トレンツァの処遇
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「レオちゃん、こいつの事許せる?」
「ワウ? ワフゥ……ワウ」
「そうかぁ。まぁそうだよねぇ。タクミ君が頑張ってたのに、台無しにしそうだったわけだしね」
頭の中にひらめいた事を実行する前に、念のため確認。
首を振るレオちゃんは、多分タクミ君の事を思ってトレンツァを野放しにしてはいけないと思っていそうだね。
まぁ野放しにするわけでも、本当に許して放り出すわけはないんだけど。
「じゃあそうだね、これから先タクミ君やレオちゃん。もっと言えば、この国や公爵家に害をなさないために利用するって言ったら、許可してくれるかな?」
「ワウゥ、ワッフ!」
「うんうん、そうかそうかぁ。リーザちゃんも大事だね。わかった。絶対にタクミ君達の周りに迷惑をかけないようにする事を約束するよ」
「ワ、ワフ。ワウ」
リーザちゃんにも、と言ったのかと雰囲気で思ったけど、少し戸惑った鳴き声だったから違ったかな?
でもまぁ、とりあえず頷いてくれたからいいか。
「それじゃあ」
そう呟きつつ、自分の体を抱くようにしながら全身を震わせているトレンツァに近付き、耳打ちする。
「望みは一生叶わないし、これから永遠に恐怖を刻まれたままになってもらう。そして、存分の僕たちの役に立ってもらうよ」
「ひぃっ!」
ボソっと耳元で伝えると、大きく体を震わせて短い悲鳴を上げた。
血の気が引いた顔は、絶望を刻んでいる。
そんなにひどい事したかなぁ? いやしたかぁ。
僕としてはまだまだ序の口で、もっと耐えて欲しかったと思うけど、それは暗部の方に期待するかな。
あっちは、こういった事に対する訓練とか受けているだろうし――期待しておこう。
「……ルグレッタ、いるんでしょ?」
「はっ」
呼びかけると、木の陰から姿を現すルグレッタ。
レオちゃんはそちらに顔を向けただけで、特に大きな反応をしていないから、気付いていたんだろう。
さすがにこれくらいじゃ驚かないか。
「よくついて来れたね? 結構な速度で追いかけていたんだけど」
「閣下が魔法をかけて下さっていましたから。私は閣下付きですので、この程度は」
トレンツァを追いかけて庭から出る前、ルグレッタにも魔法をかけていたから、上手く追いかけて来れたんだろう。
フェンリルの方を対処して欲しかったんだけど、ルグレッタの役目を考えると、僕を追いかけて来るのも当然か。
「しかし、派手にやりましたね」
トレンツァの周りを見て溜め息を吐くルグレッタ。
「まぁ、ちょっと色々刺激されちゃってね。腹に据えかねていたというのもあるけど」
トレンツァの周りは、まだ新しく乾いていない血で汚れている。
使い終わったロエも散乱しているけど、森の中だからそこは気にならないんだけど……色々やったせいで、トレンツァから血以外の様々な体液が漏れ出しているからね。
結構臭いもきついから、レオちゃん大丈夫かな? タクミ君の薬草、感覚強化薬草だったっけ? あの効果がまだ残っているため、僕も結構きついんだけど。
「その者が原因で、フェンリルに跳ね飛ばされた仕返しですか」
「それもあるけどね」
いやぁ、派手に吹っ飛ばされたから、怒っていた理由の一つにはなっているかな。
とはいえ、一番はやっぱり僕にとって楽園とも言える場所、同郷でお人好しのタクミ君と公爵達がいて、面白い事がいっぱいな所を乱したからだけど。
「ともかく、こいつはセイクラム聖王国への鎖にするよ。しばらくは、手を出してこなくなるだろうし、向こうの情報も手に入れやすくなる」
「畏まりました。他の者を潜り込ませる準備をしていましたが、そちらはいかがいたしましょう?」
「そうだね、元々こいつらがやって来る前に情報を掴むためと思っていたんだけど、来ちゃったからね」
