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異世界転移したら飼っていた犬が最強になりました~最強と言われるシルバーフェンリルと俺がギフトで異世界暮らしを始めたら~【Web版】  作者: 龍央


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2004/2006

フェンリル達の様子が変わりました



「そうはさせないわ! 私が、王……シルバーフェンリルがいるのに、ただ黙って抑えさせるわけがないでしょ!」


 俺の声を遮るように、トレンツァさんが叫んだ。


「何を……」

「持ってきなさい!」

「ぐっ!」

「トレンツァ様!」


 何を言っているのか、と俺が言いきる前にトレンツァさんが暗部へと叫ぶ。

 無軌道に暴れるフェンリル達に紛れて拘束が外れたのか、立ち上がった二人の暗部のうち、一人がトレンツァさんの元へと駆けこんだ。

 もう一人は、途中でフェンリルに弾き飛ばされたけど。


「さっさとかしなさい! これよ、これがあれば……!」


 近寄った暗部の一人が、懐から拳サイズの球のような物を取り出したのを、トレンツァさんが奪い取るようにして受け取る。

 笑みを浮かべたトレンツァさんが、それを掲げた。


「あれは一体……まだ何かするつもりなのか。止めないと!」


 掲げた球は、水晶のようなガラス質でイザベルさんの店で魔力を調べるために使っていた物を彷彿とさせる。

 そういえば、トレンツァさんというか暗部が宿から外に出た際、村の中で何かを取り出していたって報告があった。

 もしかしたらそれなのか……なんにせよ、これ以上何かをするつもりなら止めないと。

 感覚強化薬草のおかげというわけではないだろうけど、何か、すごく嫌な予感がする!


「レオ! トレンツァさんの所へ!」

「ワフ!」


 とにもかくにも、ガラス球らしき物を掲げるトレンツァさんの所へ、レオに走ってもらうよう叫ぶ。


「もう遅いわ! さぁ、私に従いなさい!!」


 距離は大体数十メートル、レオなら一瞬だろうけど、フェンリル達を止めるのを任せるため背中から降りようとしていたのが悪かったのだろう。

 ほんの数瞬、俺が態勢を立て直してレオが駆け出すとほぼ同時に、トレンツァさんが掲げていたガラス球が周囲に強烈な光を発した!


「ぐっ! 何を……!」

「ワゥゥ……!」


 灯りを灯す魔法よりも眩く周囲を照らす光。

 もしかしたら、俺が感覚強化薬草を使っているから特にまぶしいと感じるのかもしれないが、その光で俺だけでなくレオも怯む。

 目が眩んで見えないが、おそらく俺と同じように感覚強化薬草を使っている他の人達も似たような事になっているだろう。

 まさか、目くらましのための道具だとは思えないけど、一体何を……。


「ぐっ、がっ!」


 目が眩んでほぼ何も見えないだろうレオが、それでも臭いか何かを頼りに駆けて、ちょっとした振動と衝突音を感じた。

 目が慣れてきた、だけでなく収まりつつある光を耐えながら薄く目を開けて見てみると、弾き飛ばされたトレンツァさんと暗部が見える。

 トレンツァさんの手からは、光を放つガラス球がこぼれ落ちているけど……。


「痛いわね! でももう遅いわ!」

「ガウゥ……」

「ガウ、ガウゥ……」


 地面を転がり、土まみれになりながらも叫ぶトレンツァさん。

 その周囲に、今まで暴れていたフェンリル達が、苦しそうに呻き声を上げながらも集まり始めていた。


「フェンリル達が!? どうなって……」

「タクミ君、あれは魔法具だ!」

「魔法具!?」


 離れた場所から叫んだのはユートさん。

 トレンツァさんの手を離れたからだろうか、ほぼ収まっている光からようやくはっきり目を開けると、最初にフェンリルに弾き飛ばされてからある程度回復したらしいユートさんが、こちらへ駆けて来る途中だった。

 大きな怪我はなさそうだけど、少しよろめいてもいるようだから、ダメージ自体はまだあるようだ。

 確かに、魔力を調べる道具に似ているし、光を発していたからただのガラス球ってわけじゃないんだろう。


「ふふ、ふふふふ! これも私の研究成果よ! 進化をさせて、王であるシルバーフェンリルを作り出したとしても、制御できないのでは意味がないわ! 人も同様にね! ふふふふふ、ふへはははへへ!! 私は歴史を変えるのよ!」


 狂ったように、というのが当てはまるように笑うトレンツァさん。

 制御? 歴史? 一体何を言っているんだ……?


