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異世界転移したら飼っていた犬が最強になりました~最強と言われるシルバーフェンリルと俺がギフトで異世界暮らしを始めたら~【Web版】  作者: 龍央


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2000/2006

種の進化について聞きました



「そ、そうなんですか! いえ、フェンリル達が近くにいると、薬草が良くなるというのはわかっていたんです。それが、トレンツァさんの研究や仮説の通りなら素晴らしい発見ですね!」


 秘儀――と言う程大袈裟じゃないが――褒め殺し。

 自分の考えに絶対の自信を持ち、間違っていないとかけらも思っていない相手には、こういうのが効く……はずだ。

 何度も、「すごい!」「さすが!」と言った言葉をトレンツァさんに向ける。

 自分でも嘘くさく、棒読み口調になっているうえ語彙力のなさは反省する所だし、隣のエッケンハルトさんが噴出しそうになっているけど、トレンツァさんには通用したようだ。


「えぇえぇ、そうでしょう、そうでしょうとも! 私の研究、仮説は間違いないのよ! だからこそ、研究を進めるために薬品を求めたの! こんな獣臭くて面白味もない場所でも、私の研究の役に立てるのよ」


 ありがたく思いなさい、とでも言わんばかりに自信満々だ。

 獣臭い、と言っていたのは気になるけど……レオやフェンリル達が外ではしゃいだ後など、独特な臭いがする事は多々あるし、人によっては嫌だと感じる事もあるだろう。


「ト、トレンツァ様、それ以上はさすがに……」

「話過ぎではないでしょうか」


 こちらを窺いつつ、トレンツァさんを止めようとする連れの人達。

 もう小声じゃなくなっているのは、そうしてもこちらには筒抜けだからと腹を括ったからだろうか。


「私の研究に関わる事よ! 細かい事は私が決めるわ!」


 トレンツァさんが連れの人達を一喝する。

 なんとなく、連れの人達の苦労が窺える気がしなくもないが、話してくれる分にはこちらにとって欲しい情報が得られる可能性があるので、内心で同情するだけにしておく。


「トレンツァさんの研究というのは、動植物と魔力の関係に関してなんですか?」

「それだけじゃないわ!」


 連れの人達の心配を余所に、待ってました! と言わんばかりのトレンツァさん。

 乗せるような事を言ったのは俺だけど、トレンツァさん自身も話したいんだろう。

 これまで誰も聞く人がいなかった……というより、それだけ自分の研究が凄い事であると自慢したい感じかな。


「濃い魔力の影響を受け、良質な魔力を蓄えた先……それは種の進化よ!」

「……種の進化、ですか? それはどういう」

「簡単に言えば、魔力の蓄積によって特別な成長をし、種族を越えた存在になるっていうところね。上位種族、と言う言葉に心当たりはないかしら?」

「上位種族……いえ」

「そう。まぁ商人と言う立場なら聞く事はないのかもしれないわね。例えば、魔物にも多くの種類がいるわ。見た目や呼び名が似ている魔物も」

「そうですね」


 俺が知っている限りでは、単純にオークと言う魔物がいれば、ニグレオスオークのような亜種みたいなのもいる。

 どちらもオークで姿形は似ているけど、肌の色に違いがあったりだ。

 まぁ俺としてはオークが総称で、ニグレオスオークはオークの一種というくらいに考えているが。


「そういった魔物は、環境に適合して変化したからと考えられているけど、実際に能力が強くなっている事もあるわ。それに対して、元の種よりも強く魔物としての脅威も高くなる事から、上位種族という事があるの」

「成る程」


 上位互換、みたいなものだろう。

 そう単純な事かはわからないが、身体能力が上がっている近い種族がいて、強くなった方が上位と考えるのも自然の流れか。


「ただ、環境に適応する中で、特別な個体が生まれる事がある。突然変異とも言えるけど、その個体は同種とは一線を画す強さになる事があるわ。生存競争を勝ち抜くためと言われているけど、濃密で良質な魔力に触れた事が原因じゃないか、と私は仮説を立てたの。それを証明するように、魔物が多く、特に脅威となる魔物ばかりがいる場所では、そういった魔物が発生する可能性が高いわ」


 強い魔物イコール濃密で良質な魔力を保持している、という事でもあるのだろう。

 実際にフェンリルは、トレンツァさんの弁を借りるなら良質で濃密な魔力を大量に保持しているらしいし。


「ただそれは、トレンツァさんも言っているように、ただ生存競争による結果じゃないんですか?」


 魔物同士の生存競争、どれだけ激しいものかはわからないが強い魔物が多い場所であれば、それはより激化するのだと考えられる。

 だからこそ、それに生き残るために、より最適な形を取るはずだ。

 草食動物が肉食動物から逃げるため、早く走れるようになったり、肉食動物がより獲物を狩れるように牙や爪を発達させたように。

 それこそ、群れる事だって生存競争で脱落しないための手段とも言える。


「長年、そう考えられてきたわ。でも、突然変異の魔物はまた別の魔物になる事があるの。それは元の種とは完全に別物と言えるわ。さらに言えば、突然変異の魔物自体、同種であるはずの魔物より保有している魔力が多く、良質になっているのよ。外的影響が原因なら、魔力によってそう導かれているはずなのよ。ただの家畜が、それなりに脅威となる魔物になった、という話だってあるわ」

