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宮廷魔術師のお仕事日誌  作者: らる鳥
15歳の章
23/73

ダンジョンの湧いた男爵領、前編1


 保護していたエルフの幼子、フルフレアが居た頃は随分と、仕事に関しては穏やかな日々を過ごしていた。

 しかしその子も親元に返した以上、漸く本当に何時も通りの、仕事に追われる日常が帰って来たのだ。

 すると当然例のアレもやって来る。そう、例の、厄介事ばかりの出張系の仕事が、だ。


「男爵家の領地経営の指導と手伝い……?」

 その話を聞いた時、僕の顔には?マークが浮かんでいただろう。

 だってどう考えても僕の仕事じゃなかったから。


 領土経営は貴族の権利で義務だ。法に違反する行為で領民に圧制を敷いているとかなら兎も角、国から人を送る話じゃない。

 本当に困って助けを求めるにしても、まず寄り親である上位の貴族に頼るべきだろう。

 万一仮に国から人を送る必要があるとしても、領地経営の指導と手伝いなら普通の内務官で良い筈だ。何で僕?



 しかしその案件には僕を派遣するのが妥当なのであろう理由があった。

 聞いた瞬間に断りたさが倍程まで跳ね上がったけど、仕方ないなって納得してしまうだけの理由が。

 件の男爵、ゴートレック男爵領は王国北西部の中でも、少し西方寄りに位置する辺境の地だ。

 そこから北西には未開地があり、更に先には魔族の住むと言う魔領があると言われてるので結構な危険な地域である。


 当然その辺りの地域の貴族の多くがそうであるように、ゴートレック男爵も武人よりの人物で領地経営はお世辞にも上手いとは言えない状態だった。

 けれど領土もそんなに大きくなく、好き好んであの地域に住みたがる人間も然程居ないので、土地からの収穫物だけでもこじんまりやるなら問題は無い。

 問題は、そんな男爵の土地にダンジョンが湧いた事だった。



 迷宮、ダンジョン、どちらも同じ物を指す言葉だが、此れは謎の多い存在だ。

 この王国にも幾つかが存在している。

 ある日突然そこに現れ、そして数百年もすれば消えてしまう。

 同じく冒険者の探索対象となる古代の遺跡とは違い、ダンジョンは生きているとさえ言われている。

 ダンジョン内はたまに構造が変化するので正確な地図が作れない。ダンジョン内で倒した魔物は、その一部、ドロップと呼ばれる物以外はダンジョンに再吸収されて消えてしまうのだ。

 ダンジョンからは貴金属や、剣や鎧等の武具なども発見される事がある。一定階数ごとに階層ボスが存在する等の、不思議なルールの様な物まである謎の存在。


 はっきり言って不気味でしかないのだが、内部の探索で得られるメリットも多いので冒険者の探索場に適している。

 ダンジョンの完全踏破は物語の中にのみ登場する伝説だが、それでもダンジョンに夢見る冒険者は多い。

 と言うか、誰かが探索してある程度ダンジョン内の魔物を倒さないと溢れて出て来たりするので、ダンジョンが湧いたなら管理する事は必須になるのだ。


 何の経験も無い貧乏男爵にこれは正直手に余る。

 発見後すぐさま寄親である周辺貴族のまとめ役である子爵に泣き付きはした。

 けれどその子爵にしてもそんな話は手に余ったので更に伯爵に泣き付き、その伯爵が相談した相手が西方辺境伯だった。

 西方辺境伯は何とかしてみせると彼等を宥め、そして国に僕を指名で派遣するように要請したのだ。



 ちょっと笑える。西方辺境伯とは会った事があるので、どんな顔でそれを言ったのかが少し想像出来てしまったから。

 何で僕の名前を出すんだろうとはやっぱり思わなくもない。長期出張は確定だし。

 けど、けれども、本当は辺境伯には例えば様子見をする手もあるのだ。ダンジョンが出た土地を、その地の領主が管理出来ないのなら土地替えの理由には十分なる。


 管理出来ない領主にとっては厄介事の劇物でも、管理出来る領主にとっては富を生み出す宝の山だ。

 領地替えを決めれば、もっと自分に近しい子飼いの貴族を送り込んでから支援を存分に注ぎ込む。

 そんな手もあった筈だ。そのくらいの政治力はあるだろうし、と言うか普通はそうする。


 でもそれをしなかったのは、一つはダンジョンが未管理の期間を少しでも短くしてリスクを減らす、地域の領民の為だろう。

 そして二つ目は、男爵の気持ちを汲んだのだろうと思う。

 領土は貴族にとって命とも言うべきものだ。自分で切り開いた物でも、先祖から守って来た物でも、思い入れは当然にある。

 領地替えで代わりの土地を貰えたとて、それで良しとはし難い筈だ。

 故に西方の、マルクス辺境伯はゴートレック男爵に手を差し伸べた。

 あの人が周辺貴族に人気があるのは、多分その辺りの頼れる性格が関係しているのだろうと思う。



 出張仕事の時は何時もそうだが、仕方ない。

 僕を望む人がいて、僕に向いた仕事があるなら、充分に僕が行くべき理由になる。

 僕はある程度の調査や内政業務が出来て、何より冒険者だったからダンジョンに関しては詳しい。

 状態さえ整えれば交代の人員が派遣されるはずだから、僕がやるのはダンジョンの凡その把握や管理体制を決めたり試算したり、まあその辺りだろう。


 数か月、或いは半年、……大分かかるかなぁ。

 本当は、16の誕生日は王都で迎えたかったのだけど、ま、良いかな。

 とは言え王都を離れる前にやって置くべき事はある。

 それはお世話になってる皆への挨拶……では無く、それも後でやるけれど、今回の仕事の為にとても重要で必要な事だ。

 簡単に言えば、今回のダンジョン発生の件で舐めた態度を取ってる冒険者ギルドを締め上げる事である。



 本来ダンジョンが発見されたなら冒険者ギルドはすっ飛んで行く。

 その土地の管理者に積極的に協力する事で、ダンジョン用のギルド支部を出す許可を得る。

 そしてダンジョンから出た素材を買い取る際の税率や、冒険者用の宿の誘致等にもギルドが噛む等、少しでも優遇されるようにあの手この手を尽くすのだ。


 だが今回何故それをしていないか。冒険者ギルドがダンジョンの情報を未だ掴んで無いなんてことは無い。

 男爵から子爵に、子爵から伯爵に、それからやっと辺境伯に、辺境伯から国になんて回って伝わっている間に、ギルドはとっくに知っている。

 なら結論は一つだろう。ゴートレック男爵が管理出来ずに土地替えされるのを待っているのだ。

 次の貴族が来てから行った方が、媚びを売る相手も一人で済むし、注ぎ込む資金も無駄にならない。


 要するにゴートレック男爵を、そして西方の雄であるマルクス辺境伯を舐めていると言う訳だ。

 うん、そりゃ舐めるよね。辺境伯が男爵を助けに走るなんて思わないだろうし。

 気持ちは判らなくないのだけど、僕は今回男爵側なので冒険者ギルドには少しだけ泣いて貰わなければならない。


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