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異世界転移したら飼っていた犬が最強になりました~最強と言われるシルバーフェンリルと俺がギフトで異世界暮らしを始めたら~【Web版】  作者: 龍央


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1969/2006

レオとリーザにおしくらまんじゅうされていました

ブックマーク登録をしてくれた方々、評価を下さった方々、本当にありがとうございます。


書籍版最新6巻、4月30日発売予定です!

ご予約お願いいたします!



「以前テオ君にも言ったけど、色んな人の意見を聞いて、話をしていけば、最善ではないかもしれないけど一人で考えるよりはいい方向へ向かう事だって不可能じゃないからね。絶対そうしなきゃいけないとか、意見を聞く相手を間違えている場合もあるけど、公爵家の人達はそうじゃないと俺は信じているしね」

「……公爵家の人達……公爵様達は思慮深いと聞いていますし、実際ここで過ごして僕もそうだと感じました」

「そうだね。若干、面白い方向に向かって全力を出したり、周囲を困らせたりはするけど……」


 エッケンハルトさんとか、ユートさんが絡むと特にだけど。


「ま、まぁそれは置いておくとして、だから話し合って決める。一緒に考える事は決して無駄じゃないと思うよ。あくまでも、俺の考えでそれが全て正しいわけじゃないとは思うけどね」


 公爵家の人達、使用人さん達もさっきのように話し合いを持つ機会を多くしてくれて、俺がこういう風に考えているんだと理解してくれていると信じている。

 ……クレアさんのお見合い話とかで、親子の会話などが足りなかったという反省もあるのかもしれないが。


「うーん……少し難しいです」


 まぁテオ君の将来を考えると、王制のこの国においてはワンマンにならざるを得ない時もあるだろうし、必ずしも俺の言った事が全てではないと思うが。

 でも、誰の意見も聞かない王様や王族なんて、地球での歴史や物語を考えると悪い方向に突き進んでしまうんじゃないかと考えてしまう。

 どうなるか、どうするかはテオ君次第だけど、せっかくこうして市井に出て、色々と学んでいる段階なんだから悩んでどうするのがいいのかを考えるのがいいんだと思う。


「ちょっとだけ、突き放すようになってしまうかもしれないけど、テオ君はいっぱい考えて、何が良くて何が悪いのか、絶対的な答えが得られるとは保証できないけど、そうして考えて考え抜いて行くしかないんじゃないかと思うよ」


 人間だもの、という言葉もあるくらいだし、絶対的正しい事を人間は選び続けられない。

 だからこそ、考えて自分なりの答えを出すんじゃないかなって思う。

 まぁ、偉そうに言っている俺自身も、今テオ君に諭している事が正しいのかわからなかったりもするけど……でもさすがにそれは表に出さない。

 そうしたら、ただただテオ君を悩ませて迷わせるだけになるだろうから。


「あ、そうだ。これも絶対というわけじゃないんだけど、俺が知っている言葉を送るよ」

「ん、なんですか? 以前は確か、『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』でしたけど」

「よく覚えてたね、偉い偉い。なんて、テオ君よりちょっと長く生きて稀有な経験をしているだけの俺が言える立場じゃないかもだけど。贈る言葉はね『三人寄れば文殊の知恵』だよ」

「『三人寄れば文殊の知恵』ですか? 三人というのは、先程の話から一人じゃない方がという意味なのでしょうけど……文殊?」

「文殊っていうのは、俺がいた世界の偉い人? まぁ人って事で。で、知恵をつかさどると言われているんだ。それでね、三人集まって相談して考えれば、一人で考えるよりもいい考えが浮かぶ。文殊という人がいい知恵を授けてくれるんじゃないかって意味だよ」


 最後はちょっとアレンジを加えたけど。


「人が、知恵を授けてくれるんですか?」

「その人は特別なんだ。そこはあまり気にしないでおいて欲しい」


 文殊というのは知恵や学問をつかさどる菩薩様の事で、マンジュシュリーとも言われる――とか、仏教に関わる話をこの世界で生まれ育ったテオ君に話しても、理解してもらえるか微妙だから、省かせてもらう。

