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異世界転移したら飼っていた犬が最強になりました~最強と言われるシルバーフェンリルと俺がギフトで異世界暮らしを始めたら~【Web版】  作者: 龍央


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2007/2012

お助けフェンリルが来てくれました



「グルゥァ!? グル、グルゥ!」

「すまないけど、しばらく我慢しててくれ!」


 右手で『雑草栽培』を使い、兵士さん達の隙間からマクレチスを伸ばし、全身に巻き付けて動きを封じる。


「もう大丈夫です!」

「ありがとうございます!」

「いえ、こちらこそ!」


 盾でフェンリルを受け止めてくれていた兵士さんが、ようやく解放される。

 とはいえ、まだ暴れているフェンリルがいるので、安心はできないが……。


「右盾隊下がれ! 誘き寄せて囲み込むのだ!」

「グルァ!」


 遠くからエルケリッヒさんの号令。

 兵士さんに囲まれて、大きな盾にも囲まれている状態なので見えないが、号令で兵士さん達を細かく動かして、暴れるフェンリルの対処をしているようだ。

 他にも、周囲の兵士さんを動かして色々やっているみたいだが、どうなっているのか……。


 マクレチスから離れるわけにはいかないし。

 どうするか、と考えてはいてもどうしようもない、と思っていたら、兵士さん達の隙間を抜けて誰かが俺に近付いてきた。


「タクミ様、交代します!」

「フィリップさん! ニコラさん!」


 声をかけてきたのはフィリップさん。

 その後ろにはニコラさんと、数人の見覚えのある人達がいた。


「タクミ様、マクレチスでしたか。そちらは我々が」

「わかりました、お願いします」


 見覚えのある人達は近衛護衛の皆さんで、ルグリアさんはいないがパプティストさんはいた。

 その人達にマクレチスの魔力役を慎重に受け渡し。

 マクレチスは本来一人の魔力を集中的に吸収したら、他の魔力を受け付けなくなるんだが、『雑草栽培』で作っている影響なのかなんなのか、量さえあれば別人の魔力でも維持ができる。

 その代わりそれ以上の成長はしないようだが、捕まえられてもがくフェンリル二体をこのままにしておくくらいならできる。


 ちなみに、この性質を発見した時ユートさんも初めてみたらしく、『雑草栽培』で作ったのと通常のマクレチスでどう違うのか研究したいと言っていた。

 まぁ通常のマクレチスがなければ比べる事はできないから、まだやっていないけど。

 ともあれ、何度かの練習を経て魔力の多い近衛護衛さんに受け渡す事ができるのを発見しておいて良かったと思う。


「ここはお任せ下さい!」


 近衛護衛さんの中のオーリエちゃんを担当している女性近衛の人達、特に魔力が多くマクレチスを任せられるからだけど、その人達と交代し、ようやく立ち上がる。

 その際、簡単に聞いてみると屋敷内で守られているテオ君やオーリエちゃんから頼まれて、というか実質的には命令されて、ここに来たらしい。

 トレンツァさんは森の方に逃げたし、置いて行かれた暗部の人達は庭、他に忍び込んでいる人などもいないようだし、屋敷内にいれば安全だからな。


「フィリップさん、庭の方は……?」

「あちらは、旦那様とクレアお嬢様、それにティルラお嬢様とリーザお嬢様が大暴れです。ほとんどが、フェンやリルル、ラーレがですが」


 大暴れって……多分、フェン達に指示を出してって事なんだろうけど。

 エッケンハルトさんが嬉々として暴れる姿は簡単に想像できるが、クレアはあまり想像が付かないな。

 まぁ、いいか。


「あちらはいずれ落ち着くでしょう。某達がタクミ様を追いかける時には既に、ほとんどのフェンリル達が無力化されていました」

「そうですか。良かった」


 無力化、というのはフェン達が氷漬けにしたとかなんだろうな……寒さに強くても、凍傷とかになっていなければいいんだけど。

 分厚い毛に守られているから、多少はなんとかなるか?