「さぁ、私に傅きなさい!」

「ガ、ガァゥ……」

「グルァゥ……」

「フェンリル達が!?」


 勝ち誇ったトレンツァさんが手を振り、叫ぶと、苦しそうに唸りながらも姿勢を低くするフェンリル達。

 そのまま、お座りから頭を垂れるようになった。

 あれだけ暴れていたフェンリル達が、おとなしくなっただけでなく、まるでトレンツァさんを主だと認めたようでもある。

 効果が強化されたカナンビスの薬……カナンビスの強化薬の影響か、苦しそうに息を吐き、唸って、正気が保たれていない目には見えるけど、理性でトレンツァさんに従っているみたいだ。


「強制従魔! お前、そんな物を持ち出していたのか!!」


 すぐ近くまで来ていたユートさんが、トレンツァさんに向かって叫んだ。

 カナンビスの強化薬が振り撒かれる前からだけど、ユートさんの口調がいつもと違って荒いのは、それだけ緊急事態だという事を思わせられる。


「持ち出したんじゃないわ、作ったのよ! 聖王陛下のご助力と私の頭脳があれば、これくらい簡単だと思い知りなさい! フェンリルにも通用する、複数を対象にできる物を、この私が作り出したのよ!」

「ちぃ! 厄介な!」

「ユートさん、強制従魔って一体?!」

「簡単に説明すると、お互いの合意と名付けで成立する従魔契約を、対象の合意も関係なく強制的に行う魔法具だよ。大分昔に作られて、危険性から破壊と封印をしたはずなのに。いや、作り出したと言っていたから、どこかに残っていた物を持ち出したわけじゃないんだろうね」

「そんな、強制的になんて……」

「グルルルゥ……!」


 力で制圧して、従魔契約をする事も多々あるらしいから、強制的に従魔にする事に対して忌避感や嫌悪感を抱くのは間違っているのかもしれない。

 けどそれでも、対象との対話すらなく、強制的に従えるのは……。

 レオも嫌悪感を現すように、牙を剝きだして唸っている。


「僕が知っているのと同じ物かはわからない。けど、これまでのあいつの行動から推測するに、弱っているものを、強制的に従わせるんだろう。対象が複数だから強制従魔の効果が薄くなっているのかもしれない」

「弱っている……だからカナンビスを!?」


 今も苦しそうにしているフェンリル達は、カナンビスの強化薬によって魔力が乱されている。

 それはつまり弱っているとも言い換えられる。

 あぁそうか、だから暴れていたフェンリル達だけなのか、トレンツァさんの所に集まっているのは。


 カナンビスの強化薬は屋敷の方まで届いていなかったはず、だからフェンやリルルは無事で、だから強制的に従わせられていないため、こちらには来ていないんだろう。

 それは、壁の向こうにまだ残っているフェンリル達も同様か。


「ふふふふ、ご明察。あなた達がカナンビスに辿り着いているとは思わなかったけど、その通りよ。本能が強化され、魔力を乱すカナンビスの薬は、理性のない魔物に対してはただちょっとした強化と見境ない暴力を促進させるだけ。けれど、従魔契約ができる魔物に対しては、理性が邪魔をする。その隙にこの強制隷従具を使って従魔にするの」


