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異世界転移したら飼っていた犬が最強になりました~最強と言われるシルバーフェンリルと俺がギフトで異世界暮らしを始めたら~【Web版】  作者: 龍央


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1953/2006

ご褒美を考えておいた方が良さそうでした



「ミリナちゃんの方の薬はどうですか?」

「そちらも、順調に量産体制に入っているようです。既に、この村とラクトスくらいならば、しばらく不足する事はないだろうとの事です。もちろん、急な何かがなければではありますが」

「まぁ、流行り病とかが出て来なければですね。そういうのは、考えて備えておく必要はありますが、考え過ぎてそのために備えてばかりもいられません」

「はい」


 何かの理由で一部の薬が大量に必要になったら、さすがに不足する物も出て来るだろうというのは、最初からの想定だ。

 そういう緊急時には俺が対応して、『雑草栽培』頼りでなんとか用意するように考えている。

 備え過ぎても、薬や薬草をいつまでも保存できるわけでもなし、こればっかりは無駄になってしまう可能性もあるので、ある程度の準備をしておくだけしか対処法がないしな。


「子供達が手伝っているため、生産速度も上がっているようです」

「そうですか。頑張ってくれていますね」


 子供達というのは、ランジ村の子供達も一部は協力してくれているけど、主に従業員さん達の子供とラクトスの孤児院から預かった子達、児童館の子供達だな。

 あの子達は正式に雇っているのとは少し違って、勉強というかお仕事体験的にお手伝いをしてくれている。

 ミリナちゃん主導で、危険がなく簡単で失敗しようがない薬の調合の補助や、畑の手入れなどだな。


 フェンリル達と一緒に、土の交換をしているのを俺が作業している時に何度か見かける事もあった。

 もちろん、従業員さん達と同じく働いた分だけの給金は出している。

 研修に近いお手伝いなので、さすがに従業員さん達程じゃないお小遣い程度だけど。

 まぁ、将来どうするかはともかく、しばらくお手伝いすればどこに行くにも困らない蓄えはできるんじゃないかなと思う。


「あ、そうだ。レミリクタの方は……」

「もうすでに建物はできており、内装も準備中です。明日明後日中には、商品……薬草や薬を運び込めばいつでもと言った状態ですね」

「本当に、いつでも開始できるんですね。レミリクタはランジ村に対しての薬屋なので、早めに始める程喜ばれると思いますけど……ふむ」


 レミリクタは、要はランジ村の薬局だ。

 いちいち、この屋敷まで病にかかったり怪我をした人が来るのではなく、ある程度自由に薬などを買える場所ってわけだな。

 基本的に一部の強い薬以外は、処方箋などは必要なく自己判断な部分はあるけど、レミリクタでの販売員さんには専門書を渡して学んでもらい、アドバイスくらいはできるようにしてある。

 その販売員も、一部はランジ村の人だったり、責任者はミリナちゃんになっているけど。


 ミリナちゃんは、ただ薬の調合をするだけでなく、求める人の反応なども見たいという事で、レミリクタの責任者を任せる事になった。

 最初は、販売員にと本人は言っていたど、さすがに調合のトップを販売員として使うわけにはいかなかった……ミリナちゃんは一人で、使える時間は限られているからな。

 レミリクタの建物の奥にも、調合するための部屋が用意されてそこで店の様子を見ながら、仕事ができるようにはなっているんだけど。

 まぁ子供達が手伝う関係上、屋敷で作業するよりはお店での方が効率は良さそうだからいいんだけど……ミリナちゃん本人はさらに、使用人見習いとしての教えも受けていて、俺の身の回りのお世話もいずれ、みたいに言っていたから働き過ぎないか心配だし、ちょくちょく様子をみるようにしよう。