「タクミ様、あの女はどこへ? それに、ユート閣下の姿も見られませんが。それにレオ様も」


 フェンリル達が暴れて、というのはまぁ庭と似たような状況だからわかるとして。


「フェンリルに乗って北――森の方へ逃げたので追いかけて行きました。レオは、ユートさんだけに任せるのも心配だったので、そちらに」

「成る程。でしたら、レオ様の代わりにはなれませんが、タクミ様は我々が。まだここは、落ち着ける状況じゃありませんし」


 フィリップさんと話しながら、兵士さん達の輪を抜ける。

 俺を守るための輪は、マクレチスを維持する近衛護衛さんを守るための輪になった。


「しかし、大旦那様はさすが。見事ですね」

「えぇ。これが兵士さん達の運用法というやつなんでしょうね。全体を把握しつつ無軌道にフェンリル達が暴れる中、動きを予測して動かしています」


 輪から少し離れ、周囲を把握できるようになってフィリップさんと感心する。

 複数のフェンリル達があちらこちらと暴れる中、矢継ぎ早に指示を飛ばして大勢の兵士さん達を動かし、フェンリルを押し留めていた。

 一体のフェンリルが兵士さんの集団に飛び込むと、そこにいる兵士さん達を下げ、すぐさま囲んで抑え込む。

 また別の場所では、大きな盾を構えた兵士さん達に受け止めさせ、別の兵士さん達が抑え込むよう動くなど、臨機応変に対処している。


 最初にエッケンハルトさんがフェンリルと模擬線をしていた時のような、正直にお互い正面からぶつかり合うというのとは違って、細かく兵士さんを動かしてフェンリルの体当たりなどをいなして、数で抑え込むという感じかな。

 さすがにフェンリルを捕まえる、というのはあまり成功していないようだけど、それでも三体程のフェンリルの動きを止める事には成功しているようだ。

 とはいえ、苦しそうに暴れるフェンリル達は、自分の意志ではなくカナンビスの強化薬の苦しみから逃れるために暴れて、正気を失っているのに近いので、なんとか抑えているというくらいだけども。

