ユートさんの思い付きを試してみました
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書籍版最新6巻、4月30日発売予定です!
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「レオとリーザがいれば大丈夫か。じゃあ試してみるけど……」
「あれ、タクミ君、僕は? ねぇ僕は?」
「……はいはい。ユートさんも頼りにしているよ」
冗談や面白そうとかって動機で、俺を含め周囲を困らせる事もあるユートさんだけど、本当に危険がある場合はちゃんとしてくれる、という信頼はしている。
ただまぁ、なんとなく素直に信じているなんて言うのが照れ臭かっただけだ。
「なんか適当だけど、じゃあ教えるね。えっと、その植物は繁殖力が強くて、でもその繁殖力は数ではなくて自己を伸ばす事に優先されるんだけど――」
「ふむふむ」
「ワフワフ」
「ふむふむー?」
ユートさんにその植物らしき何かの話を、相槌を打ちながら聞いて行く。
レオはある程度理解して頷いているっぽいけど、リーザはただ俺の真似をしているだけのようだ。
まぁ、可愛いから気にしないでおこう。
「……話を聞く限りだと、ブドウ科の植物みたいな感じかな?」
「そうだね。イメージとしては近いと思う。ただ違うのは」
「それが、こちらの意思を反映できるって事かぁ。成る程」
「そうそう。しかもね――」
ユートさんから聞いた植物、分類としては植物だけど魔物でもあるらしい。
性質としては植物なんだけど、魔力を持っていてしかもその魔力を繁殖力に使用、数を増やすよりも自身を成長させる事に費やすのを優先する性質もあるとか。
魔物を『雑草栽培』でなんてできないだろう、と思ったけど植物の方に近いなら可能性がないとは言えない。
だからユートさんは、できるともできないとも断言できなかったんだろう。
他の性質としては、その成長させる魔力を他者から流す事で成長の方向性、言葉の意味そのままで空に向かってとか北に向かってなどの方向をある程度決める事ができるんだとか。
ただ、自然に植物自体が成長するのとは違い、他者が操った場合は流されている魔力が途切れた時点で、枯れて一切成長しなくなるらしい。
要はその操れる性質を利用して、俺自身に及ぶ危険の対処ができないかって考えたようだ。
「……とりあえず、できるかどうか試すために一度やってみるかな」
「そうだね。あれこれ考えているだけじゃなくて試してみてよ」
ユートさんと話し、見た目も含めた特徴を聞いて覚え、『雑草栽培』で作れるかどうかを……試したいんだけど。
「……レオ、リーザ。少し離れてくれないか? じゃないとちょっとやりにくいから」
「ワフゥ? ワフ……」
そう言うと、レオは渋々俺から離れた。
残念そうなのは、守る事だけでなくくっ付いている事が楽しくなっていたからだろうか。
「大丈夫、パパ?」
「何も危険な事なんてないから大丈夫だよ。ほら周りも危険な何かが来ているなんて事もないからね」
「うん、わかった」
リーザの方も、キョロキョロと周囲を見回し、耳を動かして警戒をしつつも俺に迫る危険はないと思ったのか、レオに続いて離れてくれた。
気持ちは嬉しいんだけど、さすがにずっとおしくらまんじゅう状態なのは、動きづらくて体が固まりそうだったからなぁ。
離れた場所では、使用人さんなど公爵家の関係者さんがちらほらと見回ってくれているし、不審者なんて近付かないだろうしな。
危険な魔物とかだったら、レオやフェンリルが気付いて俺に近付くとかもできそうにないし。
「んー……よしっと。レオ、リーザ、そこでいいのか?」
「ワッフ!」
「うん! ママはあっちで、リーザはこっち!」
腕を回したりなど、固まりそうだった体を解しながら離れたレオとリーザに確認。