「レミリクタだけ先に、というのでもいいんでしょうけど……こういうのは一度にできるだけ全部を開始させたいですね。名目だけではあるにしても」

「確かに、その方が各部署の足並みを揃える意味でも、効果はあるかと存じます」

「ですよね……」


 やっぱりこう、延期になっている部分はあるとしても、動ける部署はできるだけ全部を一斉に動かし始めたい。

 特に動かす事に対しての問題もないんだから、どれかだけ遅らせる理由もないしなぁ。


「……わかりました。一応、エッケンハルトさんやクレアにも確認を取りますが、三日後でどうでしょう?」

「レミリクタへの搬入、従業員各位への通達、村や公爵様方との兼ね合い……ちょうど良いかと思われます」

「良かった。それじゃ、そういう事で」


 アルフレットさんが頷くのを見て安心する。

 何か駄目な部分があれば、遠慮なく指摘してくれるし、そうするよう言ってあるけど、今回は俺が考えている通りで良かったみたいだ。

 こういう、会社というか商会を開始するのに最適な時期なんて、初めての事だからわからない事が多いからな。

 ともあれ、一安心して必要な書類の確認や認証、初めて印章を使った作業などもしていった――。



 ――諸々の仕事後、クラウフェルトに関する話をしようと、エッケンハルトさんに会いに行くと……開口一番で、呆れ混じりに言われた。


「タクミ殿、フェンリルのやる気が凄いのだが……?」

「あーえっと、昨日のあれで、頑張ったらご褒美が出るってわかっちゃったみたいで」


 昨日のあれ、ハンバーグアレンジをフェリーのご褒美として出したわけだけど、それでフェンリル達は頑張ればまた食べられる! と思っているらしい。

 好評なのはいい事だと思うけど……。

 俺の視線の先には、兵士さんの訓練に付き合うフェンリルが複数、順番待ちのようにして並んでいた。

 並べているのはレオで、一緒に勉強が終わった後と思われるデリアさんとリーザがいるけど――あ、フェンリル世話係のチタさんとシャロルさんもいるな。


 シャロルさんは、俺が雇った使用人ではなくティルラちゃんと一緒に別邸に戻り、そこでフェンリルのお世話をする役目になっているけど、ティルラちゃんが戻るのが延期になっているため、ここでチタさんと一緒にフェンリルのお世話をしてくれている。

 他には、くたびれた様子で地面に座り込む大量の兵士さん達。

 フェンリル達の方は、早く続きをやろうと尻尾を振ってパンティング中……もう少し休ませてやって欲しい。

 さらに村から見物人がいるけど、そちらはまぁ気にしなくていいかな。


「う、うぅ……」

「魔法が、魔法が全然通じない……」

「どれだけ強固な壁を作っても、体当たりで軽々弾き飛ばして突破してくる……」


 俺やエッケンハルトさんに近い場所で、数人の兵士さんがうめきながら話すのが聞こえた。

 それはいいんだけど、できればまず先に顔を洗った方がいいと思いますよ? フェンリルに舐められたせいか、多くの人の顔が涎でべたべたになっているようだし……。


「グルゥ、グルルゥ!」

「ワフワフ!」


 フェリーとレオが、発破をかけるように強く鳴く。

 ご褒美だけじゃなくて、その鳴き声の影響もあってフェンリル達はやる気を出している可能性もあるか。


「……ご褒美、もっと作らないといけませんかね。ヘレーナさん達が大変かもしれませんが、おやつとかもいいかなぁ」

「かも、しれんな」


 これだけ動いているんだし、少しくらいならおやつを上げても食べ過ぎにはならないだろうし、何かしらフェンリル用のおやつとかも考えておいた方がいいかもしれない。

 ご褒美としてわかりやすいしな。

 あと、駅馬が始まったらそのおやつをあげるのも、一つの特典と言うか……誰に対しての特典かはよくわからないけど、ありかもしれない。


「というか、いつもより人が多い気がするんですけど?」

「あぁ、今日は調査に割く人員が少ないためだな。本来は休みを与えるつもりだったのだが、フェンリルもやる気だし、兵士達も意外と乗り気でな」

「それ、休んでいる事にならない気がします……」

「まぁ一度もフェンリルを抑えられていない、というのが刺激になっているようでな。とはいえ、やる気になったフェンリルはさらに手が付けられない様子ではあるが。してタクミ殿、ここまで来てどうしたのだ? ただ訓練の様子を見に来たというだけでもあるまい?」

