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宮廷魔術師のお仕事日誌  作者: らる鳥
16歳の章
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通行税と英雄志願3


 ファナの町での出来事から暫く、僕等はあれから幾つもの町を巡り、関所も超えた。

 今はあの街道を大きく曲がり、別の街道を王都に向かって戻る最中だ。

 結果から言えば、あの街道を通った僕の印象は然程好き勝手はしてないなといった物だった。

 横暴な門番等も少なかったし、徴収された金額も許容内だと思う。

 尤もこちらは金銭を大量に持ち歩いてる訳では無い冒険者に扮しているので、金を持っていて尚且つ力を持たない商人に扮したチームはまた別の扱いを受けている可能性はある。


「あ、その実の採取は枝を切ってつけたままにして下さい。実だけで取るとなぜか品質下がるの早いんです」

 護衛として、僕の冒険者に偽装した旅に付き合ってくれているデュッセルに経験を積ませる為の依頼も、ちょくちょくではあるが受けていた。

 今日も森での採取依頼を受け、細かいコツ等を伝授している所である。

 冒険者ならばこの手の技能も持っていれば役に立つ。

 薬効のある植物の見分け方を知っていたから命を拾えたりする事も実際にあるのだ。



「ねぇ旦那。何で旦那はあんな細かく入場税とか調べてたんです? あんなの貴族が勝手に取ってるもんでしょう。なんか駄目なら全部なくしちまえば良いじゃないですか」

 はて?

 一体どうしたと言うのだろうか。此処まで無かった類の質問がデュッセルから飛び出した事に、僕は少し首を捻る。

 勿論真面目にその疑問を解消して欲しいのならば答えるのに否やは無い。


 けれどそれを本当に理解するには、流通、人と物の流れに関する知識と、貴族の必要性についても理解してもらう必要がある。

 人が物を運ぶ意味。其れによって生まれるもの。そして流れが阻害された時に起きる事。

 貴族とは何か。貴族が領土を与えられ統治を許されると言う、つまりは王家から支配を委任される理由。領土統治の義務とは、権利とは。

 説明しようと思えば数日では済まない。旅の片手間に話せる事じゃない。

 それでも本当に知りたいなら僕は語ろう。


 仮にデュッセルが城の兵士や騎士を目指してると言うのなら、それを知るのも為になる筈だ。

 向いてるかどうかで言えばあんまり向いてそうには見えないけれど……、いやでも王都の騎士とかじゃなくて西方伯領の騎士とかなら向いてるかも知れない。

 あそこは色々と特殊で大らかだから礼法とかあまり要らなさそうだし。

 けど彼の様子はそうじゃない。はてさて?



「うーん、一言で言えば仕事だからですね。詳しい理由を本当に知りたいなら語りますけど長いですよ。知りたいですか?」

 どうしても少し上からの良い方になってしまうが、此れは別にデュッセルを馬鹿にしている訳では無い。

 例えば此れは僕が良く通う鍛冶屋のドワーフの名工、グロンに何故そんな剣が打てるのかと聞くのに似ている。

 本当に知りたいのならば聞けば教えてくれるだろう。どんなに物分かりが悪くても、理解出来るまで付き合ってもくれるだろう。

 けれど話の流れで聞いただけなら、彼は溜息一つ吐くだけだ。


 僕はデュッセルが知りたいのは其れじゃないように感じる。何か別の質問をする為に言葉を探して、さっきの事を聞いた気がするのだ。

「だって勿体ないじゃないですか」

 しかしデュッセルの返答は、少しわかりにくい物だった。

 一体何が勿体ないのだろう?

 通行税だろうか。まあ確かに払う方からしたら勿体ないのは判らなくもない。


 しかしあれ等があるから人の出入りがチェックされ、地域の治安維持に役立っていたりもするのだ。

 それに其処で取った税から街道の補修が行われる事も多い。



「旦那は俺より年下なのに、それでもずっと強いのはもう判ってる。最初は城の奴なんて大したことないだろうって内心思ってたけど」

 どうやら違ったらしい。僕の事か。

 僕が年の割りに魔術師としての階位を上るのが早かったのは事実だ。

 それなり以上に努力はしてきた心算だけど、周囲からは才と運に恵まれてると何時も言われた。恐らくそれも事実なのだろう。

 だがそれでもだ。階段を上る足が長かったとしても、自分で上がらなきゃ意味がない。足が短くても、諦めず上り続ければ何かが成せる。


 冒険者としての実力は……、入ったチームのせいである。

 あのチームでは何時も坂道を転げ落ちるような勢いで冒険をしていたから、それに必死でついて行ってたら高位ランクだとか『殲滅』だとかの二つ名がついて来ただけだ。

 仲間に恵まれるなんて運が良いと思われるかも知れないが、それこそあれを運だなんて呼びたくはない。

 死なぬように、それ以上に仲間を死なせぬ様に必死だった。それでも取りこぼしてしまったものだってある。

 僕自身を100%使えるように、それでも足りなければ足りない物を埋めれる様に、常に研鑽して考えて。


 そんな日々が充実してた事は否定しないが、他人にお勧めするかと問われれば否である。

「英雄にだって何時かなれたかも知れない。なのに国なんかに使われてこんな事に使われて、なんでなんですか」

 さて何故だろう。

 確かにアイツのチームに居れば、英雄の介添え人に位はなれたかも知れない。多分英雄ってのはアイツみたいな奴がなるんだろうから。


 でも僕はあそこを離れた。

 最初は未練もあったけど、今はそうじゃない。最初は不満も多かったけど、今はこの仕事が結構好きだ。

 バナームさんやエレクシアさんをはじめとして色んな人に出会えたし、偶然だけどエルフの幼子を、フルフレアを救う事も出来た。

 西方の村や、北西の男爵領や、或いは教会のシスターさん達、彼等の生活を守る一助にもなれただろう。

 今回の仕事だって実はそうだ。人や物の流れが多くて治安がしっかりしていたならば、それだけで他国は攻め入り難くなるのだから。


「多分、英雄よりももっと多くの人を助ける事が出来るからじゃないかと思います」

 アイツは目の前の人を救い続けると思う。アイツが僕の英雄像だ。

 でも僕はもっと広くに手が伸びて、多くの人を助けれるはず。取りこぼしはきっとある。でもそれは知ってる英雄が救うって信じてるから。

 あ、それでも僕も目の前で困ってる人がいたら助けるよ。別に見捨てるとかじゃないですから。


「俺には旦那の言う事がわからねえ。俺はやっぱ英雄になりたいや」

 別にそれでも良いと思う。デュッセルはきっと英雄を目指す方が向いている。

 なれるかどうかは知らないけれど、それでも諦めずにそれを目指すと言うなら、じゃあ次に受ける依頼はもっときつめの物にしてみよう。

 ギルド支部に戻って中位魔獣の討伐依頼とかが出ていれば確保しなくちゃならない。

 道は遠く険しいのだから、潜った死線は多ければ多いほど良い筈だ。


 近ければ寄り道して北西部の男爵領の例のダンジョンで経験を積むのも良いのだが、残念な事に今は仕事中なのでそこまで大きくルートは外れられない。

 帰ったらダンジョンがあるギルド支部への紹介状でも書いて渡そう。

 少しテンションが上がって来た。まずは採取依頼をきっちりこなそう。未来の英雄の一歩の為に。




 本日のお仕事自己評価60点。みちにはおかねがかかるので、あるくだけでぜいきんははっせいします。



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