レオは森の方角、リーザは屋敷の方角で俺を挟むようにしているけど、示し合わせたのかこれがレオ達の警戒の形らしい。
まぁ、身動きが取れないくらいくっ付かれ続けるよりはいいか、と思い、地面に手を付けて先程ユートさんに聞いた植物を思い浮かべる。
「……っ!」
初めて作る植物なので、できる限りイメージをはっきりさせつつ『雑草栽培』を発動。
最近は、意識的に『雑草栽培』を発動させる感覚が身に付いてきた。
俺よりも長年ギフトを使って慣れているユートさん曰く、使えば使う程、ギフトの力は体に馴染むというか慣れていき、最初は気付かなかった感覚なども備わって来るとの事だ。
日常的に使った方が扱いやすくなるという事なんだろう、なんとなくどれだけ力を使えば過剰使用になるか、などが感覚的にわかる気がするのもそのおかげだと思う。
「……うーん。これは違う、かな?」
発動した『雑草栽培』によって、何もない地面から生えてきた植物。
一定の高さ……十センチ程芽を伸ばした後は、自重を支えきれないかのように地面にへたり込み、その地面を這うように二、三センチ程の太さのつるが伸びて行った。
三メートルくらいだろうか、一定間隔で葉を生やしながら伸びたつるは、どこかキュウリのつるを彷彿とさせる物だ。
花は咲かないし、実も付けないからキュウリとは違う物なんだろうけど。
「タクミ君、それは全然違う植物だね。僕が言っていた物なら、もっと長く、もっと太く硬いんだ」
「作った俺もそう思う。硬いどころか、柔らかくてすぐ自重に負けていたし」
出来上がった植物のつるに触れてみると、ふにゃふにゃとしていてこれじゃあ確かに自重に負けるのも仕方ないと思える物だった。
あと、聞いていたよりもつるが細いし、短い。
まぁしなやかな感触なので、鞭のように使う事はできるかもしれないけど、もしもの危険が迫った時にわざわざ引っこ抜いて使うなんて悠長な事は言っていられない。
そもそも俺、鞭なんて使えないし使った事もないし。
「作る事が対処法になるんだから、これじゃ駄目だね」
「うーん、雑念が入ったわけじゃないけど……たまたま似ている植物ができちゃっただけかも。と言うかこれ、なんの植物だろう?」
「僕は植物に詳しくないからね。見た事があるかどうかは判断できるけど、どんな物かまではわからないよ。あ、ちなみにこれは多分見た事がある。似ている植物かもって言われると自信がないけどね」
とりあえず、失敗で作ってしまった植物に関しては後で考える事にして……このままだと『雑草栽培』の力で分裂するように数を増やしてしまうので、リーザに手伝ってもらって引っこ抜く。
それを、レオに焼却処分してもらった。
とはいえ、参考というかどんな植物かを調べるために一部のつると葉を残しておく。
見回りをしてくれている使用人さんに渡して、植物に詳しいペータさんや、知識があるかもしれないヴォルターさんとセバスチャンさんにも見てもらうように伝えた。
「とりあえず、見た目も含めてもう一度聞いておきたいんだけど……」
別の植物ができてしまったので、作れない判定はせず再度挑戦するため、もう一度ユートさんに話を聞く。
つるは硬く太く、真っすぐ伸びる……空に向かって伸びたとしても、数メートルは自重で折れたりしないとの事。
今作った物のように、つるの途中で葉が生える事はなく、地面浅く根付くと。
改めて聞くと、俺のイメージがぶどう科の植物やつるを伸ばす知っている植物、キュウリなどに近くなっていた事に気付いた。
失敗した物は、キュウリではなかったけど。
ちなみに、つるの方が自重に耐えられずに折れるよりも先に、浅く根付いた根が土から抜けるのがほとんどらしい。
ただ、根は最初に芽を出しつるを出すまで以外に役割はないようで、あとは魔力を周囲から吸収して成長し続けるのだとか。
魔力を吸収とか怖いな……と思ったら、ユートさんの考えている用途も似たようなものだった。