 俺もあまり詳しくないけど、父方の祖父が仏教学に精通していて、まだ実の両親が生きていた頃によく聞かされたからなんとなく覚えていた。

 そんな祖父の口癖が「わしは無宗教だが、だからこそ知っておかねばならない」との事だけど、今でもだからこそに繋がる理由はわかっていない。

 まぁ、余談だけどな。


「人数が多ければいいというわけじゃないけどね、でも一人より二人、二人より三人で相談しつつ考えた方が、いい結果が出るかもしれない、というのはあると思うんだ。一人で考えた方がいい事も、もちろんあるけど……今回の事は一人じゃ手に負えないし、俺一人なんてできる事はたかが知れているからね。場合によって使い分けるのがいいかな?」

「んむむ……難しいです。でも、タクミさんの言葉は、覚えておきたいです」

「うん、ちゃんと聞いてくれてありがとう。そうして、俺なんかの言葉でも真剣に耳を傾けてくれるテオ君だからこそ、この先もきっと大丈夫だよ。気休めかもしれないけどね」

「そんな。タクミさんの言葉は、他の臣下……じゃなかった、大人達とは違う感じがして、聞かなきゃいけないと思えるんです。なんというか、胸に響く、というんですかね」


 胸に響くとは、そこまで深く語ったつもりはないし、どちらかというと説教と受け売りの言葉で飾られた話だったかもしれないのに、素直な子だなぁ……。

 テオ君はここに来た当初から、真面目に話を聞いてくれるからついそれらしい事を言いたくなってしまう。

 反省反省、っと。


「テオ君の役に立ったのなら、何よりだよ」

「はい、とても! ありがとうございました!」

「また何か疑問とかがあれば、いつでも聞いてね。俺より、他の人の方がいいかもしれないけど」


 ユートさんだけは、やめた方がいい気がするけど……テオ君はあちらにも懐いているから、口に出さないで心の中にしまっておこう。

 真面目な時はちゃんとしてくれるはずだし、きっと大丈夫だ。

 年の功では、誰も敵わないし。


「ワフゥ。ワフ?」


 迷いが晴れたわけではなく、むしろ考える事を増やしただけかもしれないが、それでも元気よくテオ君が部屋を出て行くのを見送った後、レオが溜め息を吐きつつこちらを窺う。


「ははは、まぁちょっとその気になって色々言ったけど、嘘は言っていないつもりだよ」

「ワフ」

「こうした方がいい、と思った時はそうするけど、レオにだって前からちゃんと聞いてから色々やっていただろう? それこそ、今みたいに意思疎通が簡単じゃなくて、難しかった頃から」


 マルチーズの頃から、嫌がって逃げだそうとするお風呂への連行以外、騙し討ちとか何も言わずにレオに何かをする、というのは極力避けていた。

 ある程度こちらの言葉を理解している節が所々にあったからだけど、それでも通じてないな、と思う事はあったけど……でも、相棒で家族だから、ちゃんと話をしようと努めていたからな。

 そのおかげで、予防接種の注射を受けに行く時とかは、激しく抵抗されたけど。

 嫌な事、苦手な事に関する言葉は、絶対聞き逃さないんだよなぁ……食べる事と散歩や遊びに関してもだけど、これは犬や猫と暮らしている人あるあるかもしれない。


「ワッフ?」

「あ、このやろ……忘れてるのかー?」

「ワッフ、ワフー!」


 そうだっけ? と首を傾げてとぼけて見せるレオを捕まえ……体格差でできないので、前足を抱き込むようにして肉球をくすぐってやる。

 くすぐったさに悶えるような鳴き声を出すレオと、そのまま少しだけ遊ぶようにして過ごした。

 真面目な話が長かったから、少しだけ息抜きというかリラックスできたかな。

 レオも、わかっていてとぼけたのかもしれない……いや、ほとんど悪戯心か――。



 ――会議の翌日、薬草作りや畑の管理などを見て回り、小休止。

 薬草は予定通り増えているどころか多めになっており、『雑草栽培』の使用にも少し余裕ができたかな? というくらいで、さらに畑の方もペータさん達の尽力のおかげで、土が枯れる事なく当初心配していた砂漠化のようにはならず、安心している。

