってきなさいよ。自信をもって!」


そう言って私の背中をドンと押すとバタンと勢いよくドアを閉めた。


(くそ…。明日アンネローゼ様に会ったらメイクの話も嘘だったみたいですって教えてあげなきゃ。私まで騙されるなんて…ミッシェル、なかなか侮れないわね」






交流棟まで行くと、談話室の前に人だかりができていた。何事だろうと一番後ろでぴょんぴょん飛び跳ねている令嬢に声をかける。


「あの…何かあったんですか?」

「ヴェルナー家からお客様がみえているんだけど、ものすごく素敵な男性なの!!あんなきれいな男性見た事ないわ!!あ~ぁ、すて……ギャ―――ッ」


室内をうっとりと見つめていた令嬢が私を振り返り突如悲鳴を上げた。


(失礼だな。そんなに驚かなくてもいいじゃないの)


ザワザワとし始めた令嬢たちをかき分けて開け放たれたままのドアの近くまでたどり着くと、


「……姉上ですか…?」


突如、頭上から降ってきた声に顔を上げた。

ドア枠の上部に手をつき、驚いたような顔で私を見下ろす麗しい顔。フワフワだったプラチナブロンドの髪は腰まで伸び肩の辺りで緩く結ばれている。


「ルーカス……。久しぶり。また背、伸びたわね」

「久しぶりに会ったのに…一言目がそれですか…」


ルーカスははぁと大きくため息をつくと額を押さえた。


「何があったのか知りませんが、とりあえずそのメイクを落としてもらってきてもよろしいですか?」

「…王都の最新流行メイクよ」

「それは絶対ありません」


即答されてしまった。


「私もさほど時間がありませんので…。メイクを落としたらすぐに戻ってきてください。それから大事なお話がありますので、人払いを…」



一旦部屋に戻りメイクを落とす。ふさがれていた毛穴が一気に呼吸をし始めたのが分かる。さっぱりしたところで急いで談話室に戻ると、一人優雅な仕草でお茶を嗜んでいるルーカスと目が合った。


「お待たせ」

「…姉上」


ルーカスが立ちあがり、両手を広げて私を待つ。


「なに?」

「改めて再会の抱擁を」

「はいはい」


こういう所は小さい時から何も変わらない。見た目がどんなに変わっても私にとってはいつまでもかわいい弟ルーカスだ。

広げられた腕の中にすっぽり納まると、ルーカスの腕が背中に回った。


「ふふっ…」

「どうしました?姉上」

「ちょっと前までは私の方がおっきかったから、すっぽり包みこむのは私の方だったのに。いつの間にか逆になっちゃったなぁって思って」

「そうですね…。僕、頑張りましたから」

「どうやって?」

「毎日牛乳を欠かさず飲みました」

「あははっ!それでこんなに大きくなれるんだったら私も頑張ろっかな?」

「姉上は、そのままでいいです。じゃないと抱きしめても楽しくないじゃないですか」


ルーカスは背中に回した腕を解き、両手でそっと私の頬を包んだ。


「お会いしたかったです。姉上」

「私もよ、ルーカス」


私は背伸びして、ルーカスの額にキスをした。


「おでこ…ですか?できればこっちがいいのですが」


ルーカスが自分の頬を指さしキスをねだる。私は言われたように頬に軽く口づけた。


「見た目は変わっても中身はいつまでも甘えん坊のままね」

「ダメですか?」

「そうね、灯熱石の鉱脈を発見するような有能な時期男爵様はそろそろ姉離れをしてもいいと思うわ」

「ご存じだったんですね」

「うん、黒灯熱石にはものすごくお世話になってるわ。おかげで寮母さんに怒られなくなったし」

「……普段どんな生活をしているのか敢えて聞かないでおきますが…あまり人様にご迷惑になる事は慎んでくださいね」


なんだろう。この上から目線。このところ私の立ち位置がちょっとおかしい気がする。


「それで…、どうしたの?連絡もなしに突然訪ねて来るなんて。なにかあったの?」


ルーカスはそっと私から体を離すと、ジャケットの内ポケットから小さな巾着を取り出した。

紐を解き、中から出てきたのは古ぼけたカフスボタン。


「これ…」

「ようやく、このカフスの持ち主が分かりました。姉上…この件にはこれ以上関わらない方がいい。早々に手を引いてください」

「どういうこと?」


その真剣なルーカスの物言いに、私は思わず眉をひそめた。






本日も最後まで読んでいただきありがとうございました。


久々にルーカスの登場です。


次回114話は30日(水)19時頃更新予定です。

どうぞよろしくお願いします(^^♪

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