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異世界転移したら飼っていた犬が最強になりました~最強と言われるシルバーフェンリルと俺がギフトで異世界暮らしを始めたら~【Web版】  作者: 龍央


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1999/2006

トレンツァさんは商人ではありませんでした



 追い詰めるやり方は、慣れないしこれ以上は俺自身がもたないから、と仕掛ける事を決める。

 この場に臨む前、付け焼き刃でアルフレットさん達に手伝ってもらって練習したけど、俺の方が先にボロが出そうだからな。

 俺からボロが出ても、それはそれでわかる事もあるだろうし面白い、とエッケンハルトさんは言っていたが、人の様子で面白がらないで欲しいと言いたい。


 それに、トレンツァさんはともかく連れの人達の目付きが剣呑になってきているからなぁ、向けられる俺としては心地いいものじゃない。

 鋭い目付きは、確かに何かしらの訓練を受けた人なのかもしれない、とも思ったが。


「はっきりしませんね。ですが何度も言っていますが、契約書の確認をしてもらった時には了承して下さったんですよね?」

「そ、それはまぁ――だって、こんな契約書だなんて思わないじゃない! こんな、無条件で従えと言っているような内容なんて、あり得ないわよ!」


 口ごもりながらも、こちらに聞こえないように呟くトレンツァさん。

 ばっちり聞こえているんだけど、それは今更か。


「それは、トレンツァさん達が本当の事を話してくれないからですよ? 誠実に、こちらと取引契約をしたいと思うのであれば、ちゃんとした契約書を用意しました。バスティアさんのように」

「そ、そんな……こちらは村の人達のためにと思って! 誠実にクラウフェルト商会との取引を望んでいました!」


 そう言い募るトレンツァさんは、俺の発言の不自然さに気付いていない。

 完全に、聞こえないように呟いた言葉に対する答えだったのに……いや、トレンツァさんの連れの人達のうち、一人、じゃない二人程気付いた様子で、わかりやすく動揺しているな。

 冷静に俺の話を聞いていた人もいたみたいだ、トレンツァさん自身は焦りから全く気付く様子はないが。


「何度も確認を求めた契約書を見て、今更戸惑うのは誠実とはいえないんじゃないでしょうか?」


 うぅむ、仕掛けるとは決めたけど、結局また追い詰めているな。

 まぁ実際、こちらが有利すぎてこういうやり方しか思いつかないから仕方ないんだが。


「そ、それは……け、契約書は対等であれば基本的に似たような物になりますし、だから、必要以上に確認する事はないかと」


 大まかには似たようなものになるかもしれないが、それでもちゃんと確認して、お互い納得したうえで契約をするのが、誠実な付き合い、契約だと思うんだが。


「こんな契約を仕掛けるなんて、非常識よ! これじゃ、私達の事がバレちゃうじゃない! 隠そうとしても、いずれ……」


 なんて、また小声で叫ぶように言っているので、もう一度――。


「そうですね。隠している事は全て暴く方向で行こうと思います。まぁ、既にバレている事の方が多いと思いますが」

「……え?」

「と、トレンツァ様! い、今の言葉は……!」


 ようやく、俺が小さく聞こえないような声に反応している事に気付いた様子だ。

 いや、まだよくわかっていない、というか理解が追い付いていない、といった感じか。

 連れの人達は全員が気付いたみたいだけど、直接話していないから気付きやすいのだろう。


「隠している事……まずいわ、何が向こうに知られているのか、全くわからない!」

「そうですねぇ、まずは、トレンツァさん達がリカメフという村から来たわけではない事、ですかね?」

「っ!?」


 今度こそ、はっきりと理解したようで、目を見開いてこちらを見るトレンツァさん。

 隣に座っているエッケンハルトさんが、肩を震わせて笑いを堪えているのがちょっと邪魔だ。


「もしかしてですけど……トレンツァさん達、トレンツァさんだけかもしれませんが、本当の出身はトカレフという街ではないですか?」

「っ!?!?」


 さらに目を見開き、連れの人達も一緒に驚いた様子を見せた。

 人って、そんなに目を開く事ができるんだなぁ、倍以上に見開かれているというのはさておいて。


「ど、ど、ど、ど、どうしてそれを!」


 わかりやすく動揺しているトレンツァさんは、さっきまでの戸惑いとはまた違ったどもり方をしている。


「そうですか、当たりですか。やはり、こちらを騙そうとしていたわけですね。そんな相手に、まともな契約を持ちかけるのは、あり得ないと思いませんか?」


 持ち掛けたのは向こうからだが、この際それは置いておく。


「国内でも離れた場所、しかも小さな村の名となれば気付かれないと考えたのかもしれませんが、それが逆に怪しまれる結果になりましたね。そして、トカレフという街はこの国にはありません」 


 エッケンハルトさんを始めとした、公爵家の人達が味方にいるからこそわかった事だ。

 俺一人なら、怪しむどころか初対面で村の人達のためと言う言葉を信じ込み、好印象を抱いてその場で契約するとかにまでなっていたかもしれない。

 完全に利用される方向に向かっていただろうな。

 頼りになる人達が近くにいてくれて、本当に良かった。


「それから、存在しない村を出して薬品を入手しようとしているみたいですが、それも嘘だと考えています。ここに来て、俺達に近付いた本当の目的は魔物に関係しているんじゃないですか?」

