理論の否定と黒いユート
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フェンリルを囲んだ「収奪の牢獄」という魔法、呪文は日本語で僕のオリジナル。
英語とかがメインのようにタクミ君には教えたけど、実は日本語でも魔法は使えるんだよね。
個人的に中二病的な呪文になっちゃう事が多い気がするから、タクミ君には日本語を勧めなかったんだけども。
ま、それはともかく、フェンリル二体はこれで動けないだろうからいいとして……。
「さてさて、おとなしく捕まってもらおうかな? それとも、このまま物言わぬ骸になる方がいいかな?」
「つっ、うぅ……!」
のそりと、レオちゃんが隣に来るのを感じつつ、地面に投げ出され、痛みに呻くトレンツァを睥睨する。
トレンツァの処遇に関しては、タクミ君とも話した方がいいのだろうけど、色々と腹に据えかねているからね。
捕まってとは言ったけど、もうこっちでやっちゃおうと思っていたりする。
「ワフゥ?」
「そんな怪訝な目で見ないでよレオちゃん。こいつが、野放しにしてたらいけないっていうのは、レオちゃんもわかるでしょ?」
「ワウ。ワッフワフワウ」
「だからって殺さなくてもって? うーん、でもなぁ……」
いや、本当にレオちゃんがそう言っているのかは、タクミ君じゃないし獣人でもない僕にはわからないけど、雰囲気でそう言っているように感じている。
さっきから大体雰囲気で話していて、通じているっぽいから大丈夫だと思う。
もしかしたら、ひとおもいにやっちゃう? とか言っている可能性は否定できないし、だとしたらそれはそれでちょっと面白いけど。
「くっ……うぅ……わかっているの!? 私を殺せば、世界の損失なのよ!?」
痛みに顔を歪めながらも、僕やレオちゃんを睨むトレンツァ。
足を抑えているから、骨に異常があるのかもしれない、折れているとかだとこれ以上無駄に逃げたりできないだろう。
それよりも、この状況で強がれるのは大したものかもしれないね、褒める気はないけど。
「世界の損失、ねぇ。僕からすると、お前よりもレオちゃんやフェンリル達が利用される方が、よっぽど損失に感じるんだよね」
タクミ君は、一方的な利用や搾取とかではなく、仲良く協力して、還元というか貢献というか、人のためになる事をしようとしている。
それどころか、フェンリルの領域を犯さず協力関係を築けるというだけで、国単位で見るとすごく助かるというのに。
「あ、そうそう。世界のためとか色々大義名分を振りかざしていたけど一つだけ訂正しておこうか。信じるかどうかはお前次第だけど」
「な、何よ……私は何も間違っていないはずよ!」
はず、ね……この状況でそう言うって事は、トレンツァ自身も懐疑的な部分があるって事でもある。
これなら、少しは見込みがあると考えてもいいのかもしれない。
本当に少し、爪の先にも満たない程度で取るに足らないくらいだけど。
「種族を越えた進化は、突然変異から発生しない。進化というのは、世代を重ねてゆっくりと行われるものだ。それはどこの世界でも、理でも、僕の知る限りでは間違いない」
世代を重ねるごとに、少しずつ、前の世代からほんの少しの違いが生まれ、綿々と受け継がれ、形を変えて行く事で、いずれ進化と呼ばれる程の変化になる。
それはこの世界でも、地球でも変わらない。
もしかしたら、どこか僕の知らない世界では突然進化をするような事もあるのかもしれないけど……ほら、ゲームではそういうのよくあるからさ。
「突然変異は、ただ少し強化された個体というだけ。そこから世代を重ねた先には、確かに進化があり、その速度を速める事もできるのかもしれない。けど、数世代程度で変わる程じゃない」
「そ、そんなまさか……いえ、信じられないわそんな事! 私の理論は正しいのよ! 突然変異から進化し、より上位の種族に……!!」
「そもそもさぁ、フェンリルがシルバーフェンリルになるって考える事自体が間違いなんだよ。シルバーフェンリルはフェンリルの上位種族でもなんでもないんだから。それは、名称や姿形は似ているけどね。けど、完全に別物だよ」
フェンリルがシルバーフェンリルに進化して、この世に存在するわけではないからね。
どちらが先にかはわからないけど、多分僕がこれまで見てきた感じだと、シルバーフェンリルの方が先に存在していたんじゃないかと思う。
逆に、シルバーフェンリルからフェンリルが生まれたわけでもなく、二つの種族は完全に別である事は間違いない。
「フェンリルの先にシルバーフェンリルがいるんじゃない。フェンリルがいて、シルバーフェンリルもいる。ただそれだけ」
と言っても、僕の言葉は信じられないといった様子のトレンツァ。
信じないなら信じないで別にいいし、そのままいなくなってもらうだけなんだけど……もう一つ、否定してあげておこうかな。
うん、僕って優しいね。
「そもそも、突然変異と進化の考えや理論ってさ、結構前に否定されているんだよね。研究者ならそれくらい知っていて欲しかったけど。あ、そうか、トレンツァってセイクラムの人間で、そこで研究しているから……ヘルマンの影響を受けているんだね。もう結構前の話だけど、そういえばヘルマンが言い出した事だったっけ。つまり、お前は『私が』考えたなんて言いつつ、結局その着想なんかはヘルマンの物でお前自身の物じゃないって事か」