「レオやリーザの様子をというのはありますけど、まぁそうですね。クラウフェルト商会についてです。一応、開始の目途が立ったので――」


 簡単ながら、エッケンハルトさんに三日後から正式に動き出す、と考えているのを伝える。

 ランジ村で開かれる薬局、レミリクタの事も一緒に。


「ふむ。まだクレアの方は、森の調査が途中なため延期になっていると聞いているが、とりあえずはこの村と、そしてラクトスからという事だな」

「はい。他にも卸し先があれば十分に対応できます。輸送にちょっと日数がかかりますが、公爵家が運営する各街などにあるお店にもですね」

「うむ、助かる」


 クラウフェルト商会として主立って動くのは、直営と言うか目と鼻の先にあるレミリクタ。

 そして、これまで俺が個人としての契約で薬草や薬を卸していたラクトス、カレスさんのお店。

 ただこれだけだと販売網としては小さすぎるし、元々の発端というかエッケンハルトさんの望みである、領内に潤沢な薬草や薬を行き渡らせるという目的は達しない。

 そのため、販売網を広げる役目のクレアが動き出すのは延期としても、ひとまず公爵家が運営するお店に商品を置かせてもらう事になっている。


 とはいえそのお店は、カレスさんの所も含めてだけど元々薬草や薬をほぼ扱っていなかった。

 なので数としては少な目になるし、当然領内に行き渡らせるという程にはならない……専門で扱ってくれるところを増やさないとってわけだ。

 ちなみに、ラクトスにはカレスさんの店とは別に支店として、専門のお店を作る話が進行している。

 こちらは元々ラクトスでは馴染みがあったし、代表のソルダンさんとも知り合いでもあるから話が早かった。


 ただ街の西側にあるカレスさんのお店とできるだけ競合しないように、街の東側に作る事になっている。

 孤児院からも近いし、子供達に何かあった時に使いやすくなってくれると俺個人としても嬉しい。

 まぁ、区画を占領するように近くに複数の同じお店を作る、なんてコンビニ的な販売戦略とかもあるだろうけど、利益を上げるのが優先目的じゃないから、それは考えない事にした。


「わかった、三日後だな。それまでには、もう少し調査に関しても進んでいればいいのだが……」

「果報は寝て待て、という言葉がありますが……今は調査隊の人達が頑張って何かを見つけてくれるのを待つしかないんですよね。それ以外だと、ユートさんやエルケリッヒさんからの続報待ちです」

「そうだな。あまり調査の結果を待つ、というのは性に合わんが今は仕方ないか」


 まぁエッケンハルトさんは見るからに、ジッと待つという性分じゃないのはわかる。

 というか、公爵家の人はほとんど、何かあった時にドッシリ構えて待つのではなく、自分から率先して動こうとする人達だからなぁ。

 行動力があり過ぎるのも困ったものかもしれない。


「それはそうと、タクミ殿」

「はい?」


 三日後の始動を承諾して、話しが変わるような雰囲気と、何やら面白そうなことを思いついた、という表情になるエッケンハルトさん。

 変な事を言われないといいけど。


「以前、フェリーとフェンの模擬戦……内容は人が見る限り模擬戦と言えるかはともかく。それを見たのだったな?」

「え、あ、はい。前に伝えましたけど、俺とリーザやレオ、クレアやティルラちゃんとか一部の使用人さんとかで一緒に見ましたね。かなり激しかったので、確かに模擬戦なんて言っていいのかわからなくなりそうですが」


