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異世界転移したら飼っていた犬が最強になりました~最強と言われるシルバーフェンリルと俺がギフトで異世界暮らしを始めたら~【Web版】  作者: 龍央


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185/2006

違和感の正体がわかりました



「では、こちらが今回のお金になります」

「ありがとうございます。おい」

「へい」


 ハンネスさんが、商談を終えて商人にお金を渡している。

 それを受け取った商人は、もう一人いた男に中身を確かめさせた。


「……確かに、確認しましたぜ」

「そうですか……村長、ブドウの代金、確かに頂きました」

「はい。それでは、今回のブドウの方を……」

「ええ、すぐに運ばせましょう」


 近くで見ると、商人の姿がよく見える。

 商人はでっぷり太った体形をしている。

 カレスさんや、ラクトスの街で会った事のある商人と比べると、良い服を着ているような気がするな……遠い場所から来るのに、商人が上等な服を着るのだろうかという疑問はあるが……俺にはわからない理由があるのかもしれない。


 商人の顔は、商談がまとまったからか、笑みを浮かべているが……俺にはその顔がすごく胡散臭く見えた。

 一見すると、商談がまとまった事で笑っているようにも見えるが……何かを企んでいるような笑みに見えるな……。

 もしかすると、感覚が鋭くなる薬草のおかげで、本来見えない物も見えてるのかもしれない……表情の細かい機微とかな。


「おい、例の物を。全部だ。何故かはわからんが、あれは効果が無かったらしい……持って来た奴全てを開放しろ」

「良いんですかい? あれは後で野良にするつもりじゃ……?」

「仕方があるまい。それとも、お前が自ら手を下すか?」

「いえ……わかりました……」


 商人は、もう一人の男に指示を出す。

 ハンネスさんに聞こえないよう、小声で話してる部分もあるが、俺には全て聞こえてる。

 しかし……例の物って何だろう……?

 馬車にはほとんどがオークと思われる気配で埋め尽くされている。

 そこまで考えたところで、俺の勘のようなものが急に危険だと感じ始めた。


「ガラス球を仕掛けた商人……オーク……まさか!」


 勘から来る推測だが、外れてくれる事を祈りながら俺は柵から離れる。

 商人から言われた男が馬車へと駆けよるのと同時だ。


「何者だ!?」

「ハンネスさん、逃げて下さい!」

「タクミ様!?」


 俺に気付いた商人が声を上げるが、それを無視して俺は馬車へと駆け寄る。

 俺の行動に驚いたハンネスさん……だが今はそれに構っていられる余裕は無い。


「ここは危険です! とにかくすぐに逃げて下さい!」


 そう叫んで、俺が飛び出した事に驚く馬車に近い男へと向かっていく。

 途中で持って来ていた剣を鞘から抜き、男へと向ける。


「そこで止まれ!」

「くそっ!」


 男に向かって剣を突き付けるが、人間相手に剣を使う事に慣れていない俺は、躊躇してしまう。

 剣を脅しとして静止を呼び掛けるが、男はナイフを取り出し、俺の剣を弾いてしまう。


「くっ!」

「素人が……死にたいのか?」


 俺の向けた剣が軽々とナイフで弾けた事に、男は俺が素人だと感じたようだ。


「おやおや、何をするのかと思えば……賊が村に紛れ込んでいたようですね。村長、これは問題ですよ?」

「……いや、しかし……」


 商人は、俺の事を賊と呼び、ハンネスさんを問い詰めながらも俺に近づいて来る。


「何をしている。そんな賊に構っていないで、言われた事をこなせ」

「へい!」


 商人は、俺と男の間に入り込みながら、男に声を掛ける。

 男はその言葉を聞いてすぐにまた馬車へと向かう。


「待て!」

「おやおや、人に剣を向ける物じゃないですよ。危ないですからね……しかし、賊にしては素人のように見えますね……」


 剣を持って男を追いかけようとする俺の前に体を持って来て、商人は薄笑いを浮かべながら言って来る。

 素人と言うか、今まで魔物を見た事はあるし、鍛錬で剣を振った事は幾度となくある。

 だけど、人間に向けて本気で傷付けるために振るった事が無いからか、どうしても躊躇してしまう。

 ……日本に生まれて争い事に慣れて無いから……なのかもしれない。


「まぁ、素人でも、賊でもなんでも良いでしょう。もうすぐここには誰もいなくなるんですからね……」

「やめろ!」

「へへ、お前達……出番だぜ」

「「「ギュオォォォォ!」」」


 商人の言葉に、俺は叫ぶが、何も出来ない俺の声なんて聞くはずがない。

 男は馬車に近付き、次々と外側にある鎖のような物を外して行った。

 それと共に、中でオークの叫び声が聞こえ、金属が落ちる音がする。

 ……恐らく、中でオークを繋いでいた鎖かなんかを、一斉に外したんだろう。


「さて、私達はここにいては危ないですからね……離れさせて頂きますよ」


 薄ら笑いを浮かべた商人は、馬車を曳いていた馬に乗り、村から離れる。

 馬車にいた男も別の馬に乗り、走り去って行く。


「くそ!」

「タクミ様!」


 ハンネスさんが叫ぶが、俺はそれに答える余裕は無い。

 本当なら、商人を追いかけたかったんだが……馬車から出て来た数十のオークに睨まれて、それも出来なかった。


「くっ! 仕方ない……ライトエレメンタル・シャイン!」

「ギュオォォォ!?」


 すぐにセバスチャンさんに教えてもらっていた光の魔法を使う。

 俺はレオと違って、こんな数のオークを相手に出来ない。

 すぐさま逃げる事を考え、目を眩ませる事を思いついた。

 幸い、辺りはほぼ完全に日が暮れており、光の魔法はまばゆい光を放ってオーク達の目を眩ませてくれた……セバスチャンさんの教えのおかげだ……ありがとうございます。


「ハンネスさん、逃げて下さい!」

「タクミ様! オークが!」


 目がくらんで動きを止めているオーク達をそのままに、村の入り口で呆然としていたハンネスさんに走り寄る。


「どうやらあの商人は、ブドウの代わりにオークを馬車に積んでいたようです。逃げないと襲われますよ!」

「……わかりました。すぐに村の皆に呼び掛けます! おい!」

「はい、村長!」


 俺の声に頷いたハンネスさんは、ライ君の両親にすぐ声を掛け、それを聞いた二人は弾かれたように村の中へと駆け出した。

 すぐに行動してくれて助かる。


「タクミ様はどうするんですか!?」

「俺は……なんとか皆が逃げるまでの時間を稼いでみます……ハンネスさんは皆を連れて逃げて下さい!」


 オークの数は数十……正確な数はわからないが……俺一人でどこまで時間が稼げるかはわからない。

 だけど、囮になって別の方向に逃げる事で、少しくらいは時間が稼げる……と思う。

 こういう時、レオがいてくれたら……すぐにオークを倒してくれるんだろうけどな……。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。


面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はブックマークを是非お願い致します。


作品を続ける上で重要なモチベーションアップになりますので、どうかよろしくお願い致します。

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