カレーができあがりました
「美味しそうな匂い!!」
「リーザ様、よそ見をしてはいけません。刃物を扱っている、という事を絶対に忘れないようにしましょうね?」
「はーい!」
他方、今はカレーに重要……と勝手に俺が思っているジャガイモの皮剥きをしているリーザが、匂いに反応して大きな声を出していた。
ただすぐに、リーザの皮むきを見ていてくれる料理人さんから注意されて、素直に返事をしていたようだけど。
ジャガイモはゴツゴツしていて皮が剥きづらいんだよな、包丁で手を切らないように気を付けて欲しいけど……。
くっ、リーザが頑張っている様子を見たいけど、今は鍋から目が離せない状況だ……ちょっと悔しい。
いずれ、リーザが頑張って手作りの料理とか食べさせてくれるんだろうか? なんて、先の事を想像しながらカレー作りに没頭してしばらく。
「ふぅ……ここまでくれば、あとは火加減を見ているだけで大丈夫だと思います」
粉状の香料から水気はあるけど、小麦粉が入って少しトロッとしたカレールーが、大きな寸動鍋にたっぷり入っている。
炒めておいた具材も入っているし、ぐつぐつとしているのを見る限り、これ以上手を入れる必要はなさそうだしと、一息吐く。
焦げ付いたりしないように火加減は気を付けないといけないけど。
「完成、という事で良いのでしょうか? 食欲をそそるいい香りを出していますが」
「ほぼ完成、ですかね。このままでも十分食べられると思います」
鍋の中には、リーザが一生懸命皮を剥いてくれた野菜なども入っている。
リーザが皮を剥いた野菜は、初めての事だから皮だけでなく実も削れて小さくなってしまっていたけど、それを別の料理人さんが切って炒めて鍋に投入していた。
食べるのが楽しみだ。
もちろんカウフスティアのお肉も入っているけど……カウフスティアは、俺がよく食べていたカレーに入っているようなお肉と比べたら、高級なお味ではあるけど。
その分、油などが溶けて混じり、深い味になってくれている気がする。
ちなみに、俺が見ている鍋以外にも複数の鍋で、まだ調理中の物もある……終わったのは、最初に取り掛かった俺とすぐにやり方を見て続いたヘレーナさんなどだな。
食べる人数や、フェンリルの事を考えると大量に作るのは大変だ。
これを毎日毎食やっているヘレーナさん達料理人さんには、頭が下がる思いだ。
「ほぼ、とは?」
「カレーっていうのは煮込み料理でもあるんです。なので、時間がたつにつれて入れてある具材からうま味がしみだして、もっと美味しくなったりもします。ですので、ほぼ完成ですね。まぁ好みによって、時間がたった方が好きという人もいれば、できてすぐがいいという人もいますけど」
よく言う、カレーは一晩寝かせたら美味しくなるってやつだな。
確か、寝かせる事でジャガイモなどの野菜からうま味が沁み出し、カレー全体の美味しさが増すとかだったと思う。
だから、ほぼ完成って言ったわけだ。
「アレンジなども幅広くありますし、もしかしたらカレーって完成する事がない料理なのかもしれません。って、これは料理人のヘレーナさんからしてみれば、良くない事かもしれませんけど」
「いえ……つまり、多種多様な作り方、食べ方があって、全てを作り切れないという意味なのでしょう。むしろ、料理人としての腕が鳴るというものです」
そういうものかな?
まぁ作る人にとっての到達点、みたいなのはあるかもしれないから完成する事がない料理なんて、適当な事を言ってしまったかもしれないが。
家庭によっても細かに味が違うし、お店によっても違うし、ヘレーナさんにはいろいろ追及していってほしい所だ。
クズィーリさんに、香料を調合してもらって買う事が定期的にできれば、だけど。
「タ、タクミさん……なんでしょう、初めて感じる匂いなのになんだかすごくお腹が空く気がします」
「わ、私もです。自分で作った香料で、しかもよく使っていたうえに香りも嗅いでいたのに……これまで以上に空腹を感じます……」
「パパ、お腹空いた……」
「ははは、皆我慢できなくなってきているなぁ」
作業を見ていたクレア、クズィーリさん、それに皮剥きを頑張ったリーザがそれぞれ、よだれを垂らしそうな様子で鍋の中にあるカレーを見ている。
皆初めてのはずなのに、かなり食欲を刺激されているのは香りだけでなく、見た目もあるだろうか?
そんな俺も、さっきから我慢しているんだけど……クズィーリさんは魔法の香料と言っていたけど、本当にその通りだと思う。
「じゃあ……ヘレーナさん、あれを行きましょうか」
そう言って、小さいお皿を手に持つ。
「はい、そうですね……皆様にお出しする前に、確かめねばなりません」
キリッとしているヘレーナさんだけど、持っているのは俺と同じ小皿だ。
コック帽と服を着ているので、様になってはいるけど。
ともかく、お玉で鍋にあるカレーをほんの少しだけすくって、手に持つ小皿に……要は味見だ。
もし問題があれば、ここからさらに調整しないといけない。
本当は作りながら調整するものかもしれないが、それは俺が忘れていただけだったりする。
だって、日頃から味見をしながら細かい調節をしつつ、料理をするなんてやって来なかったから。
「では……ん」
「私も……んん……これはっ!」
ヘレーナさんと顔を見合わせ、それぞれが持った小皿に口を付け、カレーを食べる。
具材なしのルー部分のみだから、飲むの方が近いかもしれないけど。
カレーを口に含んだ瞬間、広がる様々な香り、そして強いクミンの香り……早い話がカレー特有の香り。
そして、後からガツンと来る辛さと美味しさ。
アレンジだとか、隠し味だとかは考えていないので、コクや深みなんかはまだまだ日本で食べたカレーと同じとは言えないが……それでも間違いなく、あのカレーそのものであり、美味しい。
……まぁちょっと辛いかもしれないけど。
「強い辛さを感じますが、それに負けない美味しさと様々な香り。強い香りが全てを打ち消すのではなく、それらを調和しているようにも感じます。肉や野菜のうま味も感じられ、融け合い混ざり合っているような……」
目をカッと開いたヘレーナさんから出て来る、味見したカレーの感想。
さすが料理人と言うべきか、俺とは全然違う感想だ。
まぁ味覚が鋭いわけでもなく、ダシの入っていない味噌汁ですら単純に美味しいと感じ、その事に気付かないくらいだから、当然と言えば当然か――。
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