 クラウフェルト商会そのものは始まったばかりだし、まだまだこれからやる事などはあるけど、順調すぎるくらいに順調と言っていいだろう。

 なんだけど……それとは別の理由でちょっと問題が起こっている。


「レオ、気持ちはありがたいんだけど、ちょっと近すぎないか? というか動きにくいんだが……リーザも」

「ワフ、ワフワフ!」

「パパはリーザとママが守るもん!」


 地面に座って休んでいる俺に、体を押し付けるようにしているレオとリーザ。

 左右から挟まれて、身動きがとりづらい。

 レオもリーザも、俺を守ろうとしているからであって、意気込みも含めてその気持ちは嬉しいんだけど……。


「はぁ……」


 俺の溜め息はレオ達には届かず、晴れた空に消えて行った。

 何故こうなったかというと、前日の会議でフェンリルが狙われている可能性があるとなったんだけど、それだけでなく、レオというシルバーフェンリルを従えている事や、『雑草栽培』の事が広まらないように、レオが守ろうとしているという事みたいだ。

 レオからリーザにそれが伝わり、こうして左右から挟まれていると……レオの毛が柔らかいし、リーザの尻尾もフサフサだから、苦しいよりもむしろ気持ちいいくらいなんだけど、動きづらいのはさすがにどうかと。

 これじゃ、いざという時動けないと思うんだが。


 まぁレオが傍にいるのなら、何か危険な事があったとしてもなんとでもなるのかもしれないが。

 俺が薬草を作っている時も、近くで見守ったり周囲を警戒したりと忙しそうにしていたしな。

 ……俺としては、俺を直に狙ってくる可能性は低そうに感じられるし、リーザと一緒に遊んでいて欲しいんだが。

 ちなみに狙われている可能性のあるフェンリル達の方だけど、そちらはフェリーとも話して、いつも以上に固まって行動するようになっている。


 何かしらの行動をするにしても、二、三体でしていたのが、四、五体になったとかくらいだけど。

 あとレオからの指示なのか、俺の周囲や屋敷の周囲を警戒するフェンリルもいくつかいる。

 ランジ村の外には兵士さん達が多くいるのに、過剰な警戒としか言えないんだが……フェンリル達はそう言った指示を受ける事すら楽しそうなので、まぁいいかなと思っている。

 飽きれば、自然と少しずつ警戒も解かれていくだろうしな。


「あはははは! こうなったかぁ。今この世界で、タクミ君に何かしようと手出しできる存在って、いないんだろうね」

「……ユートさん」

「ワフ! グルルルルゥ」

「ウゥゥゥ……」

「こらこらレオ、リーザも。ユートさんは安全だからな?」


 笑いながらこちらに来たユートさんに、レオとリーザが唸る。

 リーザはレオの真似だろうけど……尻尾は立てずに左右に揺れているだけだし、俺の体に当たってちょっと痛い。


「さ、さすがに僕でも、レオちゃんに唸られると怖いなぁ」

「そういう割には、平気そうに見えるけど」

「全然。ほら、こんな風に手が震えるくらいだよ」

「あ、ほんとだー。震えてる。えっと、ごめんなさい」

「リーザ、あれはわざとだから謝らなくていいんだよ」

「……タクミ君にはバレちゃってたか」



 すぐに種明かしをしたユートさん。

 手を見せた時、肘周りに力が入っているのが見えたからな。

 できる人とできない人がいるみたいだけど、あれは腕や手を震わせるために力を入れているからだろう。


 本当に怖ければ、手だけでなく全身震えるだろうし、そもそも肘周りだけに力が入るって事もないはずだ。

 素直なリーザは信じてしまっていたけど。


「はぁ。それで、ユートさんはここになんの用で? いつもならルグレッタさんに捕まって色々、多分仕事? をやっている頃だと思うけど。抜け出してきたのなら、ルグレッタさんにまた引き摺られて連れ戻されるんじゃない?」

