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異世界転移したら飼っていた犬が最強になりました~最強と言われるシルバーフェンリルと俺がギフトで異世界暮らしを始めたら~【Web版】  作者: 龍央


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2003/2006

緊急事態が発生しました



「その娘、クレア・リーベルトです。クラウフェルト商会で、タクミさんと共同で運営している事になっています。これから、よろしくお願いしますね」


 重々しく頷いて自己紹介するエッケンハルトさんとは対照的に、綺麗な礼をするクレア

 カーテシーだっけ? 久しぶりに見たけど、やっぱりクレアのするそれは特別綺麗に見える。

 贔屓目もあるのかもしれないけど、なんとなくアンネリーゼさんがするのとは違うんだよなぁ。

 もちろん、アンネリーゼさんのも綺麗だとは思ったけど。


 ちなみに、クラウフェルト商会はクレアと俺の共同運営となっているけど、クレアの言い方だと名目上はと聞こえなくもないが、ちゃんと書類上でも実務的にも二人共商会長だ。

 クレアが公爵家だ、と前面に出さない時には俺と同じく会長を付けて呼ぶ事になっている。

 今のところ、その機会はないんだけども。


「こ、これはご丁寧に! 申し訳ありません! バスティアと申します。以前……随分前の事ですが、公爵様の事はお見掛けしておりまして。そうなのではないかと思っておりました。それから、公爵閣下のご息女様も。噂はかねがね――」


 エッケンハルトさん達の自己紹介に対し、慌てて自分達もと自己紹介するバスティアさん達。

 地位の高い人から自己紹介させた、と焦っているのかもしれない。

 そういう事を気にする人達じゃないけど。


「そう固くならずとも良いぞ。私がここにいるのはタクミ殿の協力者としてだ。公爵という爵位や領主という地位はここでは考えなくても良い」


 そう言うエッケンハルトさんの表情には、面白そうだからここにいる、というようなのも感じられた。

 やはりユートさんと同類か……。


「貴様、何を!」

「うるさい! このまま拘束されるわけにはいかないのよ! 私は、私の研究が正しかった事を証明し、世界に変革をもたらさなければならないの! っ!!」


 突然、トレンツァさん達がいる方が騒がしくなった。

 何かを叫ぶ兵士さんに対し、叫び返すトレンツァさん。

 他の連れの人達……バスティアさんの連れの人達と紛らわしいから、暗部と呼ぶ事にしよう……暗部の人達は完全に身動きが取れないように拘束されているけど、トレンツァさんは一体のフェンリルの足に体を押さえつけられているだけのようだ。


 おそらく、研究者だろうトレンツァさんは戦闘訓練などを受けていないため、先に暗部の人達の拘束を優先していたんだろう。

 そのトレンツァさんが、身をよじるのが見えた……その程度で、フェンリルの足から逃れる事はできないだろう、と思っていたら。


「ワフ?」

「ふふ、効き始めたわね。暴れなさい、本能のままに!」

「ガ、ガゥゥ……ガァゥ!」


 鼻を引くつかせて首を傾げたレオに、何がと聞く前にトレンツァさんを押さえつけていたフェンリルが苦しそうに唸った後、突然飛び出した!


