表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/188

103 私と殿下とオニオングラタンスープ 4

オニオングラタンスープ回ターンエンドです☆

それが涙だとわかるのに、そう時間はかからなかった。


「…殿下?」

「あれ?何だろう…。急に涙が…」


静かに頬を伝う涙を殿下が手の甲で拭う。

私の呼び声に反応したみんなの視線が殿下に集まる。その途端、騎士たちが一斉に色めきだった。


「殿下!!いかがされました?!」

「おいお前!!殿下に何をした!!」


数人の騎士が立ち上がり、腰の剣をするりと抜く。


ひぃぃ…っ!!


「よせ!!やめろ!!そうじゃない!!僕は何ともない。だから落ち着いて剣を納めて…」


声を荒げる殿下にみんなの動きが止まる。殿下ってこんな大声出すこともあるんだ…。はぁ、びっくりした。


「どうしたんだろう…?泣く理由なんてないのに…。あ、もしかして玉ねぎのせい?さっきの玉ねぎがまだ…」

「違いますよ、殿下」



私は…おそらくその理由を知っている。



「じゃあ、これは…?」

「…殿下。スープはいかがでしたか?」


私の急な質問に殿下は首を傾げる。


「……?うん、とてもおいしかった。初めてだよ、こんなにおいしいスープを食べたのは。飲み込んでも喉を通ってお腹にたどり着くまでずっと温かいのが分かるんだ。それにみんながおいしいって食べてるのを見てたらなんだか嬉しくて…、胸の辺りがじわっと温かくなった。そうしたら急に涙が…」


その言葉は私の心にとても温かく響いた。


「殿下…。それは『幸せの涙』です」

「幸せの涙…?」


私は頷いた。


「私なんか、おいしいものを食べてる時はいつも幸せです。ああ、生きててよかったって思えますから。時には幸せ過ぎて涙が出る事もあります」

「えっ?君も…?」

「はい。…殿下は今この時を幸せだと感じたんだと思います。生まれて初めてご自分で料理を作り、それを温かいまま召し上がり、みんなに振る舞い、みんなが笑顔でおいしいと言ってくれる…。殿下はそれを嬉しいと思い、幸せだと感じてるんです」

「僕が…幸せ…」


スープを見つめたまま私の言葉をかみしめるように復唱する殿下。

その様子がなんだか小さな子どものようで、私は無意識に彼の頭を撫でていた。


「さあ、スープが冷めてしまいます。温かいうちに食べましょう」

「…うん」


はにかみながら、嬉しそうに小さく頷く殿下の笑顔につられて、私もほっこりとした気持ちになった。






と…、


これで終われば、とてもいい話だった。



けれど…。




「ステラ嬢、どちらに行かれるのです?もしよろしければご一緒してもよろしいですか?」

「ステラ嬢、天気もいいですから散歩でもいかがです?」

「僕また温かいものが食べたいです。なにか作りませんか?」


ステラ嬢、ステラ嬢と…。日に3度は私の元に通ってくるようになったエリオット殿下。あの日以来、私はすっかり彼に懐かれてしまっている。

気がつけば私の制服の裾をつかみ、ニコニコと後ろをついてくる殿下を無下にもできず、私は引きつった笑顔を浮かべながら日々を過ごしている。

その姿はまるで…、


「アヒルのヒナね」


ランチのショートパスタをつつきながらシンディが言う。

セシリアも「同感ですわ」と前置きをしてキッシュを切り分け口に運んだ。


今日のランチはほうれん草と燻製肉(ベーコン)のキッシュにミートソースのショートパスタ、チーズとトマトのサラダにミニケーキorリンゴのコンポート。


「エリオット様は、もともと穏やかで優しい方ではありましたけど、あまり特定のご友人を作るタイプではありませんでしたものね。おそばにいらっしゃるのは大抵ヴィクター様か婚約者のアンネローゼ様くらいでしたから。ステラに対してあんなに心を許すなんて、正直驚きましたわ」


瞬く間にキッシュを平らげたセシリアの視線がシンディのコンポートを狙う。シンディは慣れたもので、フォークでササッとそれらをすくうとあっという間に自分の口に放り込んだ。そんな彼女を信じられないという顔で見つめるセシリア。


「すごいわね。オニオングラタンスープの力。殿下をも懐柔するなんて」

「全くですわ。この世の中にあんなにおいしいものがあるなんて知りませんでした。ステラのレシピにはずれはありませんわね」


若干二人のコメントにズレがある気がしないでもないけど…。まあ、気に入ってもらえたのなら嬉しい限りです。でも、これも私のレシピではないのです…。申し訳ないとは思っております…。

私はハハッと曖昧に笑ってごまかした。


「でもさ、この状況…やばいよね」

「そうですわね。かなりまずいですわね」


二人が同時に紅茶をすする。


「噂は結構広まってるからねぇ。また始まるんじゃない?例のアレ」

「そうですわ。女の嫉妬はこわいですから。気を引き締めておいた方がいいですわよ。またカリスタ嬢の時のようになる前に…」


セシリアの忠告に私ははぁ、と大きくため息をついた。


はい、お二人のご忠告はごもっともでございます。

実は既に始まっているのです。例のアレ…、と白状するために、私はミルクと砂糖のたっぷり入った紅茶を一口だけすすった。





次回104話は明日19時頃更新予定です。

女の攻防戦スタートです。


本日も最後まで読んでいただきありがとうございました。

明日もどうぞよろしくお願いいたします(^^♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