表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/188

98 私とスープと天然男子 1

(色々細かく指示出してきちゃったけど…さすがは職人さん。私の伝えたかったニュアンスをすぐ理解してくれた。ちょっと調子のいい人だったけどできる男なんだろうな。どんなのができるかすごく楽しみ)




私は寒空の下、エヴァンズさんに譲ってもらったスープポットからスープを一口すすった。

熱々のスープの熱が冷えた体にじんわりと伝わる。


(はあ…、あったかい。これ、ホントにすごいな。朝作った時のまま全然冷めてない。OL時代に使ってたスープジャーだってこんなに保温性はなかったのに…)


灯熱石もすごいアイテムだとは思うけど私はエヴァンズさんの腕も相当なものだと思っている。

鍛冶屋…というだけあって彼の本職は金物を作る事。このスープポットも陶器ではなく金属に灯熱石の粉を混ぜ込んで作ったものだと教えてくれた。しかも細かい配合まで。私にはちんぷんかんぷんだったけど、本来だったら企業秘密にするべき内容だ。それを彼に伝えると、


「言ったところで、誰も作れやしないさ。この灯熱石、結構扱いが難しいんだ。鍛造の力加減や焼き入れのタイミングで強度が大分変ってきちまうし…。まあ、なんだ。とにかく俺は腕がいいんだよ。だから嫁に来いよ」


と自信満々に言いきっていた。


(あれがなければ結構好きなタイプなんだけどな)


性格は悪くない。仕事にも真摯に向き合ってるし顔だって悪くなかった。それにあの体…。


(神様、どうか彼の所に素敵なお嫁さんが来ますように)


私は心の底からそう願った。

エヴァンズさんの話だと試作品ができるまで2週間くらいかかるみたい。当初の3カ月以降って話に比べれば大分優遇してくれたわけだけど…。


(アレンには感謝だけど、ああいうのはもうやらせないようにしよう…)


正直アレンのああいう濡れ場的なものはもう見たくない。誰だって身内のそういう現場は見たくないでしょ?


(できればアレンやルーカスには清いままでいてほしい…)


あの様子じゃアレンは既に無理だろうけど、せめてルーカスだけにはまだまだ子どものままでいて欲しい。



私はスープの中の肉団子を一つ取り出すと、プチパンに切れ目を入れてそこにムギュっと挟み込んだ。それにあむっと食らいつく。豚肉と玉ねぎで作った団子は柔らかくとてもジューシーだ。コツはあんまりこねない事。


(あんまり混ぜ過ぎちゃうとギュッと硬くなっちゃうからあんまり好きじゃないんだよね)


甘味のあるパンも焼きたてとまではいかないがふんわりとした柔らかさを保っている。牛乳を多めに入れた事がよかったのかもしれない。


(シンディとセシリアの風邪が治ったら誘ってみよう。やっぱり二人と一緒に食べた方がおいしいよね)


今頃ベッドでうんうん唸っているだろう二人の顔を思い浮かべる。


(あとで喉ごしのいい飲み物でも持って行ってあげよう)


食べかけのプチパンを口の中に放り込み、スープポットに手を伸ばそうとしたところで、ハタと私の手が止まった。



スープポットを覆うように握りしめる両手が一人分。


「ひっ…っ!」


びっくりして立ち上がると、その両手の先に、しゃがみ込んでいる顔と体を発見した。


「だ…っ!だれ……っ?なにっ?」

「あぁ、あったかい…。ねえ、なんでこれ…こんなにあったかいの?」


のんびりとした口調に一瞬気が抜ける。あれ、ちょっとこの人…どっかで見た事ある…。


「エ、エリオット王太子殿下……?」


この顔はどうしたって忘れるわけがない。ブロンドの髪にペリドッドの瞳。王太子殿下に間違いない。

エリオットはきょとんとした顔で私を見ると小首をかしげてふんわりと笑った。


「君、僕のこと知ってるの?僕は知らないけど…だれ?」

「あ、あの。私はステラ=ヴェルナーです。以前カフェで…」

「ステラ=ヴェルナー?」


エリオットは私の名前を復唱しながら立ち上がると、スープポットを握りしめたまま私の目の前に立った。


(近い近い…っ!)


鼻が付きそうなくらいの距離で見つめられる。殿下ってもしかして近眼?

近すぎて焦点が合わないんだけど。


「あれ?顔が見えない…。ああ、近づき過ぎちゃったのか。君、一歩下がってくれる?」


ド天然王子に言われるがまま、私は一歩後退した。


(というか、このまま100歩くらい後退したい…)



「ステラ=ヴェルナー…って。もしかしてステラ印のはちみつの?」

「…はい、そのステラです」


「フワフワパンケーキのステラ?」

「…はい」


この下り…確か前にもやったような気がする。


「そうなんだ。初めまして、ステラ嬢。僕はエリオット・ラングフォード。この国の第二王子です」

「……」


なんだろう…会話が微妙にかみ合わない…。

ニコニコしながら自己紹介をしてくれる王子がなんだか心配になった。心配と言えば…、


「あの…、殿下はなぜこんなところにお一人でいらっしゃるのですか?お供の方はどうされたんです?」


確かこの間も2人の従者を従えてたはず。すると殿下は楽しそうに、


「まいてきちゃった」


と笑った。















次回99話は明日19時頃を予定しています。


年末に向けて平日の更新を少し減らす予定です。

この時期はどうしても仕事の方に時間をとられてしまうので…申し訳ありません。

予定については後日改めます。


本日も最後まで読んでいただきありがとうございました。

明日もどうぞよろしくお願いします(*^_^*)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