「ガ、ガゥ!?」

「グルゥ、ガァゥ!」

「っ!? 一体何が!?」


 そのフェンリルは、一番近くにいたフェンリルとぶつかり、何を思ったのか手足をじたばたさせながら二体のフェンリルがもつれ合う。

 ぶつかられた方は、突然仲間のフェンリルに体当たりされて、戸惑いが勝ったため振り払えないようだ。


「ちっ! トレンツァ、お前!」

「はははは! もう遅いのよ! フェンリルが大量に出てきたのは助かったわ! 今の状況が、自分たちに絶対的有利だと思わない事ね! ほら、ほら、ほらっ!」


 ユートさんの焦ったような叫び声に対し、トレンツァさんの高笑い。

 そしてトレンツァさんは何かを取り出し、辺りに振り撒いた。


「ぐぅっ!」

「閣下!!」


 ふらふらと立ち上がったトレンツァさんに、ユートさんが向かうけど、横からフェンリルに体当たりされて吹っ飛ぶ。

 そのフェンリルは、もつれ合っているフェンリルとは別だった。

 ルグレッタさんがユートさんの吹っ飛ばされた方に向かうが……。


「僕の事はいい! トレンツァを、いやフェンリルを止めろ!!」

「しかし!」

「このくらい、なんともない! 早く動け!」

「くっ……はっ!」


 とりあえず、叫べるユートさんは無事なようだけど、ここからだと怪我をしているのかすらわからない。

 だけど、俺達がユートさんの方にすぐ向かう事はできそうにないな。


「クレア、バスティアさん達と一緒に屋敷へ!」

「わ、わかりました!」

「ひ、ひぃぃ!」


 何が起きたのかはわからないが、とにかくトレンツァさん達を抑え込み、囲んでいたフェンリル達のほとんどが、見境なく暴れ始めている。

 とにかく危険だからと、クレアにバスティアさんを任せ、屋敷に入るよう指示。

 フェンリルに突進されたらそれでも危ないが、外にいるよりはマシだろう。

 先に非戦闘員として屋敷の方へ下がらせていたキースさん達は、巻き込まれていないようだ。


「エッケンハルトさんも!」

「いや、私は逃げずにここにいる! 指示を出す者も必要だろう!」

「ですけど……」

「何が起こっているかはわからん。が、突然暴れ出したフェンリルに兵士達も混乱している。誰か、命令を出してまとめる者が必要だ」

「……わかりました」


 幸い、まだフェンリルは暴れていると言っても、別のフェンリルとぶつかったりしているくらいで、人に被害は出ていない。

 唯一、ユートさんが撥ね飛ばされたくらいだろう。

 兵士さん達は一体何が起きたのかと、戸惑うばかりで冷静になれていない様子だし……一応、ルグリアが何か叫んでいるようだけど、混乱が収まる気配はない。


 仕方なく、エッケンハルトさんが残る事に頷いた。

 俺では、兵士さん達をまとめる事はできないだろうからな。


「レオ!」

「ワフ!」


 レオに呼びかけると、すぐに応えて姿勢を低くしてくれたのでそれに飛び乗る。

 そのまま、すぐに立ち上がったレオがフェンリル達が暴れている場所に駆けていく。


「あれはっ! レオ、間に合うか!?」


 フェンリルのうち一体が、兵士さんに体がぶち当たりそうなのが見えた。

 兵士さんを狙っているわけではないようだが、暴れた結果体が当たるという感じだ。

 巨体のフェンリルが、勢いよく人間にぶち当たれば、いくら鎧を着込んでいるとはいえかなり強い衝撃があるはずで、下手をすれば骨が折れたり鎧が陥没したり潰れたりして危険な可能性も……!


「ワフ……! ワウ?」

「キィー!」

「っ! ラーレ! ティルラちゃんも!」

「タクミさん!」


 速度を上げようとしたレオの前、というかフェンリルがぶち当たりそうな兵士さんのすぐ近くに、ラーレと背中に乗ったティルラちゃんが急降下し、兵士さんをくちばしでつまんで助け出すと同時に、風を巻き起こしてフェンリルを押しとどめた。

 ラーレは、空からの警戒としてずっと上空に待機してもらっていて、ティルラちゃんとヨハンナさんが一緒に乗っている。

 本当はティルラちゃんは屋敷内でクレアやリーザと一緒にいて欲しかったんだけど、マリエッタさんが許可した。

 エルケリッヒさんは危険な可能性を考慮して反対だったんだけど、経験の一つとしてマリエッタさんが押し切った形だ……念のため、ヨハンナさんを一緒にラーレに乗ってもらっているけど。