「それは聞いた事があります」


 以前遭遇したトロイトの事だろう――他にも同じような魔物がいるのかもしれないが。

 ただあれは、魔力によって狂暴化したみたいなイメージだったんだが……。

 どうなんだろう? と内心考えてユートさんの方をチラリと見てみると、腕を組んで難しい表情をさせながら考え込んでいる様子だった。

 トレンツァさんの話に、思う事があるのかもしれない。


「もしトレンツァさんの今の話が真実なら、突然変異からさらに別の種となるのが進化だ、という事ですか?」

「えぇ、そうよ。一つの種から新たに別の種、そのうえ魔物としても強くなっている。これを進化と言わなければ何を進化とするのかって事でもあるわ」


 地球の人間の進化の経緯を考えれば、進化とは強くなる事だけでなく、部分的には退化も含まれていると思うけど……まぁそれは今言う事じゃないか。


「魔力の影響で、種の進化の可能性があるというのはわかりました。それを確かめるために、品質が高い薬品が必要なのですか?」


 高品質な理由は、『雑草栽培』のおかげなのだが、そこは隠すために一応魔力の影響でそうなっている、という前提で話しておこう。


「それだけじゃないわ。魔力の影響で高品質になった薬品であるならば、魔力を多く含んでいるはず。それを使えば、さらに進化を促す事ができる可能性があるはずよ」

「薬品に含まれている魔力を、体内に取り込む……とかそういう事ですか?」

「話が早いわね。こいつらは、懇切丁寧にこの私が教えないと理解できなかったっていうのに」

「「……」」


 連れの人達を睨むトレンツァさんだが、その視線を受けた本人達は、トレンツァさんの言葉を気にした様子はなく、こちらを窺う事に徹しているようだ。

 トレンツァさん自身は悦に入っているように、自分の研究を披露する事で頭がいっぱいになっているようだが、連れの人達はそうではなく、この状況をどうしようかと考えを巡らせているのかもしれず、油断できない。

 さっきはトレンツァさんの話を止めようとしていたし、もしかすると秘密なども混じっていて口封じなんかも考えている可能性だってあるか。

 あとなんというか、少しだけトレンツァさんの物言いには諦めている雰囲気も出ている気がするけど、そこは気にしないでおこう。


「外部から多くの魔力が含まれている物を取り込めば、体内に元々あった魔力が活性化する事はわかっているわ。これは、既に証明されている事よ」


 トレンツァさんの話を受けて、再びユートさんの方を見れば頷いている様子だった。

 薬酒のための薬草は、もしかしたら栄養素だけでなく、魔力も含まれていて元気になる、とかなのかもしれない。

 その辺りは、今回の事が終わったら詳しくユートさん達と調べてみようと思う。


「体外と体内、その両方で魔力的な影響を与える事で進化を促進。そうする事で新たな種を誕生させる事も夢じゃないわ!」

「そのための薬品、ですか」


 研究自体は悪い事じゃないと思うが、それのために偽って薬品を俺達から入手しようとしているのはどうかと思う。


「種を進化させる事は、世界を健全に、そして先に進むために必要な事! 聖王様もそれをお望みなのよ!」

「っ! ト、トレンツァ様! それは……!」

「あんたたちが、言い逃れができそうにないって言ったんでしょ!」


 慌てて止めようとする連れの人に対し、止まらないトレンツァさん。

 感覚強化薬草で相手の小さな声を拾って、筒抜けだと明かしたのはいい方向に進んでいるようだ。

 それはともかく、聖王様か……セイクラム聖王国の王様がそう呼ばれているのは聞いているし、もとより確定してはいたけど、決定的だな。


「ふむ……やはりか」

「……タクミ君、ちょっと聞きたい事があるから、この先は僕に任せてくれる?」


 エッケンハルトさんは、確証を得られたと頷き、ユートさんは向こうに気付かれないように言った。


「ユートさんに? まぁ、挑発しすぎない程度であれば……」

「タクミ君程、煽って一触即発になるような事は言わないから、大丈夫だよ」


 俺、そんなに危うい事を言っていたっけ? 連れの人が動き出しそうにはなったけど、それを止めてトレンツァさんから話を引き出したのに。


「トレンツァちゃん、その進化についての研究だけど僕はとても興味があるなぁ。それって、目指す先はどこなの? 魔物を進化させるだけ?」


 微妙な表情になったのを自覚する俺を他所に、トレンツァさんに話しかけるユートさん。

 これまで、ほぼ俺ばかりが話していたのに突然ユートさんが発言して、トレンツァさん達は驚いた様子ではあるけど、研究について聞かれたためか、鼻息荒く話し始める。


「それはもちろん、私の考えと研究が正しい事の証明! そして、人の進化よ!」

「人の進化、ね……」

「えぇ! 人には魔力が備わっているわ。けれどそれは、個人によって大きく違う。だけどそれを越えて、誰もが大きな魔力を備え、どんな魔物でも脅威にすらならない存在になるの!」


