値下げ販売が決定しました
「それでしたら、セバスチャンさん。ラモギに関しての報酬は無くても構いません。……まぁ、この屋敷で生活してる家賃代わりと考えてもらえれば良いですよ」
「そんな……そこまではさすがに……屋敷にタクミ様がいる事で、公爵家としての利益が十分にあるのです。報酬を無しとするわけには……」
「他の薬草で十分に報酬をもらってますからね」
ラモギを格安販売する事で、カレスさんの店の利益が減る事になりかねないからな。
カレスさんが反対するとは思わないが、利益が増えれば気持ち良く販売してくれるだろう……これが悪質な店への間接的な攻撃になるのなら、それで良い。
それなら俺への報酬を無しにして、微々たるものでも利益と考えてもらえば良い。
今でも十分過ぎる報酬をもらってるから、どんどんお金が溜まってる状況だ。
あって困る物ではないが、今の所使い道も無いというのも大きな理由だな。
「ですが……さすがに無報酬というわけにはいきません。それは公爵家との契約に反します……何より、リーベルト家の執事として私の矜持が許しません」
「矜持……ですか」
執事として、色々思う事があるのだろう。
セバスチャンさんは、頑として無報酬で良いと言う俺の提案を受け入れてくれない。
どうするかな……。
「それでしたら、報酬を低くする……という事にしましょう。それでしたら報酬が無いというわけではないので、良いんじゃないですか?」
「……そう、ですな……。確かにそれならタクミ様には報酬を支払っているという事に出来ます。ですが……」
「良いんですよ。期間限定の話なんですよね? それなら、その間だけの話なんですから」
尚も言い募ろうとするセバスチャンさんを止め、俺は低報酬で良いと決める。
こうしないと、いつまでも話の決着点がないからな。
「……ありがとうございます、タクミ様。私がこんな話を持ち掛けたばかりに……」
「これも、契約の内容に入ってるんでしょ? それなら、セバスチャンさんは職務を全うしてるだけですよ。お金はあって困る物じゃありませんが、今の所使う予定もないですからね」
そう言って、話を切り上げる。
元々、俺に黙ってラモギの値段を下げる事が出来ないような契約内容になってるんだ。
俺が無報酬や低報酬で良いと言った事は、セバスチャンさんの責任じゃない。
深々と頭を下げるセバスチャンさんの肩を叩いて、一緒に食堂へと向かう事にした。
長く話してしまったせいで、そろそろティルラちゃんがしびれを切らしてそうだしな……レオやシェリーの方かもしれないけどな。
「タクミさん、遅いです!」
「ワフ!」
「キャゥ!」
「ごめんごめん、ちょっとセバスチャンさんと話をしていたからね」
食堂に入ると、予想していた通りティルラちゃんが、お腹を空かせて俺に抗議をした。
レオやシェリーも一緒になって抗議してるから、相当お腹が減ってるんだろう。
「タクミさん、何か問題でもありましたか?」
「いえ、特にこれと言った事は。後でセバスチャンさんに聞いて下さい」
「……クレアお嬢様には、私から説明させて頂きます」
「そうですか、わかりました。セバスチャン、後でね」
クレアさんは、俺とセバスチャンさんが何を話していたのか気になるようだが、今は夕食が優先だ。
それに、俺からクレアさんに話すと、さっきのように報酬が云々という話で長くなりそうだというのもある。
もうお腹を空かした子供が待ちきれないようだからな。
あ、レオは子供じゃないか……。
「では、頂きましょう」
「はいです!」
「ワフワフ!」
「キャゥ!」
「頂きます」
クレアさんの言葉で、各自食事を始める。
よっぽどお腹がすいてたのか、ティルラちゃんとレオとシェリーは、がっつくような勢いで食べ始める。
それを注意しようとして、諦めたクレアさんが食べ始めるのを見ながら、俺もヘレーナさんの作ってくれた料理を食べた。
ティルラちゃんの食べ方が、少しだけエッケンハルトさんの食べ方に似て来たと思うのは失礼だろうか……。
「タクミさん、セバスチャンから魔法を教えてもらったようですけど。どうでしたか?」
「最初は少し難しく感じたんですけど……何とか初歩の魔法が使えるようになりました」
「タクミ様は、魔法の素質も良い物を持っていると思われます」
「そうなんですか?」
食後のティータイムの時間。
クレアさんから、セバスチャンさんに習った魔法の成果を聞かれた。
初めて呪文を唱えた時は、何も魔法らしいものは発動しなかったが、魔力を知って使えるようになった。
その時セバスチャンさんが、ちらっと言ったような気がするが、俺に魔法の素質とやらがあるのだろうか?
「魔力を感知する能力に優れてると思われます。通常は、口で説明されてもすぐには出来ない事なのですよ。感覚に頼る部分が大きいですからな。クレアお嬢様も最初は……」
「ちょっとセバスチャン!」
「……あれは何年前でしたかな……小さいクレアお嬢様は、私の説明がよくわからず自分には魔力が無いと勘違いなされて……」
「なされて?」
魔力を感知する事は、素質につながるのか……覚えておこう。
俺の素質の話だったのに、セバスチャンさんは楽しそうに過去を思い出して、クレアさんの小さい時の事を話し始める。
止めようとしたクレアさんの言葉にも止まらないセバスチャンさんの顔には、面白そうな笑顔が浮かんでいる。
……完全にクレアさんをからかうモードに入ったな。
俺も興味があるから、セバスチャンさんに問いかけて先を促す。
「旦那様に泣きつきましてな。……あの時は、クレアお嬢様をなだめるのに苦労しました。人間に魔力が無い事があるわけがないのですけどね」
「……あの頃はそんな事も知らなかったのよ……」
「可愛い子供時代だったんですね」
確か、人間が生きるうえで絶対に魔力は必要だとされてるんだったな。
最初に説明されてたはずだ。
それも知らなかった頃のクレアさんは、自分に魔力が無いとエッケンハルトさんに泣きついて、周りを困らせる事があったらしい。
恥ずかしそうにしてるクレアさんを見て、皆で和みながらしばらくゆったりと過ごす。
クレアさんにとっては、過去の恥ずかしい話を暴露されて恥ずかしいだろうけど、俺にとっては昔のクレアさんの事が知れて楽しい時間だった。
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