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101 私と殿下とオニオングラタンスープ 2

いよいよ迎えた調理実習(?)当日。

続々と運び込まれる食材に私は圧倒されていた。


(何人前のスープを求められているんだろう…)


お願いしたのは玉ねぎ、バター、にんにくにハードパン。それからチーズにブイヨンのスープ。


なのだけれど…。


王宮の料理人らしき人が運んできてくれた籠いっぱいの玉ねぎの山。それだけでも十分なのに、その次の人の籠にもあふれんばかりの玉ねぎ。その次の人も…またその次も…。ずらずらと一列に連なって運ばれる玉ねぎの行列に終わりが見えない。


「ちょっとすみません!!そんなにたくさん玉ねぎいらないんですけどっ!!」


学校給食作る訳じゃないんだから!見てるだけで目が痛いっ!


「そうなの…?たくさんあった方がいいのかと思って用意させたんだけど…」

「…っ!エリオット殿下っ」


いつの間にか玉ねぎ行列の最後尾にエリオット殿下が立っている。

不思議そうに小首をかしげている殿下。そうですか…殿下のご指示でしたか…。


「いえ…あっと…、モノには限度というものがありましてですね…」


まあ、そうだよね。料理をしたことない人に分量の話をしたところでわかる訳ないし。


「いえ!大丈夫です!少ないより多い方がいいですから。問題ないです!」


心なしかしょんぼりしているように見える殿下に、私はにっこりと笑ってみせた。

いいのよ。多い分は別の料理に利用すればいいんだから。玉ねぎとジャガイモほど万能で汎用性の高い野菜はこの世にない、そう信じてる。


「それじゃ、早速始めましょうか」


とはいえ、なんと物々しい調理実習だろう…。


キッチンの背後にはコック服を着た料理人らしき人たちが数人並んで立っている。

前方には私たちの手元を監視するように立つ騎士が複数人とヴィクター様。食堂に待機する医師に出入り口をふさぐように立つ騎士、その中でつつましやかに座るシンディとセシリア…。


(ううっ…巻き込んでごめんね…二人とも)


居心地悪そうに小さくなっている二人に心の中で謝る。


(あとでおいしいスープごちそうするから…少しの間我慢してね)



「お前に言われたものはすべて運び込んだ。今日は何を作るつもりなんだ?ステラ」


ヴィクター様の問いかけに、私は籠の中の玉ねぎを一つつかみ取ると目の前にかざして見せた。


「本日はオニオングラタンスープを作りたいと思います!!」


ジャーン!!と決めたつもりだったのに…意外とみんなの反応が薄い。

エリオット殿下だけがパチパチと笑顔で手を叩いてくれている。


あれ…?期待してた反応と違う…。


「その…オニオンというのはなんだ?スープはわかるがグラタンというのは…聞いた事がないな」


ヴィクター様がふむ…と首を傾げる。

そっか…そこから説明が必要だったか。一人で浮かれてるみたいでなんか恥ずかしい…。


「オニオンというのはこの玉ねぎの事です。グラタンというのはオーブンで料理の表面を焦がす調理の事でして…、まあ、口で説明しても分からないと思うので作っていきましょう」


私は玉ねぎを一つ、まな板の上に置くとナイフを手にした。


「まず玉ねぎを縦に半分に切ります。それから頭とお尻の部分を切り落として白い部分が見えるまで茶色の皮をはがしてください。はがしたらこれを薄切りにしていきます」


私はまな板に半分に切った玉ねぎを置くとトントントンッとテンポよく薄切りにしていく。


「繊維に沿ってではなく繊維を断ち切るようにスライスしてください。そうすると水分がたくさん出るので炒める時間が短くて済みます。ゆっくりでいいです。手を切らないように慎重にお願いします」


これで怪我でもされたら私の首が飛ぶかもしれない。いくら私が「白き乙女」でも飛んだ首は繋がらないかもしれない。


「とっても手際がいいね。料理、好きなの?」


殿下が見よう見まねで玉ねぎにナイフを入れる。


「そうですね。嫌いではないです。おいしいものを食べるのが大好きなので…」


殿下のナイフ捌きを見守りながら、薄切りの山を築く。うん、殿下、意外と上手。


「殿下もお上手ですね。初めてなのにそんなに薄く切れるなんて、すごいと思います」

「ほんと?ふふ、嬉しいな」


殿下がニコニコしながら切り進める。


「…あれ?何だろう…目が…痛いっ。涙が…っ…止まらない…っ」


殿下が袖口で目を押さえる。

私たちの手元を監視していた騎士の一人が腰の剣に手をかけた。


「お前っ!殿下に何をした!!まさか毒でも盛ったのではあるまいな」


私はボロボロと流れ出る涙を隠すこともせず、騎士の方に顔を向けた。


「落ち着いてください。玉ねぎは切るとこうして涙が出ることが多いんです。そうですよね、料理人の皆さん…」


後ろに控えていた料理人の皆さんが、同じく涙を流しながら「はい…」と頷いている。


(ううっ…目が痛い…。わかってはいたけど、これだけ切ると目が開かない…)


「ははっ!ステラ嬢もすごい涙だ。へえ、玉ねぎって切るとこんなに涙が出るんだね。知らなかったよ。ああ、目が痛い…っ。みんなこんな思いをしながら僕たちの食事を作ってくれていたんだね。いつもありがとう」


殿下が料理人の皆さんにお礼を言う。

料理人の皆さんからは玉ねぎのせいではない涙が止まらないようだった。






次回102話は明日19時頃更新予定です。


今月も残り半分ほどとなりました。

先日この場でちょこっと書きましたが今月の平日の更新を少しお休みしたいと考えています。


平日更新休み 月・火


残りはいつも通りとさせていただきます。

忙しいですね、師走。


本日も最後まで読んでいただきありがとうございました。

明日もどうぞよろしくお願いします(^^♪


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