ただし、吸収量は多くなく短期間では平均的な人間の魔力を吸い切るなんて事はないとか。
長時間ずっと吸収させれば別だけど……なんて、にやりと笑いながらユートさんが言ったのに対しては、底なしの恐怖を感じなくもないが。
ともかく、もう一度はっきりイメージをするように気を付けながら、地面に手を触れさせた。
「お……今度は成功かな?」
『雑草栽培』を発動させると、先程よりも早い勢いで伸びるつるが地面から生えてきた。
そのつるは大体五センチ程度で、真っすぐ天を目指して伸びて行く。
「おぉー! そうそう、これだよこれ!」
見ていたユートさんの反応から、成功したのがわかる。
「ただこれ、かなり力を取られる感覚があるんだけど……!」
つるが伸びて行く程に、俺の中の何かが抜けて行くような感覚。
力が抜けるのに近いけど、あくまで感覚だけで実際に体の力が入らなくなるとかではないので、ちょっと言葉にしづらい。
「それは多分、能力の力を多く使っているって事だろうね。初めての事だから推測も入るけど、魔力としてタクミ君から流れているんだと思うよ。慣れると、どれだけの力を使っているかも感覚的にわかるから。まぁ、性質的に今回作ってもらったのは魔力を吸収するから、成長する最中で少なからずタクミ君の魔力を吸収しているのかもね。それと合わさっている可能性もあるかな」
「それ、結構危険な気がするんだけど……!」
ギフトの過剰使用、そして魔力の消費。
どちらも行き過ぎれば命に関わる事だ……魔力は総量の八割を越える消費をすると、意識混濁が発生する可能性が高いとか、全て消費したら生命活動が停止する、という話を聞いた。
前者は少し前に魔法を教えてもらった後に、余談としてユートさんから後で聞いたし、後者は初めて魔法に付いてセバスチャンさんに聞いた話だ。
「大丈夫大丈夫。多分、初めての事で感覚が敏感に反応しているだけだろうから。本来、この植物性の魔物は、そこまで強い力を必要としないんだ」
「そうは言われても、この力の喪失感みたいなのは中々危機感を感じざるを得ないというか……」
「慣れなのかもしれないね。ほら、そうこう言っている間に成長は止まったみたいだよ?」
ユートさんと話している間に、植物は伸び切ったのかピタリと成長を止める。
それに伴って、俺から力が抜けて行く感覚もぱったりと止まった。
「……予想より伸びたけど、大丈夫?」
「うーん、初期段階ではこの半分くらいなんだけど、タクミ君の力もあってなのかな。かなり長いねぇ。それに硬い」
天を突くように伸びている植物のつる、それをツンツンと突きながら確かめているユートさん。
硬さなども、本来の物より上らしいけど……。
「また似ているだけで、別の植物を作っちゃったり、なんて事は?」
「その可能性もちょっと考えけど、間違いなく本物だね。こうしていると、ほんの少しだけ魔力が吸われている感覚があるよ」
「そ、そうなんだ……はぁ」
深く息を吐いて、地面から手を離す。
真っすぐ伸びる植物の長さは、おそらく十メートル以上。
それが途中で折れる事もなく伸びているんだから、つるの硬さは確かめなくてもわかるというもの。
もうこれ、つると呼んでいいのかどうかわからないけど……。
「というか、他者の魔力が入ったら操れちゃうんじゃないっけ?」
「それも大丈夫。こうして勝手に吸われた魔力なら問題ないよ。操るには、そうする意思を持って魔力を流し込む必要があるからね」
吸収される事と、流す事にどう違いがあるのかやった事がないのでわからないが、ユートさんは詳しく知っているようなのでそれを信じる事にしよう。
「でも、こんなに硬くちゃ、考えていた通りには使えないんじゃ……?」
「硬いのは確かにそうなんだけど、この植物の不思議な所……というか、魔物的な部分と言えるのかな? それは、自由に伸ばせる事にあるんだ。ほら、見てみて。ちょっと眩しいけど先っぽの方」
