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105 私とアンネローゼとその容貌

「ふはははっ!!!!さすがステラね!!面白い!!っていうかそこまで言う?うわ~すっごく見たかった!なんで誘ってくれなかったの」


昨日の経緯を詳しく説明したところ、シンディに肩をバシバシと叩かれ大笑いされた。


「シンディのいない所を狙うなんて、敵もわかっていますわね」


セシリアがデザートその2「大盛パンケーキ」を平らげ、ナプキンで口を拭う。

これだけの食べ物がこの細い体のどこに入っていくのか…いつになっても不思議でしょうがない。


「セシリアだって見たかったでしょ?」

「ええそれはもう…。ですが、意外と早く見られるかもしれませんわよ、その黄色いご令嬢」


紅茶に口を付けながらセシリアが視線を右の方に流した。

つられて私たちもそちらに顔を向ける。


「わぁ……来た」


その視線の先。意気揚々と私を目指し、一直線に向かってくる先頭の人間に見覚えがある。

昨日とは違い、おとなしめの薄黄色のリボンを小さく結んだミッシェルは私の前に自信満々に立つと、フフンと鼻で笑った。その後ろに随従している令嬢たちも昨日のメンバーに変わりはない。


てっきりその勢いのまま、何か噛みついてくるのだろうと予想していたのに、ミッシェルはさっと後ろに下がると最後尾に立っていた令嬢に何かをささやいた。

その人物は小さく頷くと私の前に歩み出る。扇で顔を隠しているためどこの誰なのかまったくわからない。でも…おそらく…


「あなたがステラ嬢?」


澄んだ声で話しかけられる。私は小さく「はい」と返事をした。


「私はアンネローゼ=ミルトレット。あなたに会うのは初めてですね」



(おおぅ…やっぱり。ラスボス来た…っ!)



そう言って扇を下げ、その容貌をあらわにしたアンネローゼ嬢を見て、私は……、



思わず言葉を失った。



(これが………アンネローゼ嬢?)



細身ですらりとした印象だけど背はそんなに大きくない。胸には一年生の証の細身のリボン。アメジスト色の髪は高めの位置でツインテールに結わえくるくるとチョココロネのように巻かれている。瞳はアクアマリンのようにきらきらと輝くそれはそれはきれいな令……じょう?きれい…な……



きれい……かな…?



(これは………コメントしづらい…)



初めて見るアンネローゼの顔。



その顔にはばっちりとメイクが施されている。



それも素顔が分からない程、濃ゆ~いメイクが……。



「………」



美白…というより白塗りに近い白粉をはたき、大きく見せるためなのか太めにラインを描いたアイメイクに濃いめのパープルのシャドウ。長いまつげはくるんと大きく上を向いている。頬にはオレンジのチークがまあるく入り、リップはローズ。ちぐはぐな色合いのメイクにこの匂い…。


(香水…だよね?ムスク?それにしても…これはきつい…)


鼻をつまみたくなるほどのむせかえるオリエンタルな香りに思わず息を止める。

でもそれも長くは続かず、思わず顔を背けゼイゼイと肩で息をしてしまった。


「どうかなさいまして?」


その様子を不審に思ったのかアンネローゼ嬢が問う。

とはいえ、まさか「あなたのせいです」とも言えずハンカチで鼻を押さえると鼻呼吸から口呼吸に切り替えた。


「いえ…問題ありません。ちょっと鼻に小虫が入ったようで…」


我ながら苦しい言い訳だなと思ったが、それしか出てこなかった。


すると…、


「え…!それは大変ですわっ。大丈夫ですの?私、見ましょうか?」


アンネローゼ嬢が慌てた様子で(多分)心配そうに私を覗き込む。その予想外の対応に私は思わずのけぞった。


(は、鼻がもげる…)


「だ、大丈夫です!!ふんっふんっ…!あ、取れた…っ!取れましたっ!もう大丈夫です!!ご心配をおかけしました」

「そうですか。それならよかった」


そう言って(多分)にっこり笑ったアンネローゼは、きれいな刺繍の入ったハンカチを私に差し出した。


「もしよろしければこれを使ってください。予備ですので使ってはいませんから」

「…あ、ありがとうございます」


(…どういうこと?思ってたのと大分印象が違うんですけど…)



「アンネローゼ様っ!!」


そんな私たちのやり取りをイライラしながら見ていたミッシェルが途端に大きな声をあげた。

アンネローゼはビクッと肩を揺らし顔を上げると「…そうでした」と小さな声で呟き、コホンッ、と一つ咳ばらいをした。


「ステラ嬢」


先ほどまでの砕けた雰囲気とは打って変わって威厳のある態度で私を見下ろす。


「あなた…、最近エリオットにつきまとっているそうね。彼も迷惑しているそうじゃない?彼はこの国の王太子です。あなたのような令嬢にウロウロされると彼の品位が問われます。これからは私たちの前に顔を出さないで頂ける?」


突然見下すような口調でそう言われ、私は眉をひそめ首を傾げた。


「先日は彼と一緒に料理をしたとか。なんて言ったかしら?たしかスープ…」

「あ、オニオングラタンスープです」

「そうそれ!どんなお料理か知らないけれどすごくおいしかったとエリオットが言っていたわ!うらやましかったの。とても」

「あ、だったら今度、アンネローゼ嬢も一緒に作ります?」

「え…いいの?」


ぱぁぁ…っと(多分)笑顔を輝かせるアンネローゼ。


そこに、


「アンネローゼ様!!!」


再びミッシェルの檄が飛ぶ。アンネローゼはまたしてもハッ!と肩を震わせコホンと咳ばらいをした。


「そ、そんな話がしたいんじゃありませんの。彼はこの国の王太子なんです。その彼が下々の者と食卓を囲むなんて王族としてあってはならない事。あなたのせいでエリオットに悪い噂が立つのは我慢できません。ご自分の立場をよく理解なさって今後一切彼に関わらない事。いいですわね」

「……あ、はぁ」


曖昧に返事をしてしまったけど、なんかおかしい。


言いたいことだけ言って去っていくアンネローゼ嬢の背中を見つめる。

その後ろを随従していく令嬢たち。

ふいにミッシェルがこちらを振り返った。

ニヤリと嫌な笑みを浮かべ隣の令嬢とコソコソ笑い合っている。

その態度がどうにも勘に障った。



本日も最後まで読んでいただきありがとうございました。


次回106話は明日19時頃更新予定です。

どうぞよろしくお願いします('◇')ゞ

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