 縄などで縛ったとしても、マクレチス程の強度がないと簡単に引き千切られるだろうし、動きを止められてもその後の扱いには苦労しているようでもある。


「タクミ様、大丈夫ですか? もう随分と、魔力を使っているようですが……」

「なんとか。全身に倦怠感はありますけど、まだ大丈夫そうです」


 ニコラさんが心配して声をかけて来るのに対し、苦笑しつつ答える。

 エルケリッヒさん指示の元、兵士さんが抑え込んだフェンリルに向かってマクレチスを作って伸ばし、拘束。

 その後、残っていた近衛護衛さんに魔力を流す役目を交代するといった流れを取っているおかげで、少しずつ騒ぎは収束の方向へ向かっている。

 たださすがに何度もマクレチスを使っているのもあって、魔力を多く使っていため全身がだるくなってきていた。


 魔法を持続させるのとはまた違って、断続的に魔力を使うとこうなるのか……魔力量が不足してきているんだろう。

 それに、マクレチスは『雑草栽培』で作っているので、そちらも少しまずいかもしれない。

 まだ余力はあるとはいえ、マクレチスは魔物だからなのかわからないけど、いつも作っている薬草より多めに力を使うみたいだ。

 ギフトの過剰使用にならないように気を付けないと。


「タクミ様!」

「っ! っとと! ありがとうございます!」

「いえ」


 兵士さん隊の合間を縫って、飛び込んでくるフェンリル。

 反応が遅れた俺を引っ張り、助けてくれたフィリップさんにお礼を言う。

 普段はお調子者っぽい部分はあるけど、こういう時はさすがフィリップさんだな、ちゃんと周囲の警戒を怠らないし動いてくれる。


「しかし、このままだとこちらがまずいですね」

「少しずつ、収まり始めてはいるんですけど」

「ですが、怪我人なども出ておりますし、抑えるのも限界があります。タクミ様も、これ以上はあまり無理をするべきではありません」


 険しい表情のフィリップさんとニコラさん。

 マクレチスでの拘束もあって、少しずつ暴れるフェンリルは少なくなってきてはいるけど、動ける兵士さんの数も少しずつ減ってきているようだ。

 このままだと、兵士さん達の消耗の方が早いのかもしれない。


「っと! あまり話をする余裕もなくなってきましたね」

「走り回って、誰かを標的にしているわけではないおかげでなんとかなっていますが……」


 再び、飛び込んでくるフェンリルを横っ飛びで避ける。

 巨体だから、振り下ろされる剣を避けるのとは違って、かなり動かなくてはいけないのが魔力消費で体がだるい俺には中々きつい。

 だからって、体当たりにぶち当たれば俺なんて軽々弾き飛ばされるだろうし、鎧も着ていないから一発で動けなくなる可能性が高いし、必死で避けなきゃいけないんだが。


「残っているフェンリルは……まだ十体近いですね」

「怪我だけでなく、兵士の疲労も顕著です。そろそろ、崩されるかもしれません……」


 言われてみれば、動きに精彩を欠いている兵士さんがいるような気がする。

 さすがに全力でフェンリルを押し留めるために動き続けていたら、疲れもするだろうから当然か。

 鎧もそうだけど、盾も大きくて重そうだし……一部は、ユートさんの魔法に巻き込まれていた人もいるから。


「とにかく、全部のフェンリルを止めるまで、頑張ら……」

「グルゥァ!」

「タクミ様!」

「ガァゥ!」

「っ!?」


 俺の言葉を遮って、フェンリルの一体が飛び込んでくる。

 フィリップさんが叫ぶのを聞きつつ全力で回避……と体を動かし始めていた刹那、別のフェンリルの吠える声と共に澄んだ音が響き渡った。


「凍ってる……うん、大丈夫と言っていいかわからないけど、大丈夫そうだ」

「キューン……クゥーン……」


 俺に向かって飛び込んできていたフェンリルが、全身氷漬けになっていた。

 動かないので確かめるように近くで見てみると、凍った中から情けない鳴き声がかすかに聞こえた。

 氷漬けにされて動けなくても、ちゃんと内側で無事なのは間違いないようだ。

 ともあれ、かわいそうなので今回の事が片付いたら絶対に慰めないとな。


「助かったよ、ありがとう」

「ガァゥ、グルゥ」


 フェンリルを氷漬けにしたのは、乱入してきた別のフェンリル。

 お礼を言いつつ体を撫でると、気持ち良さそうな声を漏らしていた。

 このフェンリルは、カナンビスの影響を受けていないようだな。

 別の場所では、同じように澄んだ音や勇ましい吠え声と共に、暴れるフェンリルを別のフェンリルが乱入してきて止めている様子が見えた。


 おそらく、トレンツァさんにカナンビスの強化薬を振り撒かれなかったフェンリル達が、助けに来てくれたんだろう。

 フェンリルは庭への突入組と、もしものために壁の外での包囲組、厩舎での待機組と分かれていた。

 待機組が一番数は少ないが、その厩舎にいたフェンリル達が状況を察知して来てくれたんだろう。


「タクミ殿、無事か。良かった。タクミ殿に何かあれば、私がレオ様に申し訳が立たぬからな」

「なんとか。フィリップさん達や兵士さん達、それに乱入してきてくれたフェンリルに助けられました」


 待機組のフェンリル達に暴れるフェンリルを任せ、エルケリッヒさんと合流。

 特に怪我をした様子のない俺を見て、胸を撫で下ろしていた。

 レオにとエルケリッヒさんは言っているが、そのエルケリッヒさんも俺の事を心配してくれていたのだろうというのは、その様子からよくわかる。


「うむ、厩舎で待機していたフェンリル達だな。そちらに助力を頼んでいいものか、悩んではいたのだが……タクミ殿と相談できる状況ではなかったからな。自分達の判断で来てくれたのだろう」