色々やっている時に聞きだした話にはなるけど、結果を出すために焦ったトレンツァが、暗部を連れて村に乗り込んできた、という事らしい。
堪え性がないというか、結果を求めすぎだとは思うけど、こうして僕達の役に立つ事になるんだから、結果オーライってところかな。
暗部を使っているから、向こうの国王も関わっているのは間違いないし。
「こちらにかかりきりだったから、ちょっとセイクラムを放っておき過ぎたよね。反省反省」
「少々軽すぎる気がしますが、王家の方々も同様ですので、仕方ありません。起こってしまった事よりも、これからの事の方が重要です」
ルグレッタは僕付きとはいえ、王家直属。
騎士でもあり、隠密でもあると言ったところかな……表向きには、国王直属騎士隊長という事になっていて、地位としては近衛より上だ。
ただその部隊はルグレッタ含めて四人しかいないし、僕と国王以外に命令を出す事はできないうえ、一般には知らされていない役職になっているけど。
「うん。まぁここで聞いてもらっているから弁解するわけじゃないけど、レオちゃん達は王家に限らずこの国にとって最重要だからね。タクミ君自身もそうだけど」
シルバーフェンリルとギフトを持つタクミ君。
利用しようとする、なんて私利私欲を出して接してはいけないし、そうしないようにする方針だけど最重要であり、要観察対象でもある。
レオちゃんがやろうとすれば、僕も含めてこの国全体が吹いて飛んでしまうのだから、そうなるのも無理はない。
僕は面白そうだからと色々関わっているから、それも私利私欲と言えなくはないけど、藪をつついて蛇が出るような事はしないし、させない。
それは王家にも言ってある。
「ま、そういうわけだからさ。こいつは連れて行ってあっちに引き渡してよ。そうそう、周辺国にもちゃあんと、セイクラムが手を出しちゃいけない所に手を出した、というのは伝えるように」
「承知いたしました。暗部の方はどうしましょう?」
「あっちは……今頃ハルト達に捕まっているだろうね。うーん……こいつの処遇も話しておかないといけないし、暗部の方も引き取るようハルト達と話してみるよ。タクミ君は、引き取ろうとかそういう事は言わないと思うし、多分大丈夫」
「……閣下の多分、は不安になるのですが」
「他の貴族と違って公爵だからね。僕の事もよく知っているし、大丈夫大丈夫。アルヒオルン侯爵の子息達がいるのが、ちょっと面倒だけど。当主本人だったら良かったんだけどね。まぁそこはハルトと一緒になんとか誤魔化すよ」
「公爵様と閣下が混ざると、ろくな事にならない気もしますが、そうせざるを得ませんね。殿下方もいらっしゃる中での騒動なので、姉がなんと言うか……」
「あっちはまぁ、まだ成人していないとはいえ王家だからね。なんとでもなるよ」
ルグレッタの姉、第二近衛騎士隊長のルグリアちゃんね。
姉妹仲は良いんだけど、そのルグリアちゃんにもルグレッタの正式な職務は明かされていない。
とはいえ、テオドールトやオフィーリエに関してはレオちゃんやタクミ君に懐いているから、そちらに害をなさないためと言えば、なんとでもなるだろう。
ルグリアちゃんもテオドールトを言い含めればなんとでも……真面目だけど、だからこそテオドールトやオフィーリエ至上主義みたいなところがあるからね。
それにしてもルグリアちゃんとテオドールトかぁ――オフィーリエに付く事が多いけど、結構テオドールトの事を気にしているところを見かけるんだよね。
ただちょっと年齢が離れすぎかなぁ? 年の差なんて、気持ち次第でどうとでもなると思うけど。
「……閣下、姉をダシにしておかしな事を考えないで欲しいのですが」
「何故僕の考えている事がわかった?」
「それだけ、閣下の近くにいますから。そういう表情をしていました」
