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異世界転移したら飼っていた犬が最強になりました~最強と言われるシルバーフェンリルと俺がギフトで異世界暮らしを始めたら~【Web版】  作者: 龍央


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1955/2006

レオがやる気になってしまいました



「グルゥ!」


 態勢を立て直しつつ宙空を蹴って、落ちるフェンへと飛び掛かった。

 が、それは同じく態勢を立て直したフェンが宙空を蹴って回避。

 緩やかな軌道で、飛び掛かったフェリーのさらに上空へ飛んだフェンは、そのまま避けられて地面へ向かうしかないフェリーの上へと落下し始めた。


「このままだと、フェリーの上に落ちて決着に……」

「いや、そうでもないみたいだよクレアちゃん?」


 クレアの呟きに、ユートさんがよく見てというように返す。

 俺とエッケンハルトさんは、フェリーがまだあきらめていない様子を感じて、ジッと落下するフェリーを見ている。


「グル……グルゥゥァァァァゥ!!」

「ガウ!?」


 着地の体勢を取ると思われたフェリーの毛が逆立ち、大きく吠えた次の瞬間、トン……と軽く宙空を蹴った。

 驚きの鳴き声を上げつつも、ただ落下するしかないフェンが、フェリーの横を通過。

 軌道を変える程ではないが、ほんの少し勢いを殺し、いや少しだけ浮き上がる程度の宙空への蹴り。

 それだけで、フェリーとフェンの位置関係がひっくり返った。


「グルゥ!」

「ガゥゥ……」


 ズズン……着地したフェンの上に背中から落ちるフェリー。

 ペチャっと地面にへばりつくようになったフェンと、へそ天状態でその上に乗るフェリー……これで決着、かな?


 アオォォォォォォン――。


 そうして数瞬の静寂の後、レオが遠吠えしてフェリーの勝利を宣言した。


 ガオォォォォォォォォン――。

 グルォォォォォォォォン――。


 レオの遠吠えを受けて、フェンリル達も同じく吠え、さらにフェンの上で仰向けになりながらフェリーも大きく吠えた。

 フェリーにとっては勝ち鬨を上げているようなものなんだろう……へそ天状態で、手足はバタバタしているけど。


「驚いた。二回目も使えたんだね……とてつもない集中と魔力、いや執念かな? 絶対に勝つって気概がないとできない事だと思うよ。僕も絶対無理だろうし、気概があったからってできるわけじゃないけど」