「タクミ様、空から見ていましたがこれは……!」

「わかりません! 突然フェンリル達が暴れ出したんです! トレンツァさんが何かをしたのだと思いますが……」

「ワッフ! スンスン……」

「キィ……?」

「レオ、ラーレ? どうしたんだ?」


 状況を聞いてくるヨハンナさんと言葉を交わしていると、レオが鼻を上に向けてひくつかせる。

 それと同じように、ラーレも周囲に顔を巡らせながら鳴き声を上げた。


「ワフ、ワッフワフガウ!」

「キィキィ、キィ!」

「なんだって!?」

「そうなんですか、ラーレ!?」


 何かを感じ取ったレオとラーレが、それぞれ俺とティルラちゃんに向けて鳴く。

 おそらくラーレも同じ内容だと思うが、レオが言うにはカナンビスの薬……以前、森の中で嗅いだ残り香や影響を受けたフェンリルから感じた臭いが充満しているという事だった。


「じゃあ、フェンリル達が暴れているのは!」

「ワフ、ワッフガウワフ!」


 フェンリル達が暴れているのは、カナンビスの薬の影響なんだろう、レオも認めるように吠えているし。

 そう考えると、フェンリル達の様子は苦しそうにも見える。

 以前、戻したり一晩くらいぐったりしていたけど、今回はもっと強い影響を受けたのかもしれない。

 フェンリルによっては、自傷行為に近いが壁に体をぶつけているのもいるし……薬の影響で苦しさから逃れようと、とにかく暴れるしかないといったところなのかも。


「そういう、事か! しかしなんで……備えていたのに。いや、今は考え込んでいる場合じゃない!」 


 セイクラム聖王国との関わりを考えた時から、備えとしてサニターティムを生産、さらに丸薬にして事前に予防としてフェンリル達には服用してもらっている。

 それにも関わらず、苦しそうに暴れるフェンリル達には、サニターティムの丸薬で防ぐ事はできず、カナンビスの薬の影響を受けてしまっているどうしてか……と今考えても答えはすぐに出ないし、フェンリル達が無軌道に暴れている現状は危険だ。

 俺はレオがいるし、ティルラちゃんはラーレがいるから大丈夫でも、他の人達はそうじゃない。


「ぐあっ!」

「くっ!」


 そうこうしている間にも、悲鳴と共に兵士さんがフェンリルに弾き飛ばされた。

 幸いというか、狙ってやった事ではないために、ただ飛ばされるだけのようだけど、それでも結構な勢いで飛ばされている。

 十体以上のフェンリルが暴れているから、さすがに全てを防ぐのは難しいか……。


「ラーレは嫌なにおいを吹き飛ばしてくれ!」

「キィ!」


 俺の言葉を受けたラーレが、大きく翼を何度もはためかせ、強い風を発生せる。

 おそらく、ただ団扇のように翼で風を吹かせただけでなく、魔法も使っているんだろう。

 一方向ではないその風は、レオに捕まっていないと俺自身も飛ばされそうな勢いで吹き荒れ、空へと向かって行った。

 ちょっと荒っぽいけど、ティルラちゃん達はラーレの背中で守られているし、括りつけられるような鞍があるので大丈夫だし、周囲の人達もむしろ風に押されてフェンリルと距離を取れたようだ。