 そう言って、笑いながら悠々と落ちて転がっていたガラス球、いや強制隷従具を拾うトレンツァさん。


「ち、壊れているじゃない。まったく、あんな勢いでぶつかってきて……せっかくの私の研究成果が。まぁいいわ。また作ればいい事よ。そのための研究成果は、この私の素晴らしい頭脳に入っているのだから」

「強制隷従ってそれは……!」

「言葉通りよ。隷従、つまり絶対に逆らえない、命令を拒まないようにさせる契約。それを強制的に、ね。こんな事を可能にする私は、なんて天才的なのかしら!? ねぇ、そうは思わない? さっきまであれ程暴れていたフェンリル達が、今はおとなしく私に頭を垂れているのよ!?」

「はっ! 何が天才だかな! 強制従魔の魔法具は元々あった、それを参考にしただけだろうが! しかも、薬を使わないと従魔か……いや、隷従させられないような道具を、さも素晴らしい物のように! その程度で天才なんて言えるわけがない!」


 勝ち誇るように、いや愉悦に浸るようにか。

 ともあれ、叫ぶトレンツァさんにユートさんが激しく言い返す。

 隷従というのは言葉が悪いが、確かに弱らせないといけないという部分は、弱化していると言ってもいいかもしれない。


「はっ! これだから凡愚共は! 私の強制隷従具は、複数の魔物を同時に使役できるようになるの! 素晴らしい効果だと思わない?!」


 薬を使用する事が条件で、さらにその薬はフェンリルに特化しているらしい、とフェヤリネッテの話から考えるに、素晴らしいとはとても言えないが……。

 正気を保っているかも怪しい、先程まで向かい合って話していた時とは違い、怪しく笑う――嗤うような瞳は、こちらが何を言っても通じるように見えないな。


「合意なく、強制的に従わせる事が素晴らしいとは、とても思えない!」

「ワフ!」


 俺の言葉に、レオが同意するように鳴いて頷く。

 基本的に人権とか自由な思想が保証されている日本で育ったからか、強制的に、無理矢理他者を従わせるという事には忌避感がある。

 もちろん、日本人だからといっても、そういう事を望む人だっているのかもしれないけど。

 レオは多分、ずっと俺と一緒だから近い考えなんだろうと思う。


「はぁ、何を言っているのか……通常の従魔契約だってそうでしょう? 合意と言えば聞こえがいいのかもしれないけど、それは戦って相手を逆らえなくしてから契約を迫る。それが、強制的な隷従と何が違うの!?」


 俺とレオは従魔契約はしてないし、クレアとシェリー、ティルラちゃんとラーレは戦ってとかではない。

 けど確かに、魔物は獰猛なのもいるため、基本的に従魔にするには戦って力を認めさせなければいけないと聞いている。

 それは魔物側からしたら、力で負けて命を取られるか従うかを迫る選択なのかもしれない。


「けど従魔契約は、無理矢理従わせるのとは違う! 理想論かもしれないけど、お互いを尊重して信頼し合うようになれるのが、従魔だ!」


 ヴォルグラウや、ユートさんとルグレッタさんが捕まえた複数のウルフを集団で従魔にしていた例もあるけど、シェリーやラーレを見ていると、本来の従魔契約というのはそういうものだと思える。

 それに従魔……従わせるという契約であり、人間側に有利なものだと詳しく調べて感じたけど、従魔側にも指示を拒否する事はできるからな。

 直接契約主に危害を加える事ができないし、魔物の方も従おうとするような力が働いているみたいではあるけど。


「……従魔契約の一つの側面しか見ず、強制隷従と同じものだとは随分な暴論を振りかざすね。それで研究者だとか、強制隷従具が素晴らしいとか、よく言えたもんだよ」


 俺の反論を聞いて少し落ち着いたのか、呆れ口調……というか、明らかにトレンツァさんを挑発するように言うユートさん。


「なんですって!?」

「人間にとって都合のいい部分があるのは確かだ。けど、従魔側、魔物にとっても利点はあるんだよ。確かに、契約をするための一つの方法として、力を示して打ち勝ち、従わせるというのもある。けど本来は、お互いの信頼があってこその従魔契約だ。まぁ、それが難しく、契約後ならともかく、契約前だと意思疎通が難しく、特に獰猛な魔物相手ではうまくいかない事が多いから、結果的に力を示す方向に行ったんだけど。そういった成り立ちに近い部分を無視して、何が研究なのかってね。魔法具を作る――いや、真似る技術は立派かもしれないけど、それだけだよ。研究者、開発者なら、一部の側面だけ見ず、全体で物事を把握して考えなきゃ」