「フェリー、前に負けたのをずっと気にしてたみたいだからなぁ……うん、頑張ったんだと思う」

「そうですね。それがどれだけ凄い事なのか、私にはわかりませんけど、フェリーは頑張ったって事でしょうね」

「まぁ、私達にはそれだけしか言えないだろうな」

「フェリーが勝ったー!」

「凄い、凄いですー!」

「キャウ、キャゥー!」


 肩車されたまま、決着を見届けて手放しで喜ぶリーザやティルラちゃん、他の子供達もそれぞれ興奮した様子で声をあげている。

 クレアに抱かれたまま、楽しそうにシェリーも鳴いているけど……後で、フェンはしっかり慰めておかないとな。


「ガウゥ」

「ん? リルルが慰めるのか? なら、そちらは任せよう」


 俺の考えを読んだのか、主張するリルルにフェンは任せる事にした。

 フェンとしても、リルルに慰めてもらう方が良さそうだしな……こうして、リルルから離れられなくなるわけか、策士だな。

 いや、リルルがそこまで考えているかはわからないが。


「フェンはまぁいいとして……ユートさん?」

「くぅ……なけなし、じゃないけど気を入れて賭けたのに負けちゃったよタクミ君」


 フェンの方はリルルに任せておけばいいとして、ユートさんが落ち込んでいる様子だった。

 まぁ金貨数枚だったからなぁ、日本だと数十万だ。

 負けて落ち込んでしまう気持ちもわかる。


「というか、ユートさんが落ち込んでいるのを見るのは珍しい……初めてかな?」


 ルグレッタさんに冷たい目で見られても、誰かに叱られるくらいの事があっても、むしろ喜ぶという特殊な趣味の持ち主なので、落ち込む姿というのは見た覚えがない。


「ユート閣下が沈んだ姿を見たい場合は、このように賭けで負かすのが一番です。強くはないのに、賭けとなると入れ込んでしまうので、よく見る事ができます」

「そ、そうなんですね……」


 いつもはユートさん自身が望んで冷たい目で見るルグレッタさんは、賭けに勝ったからか少し嬉しそうな様子。

 何はともあれ、ユートさんでもさすがに賭けに負けてしまうのは、喜べないってわけか……いい事を知ったかもしれない。

 いやまぁ、ユートさんを進んで凹ませようとか思わないし、そもそも俺は賭け事を進んでやる質じゃないけど。


「グルルル」

「……ユートさんは置いておいて……よしよし。フェリーよく頑張ったなぁ」

「グルゥ!」


 何やらいじりたそうなエッケンハルトさんと、ほくほくした様子が微かに感じられるルグレッタさんの二人にユートさんを任せる。

 俺は褒めて欲しそうに尻尾をブンブン振りながらこちらに来たフェリーを、目いっぱい褒めてやる事にした。


「本当に凄かったわ、フェリー。前よりも動きが速く見えたのだけど……?」

「グルゥ、グルルルゥ!」

「特訓したから、だってー! フェリー凄かったー!」

「グルゥ!」


 嬉しそうなフェリーには、さらにクレアやリーザも俺と同じように体を撫でつつ褒める。

 勝者の特権ってやつかな。

 ご満悦な様子のフェリーとは別に、フェンの方はリルルとシェリーに慰められているようだ。

 ただ、娘のシェリーも一緒というのは、むしろフェンがさらに落ち込みそうだけど……段々とフェンの垂れていた尻尾が浮き上がり、ゆっくりと振られ始めたから大丈夫そうだな、さすがリルルだ。


「随分と汚れてしまったけど、怪我とかはないんだよな?」

「グルゥ」


 痛がっている様子は一切ないけど、念のため確認すると、力強く頷くフェリー。

 人間が巻き込まれたら怪我では済まされないものだったのに、さすがフェンリルと言ったところなんだろう。

 ただまぁ、モコモコの毛は土などで汚れてさらに絡まり、いつもの綺麗な毛並みは見る影もなくなっている。


 褒めるために撫でてはいるけど、時折絡まった毛に引っかかったり、ザラザラとした感触がある。

 この後、フェリーとフェンを洗うのが大変そうだなぁ。


「二度目ですけど、凄く見応えがありましたね。ハラハラする事もありましたけど」

「そうだね」


 感心するようなクレアの言葉に頷く。

 本来のフェンリルと言うか、獣型の魔物としての戦い……要は、本能に任せた動きとは違う部分もあるような気はしたけど、人間には不可能であろう戦いは見ていて面白さとかもあった。

 さすがに見世物として利用する事はしたいと思わないけど、時にはフェンリル同士で思いっきり動くのもいいのかもしれない。

 なんだかんだで、負けたフェンの方もリルルの励ましがあったとはいえ、今は楽しそうな様子だし。


 やっぱり、思いっきり体を動かすというのは、いつもの散歩程度ではないストレス解消の効果とかもあるのかもしれないな。

 まぁ、本当の意味で全力でフェンリルが戦う場合は、魔法とかも使うんだろうけど。


「……ワフ!」

「レオ、どうした?」

「ワウー、クゥーン……」

「いやまぁ、レオはもっとすごいっていうのはわかっているつもりだけど……」


 フェリーを褒め続けていたら、何やらレオがちょっと不満そうになった。

 少し甘えるような声を出しつつも、どうやら自分の方がもっとすごいんだから! と言いたいらしい。


「ワフワフ、ワウ?」

「確かに、レオがどれだけかはあまりはっきりと見た事はないけど……でも、オークとかトロルドとか、魔物と戦う場面はあったし。フェンリルよりすごいっていうのは、前に聞いていたから知っているつもりなんだけどな」


