歴史に登場する話の一部を聞きました
「……そのような歴史が……どんな歴史書を読んでも、そのような内容は書かれていませんでした」
「それは当然だよ。あの当時は混乱が極まっていたからね。まともに歴史なんて残すような考えはないし、残そうとしても残らなかっただろうし。それだけ、激しく魔物と戦っていたってわけだね」
人に歴史を残そうとするような余裕がなかった、という事でもあるんだろう。
ユートさん、本当に物語の主人公なのでは? と思う程の経験をこれまでしてきているんだなぁ。
ギフトも何かの主人公らしい能力とも言えるし。
とはいえ、物語の主人公とかは基本大変な事がおおいうえ、ユートさんから話を聞いて想像する限りでも、大変の一言で済ませていいような状況じゃなかったみたいだし、なりたいかと問われると首を全力で横に振るけども。
俺は、レオやリーザ、それにクレア達とのんびりやっていければいい。
起伏の激しい人生は、話の中だけにして欲しいと思うくらいだ。
「単独なのか複数なのか、それすらわからないながらも人にはずっとできなかった事を、軽々と……少なくともこちらから見る限りでは簡単そうに見えるくらいあっさりと、状況を覆したわけだ。それからだね、シルバーフェンリルが人の間で最強だと言われ始めたのは。元々、最強格の魔物だとは言われていたけども」
人がどれだけ抗おうと、追いつめられるだけだった状況を打破したわけだから、そうなるのも当然っちゃ当然か。
魔物の方も、シルバーフェンリルにはやられているみたいだし……何物も寄せ付けず敵わなかったのなら、事実として最強と言えるんだろう。
「その後も色々あって……と言うのは置いておくとして、話しを戻すけど……歴史に残っているシルバーフェンリルとは、何度か僕も会っているんだけどね。もちろん、その全てがこの国を興してからで、ジョセフィーヌさんがいなくなった後だ。ジョセフィーヌさんと一緒にいたシルバーフェンリルは、また別物って事で。あ、別個体って意味じゃないからね。同じなのか別なのか、僕でもわからないけど」
「話を聞いたりは?」
「ジョセフィーヌさんがいないと、細かな話とかできないからねぇ。とりあえず剣を振り回して、あしらわれて終わりだよ」
「……その会ったシルバーフェンリルにも挑んだんだ」
「僕の目標だからね」
無駄な努力、という物だとは思うんだけど……魔法やギフトがなければ、どちらかというと運動音痴気味なユートさんが、身体能力すらとんでもないシルバーフェンリルにかなうとは思えないし。
一応、ギフトもあって戦闘という意味ではラーレすら圧倒できるようではあるけど、結局シルバーフェンリルに勝てないだろうとの事で、ルールとして魔法抜きで挑んでいるみたいだし、そのおかげで周囲に大きな被害が出たりはしないみたいだけど。
そういえば、ユートさんと初めて会った時も、レオにあしらわれていたっけ。
前足でおでこ辺りを抑えられて、子供みたいに刀をブンブン振り回しているだけだった……もしかするとユートさんが会ったというシルバーフェンリルとも、あんな感じだったのかもしれない。
「ティルラちゃんとかリーザちゃんみたいに、僕も話せたら違ったんだろうけどね。まぁともあれ、僕が知っているジョセフィーヌさんと以外で会ったシルバーフェンリルだけど、覚えている限りでは……」
何はともあれ本題、歴史に残っているらしいシルバーフェンリルの活躍というか発見報告というか……覚えている範囲でユートさんがしてくれた。
曰く、魔物が氾濫した際にそのほとんどを颯爽と現れたシルバーフェンリルが、全て倒した。
曰く、森の奥で気持ち良さそうに眠っているのを見かけた。
曰く、良からぬことを企んでいた貴族領主がいた街を、それごと一瞬で消滅させた。
曰く、楽しそうに川を泳いでいた。
などなど、眉唾な物からシルバーフェンリルが最強である事を印象付けるような内容のものまで、千差万別と言えそうなのがあれこれ。
一部は、レオでもできそうとか実際にやっているような内容で、本当にそれがシルバーフェンリルだったのかすら怪しい。
いや、ある意味レオもやっていたからこそ、シルバーフェンリルとしては正しい目撃情報なのでは? という考え方もあるかもしれないな。
「とりあえず、こんなところかな。実際に会った事もあるけど、それはこの国でも各地の色んな場所でのことだね。フェンリルの森付近でしか会っていない、とかだったらおそらくまだあの森の奥にいるんだろう、とか予想はつくんだけど」
「中々凄まじい、ですが本当であれば微笑ましく、そしてレオ様をも彷彿とさせる内容でしたな。ですが、歴史書に書かれている数よりは少ないような気がしますが……」
「あくまで、僕の覚えている事だけだからね。僕が忘れている些細な事でも歴史にあったり、実際は違ったり……割とフラフラしていた頃もあるから、知らなかったりだね。あぁそうそう、これだけは言える事なんだけど……タクミ君が家族を大事にするシルバーフェンリルって言う話から、もしかしたら複数のシルバーフェンリルがいるかもって根拠にしていたでしょ?」
「あぁ、うん」
「あの話ね、実は他ではないんだ。公爵領内の一部、それこそハルトやエルケ、クレアちゃんやその関係者にしか、そういった話は伝わっていない」
「我々公爵家の中では、それが正しく伝わっているシルバーフェンリルとしての生態と言いますか、行動であるとなっているのですが……そうなのですか?」
「うん。まぁあまりシルバーフェンリルが家族をどうか、なんて話す機会はないから、ハルト達も知らないだろうけどね」
「という事は、その話はもしかすると嘘というか、伝わる中で変わった事かもしれない……?」
歴史すら、正しく後世に伝えているのかわからない部分がある。
それが公爵家にのみ伝わっているというのは、口伝の部分も大きくあるようだし……いわば伝言ゲームだ。
伝えて行くうちに形や内容が変わる事だってある。
一人二人ならまだしも、数百年かけて伝わっているもののため、数十人は優に超える数を経由しているだろうからなぁ。
「いや、僕の予想も入っているけど多分その逆だね。よく思い出して、公爵家に伝わっているシルバーフェンリル関連ってさ、誰から伝えられているのかな……?」
そう言って、俺を窺うように見るユートさん。
答えは簡単……というわけで、クレアからの視線も受けつつ答えた――。
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