 進化をする事で、強大な魔力を持つようになりどんな魔物にも負けないようにって事か。

 親しくしているフェンリル達やレオはともかくとして、魔物は人にとって脅威だ。

 フェンリル達は簡単にオークを始めとした魔物を狩っているけど、人からすれば油断すると危険だし、俺も怪我をした事はある。

 そんな魔物が脅威にならなくなれば、襲われた人の命が失われる可能性も減るわけだし、いい事のように聞こえる……本当にそうなれば、だけど。


「へぇ~、すごいね! 魔物が脅威にならなくなれば、怖がる必要もなくなるし、人の生活圏も広がる。今でも、人が踏み入れられないような危険な場所もあるくらいだからね!」


 なんて言っているユートさんだけど、本人はそんな危険な場所でも平気で踏み入れるような気がする。


「えぇそうよ! そしてそれは、人が今よりもっと、豊かになっていくためにも必要なの!」


 日本人からすると、現状で土地がなくて困っているわけでもなさそうだから、今は危険と言われている場所まで生活圏を広げる必要はないと思うし、それで豊かになるかどうかは疑問が残る。

 まぁ安全な場所が増えると考えるだけでも、悪くはないだろうけど。


「そして行き着く先は、進化した人が得られる力!」

「進化して力を得るの? それは魔力の事じゃなくて?」


 魔力が増えて進化するなら、力を得るという表現にはならないか。

 ユートさんは多分その事が気になったんだと思う。


「あなた達も聞いた事くらいはあるでしょう? 一部の人にのみ備わっている特別な力……ただ一つだけでもあれば、大きく世界を変える可能性すらある力よ」

「それって……」


 俺だけでなく、ユートさんやエッケンハルトさん、さらに他の人達の目が鋭くなる。

 若干大袈裟な気がしなくもないけど、そういった力に心当たりがあるというか……持っているというか。


「ギフトよ! 魔力がどれだけあろうと、どんな魔法を使おうと決して届かない力の極み! それがギフトなのよ! それを、進化した人に備われば、世界が一変するわ! いえ、正確には進化した先にギフトがあるのではなく、ギフトが備わる事で進化するの!」


 ギフトが先か、進化が先かの違いはわからないけど、確かにギフトはとんでもない力だと、持っている俺自身も思うし、持っている人が多くいれば世界が変わるかもしれない。

 実際に、ユートさんはその力があったからこそ、この国を作れたと言っても過言ではない……と自分で語っていた事もある。

 ただ、ギフトが進化と関わっているというか、人が進化した先だとは俺自身思えないんだよなぁ。

 日常的に使っての感覚だけど、ギフトはその人の願いみたいなものの具現化に近くて、所持者を助けるための能力なんじゃないかと思う。


 いや、だからって進化と関係がないとは言えないけど、俺がギフトを持っているから、他の人達よりも進化しているなんて事は一切思わないし感じない。

 そもそも、魔力は人並み以上と言われているけど、それだけだしな。

 クレアやティルラちゃんの方が、よっぽど魔力が多いし、トレンツァさんの理屈で言うならクレア達の方が進化に近くてもおかしくない。


「成る程ねぇ。ギフト、確かに聞いた事があるよ。特別な力で、同じ力は存在しない。そして、その力で今まで多くの事を成し遂げて来た」


 俺はユートさんとティルラちゃんくらいしか、ギフトを持っている人を知らないけど、多くを見て来たユートさんなら自分以外のギフトを持っている人が成し遂げた偉業を知っているし、近くで見た事もあるんだろう。

 ユートさん自身も、偉業を成し遂げた人物とも言えるし。


「そうよ。進化の道筋を私の研究で確立させれば、多くの人がギフトを持てるの! それは素晴らしい事だと思わないかしら?! 私の研究は、世界を変えるの! 研究の恩恵を得た者だけでなく、ギフトの恩恵を得た者、それこそ世界の全ての人がきっと私に感謝をし、讃える事になるわ!」

「うんうん、そうかもね。ギフトの力は僕もよく知っているけど、確かに世界を変える力があるかもしれないし、数が増えれば本当に変えてしまうだろうね。そして、その恩恵はギフトを持っている人だけでなく、全ての人に波及する」


 にこやかに頷いているユートさんだけど、俺だけ……じゃない、エッケンハルトさんも気付いているみたいだけど、剣呑な雰囲気を滲ませている。

 実際にそうなっているわけじゃないんだけど、ズズズ……とどす黒い何かが、ユートさんの体から漏れ出しているような気すらする。

 ギフト持ちとしてか、それともこれまでギフトを持っている人を見て来た経験から、トレンツァさんの言葉に何か思う事があるのかもしれないな。

 ギフトが世界を変えるとか、多くの人が持てるとか、何に対してかはわからないが――。



読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

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