 フェンリルに関しては俺の担当、というのもあるんだろうけどそれとは別に、トレンツァさんが行った事が待機組のフェンリル達に動いてもらうのをためらった原因らしい。

 カナンビスの強化薬の影響がどこまで出るのか、その場にいなかったフェンリルが来ても大丈夫なのかなどわからない事が多いから仕方ない。

 相談はできなかったけど、俺も多分待機組を動かすのは躊躇っていたと思う……以前、森で残り香に影響されたフェンリルもいたからな。


 乱入してきてくれた待機組は、元気に暴れるフェンリルを追いかけ、魔法を放っているから大丈夫なのは間違いないけど。

 もしかしたら、ユートさんが魔法をぶっ放したのもあって、カナンビスの強化薬の臭いや影響が場所としてはもう残っていないのかもしれない。


「しかし、暴れているフェンリル達が魔法を使わないでくれて助かったな。でなければ、今頃私達は全滅していただろう」

「確かに……そういえばそうですね」


 フェンリルはその巨体による体当たりを含めた身体能力だけでなく、魔法も強力だ。

 人はもとより、馬よりも大きな体を持つフェンリルが簡単に氷漬けになっているくらいだし。

 ただ、苦しそうに暴れるフェンリル達は、走っても全力じゃないとわかる速度……なのはまぁ、暴れる事自体が本意ではなく苦しみから逃れようともがいているだけだからだろうけど。

 とにかく、魔法を一度も使っていない。


 無軌道に暴れるのと同じように、ばらまくように魔法を使われていたら今頃どうなっていたかはあまり考えたくない。

 それこそ、多少の怪我どころか、兵士さん達に大きな被害が出ていてもおかしくない。

 逆に、待機組もそうだけどクレア達の乗ったフェルやリルルは魔法を使っていたのに、だ。


「魔法を使えない、とかかもしれませんね」

「その通りなのよう。今あのフェンリル達……暴れている方なのよう。そっちは魔法が使いたくても使えないはずなのよう」

「フェヤリネッテ?」


 俺のつぶやきに答えたのは、懐から顔を出したフェヤリネッテだ。

 ずっと一緒だったけど、出てくる気配がなかったのに、状況が少し落ち着いたからだろうか。

 暴れるフェンリルが近くにいた時は、おびえていたのか震えのような感覚が懐から伝わってきていたけど。

 まぁ小さいフェヤリネッテが、巨体のフェンリルが暴れるのを見ればおびえてしまうのも当然か。


「魔力が乱れに乱れているのよう。そんな状態じゃ、魔法なんて使えないのよう。それに、ものすごく苦しいと思うのよう」

「そうなの、か……」

「魔力と魔法は繊細なのよう?」

「それはちょっとよくわからないけど、でも、苦しんで暴れる程って事なら、使えないのもわかるか」


 繊細かどうかはともかく、俺が魔法を使う時は自身の魔力を意識して流れなどを把握する必要があるから、乱れている状態では使えないというのはわかる。


「わかりやすく言えば、お酒で悪酔いしたうえで馬車に乗って、さらに全身を振り回されたみたいなものなのよう。どれだけ気持ち悪くて苦しくても、吐き出そうにも吐き出せず、どうしていいかわからないから暴れている、とかそんな感じなのよう」

「酒で悪酔い……さらに追い打ち……それはかなりの苦痛でしょうね」


 同情するような目をフェンリルへと向けるフィリップさん。

 お酒好きだから、悪酔いして気分が悪いというのはよく経験しているのかもしれない……俺も、日本にいた頃は付き合いで飲まされて経験したし、あれは本当に最悪だ。

 しかもフェヤリネッテが言うには、乗り物酔いなども追加されているようだから相当だろう。


 どうしようもなくなって、正気を失ったかのように暴れるのも無理はないのかもしれない。

 ……サニタ―ティムの丸薬が効かなかったのもあるし、カナンビスの強化薬は相当強力な物だったらしい――。



読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。


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