今までの事を話しました
そういえば……エッケンハルトさんが積もる話と言ったところで少しだけクレアさんとティルラちゃん、セバスチャンさんの顔が強張ったな……。
もしかして、その積もる話と言うのがお見合いの事なんだろうか?
「それではお父様、行きましょう」
「うむ。タクミ殿も……レオ様も客間で事情を聞かせてくれ」
「はい」
「ワフ」
強張った顔をすぐに切り替えて笑顔になったクレアさんに促され、客間に移動しようとして俺とレオに声を掛けるエッケンハルトさん。
俺はまだしも、レオに声を掛けるのはやっぱりまだ慣れないみたいだ。
俺もレオもエッケンハルトさんに返事をして、皆で客間へと移動する。
俺達が玄関ホールを離れるくらいで、集まっていた使用人さん達も解散するため各所に移動を始めたようだ。
使用人さん達もご苦労様です、今度、送迎の挨拶の練習を見せて下さいね。
相変わらず全員乱れる事無く揃った挨拶の練習風景というものがあったらおもしろいなと思いつつ、俺は客間へ移動した。
本当にそんな練習があるかどうかは知らないんだけどな。
客間に入り、俺達はテーブルにつく。
エッケンハルトさんを中心に左右にクレアさんとティルラちゃん、その後ろにセバスチャンさん。
シェリーはクレアさんが抱いている。
俺は皆に向かい合うように座って、隣の椅子をいくつか除いて出来たスペースにレオがお座りの体勢。
ライラさんとゲルダさんはお茶のおかわりをいつでも出来るよう、ポットを持ったまま壁を背にして待機している。
……俺の事情やレオの事を説明するのが一番大きい事なんだろうが、この配置は少し緊張するな……。
エッケンハルトさんは真面目な顔をして正面から俺を見てるし、クレアさんとティルラちゃんはにこやかだが、真面目な話のため少し硬い雰囲気になってる。
会社の面接程じゃないが、なんか緊張感が漂ってるなぁ。
「さて、皆も落ち着いた事だし、タクミ殿の話を聞こうか。何故、シルバーフェンリルと一緒にいるのか。本来、人間に従わないと伝えられている魔物が、だ」
「そうですね……」
それからしばらく、俺はクレアさん達にも話した事をエッケンハルトさんにも話した。
俺が異世界と思われる場所から来た事、元居た場所でレオを拾って育てた事、こちらに来た時気付いたら森の中にいてレオが大きくなってシルバーフェンリルになっていた事、森の中を彷徨っていたらクレアさんと出会ってオークに襲われそうなところを助けた事。
オークにクレアさんが襲われそうになっていた部分の説明でエッケンバルトさんはまた泣きそうになっていたが、レオが助けた事を伝えると目に涙を溜めながらお礼を言われた。
本当にクレアさんの事を大事に思っているみたいだ。
まぁ、無精髭を生やしたゴツイ山賊のようにも見えるオジサンに涙目でお礼を言われるのは変な意味で迫力があったが……。
それから俺のギフトの事、クレアさんと森を探索に行った事、そこで会ったシェリーことフェンリルとの出会いも話して、俺がギフトを使い過ぎると倒れる可能性があるというセバスチャンさんの補足も入りつつ、俺がこの世界に来て行った事の説明を終えた。
途中、クレアさんがフェンリルの森を探索するというくだりでまたエッケンハルトさんが取り乱したが、クレアさんとセバスチャンさんがとりなしてくれたおかげで落ち着いてくれた。
可愛がってる娘が危険な森の奥へ行くとなったら確かに父親としては心配するよなぁと思いながら、取り乱すエッケンハルトさんが宥められるのを眺めていた。
「……成る程な……タクミ殿の事情はわかった。それにしても、ティルラの病を治すために一人で森に入った事と言い、フェンリルが取り残されて他の魔物達に襲われないよう連れて帰った事と言い、やはりクレアは優しい子だな……それにティルラも無事病が治ったようで良かったな……」
俺の色々な話……途中でクレアさんやティルラちゃん、セバスチャンさんの補足や、レオの頷きや鳴き声を交えたりもあっての第一声がこれなのかエッケンハルトさん……。
クレアさんとティルラちゃんを本当に可愛がっているようだけど……公爵家の当主様としてその反応で良いのだろうかと、少しだけリーベルト家の事が心配になった。
まぁ、娘を案じる父親としては良いのかもしれない。
「レオ様と実際にいるのだから、タクミ殿がいう事は信じねばならないだろう。我が公爵家はシルバーフェンリルと縁が深いからな」
以前クレアさん達が言っていた事だろう。
初代当主様がシルバーフェンリルと懇意にしていたという話だ。
エッケンハルトさんは俺が異世界から来た事や、ギフトを持っているという話を信じてくれるようだ。
レオと一緒にいるというのが一番の理由らしい。
ギフトの方は何か植物を栽培して見せれば信じてくれるとは思うが、異世界から来たなんて証明しようがないからな……。
知識くらいなら多少は披露出来るかもしれないが、それが異世界からの知識だと証明は当然出来ない。
「それでだな……タクミ殿……その……レオ様は本当に人を襲わないのか?」
「大丈夫ですよ。レオは人懐っこいので、人をむやみに襲う事はありません。そうだよな、レオ」
「ワフ」
まだ恐れてる様子のエッケンハルトさんに笑って頷き、レオにも一応確認とばかりに声を掛ける。
レオの方も一声鳴いて頷く。
「そうか……」
「お父様、レオ様は私達に良くしてくれます。大丈夫ですよ、襲われたりしませんから」
「レオ様は可愛いのですよ。私を乗せて走ってくれました」
クレアさんとティルラちゃんからもフォローするようにエッケンハルトさんに言葉を掛ける。
「ティルラ……レオ様に乗ったのか……大丈夫だったのか?」
「大丈夫です。レオ様は優しいですから、ちゃんと私が振り落とされないように気を付けて走ってくれました!」
「ワフワフ」
ティルラちゃんはレオが気を遣って落とさないような速度で走ってた事には気づいてたようだな。
その言葉を肯定するようにレオの方も頷いてる。
「久方ぶりにクレアやティルラに会うためここに来たが……シルバーフェンリルがいて、さらにフェンリルがクレアの従魔になってるとはな……」
エッケンハルトさんが悩むように声を出してるが、確かに悩むよなぁと渦中の人間ながら俺もそう思った。
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