屋敷に帰りました
えーと……レオの声と仕草から察するに……この屋敷周辺はレオの縄張りだから、仲間に入るのなら歓迎するって言ったんだって?
成る程……レオは縄張りを主張していたみたいだな。
……というか何故それで夕日に向かっていたんだろう……いや、銀色の毛に覆われたレオが夕日に照らされて遠吠えするのは絵になってたけどな。
「……フェンリルは何て答えたんだ?」
「ワウワウ……ワフー」
んーと、「仲間に入ります、よろしくお願いします」……かな。
結構礼儀正しい言葉遣いなんだなこのフェンリル。
いや、レオがそう受け取っているだけなのか、俺が変な風に受け取って訳してるのかもしれないけどな。
「じゃあ、このフェンリルはレオと仲間って事になったわけだ」
「ワフ。ワウワウーワフーワフ」
レオが歓迎すると答えて、フェンリルが感謝を伝えたと。
フェンリルとレオの会話はそんな感じだったようだ。
しかし……それをわざわざ遠吠えでする必要はあったんだろうか……フェンリルもシルバーフェンリルもわからない事が多いな……。
「クレアさん、レオがフェンリルを仲間と認めて、フェンリルがそれを感謝してる話だったみたいですよ」
「……そうなのですか……ウルフを始め、フェンリルも縄張り意識が強い魔物と聞いていますが、そのための儀式みたいなものなのでしょうかね?」
「多分、そんな感じだと思いますよ」
クレアさんに答えながら、俺は間に挟まっているフェンリルを見た。
さっきからウトウトしていたフェンリルは、俺とレオが話してる間に寝てしまったようだ。
その寝顔はレオに仲間と認められたからか、今までよりも安心してるようにも見えた。
数分後、レオが馬に謝ったり等があって、馬も完全に落ち着きを取り戻して、ようやく屋敷に入る門をくぐった。
目の前に門があって、すぐに入れるんだから馬車から降りて歩けば良かったと思うが、気にしない事にした。
門をくぐって屋敷の玄関前で馬車は止まる。
セバスチャンさんに促されて、寝たままのフェンリルを抱き上げたクレアさんと一緒に馬車を降りたところで、勢いよく玄関の扉が開け放たれた。
「姉様! タクミさん! レオ様! お帰りなさいませ!」
開いた扉から、クレアさんの所へ走りながら叫んで俺達を迎えてくれたのは、何となく久しぶりな気がするティルラちゃんだ。
多分、レオとフェンリルの遠吠えが屋敷の中にも聞こえて、俺達が帰って来たのがわかったんだろうな。
「ティルラ、ただいま。ただ、もう少し静かにしてね。この子が起きてしまうわ」
「ティルラちゃん、ただいま」
「ワフ」
「……? 姉様、それは何ですか?」
ティルラちゃんに帰りの挨拶をする俺達。
フェンリルを抱いているクレアさんに気付いたティルラちゃんは、それがフェンリルだとはすぐにはわからないようだ。
犬を抱いてるようにしか見えないからな、フェンリルを見た事ないティルラちゃんがわからなくても仕方ない。
「ふふ、これはフェンリルの子供よ。森で見つけて保護して来たの」
「これがフェンリルなんですか!? 可愛い!」
クレアさんがティルラちゃんにフェンリルを見せるように少し体を傾ける。
それを見たティルラちゃんは、目を輝かせて覗き込んだ。
確かにティルラちゃんの言う通り、クレアさんの腕の中で幸せそうに寝息を立てているフェンリルは可愛いよな。
「ティルラ、もう少し静かにしなさい。この子は森で酷い怪我をしていたの。まだ体力が戻ってないかもしれないから、今は少しでも寝かせておいてあげたいわ」
「わかりました姉様、ごめんなさい」
「ははは、元気に走り回ってたから、もう大丈夫だとは思いますけどね」
クレアさんからの注意を受けて、ティルラちゃんは声を小さくしながら謝った。
俺は笑いながら、でもクレアさんに注意されないくらいの声で話しかける。
朝の時点で元気そうだったからな。
それに、帰り道の途中で休憩してた時もクレアさんの近くを走り回っていた。
今寝てるのは、走り回って疲れたからで、怪我が原因の体力不足じゃないと思う。
「それでもです。寝ているこの子を邪魔したくありませんから」
「可愛いですからね。自然に起きるまではこのままにしておきましょう」
「はい」
「ほんとに可愛いですー」
「ワフ……」
クレアさんは随分とフェンリルを気に入ったようだ、母親のような優しい微笑みでフェンリルを見てるな。
ティルラちゃんの方は寝ているフェンリルが可愛くて仕方ないのか、目を輝かせている。
それを見ているレオは、ティルラちゃんが自分よりフェンリルの方に興味があるとわかって拗ねたように声を漏らしてるな。
レオ、ティルラちゃんはまだ子供だからな。
初めての事に興味があるだけだと思うぞ。
ティルラちゃんはお前に懐いてるのは確かだから、また一緒に遊べばいいさ。
そう考えながら、拗ねてるレオの体を撫でた。
「クレアお嬢様、そろそろ屋敷の中に入りましょう」
「そうね」
セバスチャンさんに促され、俺達は馬や馬車を移動させる護衛さん達を置いて屋敷の中に入った。
「「「「「お帰りなさいませ、クレアお嬢様、タクミ様。無事のご帰還、一同心待ちにしておりました!」」」」」
中に入り、玄関ホールに来た途端、使用人さん達の揃った声で出迎えを受けた。
これまで何回か経験して来たが、皆一斉に声を掛けなくても良いんじゃないか?
誰か一人代表者が声を掛けるだけとか……。
と言うか、タイミングもばっちりで声を揃えてるが、これって練習とかしてるのかな?
……使用人さん達が送迎の挨拶を並んで練習する姿を想像すると、少しシュールだな。
「皆、出迎えご苦労様。でももう少し声を小さくして、この子が起きてしまうわ」
「失礼しました」
クレアさんがティルラちゃんに言ったように使用人達にも注意をしている。
まぁ、使用人さん達はクレアさんがフェンリルを連れ帰って来て、さらにそのフェンリルが寝ているとは思って無いから仕方ないよな。
クレアさんの言葉に、執事さんが一人代表して声のトーンを落としながら謝った。
それに続くように、他の使用人さん達も頭を下げる。
送迎の挨拶もこれで良いんじゃないかな?
貴族の使用人として、皆で声を掛けなきゃいけない決まりがあるなら仕方ないが……。
今度、セバスチャンさんに聞いてみよう。
……どんどんセバスチャンさんに聞くことが増えてる気がするな……まぁセバスチャンさんの方は説明したい人だからいいか。
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