「ま、魔物? い、一体何の事を言っているのかしら?」


 トレンツァさんは目を泳がせている。

 当たり、か。

 適当にポイント制で色々探っていたけど、ここにきてそれは無駄だったなぁと思う。


「わざわざ遠い国外から、この場所を目指して来たのは知っているからですよね? 魔物がいる事を」

「こ、国外からだなんて……そ、それにここに魔物が? そんな事知りませんでしたが」

「トレンツァ様、あちらは確信をもって話している様子。言い逃れはできそうにありません。如何様に……」

「現在はトレンツァ様に我々の指揮権があります。少々不利ではありますが、指示があれば……」

「まぁまぁ、落ち着きませんか? 騙そうとしていたのはどうかと思いますが、色々聞きたい事がありますし」

「「「っっ!?」」」


 トレンツァさんの左右に座る人達が、臨戦態勢に入りつつ小声で指示を仰ごうとするのを遮る。

 どういう理屈かはわかっていないようだけど、小さい声であっても聞き逃さず筒抜けになっているという事実は、特殊な訓練を受けた人達であっても、動けなくする効果があるらしい。

 良かった、とりあえずは止まってくれたみたいだ。

 できる限り荒事にはしたくない、という希望はまぁユートさんがセイクラム聖王国の関係者、と断定した時点で諦めはしたけど、もう少し後にして欲しい。


 先延ばししているだけではあるけど、とりあえず落ち着いて、とフィリップさん達に目配せし、小さく呟いて屋敷の中で待機しているレオにも伝える。

 レオは鼻だけでなく耳もいいし、俺の雰囲気からある程度感じ取ってくれるだろうけど、感覚強化薬草も食べてもらっているから、確実に聞こえているはずだ。


「さて、少し落ち着いて話をしましょうか。まず、何故魔物を目的にここに来たのか、それが聞きたいのですけど。薬品はただこちらに近付く口実ですよね?」

「……さ、最初は口実、だったわ。実際に、売られている薬品を見るまではね」

「そうなんですか?」


 どうやら、言い逃れはできないと連れの人に言われて、ある程度観念したのか話をしてくれる気になったらしい。

 連れの人が動けなくなっている、というのも効いているのかな。

 エッケンハルトさん達の見立てでは、トレンツァさんは荒事に向いていないだろうとの事で、もしかしたら連れの人達が動けるようになるまでの時間稼ぎのつもりかもしれないが。