「そ、そんな……事は……! それよりも、何故お前が、この国の人間がヘルマン様の事を知っている!!」
「……まぁいいか。だって、そのヘルマンの理論を否定したのは僕だからね。ちなみにそれは、当時の国王、あ、セイクラム側のね、国王も認めた事だよ。ヘルマン自身も、かなりショックを受けたみたいだけど、倫理観は壊れていても研究に対しては真摯だったからね。証明もされて認めてたよ」
まったく、ヘルマン自身すら認めた研究理論を掘り出して、自分の考えだと固執するなんて、馬鹿馬鹿しいよね。
しかもそれは、進化とか突然変異だけに限った事じゃないし。
「それに、フェンリルに使った強制隷従具だっけ? あれも、お前が作った物じゃない。いや、多少アレンジはしたんだろうけど、ただそれだけ。お前は、自分の理論が正しい、世界のためと言いながら、その理論は誰かの借り物で、お粗末なだけときたもんだ」
強制隷従具、あれは元々別の形というか単体に効果を示す物だった。
複数に効果を出せるようにしたのは、ほんの少しだけ褒めてもいいかもしれないけど、欠点などは同じどころか、むしろ強く出るようになっていたからね。
オリジナルは、カナンビスなんて使わなくてもフェンリル一体を、もっと強い状態で従魔にできたはず。
そうなれば、欠点は欠点だから全力とは言えなくても、追いつくのはこの森を突き抜けた先くらいにまでは行けたかもしれない……ここはまだ、半分を少し行った所程度だ。
勢いがありすぎて途中でトレンツァが振り落とされなければ、だけど。
「あぁそうそう、それと突然変異って言っているからそれに合わせてるけど、実際はただ環境に適応しただけ。場所によって、魔物も姿形は似ているのにちょっと違ったりするだろう? あれと一緒だよ。その場所の環境などに適応した結果、強くなったり弱くなったり。そう、弱くもなるんだ。お前が言う進化と突然変異が繫がっているなら、弱くなるのは説明がつかないはずだ」
もちろん、魔力が濃い場所で長時間とどまっていると、身体能力が上がったり潜在魔力が増えたりはする。
けどそれも環境に適応したと言える程度で、劇的に向上するわけじゃない。
まぁレオちゃんのようなシルバーフェンリルがいる場所だと、また上昇値もかなり高く、個体差と言える才能を越えて向上する事はあるし、実際にタクミ君の近くにいる人達やフェンリルは既に、多少の向上が見られるけど。
自覚できるか微妙なくらいんだんけどね。
「そ、そんな馬鹿な。でもだって……いえ、それより、ヘルマン様の理論を否定だなんて。そんな事があるわけがない!」
「それがあるんだなぁ」
「あり得ないだろう! ヘルマン様は数十年前に亡くなった! 私が生まれるよりも前の事だ!」
「あぁそうか。僕の年齢が気になるわけだね?」
僕は二十五歳の頃から不老になり、成長すら止まっているから計算が合わないんだろう。
見た目としては日本人の中でも若く見られる方だから、トレンツァから見れば十代に見えるのかもしれない。
少なくとも、二十代後半から三十前後とみられるトレンツァからすると、生まれる前の存在であるヘルマンの考えを否定した、というのは信じられないはずだ。
「逆に信憑性がなくなっちゃったかぁ。うーんそうだねぇ、信じなくてもいいんだけど……どうせ物言わぬ骸にする気だし。でもどうせだから、心をへし折ってからの方が僕の溜飲が下がるからね」
我ながら性格が悪いと思うけど、どうせやっちゃうにしても後悔するよう仕向けてからにしたい。
それだけ、腹に据えかねている、怒っているという事でもある。
横でレオちゃんが呆れたような表情になっている気がするけど、それはきっと気のせいだ。
「ふっふっふ、悪い癖なんだけどね。普段は逆の性癖にしている反動かな? 許せない相手には、ちょっとやり過ぎちゃうんだよねぇ」
嗜虐心と被虐心、長く生き過ぎてその両方が芽生えてしまった。
普段はルグレッタという逸材を近くに置く事で、被虐心を表に出しているし、素でもあるんだけど、こういう時に隠していた方がのっそりと顔を出しちゃうよね。
「な、何を……」
僕が性癖、なんて言っちゃったからか自身の体を隠そうとしつつ、僕から距離を取ろうとするトレンツァ。
足を痛めているから上手くいっていないけど。
そういえば足からは血が出たりはしていないので、おそらく大きな怪我ではないのだろう。
明後日の方向を向いているというわけでもないので、骨が折れているわけでもなさそうだ、ヒビくらいは入っているかもしれないけど……ちっ。
「セイクラムの国王、聖王はこの国にちょっかいを出すときに何か言っていなかった? 関わってはいけない人物の話とかさ」
「そ、それは……」
ふむ、さすがに簡単にそういった話は言えないか。
けど、この様子なら聞いているようだね。
今代の国王だけじゃないけど、色々といざこざがあって僕が直接脅かしているからね、反省……は嫌がらせが止まっていない以上していないんだろうけど、おかげで武力での侵略は収まっている。