「えーっと……曲がってる? というか渦巻きみたいになってる?」
陽の光に目を細めながらも、何とか植物の先っぽを見ると、グルグルと渦巻いているのが見えた。
「僕の魔力を吸って、成長させているんだよ。遠いからあのグルグルした所は触れられないけど、硬さはここと同じように硬いままのはずだよ」
そう言って、つるにノックをするようにユートさんが指を当てると、コンコンと硬質な音が鳴った。
俺も触れてみたけど、金属とも違う感触で、でもこれが植物と感じさせるような感覚が返って来た。
ただ硬さの方も、硬質な音が出るのも納得できるもので、ただの植物ではなく魔物なんだろうという事に納得できるものだった。
植物だからって事で自分を納得させてはいるけど、俺、魔物を作った事になるんだろうか? なんて、少しだけ気にしながらとりあえず、ユートさんが思いついた危険への対抗手段は、使える事ができると判明した――。
――あれから、『雑草栽培』でもう一度同じ植物を作り、再現ができる事を確信したうえで色々試した。
結論として確かにユートさんが言う通り使えそうだという事と、魔力を吸収する性質に気を付ければ、危険性はほぼないに等しい事からも剣を扱うよりも便利なんじゃないかというのがわかった。
使うと決まったわけじゃないけど、とりあえず日課になっている剣の鍛錬は続けるとして、薬草畑の方で使うギフトの力に余裕があるようであれば、練習すると決める。
植物自体は作れるんだが、俺がまだそれに慣れていないからな。
慣れないと、またレオを驚かせることになるかもしれないし。
ちなみに、二度目に作った時は勢い余ってレオを驚かせてしまって、ちょっとだけ混乱した。
まぁその後にレオの遊び道具の一つになってしまったんだけど……硬いつるが大量にあるうえ、ゴムボールよりも歯応えが良くお気に入りだとか。
まぁ……あごを鍛えるという意味ではいいのかな? 人間だって、柔らかい物だけでなく硬い物をちゃんと噛んで食べて、あごを鍛えた方がいいらしいし。
シルバーフェンリルに必要なのかはわからないが。
そうそう、植物の性質が強い魔物の名称は、ヘデラヴィというらしい。
そんなこんなで、長期になって来た森の調査を進めつつ、薬草畑で薬草を量産、薬も作りながら数日は大きな何かがあるわけでもなく、平穏に過ぎて行った。
「やはり、東側。川の向こうを一時的な拠点にしていたか」
「そうみたいですね。ルグリアさん達とフェンリル達からの発見報告によれば、十人以上がそこで寝泊まりしていた形跡があったそうです」
昼食時、森の調査隊が入手した情報をエッケンハルトさん達と共有。
ルグリアさんから提案された川の向こうへの調査は、効果を出しているようで、確かな痕跡が発見された。
「十人以上かぁ。でも今はいないんでしょ?」
「ルグリアさん達が発見した時にはいなかったみたい。立ち去ってから二日程経過しているだろうって事だけど」
「ふむふむ。あの国が関わっているとなると、その数で動いているのならやっぱり暗部が動いている可能性が高いかなぁ」
「……ワフ」
ユートさんが言う暗部、という言葉にレオが反応して食事もそこそこに、俺に顔を寄せる。
今すぐ何かがあるわけじゃないから、撫でながら大丈夫だと言って食事を続けさせた。
レオが食事を止めてでも心配してくれるのはありがたいけど、主にユートさんの思い付きで対策は進めているからきっと大丈夫だ。
あと、セイクラム聖王国が裏で密偵などを放って、情報以外も含めて隠れて行動する集団をユートさんは暗部と呼び、今ではそれが定着していた――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
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