 その連れの人達は、どうして俺達が――俺が、小声で話しているのが筒抜けになっているのか、理由がわからず探っているみたいだ。


 動くきっかけや、機会を窺っていると言ってもいいかもしれない。

 一応こちらも、落ち着いて話をと言いはしたが、いつでも動けるようにしておこうと、隠していた武器を机の下で握りしめる。

 ちなみに、こちらの雰囲気や流れる空気がおかしい事に気付いたのか、バスティアさん達が俺達を窺っている様子だが、そちらはアルフレットさんに任せよう。


「ある程度、薬品の知識がある者ならわかる高品質。それには理由があるはずなのよ」

「理由、ですか」


 無意識に、自分の片眉が上がったのに気付く。

 高品質の理由として、『雑草栽培』の事に気付いたのかと思ったからだ。

 だがまだ大丈夫だと考えなおし、ポーカーフェイスを心掛ける。

 変に表情を動かして、相手に何かあると勘付かれてはいけない。


「もうわかっているでしょうけど、私は研究をしているの」

「研究ですか。それはどんな?」

「どういった研究をしている、とはっきりは言えないわ。何かに限ったわけではなく、有用だと思ったものを幅広く……そうね、なんでも研究をしていると言っていいわ」


 観念したわけではないだろうけど、色々と話をする気になったらしいトレンツァさんは、予想していなかった事を口にした。

 連れの人達は、何やら慌てているようだから、こうして話すのは予定になかったんだろう。

 それにしても研究、か……そういえば最近、セイクラム聖王国内で研究がどうのといった話を、ユートさんとしたな。


「ここには、研究と私自身の知的好奇心のため、直接来たの。だけどその途中で、レミリクタだったかしら? あそこでも売られている薬品を見たのよ」

「それって、ラクトスの街でですか?」

「えぇ」


 ラクトスの街に、セイクラム聖王国の関係者が来ているのは知っているし、色々と情報が入ってきている。

 あそこにはカレスさんの店があり、レミリクタ同様に薬品を販売しているから、目にする事になったんだろう。

 もしかすると、公爵家が運営するお店という事で偵察がてら品定めなどをしていたのかもしれない。


「そこで、魔物の話も聞いたのよ」


 そう言うトレンツァさんは、俺から目を逸らす。

 屋敷の方を見ているような、何かを探すような、定まらない感じだ。

 嘘ではないが、本当ではないと言ったところだろうか? さすがに感覚強化薬草の効果があるからと嘘も見抜けると言うわけではないが、トレンツァさんの様子からそう感じた。


 あと、連れの人達が少しだけ安心した様子を見せたからってのもある。

 なんとなく、自分達の思う方向に話を進めようとしていると感じたから、と思った。


「魔物……もしかしなくても、フェンリルの話ですか?」

「っ! そ、そうよ……」


 俺から切り出されると思っていなかったのか、トレンツァさんは少しだけ驚いて俺に視線を戻した。

 フェンリルの事は、ラクトスに行けば多分いくらでも話を聞けるだろう。

 そこはあまり隠そうとしていなかったし、フェンリルがラクトスの街に入った事もあるから、見ている人はかなり多いしな。

 しかしこの反応……。


「そのフェンリルと、薬品が高品質な事って関係あるんですか?」


 多分、フェンリルの事を知ったのはラクトスで話を聞いたからではないだろう。

 そうでなければ順序が変わってくるし、薬品の事やフェンリルの事をラクトスで初めて知ったのなら、何故セイクラム聖王国から公爵領まで来ているのか、という話になるし、そうではないはずだ。

 魔物を目的に来た、と俺が言ったのをトレンツァさん達は否定していないんだから。

 そもそもここには研究と知的好奇心のために来て、途中でラクトスに寄った時に薬品の事を知った、というような事をトレンツァさん本人もさっき言っていたしな。


「私が行っている研究の一つに、魔力と動植物の関係と言うのがあるの」


 本当かどうかはわからないが、その研究はちょっと興味がある。

 薬酒に混ぜる薬草を作った時、栄養などは魔力にも作用するみたいな話もあったしな。

 とりあえず、余計な事を言わずに先を促す。


「薬品が高品質な理由は、濃い魔力が作用しているんじゃないかと考えたの。だから、フェンリルが多くいる影響でそうなっているんじゃないかと、仮説を立てたのよ」

「フェンリルの影響? それはどういう……」

「簡単な話よ。フェンリルは人間よりよっぽど濃い魔力を持っているの。それは、自然と外に漏れているものよ。まぁそれは人間も同様なのだけど、フェンリルともなればその漏れる魔力の濃さと量が段違いなの」


 濃い魔力を持っている、というのは以前シェリーの抜けた牙を使った剣で知っている。

 ユートさんが魔力視で見てくれたからでもあるが。

 自然に抜けるまでは体の一部だった牙、そこにも体内と同じく濃い魔力が通っていると。

 それが漏れている、か……魔力は体内を循環しているらしいが、目に見えず、触れもしないものだから、体の外に漏れていてもおかしくない、か?


「大きく濃い魔力に長い時間晒されると、動植物は強くなるの。知らない?」


 自分の研究に関する話だからか、先程までの戸惑いはどこへやら、得意気に話すトレンツァさん。


「強くなる? 初めて聞きましたけど……」

「まぁそうでしょうね。これは、私が立てた仮説からの最新の研究なのだから」

「……実際には、ある程度考えられていた事なんだけどね。ただ、人間の魔力じゃ足りなさすぎで、調べようにも調べられなかっただけだよ」


 小さく、トレンツァさん達に聞こえないよう補足するユートさん。

 元々あった考えを引き継いで、自分の発想だと言い張っているのかもしれない。


「その研究のために、ここへ?」

「えぇそうよ。そしてその仮説は正しいと私は確信しているわ! だって、フェンリルが多くいるはずのここでは、高品質な薬品が生産されているんですもの! さらに言えば、住んでいる人間も少し変わってきているわね」


 気分が良くなったのか、少し興奮気味なトレンツァさんだけど、住んでいる人間も変わってきている? 動植物に影響する、という事は人間にも、という事なのか。


「ちゃんと調べてみないとはっきりわからないけれど、私の仮説では、この村に住んでいる人間はこれまで以上の魔力を蓄えているはずよ。これだけ、村全体に濃い魔力が充満しているのだから、影響がないはずがないわ!」


 自分の研究、仮説に間違いはないと言いたい様子だ。

 というか村全体に魔力が充満しているって……まぁ、フェンリル達は村で子供たちとよく遊んでいたし、魔力が漏れるものなら村全体に行き渡っていてもおかしくないのかも。

 でもユートさんのような魔力視がなくてもわかるなんて、俺には魔力が充満しているとかそんな感覚は一切ないんだが。

 そこでふと、トレンツァさんというか、主に連れの人達が村で過ごしている時の行動の報告を思い出した。


 魔力を調べる道具に似た物を持って、村の中をうろうろしていたと。

 あれって、もしかして村に魔力が充満しているかどうかとかを調べる物だったのだろうか?


「そして大きく濃い魔力の影響を受けて、蓄えるのは人間だけでなく薬草なんかも同じってわけね。いいえ、それどころかそれを利用して高品質の薬品を調合し、作り出しているのではないかしら?」


 どう、間違いないでしょ? とでも言いたげだ。

 だけど違うんだよなぁ、魔力の影響云々は関係なく『雑草栽培』で最初から高品質な物ができるだけだし。

 とはいえ、それを正直に話すわけにはいかないので、ここは乗っておこう――。



読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。


面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。

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