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異世界転移したら飼っていた犬が最強になりました~最強と言われるシルバーフェンリルと俺がギフトで異世界暮らしを始めたら~【Web版】  作者: 龍央


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1961/2006

新しくできた薬局の様子を見に行きました



「いえその……朝食の時にマリエッタさんがいたんですけど……」

「は、母上がか……」


 わざわざ言及するまでもなく、朝が弱いのはエルケリッヒさんの血筋らしく、エッケンハルトさんも同様。

 だがマリエッタさんは違うので、朝はきちんと起きて朝食を一緒に頂いている。

 そして今朝は昨夜の事を思い出しつつ、溜め息を吐きながら後で色々と……など、不穏な気配を背負いつつ呟いていた。


「エルケリッヒさんもでしょうけど、あとでマリエッタさんには色々と言われるんじゃないかなぁと」


 がっくりと項垂れるエッケンハルトさん。

 まぁ昨夜は空気を読んでなのか、マリエッタさんは特に止めたり注意する事はなかったようだけど、それはつまり、溜め込んでおいて後でというのに他ならなかったわけだ。

 なのでこの後、マリエッタさんによって二日酔いとどちらが辛いのかわからない事が、エッケンハルトさん達に待っているという……。


「な、なんだ、と……」

「よしよし?」

「……ワフゥ」


 がっくりと項垂れてしまったエッケンハルトさんに、リーザが頭を撫で続ける。

 レオの溜め息のような鳴き声と共に苦笑して、とりあえず残っている作業へと取り掛かった。

 なんというかあれだな、やっぱりお酒は飲んでも呑まれるな、だな。

 俺は酔えないから、あまり気を付けなくてもいいかもしれないが……けどお酒の席などではやっぱり、色々と気を付けておこうと思った――。



 ――クラウフェルト商会が正式に開始され、さらに数日。


「師匠、いらっしゃいませ!」

「やぁ、ミリナちゃん。様子を見に来たよ」


 薬草畑や屋敷内でできる用というか仕事を済ませ、ランジ村で開かれているレミリクタ――薬局に様子見のために入店。

 まぁレオとリーザが村で子供達と遊びたかったから、ついでではあるんだけど。

 お店が完成してから、一度も見に来ていないのは行けないと思ったのもある。

 レミリクタは、ランジ村の人達が住む家より少し大きめで二階建ての木造。


 見た目は他の家と大きく変わらないが、入り口は両開きのドアで少し大きめにしてあった。

 一階部分は薬局として薬や薬草を販売しており、奥のカウンターでお会計をするスタンダードな物。

 他には、二階は調剤というか薬を調合するスペースで、今ではミリナちゃんのお城とも言える。

 児童館の子供達は、薬草畑のお手伝いをする時以外ここにいる事が多くなるよう考えられていて、単純作業で危険がない調合に関してのみのお手伝い兼、販売員だ。


 調合に関しては、ミリナちゃんを始めとしたコゼワックさんやエスカーさんなど、計五人が監督しているし、販売の方もカールラさん達販売員としての役割を持った従業員さんが、ちゃんと見てくれているようだ。

 今も、カウンターに座っているミリナちゃん以外に店舗部分、薬などの商品が置かれているお客さんが見て回るスペースに、子供一人に対し大人が一人付いて、お客さんを相手にしている。

 お客さんは、村の人が一人いる以外は兵士さんだけど。

 兵士さんの多くは傷薬に興味があるのか、それについて詳しく聞いているようだな。


 森の調査だけでなく、エッケンハルトさんが発案したフェンリル達との訓練、さらにエルケリッヒさんの思い付きらしい兵士の運用とかいうので、多少の生傷が絶えないからだろう。

 フェンリル達が直接怪我をさせている、というのはかなり少ないみたいだけど。


「ミリナちゃんがカウンターに座ってるんだ?」

「今は調合の方が落ち着いていて。それに、私だけではありませんから。知識に関しては皆素人からですし、勉強しながらですけど。こうして、お店で薬を買う人を見るのも、必要な物を考える何かの助けになるかなって」

