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104 私ととある令嬢の言い分

二人に言われるまでもなく、事は既に始まっていた。




昨日の放課後、午後の授業が終わりさあ帰ろうかと荷物をまとめていた時の事だった。


「ヴェルナー令嬢」


不意に声を掛けられ顔を上げると、数人の令嬢が私を取り囲むように立っていた。

シンディとセシリアは先生の荷物運びに駆り出され今この場にはいない。その隙を狙って私に声をかけたんだろう。


全員見た事のない令嬢たち…と思ったが二人ほど記憶に残っている令嬢がいる。


(この二人…確かアレンのせいで殿下と噂になった時絡んできた令嬢だ…)


「ちょっとよろしいかしら」


そのテンプレートな誘い文句に促され、私は人気のない講堂に連れ出された。





「あなた。一体どういうつもりでエリオット様に言い寄っていらっしゃるの?以前も言ったけど殿下にはアンネローゼ様という婚約者がいらっしゃるのよ。ご存じでしょう?それなのにあんなにベタベタと。恥ずかしいとは思いませんの?」


口火を切ったのは以前絡んできた二人のうちの一人。確かあの時もこの令嬢が真っ先に食って掛かってきたっけ。ハーフアップの茶色の髪を緩く縦に巻き、大きな黄色いリボンで結んでいる。一見大人しそうな見た目だがキッとつり上がった目元を見る限り性格は大人しくないだろう。


(はぁぁ、めんどくさい事になった…)


殿下が私の元に足繁く通ってくるようになり、なんとなーくこんな事になるんじゃないかって思ってたけど…。


(私から近寄ってるわけじゃない…なんて言おうもんなら火に油を注ぐだけだしな。かといって関係ない彼女たちに謝んなきゃいけない謂れもないし…。どうしたもんか…)


と考えていると、


「アンネローゼ様もとても不愉快だとおっしゃっていたわ。分かったらもう二度とエリオット様に近づかない事ね。よろしくて?!」


黄色リボンが悪役令嬢さながらに言い切った。周りの令嬢たちも口々にそうよそうよと囃し立てている。いや、ちょっと待って。


(どれがアンネローゼ様だ…?)


ざっと見渡したところ、この中で一番偉そうなのは黄色リボンのようだ。あとの令嬢はいわばにぎやかし要員。まあ女子特有の「一人では気後れするけどみんなと一緒ならこわくない」的なアレだろう。紗奈の時にそれはもうたくさん経験させて頂いたからよく知っている。

周囲をよく見渡しても彼女以外にラスボス的な要素のある令嬢は見当たらない。

自分は姿を見せず下っ端にすべての責任を押し付ける…。カリスタでさえ顔出しはしてきたというのに、なんていうラスボスっぷり。さすがは三大公爵家のご令嬢。


思わず物思いに耽ってしまっていた私の態度が癇に障ったのか、黄色リボンが声を荒げた。


「ちょっとっ!!聞いていらっしゃるの!!殿下にちょっと気にいられているからっていい気にならないで!!スラム上がりの分際で、身のほどをわきまえなさいよ!アンネローゼ様もそうおっしゃっていたわ!!」


キンキンと響く声に思わず目を瞑った。あー耳が痛い…。


「…それは大変申し訳ない事をしました…、とアンネローゼ様にお伝えください」

「は…?」


私のもの言いに、一瞬彼女の動きが止まった。


「ですから、大変申し訳ない事をしたとアンネローゼ様にお伝えください。私としては懇意にしているという認識は全くなかったのですが…そうですよね。婚約者のお立場からしてみれば確かに面白くはないですよね。私も配慮が足りませんでした。殿下には直接、私から経緯を説明して今後は近づかないようにお願いしてみます。なのでアンネローゼ様にはそのようにお伝えしてください。あ、何なら直接謝罪させて頂きますが…。どこに行ったらお会いできますか?今ここにはいらっしゃいませんよね?」

「あ、あなた…。殿下に何を言うつもり…?」


黄色リボンが急にワタワタと慌てだした。周りの令嬢もざわざわとざわついている。


(ん…?私なんか変なこと言った?………ああ、そうか)


「別に皆さんの名前は出しませんよ。というか名前も知りませんし…。とある方々にご忠告を頂いたと申し上げるだけです。私も殿下のあの対応は流石にないなと思っていましたので、ちょうどよかったです。いいきっかけになりました。ありがとうございます。黄色リボンさん」

「き、黄色リボンさんっ?!」


黄色リボンがハッと自分の髪のリボンに触れる。


あ、ヤバ…思ってたのがつい口から出ちゃった…。慌てて口を押えたけど時すでに遅し。

黄色リボンはシュルっとリボンをほどくとキッと私を睨みつけた。


「ミッシェルよ!!ミッシェル=ターナー!!伯爵家の令嬢よ!!おかしな名前で呼ばないで!!」

「ミッ…ミッシェル嬢…っここで名乗っては…っ!」


隣にいた令嬢が慌てて黄色リボン…もといミッシェルの腕をつかむ。

ミッシェルは慌てて手で口を覆ったが、すぐにその手をグッと握りしめワナワナ震えだした。


「なんなのよ!!あなた!!私は伯爵家の令嬢よ!!こんな侮辱は許されないわ。きちんと謝罪をしなさいよ!!そしてここにいるみんなの前で殿下には近づかないと約束なさい!!」

「え…?なんで皆さんにそんな約束しないといけないんですか?別にあなた方には関係ないじゃありませんか?」

「……っ!!私たちの言葉はアンネローゼ様の言葉と同等よ!!私が近づくなと言ったらそれはアンネ様のご要望なの!!貴方は素直に『はい』って言えばいいのよ!わかった?!」

「………」

「エリオット様はね、ここにいるみんなのものなの。抜け駆けなんて許されないのよ…!今までずぅーとそうしてきたんだから。ぽっと出のあなたなんかにかき回されたくないのよ!!」

「……?エリオット様はアンネローゼ様のものですよね…?」

「………っ!!」


顔を真っ赤にして怒りをあらわにするミッシェル嬢。ヤバイ…煽りすぎたかな…。


「いいこと!!殿下に余計な事を言わないことが身のためよ。これ以上殿下に近づくのも控えなさい!わかったわね!!!」


そう吐き捨てて黄色リボンのなくなった、ただのミッシェル嬢が講堂を出ていく。その後ろを慌てた様子で追いかける令嬢たちの後姿を、私はポツンと一人見送った。







今日も最後まで読んでいただきありがとうございました。


次回105話は明日19時頃の更新となります。

明日もどうぞよろしくお願いします('◇')ゞ

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