「……顔に出していたつもりはないんだけどなぁ。っとそうだルグレッタ。強制隷従具、フェンリル達を無理矢理従わせたあれの出所がわかったから、そっちの対処もお願いできるかな」
「私の手にはあまりますので、別の者にさせます。しかし、作ったと言っていたはずですが?」
「うん、それでいいよ。作ったというのは、今回使われた物だね。僕が言っているのはオリジナルの方。こいつを尋問しながらちょっと調べてみたけど、カナンビスを使ったように弱らせないと効果を発揮しないから、優先順位は低いかな。無視はできないけどね」
強制隷従具、これのオリジナルはまた別の呼び名だけど、あれは存在してちゃいけない、誰かが使ってはいけない物だ。
トレンツァが作った劣化版とは違い、オリジナルは弱らせるなどの余計な手間をかけず、対象を強制的に隷従させるものだから。
従魔化するための物だと考えられているし、トレンツァもそう捉えていたけど、根本的に別物。
そしてその対象は、人にも及ぶ。
だからそれなりの数が生産されてしまったけど、僕の手で協力者と共に全て破壊し、資料なども含めて破棄、封印したはずだった。
でもそれが今になって出て来るとは……。
トレンツァは、効力を失ったオリジナルを見つけ出し、それを解析して劣化版を作ったようだけど、今回もしそれが使われていたら、もっと酷い事になっていた可能性もある。
劣化版は長時間かけて定着させなければ効果は残らないし、強制隷従だとしてもあくまで従魔化であり、しかも簡易的。
少しすれば元に戻るだろうけど、オリジナルは一度使われたら最後、どうやってもそれを解除する事はできないからね。
効力が失われているとしても、トレンツァのように解析して作ろうと、もしくは直そうとする奴が出てくる可能性もあるから、確実に抹消しておかなければ。
「かしこまりました。迅速に対処できるよう準備させます」
「うん。場所などは追って報せるよ」
「はい。それでは……おとなしくしてもらおう」
「うぐっ!」
僕に頷き、色んな液体で汚れているトレンツァに当身をして意識を奪いつつ、肩に担ぐルグレッタ。
流れるような当身と男前な担ぎ方だなぁ……抱き上げたり、背負うのが嫌なのはわかるけど。
「いいなぁ」
おっと本音が。
「ご所望でしたら、閣下もいかがですか?」
「魅力的な申し出だけど、今は遠慮しておくよ」
「ワフゥ」
レオちゃんに呆れられそうだからね。
既に呆れられているような鳴き声だったけど、それは気にしない。
「そうですか、それは残念です。それでは、私は先に……はぁどうして私はあんな人を――」
何やらブツブツと愚痴っぽい事を漏らしながら、村とは別方向に森を進んでいくルグレッタ。
木々に隠れてすぐに見えなくなったけど、色々と頼んじゃっているから疲れているのかもしれない。
「ルグレッタをもうちょっと労わった方がいいのかなぁ? 今回の件が片付いたら、もっと僕を責めさせてあげよう、そうしよう」
「ワウ、ワフワウゥ」
何かレオちゃんからそうじゃないと言いたそうな気配がするけど、気のせいだよね。
「痕跡はこれで消せたかな?」
「スンスン。ワフ」
「レオちゃんのお墨付きなら間違いないね」
トレンツァに色々やった痕跡を埋めたり土をかけたりして消す。
レオちゃんに臭いを確認してもらうと、これなら大丈夫だろうと言うような頷きが来たので大丈夫だろう。
放っておくと、魔物が集まったりするからね。
「それじゃ、そろそろあっちも片付いてる頃だろうし、のんびり帰りますかね」
「ワフ。ワッフワフ!」
「え、急げって? タクミ君が心配なのはわかるけど、大丈夫だよ。あっちにはハルト達がいるし、カナンビスが使われたって事は魔力が乱されている事でもあるし、だったら魔法が使えないわけで。そんなフェンリルくらいなら、無事なフェンリルと兵士達もいるしね」
早く戻って、タクミ君の所に行きたいんだろうけど、さすがに魔法を使い過ぎて疲れたから急ぎたくないんだよね。