「成る程ね。しっかりお客さんの事も考えるのはいいと思うよ」


 あまり偉そうな事は言えないけど。


「まだ始まって少しだけど、どうかな? 漠然としているかもしれないけど」

「そうですね……やっぱり、兵士さんが多いのでちょっとした怪我とかのために、傷薬への関心が多いみたいです」

「確かにそれは、ちょっとここに入って聞き耳を立てているだけでわかるね」


 何せ、兵士さん達がこぞって傷薬の事を店員さんに聞いているからね。

 子供達も慣れている様子に見えるのは、何度も別の人に話しているからだろう。


「あと、こうして初めてみるまであまり考えていませんでしたけど、かぶれに対する薬や薬草も結構出るみたいですね」

「かぶれ?」

「はい。えーっと、これも兵士さん達に多いんですけど、やっぱり鎧を身に付けている事が多いので。あと、森の調査に行った人の中には、触れたものが悪くてって事もあるみたいです」

「あー、そういう事かぁ」


 俺達は鎧なんて着る機会がないからわからないけど、金属製の物を長時間身に付けていると当然蒸れるし、かぶれができるのも仕方ない。

 さすがに金属部分が肌に直接触れるような身に着け方はしていないだろうけど、それでもな。

 それに、植物の中には触ると皮膚がかぶれてしまう物もある。

 森に調査しているわけで、中には草をかき分ける必要もあるし、気付かないうちに触れてしまう事もあるだろう。


 皮膚がかぶれる――接触性皮膚炎だったか、植物皮膚炎だったかを引き起こすのは、俺が知る中ではうるしとかの樹液だけど、他にも色々あるだろうしな。

 この世界特有の植物って可能性もあるかもしれない。


「足りない薬草とかはあるかな?」

「そうですね、傷薬の方は元々数を多く作っていたので、今の所不足しそうにはありません。けど、かぶれに関する物と、あと胃腸薬が不足気味ですね」

「かぶれは今聞いたけど、胃腸薬も?」

「えっと、ハンバーグを含めてなんですけど、ヘレーナさんが村の人達に教えた料理のレシピが好評みたいで。食べ過ぎる人が多いみたいです」


 そう言って苦笑するミリナちゃん。

 食べ過ぎるから、か……まぁ何かの病気とかが理由じゃないから、いいのかな。

 この辺りは個人で気を付ける範囲だろうし、商売という意味では薬が売れるのはありがたい事だし。

 ちなみに料理に関しては、ヘレーナさん自身新しい料理開発に余念がないけど、それを自分だけの物にしようという考えはないらしく、簡単に作れる物などは特に村の人達へ共有しているみたいだ。


 兵士さん達にも、外でもできる料理なんかを、俺やユートさんも巻き込まれていくつか開発したから、それで美味しい物を食べ過ぎてしまったという事だろう。

 携帯食とか、食べさせてもらったけど悪くない物もあれば、本当に食つなぐというだけの味なんて二の次、なんてのもあったから仕方ないのかもしれない。

 塩のしょっぱさしか感じない干し肉とか、何が入っているかすらわからないブロック状の――カロリーなんたらみたいな栄養素「だけ」は豊富らしい、歯が欠けそうな程硬い物とか……。


 基本は水に浸して、またはスープのようにして柔らかくしつつ、美味しいとはお世辞にも言えないけどとにかく流し込む、という感じらしいが。

 それらを考えると、ちゃんとした料理と言えて美味しい物が野営中にも食べられるのは、ついつい食べ過ぎてもおかしくないかな。


「わかった。それじゃあ薬草の方の予定に入れておくよ。かぶれの方だけど、作るのは薬に調合する方でいいかな?」

「そうですね。やっぱり、飲むよりも塗る方が即効性もあるので評判がいいです」

「じゃあ、そっちのを多く作れるようにしておくよ」


 かぶれの薬は二種類あって、片方は薬草をそのまま煎じて飲む飲み薬。

 体全体に行き渡らせる、という意味ではこちらの方が便利なんだけど、複数の薬草を調合して作る塗り薬の方は直接かぶれに塗る事ですぐに効果が出る優れものだし、評判が良くなるのも当然と言えば当然か。