 どうやら、レオとしては褒められているフェリーに対してやきもちを焼き、自分の凄さみたいなものを見せつけたい気になっているみたいだ。

 俺が、はっきりとどれくらいかを見た事がないというのも大きいらしいが。

 でも以前はラーレを魔法でだけど撃ち落としたりもしていたし、フェンリル達が絶対にレオには逆らわないってだけで、十分なんだけど。


「ワウ、ワッフワフ!」

「グ、グルゥ?」


 何やら、気合十分なレオの鳴き声に、フェリーが困ったような声を出す。

 リーザとかに通訳してもらわなくても、なんとなく「ほ、本当にやるんですか?」と言っている様子と声なのがわかった。


「レ、レオ?」

「ワッフ。ワウワーフ、ガウフワフ」

「あー、うーん……さすがにどうなんだろう?」

「タクミさん?」

「あぁ、えっと……」


 レオは、さっきのフェリーとフェンの戦いに触発され、というか俺達から褒められてばかりなフェリーにやきもちを焼いた結果、フェンリル達を自分が相手する、と意気込んでいるようだ。

 強く言って構ってやれば諦めるかもしれないが、むしろ止めないで欲しいと考えてもいるっぽい。

 とりあえず、首を傾げてこちらを窺うクレアにレオの気持ちなどを伝えた。


「……レオ様とフェンリル達がですか」

「その、フェリーとフェンは一対一だったけど、レオは少なくともこの場にいるフェンリル全てをって考えているみたいなんだ。さすがにそれはやり過ぎだと思うし、さっきみたいな戦いが繰り広げられるんだとしたら、周囲の影響が心配だし、止めた方がいいと思うんだけど」