「それもまたいいよねぇ」

「引き摺られるのがいいって言えるのは、ユートさんだけだと思う。――リーザはあまり聞かないように」


 ユートさんの発言と趣味は、リーザの教育に悪すぎるからな。

 

「んー?」


 リーザはよくわかっていないようだけど、ずっとわからないままでいいと思う。


「タクミ君も中々言うようになったねぇ。そんな愉快な恰好になったままで」

「これは……レオとリーザの気持ちだから」


 守ろうとしてくれている気持ちは嬉しいので、無理に引き剥がす事はしたくない。

 まぁリーザはともかく、レオの方は引き剥がそうとしても俺の力じゃできないんだけど。

 甘えて顎を乗せて来るのとは違って、足とかが痺れる事もないし、今は休憩中だから注意はしたけどとりあえずはこのままでいいと思っている。

 レオはともかくとしても、リーザという娘のように思っている相手に守ると言われて、若干どころか結構情けない気持ちはあるにはあるけど。


「それで、本当になんの用が?」


 いつもなら、昼と言うにはまだ早く、朝と言うには遅いこの時間、ユートさんはルグレッタさんに物理的に拘束されて、仕事らしき事をしているはずだ。

 時折フラッと出てきたりするけど、大抵すぐルグレッタさんが追いかけて来て引き摺って行くのもある程度恒例になっているけども。

 ただそのルグレッタさんが追って来ていないので、何かの用があって来ているんだろう。


「僕だってちゃんと仕事しているんだよ? まぁいいや。えっとね、薬草の方はもう作り終わっているんだよね?」

「今日の分はね。急いで追加とかがあれば別だけど、今はレミリクタで販売する用くらいしか、必要な薬草もないから。細々とした作業ならあるけど」

「力の方は使わない感じかな」

「まぁ、うん。何か企んでそうで怖いけど、予想よりも数が増えているから。余裕はあるよ」


 ラクトスでの販売分や、公爵家が運営する商店などへの卸分は確保している。

 クレアがそれ以外の街や村、商店への営業に出ていないため当初の予定より必要数が少ないのも、数が増えて余裕ができている原因でもある。

 徐々に、調査のため様子見をしている事での影響が出てきた感じだ。

 まぁ差し当っての問題はないし、備蓄できる物も多いから大きな問題になりそうではないけど。


「企んでそうって言うのは酷いなぁ。けど、まさにその通りというべきかな?」

「……」

「いやいや、タクミ君に不利益になる事はないよ。そもそも、まだできるかどうかって段階なんだけどね、思いついちゃったからどうかなってね」


 警戒する俺に、さらに追い打ちをかけるユートさん。

 思いついちゃったって言うのが、不安を誘う。

 エルケリッヒさんがフェンリルと訓練する兵士さん達の運用とかで、思い付きを試すとは言っていたけど、あれとは違って嫌な予感のようなものが沸き上がるのは、日頃の行いか何かなのかもしれない。

 もちろん、ユートさんのだが。


「一応、もし僕が考えている通りの事ができたら、レオちゃん達ももう少し警戒を解いていいんじゃないかと思うんだ」

「ワフゥ?」

「それはどういう……?」


 俺と似たような警戒心を表すように、疑わしそうな鳴き声を上げるレオ。

 レオも俺と同じような嫌な予感みたいなものを感じたのかもしれない。


「えっとね、タクミ君の力なんだけどね……」


 俺に注目が集まっている可能性がある、というのも考えて念のため外では『雑草栽培』やギフトなどの言葉は出さないようになっている。

 そのため、さっきからユートさんは俺の力、と言っているんだが……フェンリル達が総出で警戒しているような状況で、部外者が聞き耳を立てているなんてあり得ないと思うんだけど――。



読んで下さった方、皆様に感謝を。


書籍版最新6巻、4月30日発売予定です!

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別作品も連載投稿しております。

作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。


面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。

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【書籍版 第7巻 8月29日発売】

■7巻書影■mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻口絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻挿絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


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