 かぶれの範囲が広いならまだしも、ちょっとくらいなら塗り薬の方を求めるよな。


「病に対する薬、とかの方はどうかな?」

「そちらはあまり。売れない方が、皆健康という事なので良い事だとは思いますけど」

「ははは、そうだね。ふむふむ、村の人達、兵士さん達は今日も健康って事だね」


 商品が売れないので、利益という意味では歓迎できないかもしれないが、ラモギのような病に対する薬草や薬が売れないのは、皆が健康である事の証明でもある。

 健やかに過ごせているのなら、それに越した事はないだろう。

 病院はなくとも、薬局ではその売れ行きから周辺の人達の様子が、大まかではあるけどわかる。

 レミリクタを作って良かった事の一つだ。


「パパー、ママが呼んでるよー!」

「おっと。わかった、すぐに行くよ!――それじゃミリナちゃん、頑張って……はもう頑張り過ぎなくらいだから、程々にね。また様子を見に来るよ。と言っても、屋敷の方で会うだろうけど」


 ミリナちゃんは、本人の希望もありレミリクタには毎日屋敷から通っている。

 離れていると言えるほどでもないからいいんだけど、ミリナちゃんは屋敷で使用人見習いとしての勉強もやっているので、本人たっての希望で移り住んだりはしなかった。

 一応、レミリクタの建設と一緒に社宅のような、調合や販売を担当する人が住む家を用意したし、コゼワックさんやネクスさんなど、一部の人は移り住んでいる。

 まぁ単純に屋敷の方が居心地がいいと、そのままな人もミリナちゃん以外にもいるけど。


「はい! お屋敷では、また師匠にお茶を入れさせて下さい。薬湯、というのを勉強中なので!」

「もうすっかり、俺を追い越しちゃって……薬湯かぁ。飲み物じゃなくて浸かるお風呂を連想するけど――うん、わかった。それじゃあ」


 師匠なんて呼ばれているけど、薬に関してはとっくに俺なんて追い越しているミリナちゃんだ。

 ミリナちゃんからすると、薬とかの知識だけでそう呼んでいるわけじゃないみたいだが、いずれ俺がミリナちゃんを師匠と仰いで教えを乞う事もあるかもしれないな。

 少しリーザに待ってもらって話を聞いてみると、飲む薬のような物で、考え方としては俺が作った薬酒に近いようだ。

 薬湯というのも、本でそう書かれていたからで要は薬茶って事だろう、味が濃い目のお茶に常用しても問題ない薬草などを混ぜて飲むという事らしい。


 お酒じゃないなら飲める人もさらに多くなるだろうな、なんて考えつつ待たせていたリーザと一緒にレミリクタを出た。

 呼ばれた理由は、レオが俺も一緒に遊ぼうとか、構って欲しいって事だったからもう少しミリナちゃんと話をしても良かったみたいだけど……まぁいいか。


「……エッケンハルトさん、ユートさんも。そんな所で何を?」


 ひとしきりレオやリーザ、子供達と遊んで屋敷に戻ると、エッケンハルトさんとユートさんが一階の廊下の隅で肩を寄せ合うように座り込んでいるのを発見した。

 レオやリーザも屋敷に戻ってきているが、別行動だ。

 公爵様と大侯爵様という、二人の役職を考えるととんでもない光景のように見えなくもないけど……この二人の性格を考えると、むしろそういう姿の方が合っている気がする。



「おぉ、タクミ殿。戻ったか」

「タクミくーん、もうね、僕は悲しいんだよ。いや、切ないかな?」

「目が笑っている人が悲しいとか切ないとか言っても、説得力ないと思うけど……」


 俺の声に気付いてこちらを向く二人。

 エッケンハルトさんはともかく、泣き真似のように目の下に手の甲を当てるユートさん、その目の奥は笑っているようにしか見えず、悲しいとか切ないとか、そういった感情は一切見えない。