 地面に小さいながらもクレーターができていたからな。

 あれで魔法を使っていない、身体能力だけのぶつかり合いなんだから、兵士さん達が大勢いても訓練とはいえ勝利できないのも仕方ないと納得する。

 というか、改めて確認してきてどうしたんだろう? その話がもとで、今こうして兵士さん達とフェンリルの訓練に発展しているはずなのに。


「いやな、私も一度は見てみたいと思ってな? 幸いここにはフェンリルが大勢いるし、場所もある。フェンリル同士の戦いなぞ、模擬戦とはいえ簡単に見られるものじゃないどころか、一度でも見ているのは羨ましいと思ってだな……」

「最後のが本音ですね。はぁ……まぁフェンリル達が問題ないならいいですけど。でも、近くにいると危ないので、距離を取って、さらに他のフェンリル達に守られながらになりますからね?」

「うむ、もちろんだ。近くが危険なのは、兵士との訓練でフェンリルの動きを見ていればわかる。鎧を着た兵士が全力で盾を構えているのを、体当たりで軽々弾き飛ばすくらいだからな……」


 俺も見た事があるけど、あれは見応えがあった。

 屈強な兵士さんが、大きな盾を構えてしかも衝撃に備えているのに、簡単に飛ばされていくんだからな。

 まぁその後は、盾という守りがなくなった後方の兵士さんが、フェンリルに舐められまくるというなんとも奇妙な光景になるんだが。


「はぁ、わかりました。レオもいますし、他にもフェンリル達が多くいますから、前よりは安全に見られるでしょうし……ちょっとフェリーに話してきます」

「頼んだ、タクミ殿。兵士達にもいい刺激になるだろう」


 兵士さん達への刺激って、エッケンハルトさんが見たいからというのが一番だろうになぁ。

 あと、調査に出ていてここにいない兵士さんは見られないわけだし……訓練をこの先も続けるとしたら、対峙する事になるため見ない方がいいのか、それとも参考に見ておいた方がいいのかは、俺にはわからないが。


「おーいレオー、フェリー!」

「ワフ?」

「グルル?」

「あ、パパー!」

「タクミ様! お仕事はよろしいので?」


 エッケンハルトさんから離れ、レオやフェリー達のいる方へ近づきながら呼びかける。

 呼ばれたからと、すぐに尻尾を振りながらこちらに駆けて来て、首をかしげるレオは昔から変わらずで、可愛いな。

 フェリーもそれに続き、リーザやデリアさんもこちらに来る。


「仕事の方は、さっきエッケンハルトさんとも話したし、もう大丈夫です。それよりも、フェリーとレオにちょっと頼みがあるんだ。エッケンハルトさんからのリクエストなんだけど――」


 前のように、フェンリル同士による模擬戦というか……まぁ喧嘩ではないから、模擬戦でいいか。

 それをやってくれないかと、エッケンハルトさんから頼まれた事も含めて伝える。

 当然というか、周囲への影響を考えてもう少し屋敷や村から離れた場所になる事や、魔法は禁止というのも含めてだ。


「もちろん、フェリーがやらなくてもいいんだけど」

「グル、グルルゥ!」

「やる気みたいだよ、パパ」

「この時を待っていた、みたいに言っていますね」

「……前に負けたのって結構悔しかったのか」


 リーザやデリアさんの通訳と、フェリーの鳴き声や表情からは、やる気十分以上のものを感じる。

 このためにトレーニングみたいな事もしていたらしい。

 特に、別邸からフェンリルの森に群れのフェンリルを迎えに行った時とか、誰も見ていない所でやっていたみたいだな。

 あと、森の奥への調査隊に参加したのもその一環だとかなんとか。


 群れのリーダーは必ずしも一番強くなければいけない、というわけではないと聞いたが、それはそれとして、負けたままというのは悔しいんだろう。

 結構、負けず嫌いなところがあるのかもしれない――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。


面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。

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