「レオ、どうだ?!」

「スンスン……ワッフ!」


 レオに嗅いでもらい、カナンビスの薬の臭いが飛んで行ったのを確認。

 次は……。


「ここは危険のなので、ヨハンナさん……ティルラちゃんはラーレと一緒に屋敷の方へ! 向こうにはクレア達もいます!」

「わかりました、タクミさん!」

「はっ!」

「キィー!」


 屋敷の方、というか屋敷の入り口は、トレンツァさん達を捕まえる際に突入して来たフェンやリルルもいる。

 向こうで暴れている様子はないので、あちらまでカナンビスの薬が届いていないんだろう。

 屋敷の方は、ラーレやフェン達が守ってくれるので、これで安心だ。


「向こうはいいとして、こちらはどうやって止めるか……サニターティムの丸薬が効いていないとなると……」

「ワフ……ガァゥ!」


 暴れるフェンリル達をどうにかして止めたいが、臭いをラーレが飛ばしてくれたとは言え、既に影響を受けてしまっているフェンリル達は止まる様子はない。

 相変わらず苦しそうに唸りながら、時折俺の方に向かってくるのを、レオが尻尾で弾いていたりもする。

 ……人が簡単に弾き飛ばされる巨体の勢いを、レオは尻尾で簡単にあしらえるんだな。


「わかったのよう! あれは、前のと違う薬なのよう!」


 レオに任せて制圧してもらうか? なんて考えていた時、懐に忍ばせていたフェヤリネッテがひょっこりと顔を出して叫んだ。

 トレンツァさんを追い詰めていた時、かすかに寝息が聞こえていたんだが、この騒ぎで目が覚めていたらしい。

 起こそうにも、変な動作をしたら警戒されそうだから、起こせなかったんだよな。


「フェヤリネッテ、違う薬ってカナンビスじゃないのか?」

「そこは同じなのよう。けど薬としての効果が段違いなのよう! 別物ってくらいになのよう!」

「別物……同じカナンビスの薬でも、より強い効果にした物なのか、それともカナンビスを使っているだけで別効果の薬なのか……」

「特定の相手の魔力を乱すのは変わっていないのよう!」


 特定の魔物、レオやラーレが臭いに対して嫌がる以外は大丈夫なように、フェンリルに対象を定めた物って事か。



「前のは、魔物に影響がある薬……だったはずなのよう! それが、フェンリルに特定する事でより強力な効果にした物なのよう! 多分!」

「多分って、頼りないけど……詳しく調べたわけじゃないから仕方ないか」


 要は、フェンリルに特化した効果を持たせた薬を撒いたって事か。

 さっきトレンツァさんが振り撒いた物だろう。


「対処法は!?」

「きっと、前と変わらないのよう。体内の魔力がぐちゃぐちゃだから、それが収まるの待つしかないのよう。前よりもっとぐちゃぐちゃになっているから、時間はかかると思うのよう」

「前より……厄介だな」

「ワウ」


 どれだけかかるかはわからないが、その間中、もしくはフェンリル達の体力が続く限り暴れまわるのを待つのは危険すぎる。


「サニターティムの丸薬が効いていないのは、強い効果だからか?」

「多分そうなのよう。でも、全く効いていないわけじゃないのよう。あれがなかったら、もっと苦しんでいたかもなのよう」

「そうか……」


 予防薬として使っているサニターティムの丸薬のおかげで、多少なりともフェンリル達の苦しみが緩和しているのは良かったと思う。


「とにかく取り押さえるしかないな……レオ、出来るか?」

「ワフ……ワウゥ?」

「いや、さすがにそれはかわいそうだと思うが……でも、それしかないのか?」

「ワッフ、ワウワフ……」

「多分、簡単にはいかないのよう。仕方ないのよう。でも、少しくらいなら怪我をさせる方が――」


 取り押さえるにしても、早い話が覚醒状態となっているフェンリル達は、簡単には止まらない。

 苦しみに悶えている状態だからこそ、気絶させるとかも難しいらしい。

 だから、かなり荒っぽい手段で意識を刈り取るというか、多少の怪我などをさせてしまわないと、レオでも難しいとの事だ。

 フェヤリネッテからはさらに、少しの怪我をさせるくらいなら、意識を保ったままにさせるよりは苦しみが少なくてすむ、という事を言われた。


 いや、その言い方だと一思いに――みたいな方向になるけど、意識を失わせる程度であって、命まで奪うわけじゃないんだが。

 ……多分、そう言った配慮を一切しないのであれば、レオに任せれば簡単に終わるんだろうが。

 でも、フェンリル達は何も悪くなく、ただ苦しんでいるだけなのにそうするのはさすがにな。


「仕方ないか。怪我をしても、後でロエを使って治す事もできる。レオ、すまないけど頼むよ。――エッケンハルトさん! これからレオがフェンリル達を鎮圧しますので、離れて……」


 フェンリル達に申し訳ないが、後でロエを使って全力で治療する事を決める。

 多少混乱していた兵士さんや護衛さんをまとめ、フェンリル達から距離を取ろうとしているエッケンハルトさんに向かって叫び、レオに巻き込まれないよう伝えていると――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。


面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。

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■7巻書影■mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻口絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻挿絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


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