 観戦や、衝撃などから俺達を守るために、この場にはフェンリルが二十体程いる。

 いかにシルバーフェンリルのレオが最強と言われ、フェンリルよりも強いとしてもさすがに数が多すぎる。

 あと、フェンとフェリーの戦いだけでも、結構地面に影響があるのに、レオとフェンリル達となるとどうなるのか全くわからない。

 具体的には、自然が破壊されないかとか、地形が変わらないかとかの心配だな……いや、考えすぎかもしれないが。


「興味、というのは私もありますが……どうでなんでしょう」

「うーん……」

「ママもさっきのフェリーみたいにするの? 見たい!」

「ワッフ!」


 顔を見合わせて悩む俺とクレアを他所に、話しを聞いていたリーザが興味を持った。

 それでさらにレオへのやる気に火が付いたようだ……これは止めるにも一苦労だ。

 クレアの言っているように、俺も興味とか見てみたいという気持ちはあるけど、さすがになぁ。

 何せ、レオが意気込んでからさすがに聴覚で内容が聞こえたのか、周囲にいたフェンリル達は俺達から離れている。


 体を震わせ、尻尾を足に挟んでいるフェンリルまでいたりするから相当だ。

 というかフェン、リルルの後ろに隠れようとするのはどうかと……。

 他のフェンリル達の様子から気持ちはわからなくもないが、シェリーの前でそれは父としては情けないと思う。


「ほうほう、レオ様の……いや、シルバーフェンリルの真の強さをこの目で見られる貴重な機会とな。公爵家の人間としては、一度は見てみたいぞ!」

「あぁ……お父様に聞かれてしまいました」

「そ、そうだね……」


 楽しそうな声の主はエッケンハルトさん。

 賭けに負けた側なのに、落ち込んだユートさんを弄っていたエッケンハルトさんが、いつの間にかこちらに来ていて話を聞いていたようだ。


「おっと、セバスチャンからだタクミ殿。クレアも」


 そう言って、お金を渡してくるエッケンハルトさん。


「あ、ありがとうございます」

「はい、確かに受け取りました」


 受け取りつつ納得、ユートさんを弄り飽きたのではなく、セバスチャンさんから賭けの分配金を持ってきたのが本来の目的だったらしい。

 よく見ると、見物人の中で賭けに参加した人達……ほとんどの人だけど、その人達の内、フェリーに賭けた人にセバスチャンさん達が分配しているようだった。

 ちなみに……。


「私は金貨一枚程度だったからな。小さいとは民を治める側としては言えないが、落ち込む程懐が痛むわけでもない」


 ユートさんと比べて負けた事に対して聞いてみたら、特に気にしていない様子でそう言った。

 公爵様としては大きなお金でもないという事だろう。

 まぁ、口の端がほんの少しだけ引きつっていたような気がするので、負けた事を一切気にしていないという事でもなさそうだ……クレアは溜め息を吐いていたけど、俺と一緒に見て見ぬふりをする。

 あと、賭け事になると大枚をはたいて負けてしまうユートさんだけど、借金をしたりまではしないらしいので、一応安心。


「それはともかくだ、レオ様とフェンリルの戦いか……以前、セバスチャンから聞いたのだが、レオ様はフェンリルを雑魚扱いだったとか?」

「あーそう言えばそんな事も言っていました。はい、本当です」


 確かあれは、俺がこちらの世界に来てからすぐの頃、フェンリルの森にシルバーフェンリルを探しに行ってみよう、とクレアが言い出した時の事だったか。

 初代当主様の口伝で、大量のフェンリルに囲まれたという話から、フェンリルがいる可能性が高く、他の魔物もいる森なので危険なはずが、レオにとっては特に危険とは感じないという話だったっけ。

 フェンリルが何体いても大丈夫と言っていたが、むしろ敵対しないからと言うのが危険ではない論拠だったはずだが。


「先程の戦いをする程のフェンリルを相手に、雑魚というのは私からしても中々な……」


 レオの言っている事だから、信じられないというわけではないんだろうけど、想像できないといったところか。

 フェンリル達の怯え気味な様子を見れば、既にレオの言葉が正しいという証拠になっている気がするけど、俺も確かにはっきりと想像できない。

 さっきまで人間では不可能な戦いをしていたフェンリルを、さらに複数同時に相手をすると言っているんだから、どうなるのかなんてわからなくても無理はないと思う。


「レオ様の言を疑うつもりは一切ない。だが、実際はともあれ口伝などでフェンリルに囲まれていた初代当主様を、シルバーフェンリルが助けたとなっている。まぁ、事実は違っても、それが可能なのか見てみたいとは思うのだ」


 ユートさんからの話では、フェンリルに囲まれていた初代当主様は襲われていたとかではなく、仲良く過ごしていたわけで、シルバーフェンリルが助けたという口伝などの伝承の方が、間違って伝わっているらしい。

 それは公爵家の当主であるエッケンハルトさんや、俺から話したクレアも知っている所ではあるけど……可能かどうかというのを確かめたいという事なんだろう。

 ただ、それを言っているエッケンハルトさんの表情からは、楽しそうという雰囲気が隠せていない、隠そうともしていないが。


「お父様が見たいだけ、というのが本音でしょう? 私も、見られるなら見たいとは思いますが……シルバーフェンリル、最近はレオ様といられて、以前タクミさんにも話したように気持ちとしては区切りを付けましたが、それでも沸き立つ思いというのもありますら……」

「まぁ、シルバーフェンリルの事ならクレアが特に興味を持ってもおかしくない、かな?」


 シルバーフェンリルに対して、本人もよくわからない沸き立つよう何かを感じる事があるらしいクレア。

 初代当主様とソックリだから以外にも何かあるのか……。

 いずれフェンリルの森に、レオ以外のシルバーフェンリルを探す事を約束はしているけど、それはそれとして興味をそそられるのは、エッケンハルトさん以上なのかもしれない。


「ワフ、ワフ」


 レオからも期待の目を向けられているし、尻尾はご機嫌に振られているし、リーザも同様だ。

 止められないわけじゃないと思うが、止めない方が良さそうだな。

 この後のレオの機嫌的にも――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。


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