それはともかく。
「話しやすいようにこれはどうかな――」
トレンツァが聞いているであろう人物の話、いくつかの特徴などを伝えていくと、徐々に顔の血の気が引いて行った。
「ま、まさかお前は……い、いえあなたは……」
「今更気付いても遅いんだよねぇ。関わってはいけない、もし関わるようならば手を引くように、とまで言われていたはずだよ」
何せ、僕に関わるような嫌がらせをして、やり返されたからね。
仕返しの中には、セイクラム国内では何事も起こっていないけど、他の国々に対してセイクラム国王の醜聞を広めたりした事もあるし。
それこそ、恥がなければ作るくらいの事はしたからねぇ。
僕の事をよく知るとある国の国王なんて、トラウマ製造機なんて不名誉なあだ名を付けられたりもしたもんだよ。
「ともあれ、僕の事はわかったでしょ? どこまで聞いているかわからないけど、これが僕とヘルマンの関係を信じる理由にならないかい?」
「だ、だけど……そ、そんな! いくら若作りだとしても、ヘルマン様はもっと昔の……!」
あの国王、もしかして俺の事を若作りとか言っていたのかな? これは、ちょっと面白い事をしなきゃいけないかもしれないね。
っと、今はここにいない相手に嗜虐心を出す場面じゃなかったね。
生きている年数を考えると、若作りというのも間違いじゃないし。
「さてさて、大分信じられてきたようだね。劣化した物しか作れない、ヘルマンの真似事をするだけの自称研究者。お前の理論は全て否定できるよ」
「う、うぅ……」
ふむ、完全に心を折るまでもう一押しってところかな。
ここからは、手加減なしで行こう。
ちょっと楽しくなってきたとか、タクミ君といる時はできなかったからとか、そんな事は一切考えていないよ、多分。
「とりあえずレオちゃん」
「ワウ?」
「……多分見ていて楽しくないと思うから、あっちを向いててくれるかな? できれば、離れていた方がいいかもね」
「ワフ……ワフワフ!」
「うーん、そうかぁ。レオちゃんも見たいなんて、温厚なタクミ君と一緒にいるけど結構侮れないなぁ」
「ワウ!? ワッフワフ!」
全力で首を振るレオちゃん。
雰囲気から、なんとなくそう言っていると思ったけど違ったみたいだね、もしかしたら何をするのか? と聞いただけだったのかもしれない。
やっぱりタクミ君と違って、レオちゃんとはっきりとした意思疎通は難しそうだね。
「さて、レオちゃんはいいとして……さぁ、これからがお前にとって本当の地獄だ。いや、地獄すら生ぬるいかもね。大丈夫だよ、安心して。死にたいと思ってもまだ死なせないから」
取り出したるは刃渡り長めのショートソード未満なナイフ。
使い古した物だけど、こういう時に信頼のおける業物
さらにさらに、別で取り出したのは……。
「こういう時のために、タクミ君に頼んで作ってもらってたんだー!」
「ワウゥ……」
ウキウキと懐からロエが入った袋を取り出した。
ロエとナイフ、嗜虐心溢れているだろうなぁ、と自覚する表情になっている僕を見て察したらしいレオちゃんは、程々にと言いながら僕から距離を取った。多分。
「最終的にはこうするのを期待していたけど。さってっとー……何を考えていたのか、まだ話していない目的とかがあるでしょ? ほら、話しやすいようにするから全部話してよ、ね?」
「ひっ! な、何を……! ひ、ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そうして、女の子にあるまじき悲鳴が深い森の中に響き渡った。
レオちゃんには、付き合わせて申し訳ないけど、近くにいてくれるだけで見張り効果というか、踏み外しちゃいけないギリギリのところで踏みとどまれるから、いてくれるのはありがたい。
レオちゃんに僕を追いかけさせたタクミ君には感謝だね、タクミ君達の前ではさすがにこんな事できなかったし。
「ふむふむ、成る程。そういう事かぁ。結局セイクラムは変わらずそこを狙っているんだねぇ。ほんと、王なんて呼んでいながら、シルバーフェンリルを敬うのではなく利用する方で考えちゃうんだねぇ」
「ひっ……はっ……ひっ……」
息も絶え絶えになっているトレンツァから、話していない部分など全てを聞き出し、満足して頷く。
損傷と治療を繰り返した成果だけど、心が折れる以上に壊れかけているかもしれない、ちょっとやりすぎちゃったかな?
まぁでも、そのおかげで痛めていた足も治っているんだからいいよね。
もう逃げる気力もないみたいだし。
「さて、さすがにそろそろ終わらせた方が、いいかな」
「っっ!! い、いやぁ……こ、来ないでっ! 来ないでよぉっ!」
若干幼児退行していないかな? と思うトレンツァの叫びが、森の中に木霊する。
ちょっとやりすぎちゃったかなぁ、あ、そうだ……いい事を思いついた――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
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