 従魔契約の成り立ちというのはわからない、本にも書かれていなかったしな。

 でもユートさんが言うなら、それが正しいのかもしれない……俺がそう信じたいだけかもしれないが。

 ユートさんの言葉の通りなら、元々は信頼しあって初めて従魔契約ができるのが始まりだったのかもな。


「言うに事欠いて、真似る技術だけだと……!?」

「だってそうだろう? 見てみなよ、フェンリル達を。無理矢理従わされている。でも抵抗もしているようだよ?」

「ただ苦しそうにしているだけじゃない! カナンビスの薬のせいでしかないわ!」

「いや……」


 叫ぶトレンツァさんに聞こえないように呟き、フェンリル達をよく観察する。

 今にも暴れ出したいくらい、苦しんで唸っているというのはさっきから変わっていないが、それでも頭を垂れている状態を脱しようとしているようにも見えた。

 よく見てみると、暴れていた時と違って目に理性の光のようなものが見える気もする。


 トレンツァさんは、頭を垂れているフェンリル達を見下ろす格好なので気づいていないようだけど。

 少しだけカナンビスの薬の影響が薄れてきているのかもしれない……サニタ―ティムの丸薬を前もって食べてもらっていたからだろうか。


「本当の強制隷従具、いや強制従魔の魔法具は、こんなもんじゃない。完全に対象の意志を失わせ、ただただ指示に従うだけにする程強力なんだよ。しかも、人にだって使える。それは、自分の研究と言いながらただ単に他人の真似事しているお前も知っているだろう? 本物を知らないと、真似もできない」

「真似事じゃないわ! 強制従魔の魔法具は単体だけ、しかも一度きり! けど私の強制隷従具は複数の魔物を一度に従わせられるうえに、何度も使えるのよ! これは研究の成果、私の素晴らしい功績よ!」


 ……話になっていない、と思うのは俺の気のせいか。

 そもそもに強制従魔の魔法具というものをアレンジ、というか上位互換とか強化したのが強制隷従具だとするなら、真似と言われてもおかしくないと思うんだけど。

 もしかしたら、トレンツァさん本人も自覚があって、否定したいだけなのかもな。


 というか、強制従魔の魔法具ってそんなに強力なのか……ユートさんの従魔や魔物に対するスタンスはわからないけど、人にも使えるなら全部破棄しようとしていたというのもわかる。

 何を考えてそんなものを、誰が作ったのか。

 さすがにユートさんが作った物ではないと思いたいけど、その辺りは後で聞くしかないか。


「……タクミ君、レオちゃん」


 トレンツァさんと、真似だ真似じゃないと不毛な言い合いをしているユートさんが、隙を見て小さく声をかけて来る。

 どうしたのかとユートさんを見ると、視線で示してくれた。


「エッケンハルトさん達……」


 ユートさんとの言い合いに気を取られ、ただフェンリル達に頭を垂れさせているだけのトレンツァさんを中心に、エッケンハルトさんが兵士さんと護衛さんを使って少しずつ包囲しているのが見えた。

 ジリジリと、距離を詰めて包囲の穴を塞いでいる状態だ。

 ルグレッタさんも、ユートさんを見つつそれに加わっていた。


 フェンリル達が暴れなくなったのもあるからだろうけど、兵士さん達の混乱は収まっているようだ。

 じっくり見ていないが、とりあえず大きなけがをした人もいないようで少し安心もした――。



読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。


面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。

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