フェンリル相手にやり過ぎちゃったから、兵士達も巻き込んでいたのは気にしない方向で。
戻ったら一番にお酒を用意してもらわないと。
それにしても、タクミ君にマクレチスの事を教えたのは僕だけど、使いこなしていたのはちょっと驚いた。
暗部など人を掴まえる程度ならともかく、フェンリルも掴まえていたからね。
あんなに素直な性質じゃなかったと思うんだけど、ギフトのおかげなのか、それともタクミ君の魔力の性質が影響しているのか……。
興味深いね。
「ワフ……グルルルゥ」
「おっと、変な事をするつもりはないよ? タクミ君とは、いい関係でいたいからね。僕にとってここは楽しくていい場所。ずっとこのままでって思うくらいなんだから」
僕が考えている事を察したのかなんなのか、レオちゃんが僕に向かって唸ったので、慌てて手を振る。
「ワフゥ?」
本当に、と言いたげな窺う様子のレオちゃん。
「レオちゃんだから話すけど、ギフトってさ、能力は決まってそれ以上にはならないんだよ。大昔はともかく、今はギフトの能力はすぐに判明させられて、不明な点は出て来ない。なのにタクミ君はね、ギフトも含めてわからない点がいくつかあってね。だからちょっと興味深いってだけなんだよ。もしかしたら、知的好奇心のために僕から促す事くらいはあるかもしれないけど」
今回のマクレチスとか、どうなるかなって興味があったのは間違いない。
でももちろん、タクミ君が自分の身を守るために必要だと思ったからというのも本当だ。
「だから、タクミ君が嫌がったりするような事はする気がないし、しないよ、絶対に。まぁ……その……ちょっとだけ興味や面白さが勝って、困らせるくらいはあるかもしれないけど。それくらいなら、許してくれないかな?」
「ワウ……ワフ」
やりすぎなければ、という雰囲気で頷くレオちゃん。
良かった。
ここでレオちゃんに警戒されるだけでなく、排除する方向で考えられたらたまらないからね。
まだ僕自身、裏ボスとして認めているシルバーフェンリルを倒す、というのをあきらめたわけじゃないけど、全力でぶつかられるのは勘弁して欲しい。
心情はともかく、国を相手にするくらいは平気でも、シルバーフェンリルを敵に回すのは絶対に嫌だから。
いくら不老でも不死じゃないし、そんな事になったら僕は存在していられないだろうしね。
「はぁ。でも、それとは別に、また手合わせに付き合ってよレオちゃん?」
「ワウゥ? ワッフ、ワフワウ」
「まだ諦めていなかったのかって? そりゃもちろんだよ。長年の悲願みたいなものだからね」
本当の意味で敵に回すのは全力で回避するとしても、裏ボスとしてシルバーフェンリルを倒すというのは諦めていない。
人間としては考えられないくらい、激しい後悔を生む程に長く生きてしまっている僕の心の平穏を保つためには、この世界をゲームだととらえておかないといけないのもある。
シルバーフェンリルをラスボスではなく裏ボスとして認定しているのは、シルバーフェンリルが以前タクミ君に語ったように人間の味方をしたから。
ちなみにラスボスは、この国に元々あった魔境に君臨していたとある魔物だけど、それを倒してこの国を作ってからは、やり込みのための長いエピローグのようなものだと捉えている。
そうしないと、数えきれない人を看取って、置いて行かれてしまう僕自身を保っていられないんだよね。
暗くて重い話になるから、誰にも明かせないけど――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
他視点、かなり長くなってしまいました、申し訳ありません。
次話途中より、タクミ視点に戻ります。
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