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111 私とアンネローゼ様と「私の秘密」

今日は家庭の事情でちょっと早めの更新です☆

部屋に入った瞬間、アンネローゼ様はつかんでいた私の腕をパッと放し、すごい勢いでソファまで走っていくと、その裏にサッと身をかがめた。何事かとうろたえる私を尻目にソファの背もたれの上に目から上だけを出し、こちらをじっと伺っている。


「あの、アンネローゼ様…?」


まるで手負いの獣のように警戒心を丸出しにする彼女。

状況が飲み込めず、声をかけながら一歩足を前に出す。


「う、動かないで!!」

「は、はいっ!」


その言葉に思わず固まる。


(カバディの次はだるまさんが転んだ、か…)


いつまでこうしていればいいのかわからないけど、とりあえず言う事に従っておく。

お互い黙ったまま静止画状態が続く。一歩踏み出した足がプルプルと震えだした頃、ようやくアンネローゼ様が口を開いた。


「…傷は大丈夫?」


その言葉に、そう言えばと現状を思い出し頬を手で触れてみる。


「ああ…大丈夫みたいですね。もう治ってます」

「……?!」


さっきのヒリヒリ感もないしミミズばれもきれいになくなっているみたいだ。今日も乙女の力は絶好調らしい。


「…どうしてそんな嘘をつくの?」


アンネローゼ様は普段の声より一段低い声で私を訝しむ。さっきよりも頭は深く沈められ眉から下が全く見えない。


「嘘じゃありませんよ。なんなら近くで見てください。傷跡も残ってませんから」


そう言って私は彼女に向かって頬を突き出した。アンネローゼ様は恐る恐るソファの裏から立ち上がるとゆっくり私の傍に近づいてくる。


(なんか動きが野良猫っぽいな…)


そして私の前で立ちどまるとその頬にそっと触れた。


「…本当だわ。どうして…?」

「…実は……ここだけの話、私の右手にはとある魔獣が封印されていまして…。少しぐらいの傷ならその魔力で治ってしまうんです」


な~んて、ちょっと冗談を飛ばしてみる。厨二っぽいがこれで笑ってくれたらちょっとは場が和むかもしれない。

そう思ったのに、アンネローゼ様は(多分)驚いた顔をして私の手を両手で掴むとまじまじと見つめ、


「そうなの。便利な手を持っているのね。大事にしないといけないわね」


と、(多分)真剣な顔で返された。

予想と違う反応にこちらの方が戸惑ってしまう。


(まあ、いいや…。とりあえず物理的な距離は近づけたから。話しかけるなら今しかない)


「あの…一つ質問が。アンネローゼ様は私の事をどうしてそんなに警戒なさってるんですか?」


その言葉に彼女はハッと顔を上げると気まずそうに目をそらし、じりじりと後ろに下がり始めた。


「私、何か怖がらせるようなことをしちゃいましたっけ?」


全く身に覚えはないけれど。とりあえずちゃんと話をするには誤解をといてスタート地点に立つしかない。

すると、アンネローゼ様の口からとんでもない言葉が飛び出した。


「噛みつくって…」

「……はい?」

「噛みつくって…ミッシェルたちに言われたの」

「誰が…誰にですか?」

「あなた、気に入らない事があると誰かれ構わずに噛みつくんでしょう?ミッシェルが歯型のついた腕を見せてくれたわ。だから近づかないようにって」

「……」


(まさか、そんな事を吹き込んでいたとは…)


言う方も言う方だけど信じる方もどうかと思う…。普通は引っ掛からないような嘘を信じるアンネローゼ様がピュアなのか、それとも…


(実はホントにみんなにそう思われてるのか…)


ナイナイと首を横に振るが、なんとなく不安になる。


「あの…もしかして他にもまだ言われてることがあるんじゃないんですか?」


ミッシェルの事だ。おそらくアンネローゼ様に吹き込んでいる事はこれだけじゃないはず。


「……」

「か、噛みつきませんから…教えてください」


言い淀むアンネローゼ様を安心させるため、無理やり笑顔を作り、身に覚えのない癖について封印の約束をする。

アンネローゼ様はじりじりと私の前から下がり続け、定位置であるソファの裏に身を沈めると、先ほどと同じように目から上だけ出した姿で落ち着いた。


(戻っちゃった…)


「…あなたは嘘つきだと…。関わるとひどい目に遭うとそう聞きました。人のモノを取ったり隠したり、陰で悪口を言って貶めたり、そのせいで学園を去った令嬢がこの半年で後を絶たないと…。従わない者には暴れて噛みついて殴り掛かって手が付けられないって。檻に入れられたこともあるって…本当なの?」


(私は猛獣ですか……)


「それから…」

「まだあるんですか?!」

「男性に取り入るのが上手だって。人の婚約者に手を出して破局させるのが趣味の悪女だって…」

「……」

「だからエリオットには絶対近づけてはいけないって、そう助言してくれたの。あとは変なものを彼に食べさせてるって。もしかしたら命を狙ってるかもしれないって…」


開いた口がふさがらないとはまさにこの事だ。よくもまあ根も葉もない嘘をこれだけ並べられるもんだとある意味感心する。でも、それを信じたのはあくまで彼女自身。

私は静かにため息をつくとアンネローゼ様の目を真っすぐに見つめた。


「……アンネローゼ様は、彼女たちの言葉すべてを信じたわけですね」


彼女が顔を上げてこちらを見た。



本日も最後まで読んでいただきありがとうございます(^o^)

ブックマーク登録もおかげさまで増えまして、ポイントが400の大台を超えました。ありがとうございます。


次回112話はいつも通り明日19時更新予定です。

明日もどうぞよろしくお願いします☆


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