 また変な事を考えているようにしか……。


「とにかく、何かあったんですか?」


 助けを求めている……という程ではないが、話しを聞いて欲しそうなのでとりあえず聞いてみる。

 聞かない方がいいような気もするけど。


「それがだな、ヴォルターが厳しすぎるんだ、タクミ殿」

「そうそう。僕とハルトが苦悩して絞り出すように考えた物語を、無慈悲に全て却下するんだよ!」

「あー、成る程。そういう事ですか。だから二人で、そんな所にしゃがみ込んで相談していたと」

「うむ。こうしていると何かいい案が浮かぶのではないかとな」


 廊下の隅でしゃがみ込み、男二人肩が触れ合うくらい密着しているからと、いい案が出るとは思えないが……。

 ともあれ、ヴォルターさんから物語を却下されたと言われて、どういう事か大体把握できた。

 以前ヴォルターさんが考えた物語を劇として発表して以来、一部で物語を考えるのが流行っている。

 それで、エッケンハルトさんやユートさんもそうなんだが……考える物語に問題があり過ぎるんだ。


 俺も何度かヴォルターさんと一緒に内容を聞いたんだが、エッケンハルトさんは最初にヴォルターさんが考えたのと近く、勧善懲悪のような内容なのはある種ヒーロー物のようで悪くないと思う、子供達にも人気が出そうだし。

 ただその規模が問題で、どうしても数千人規模の戦いを幾度もやるような物語を考えるんだ。

 しかもそれがないと成り立たないような内容で……本としてならそれでもいいんだろうけど、エッケンハルトさんは演劇としてやりたいらしく、そんな規模の劇はできないと却下され続けている。

 あと、悪の方がかなりエグイ内容で劇としてだけでなく、子供達に見せる内容としてはちょっとな部分もあるけど。


 まぁそこは多少調整すればいいんだろうけど、こだわりがあったりするらしい。

 それからユートさんの方。

 こちらはエッケンハルトさんの考えたものよりも、さらに調整が難しすぎる内容となっていた。

 なんというか、元々はフェンリルに親しんでもらうために、絡めた内容を求めているにも関わらず、全然別物の物語を考える。


 空を飛んだりするだけならまだしも、どう聞いても地球の現代兵器等々が登場したりするからなぁ。

 日本でならまだしも、こちらの世界では理解できる人がほぼいないだろうというもので、SF要素が入っている物もあったりした。

 しかもちゃんと理解しないと雰囲気ですら楽しめるか怪しい内容で、子供向きどころか大人でさえハテナマークを頭に浮かべる事間違いなしだ。

 俺も、理解するのに一苦労で内容が楽しめるかと聞かれたら唸ってしまうし、ヴォルターさんなんて実際に理解できる範疇を越え過ぎて、目が点になっていたしな。


 当然ながら、こちらは本として残すだけならできなくもないだろうけど、劇として再現できるわけもなく、却下され続けている。

 申し訳程度にフェンリルが出ていたものは、何故かアンドロイドで目からレーザーが出たり、可変式で鳥型になったりしていたから却下されるのも当然だろう。

 ……その時一緒に話を聞いていたレオが、可変はともかく目からレーザーに近い物なら魔法で、みたいに意気込みかけていたから止めるのが大変だったけど。

 できるのはともかく、そんなレオを見たくない。


「二人が考えるのは……特にユートさんはだけど、独特過ぎるというか。少人数で、フェンリルと人で簡単に再現できる範囲じゃないからですよ。行き過ぎなければ結構採用されると思いますよ?」

「むぅ、何度も言われているが、少人数か……」

「えー、でもせっかくなんだから、もっとこう、バーン! とかドーン! とか驚きに満ちた何かが欲しくない?」


 驚きがあると面白くなる、というのはわからなくもないけど、それを理解しづらい現代兵器に頼るのはどうかと思う――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。


面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。

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■7巻書影■mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


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