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宮廷魔術師のお仕事日誌  作者: らる鳥
プロローグ
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プロローグ2

 13歳の時に国の魔術師養成機関、通称『学園』を首席で卒業した僕は2年間を冒険者として過ごした。

 そして半年ほど前に起きた魔獣の大暴走、スタンピードにて仲間達と共に多大な功績を上げたと評され、その際に宮廷魔術師へのスカウトを受けたのだ。

 魔術師の端くれとして宮廷魔術師への憧れは当然あったが、僕は当初この話は断る心算だった。

 宮廷魔術師に誘われる位だから、少しはうぬぼれても良いかなって気がするので言うと、僕は冒険者の魔術師として優秀な方だったと思う。

 何よりパーティのメンバーが凄かったから、僕が抜けた後に彼等についていける様な魔術師は、知ってる冒険者の中には存在しなかったのだ。


 けれどそんな僕を仲間たちは説得した。

 蓮っ葉で素直ではないけれど本当はとても優しい盗賊の少女には背中を思い切り叩かれた。

 如何にも清楚と言った外見なのに実は鋭く毒を吐く女神官は、でもその時ばかりは優しく僕の頭を撫でながら諭した。

 そして幼い時から近くにいて、多大な迷惑もかけられたが本当のピンチにはいつも助けてくれた3歳年上の幼馴染の戦士のアイツ、親友のアイツが、眼前の魔術師としての大冒険から逃げるなとか偉そうに言ったのだ。


 彼等はそれと無く察していたのだろう。

 学園時代に比べて冒険者としての日々は充実していたけれど、魔術の研究が進まない事に僕が少し悩んでいたのを。

 僕は元々、魔法陣魔術や付与、魔術具作成の方にも強い適性があったから。


 実際、スタンピードでの活躍、あの『殲滅』とか言う仰々しい物騒な二つ名をつけられる事になった件でも、活躍したのは魔法陣を用いて準備した大規模魔術だった。

 防衛線を迂回して町を襲おうとした別動隊を、仲間達に誘導して貰って閉所を通る際に爆殺したのだ。

 あのやり口はきっと、冒険者としての領分を少し逸脱していたのだろう。

 僕としてはあちらこちらで色んな女性に親切にして好意を向けられる割りに、仲間二人からの感情には疎いアイツが、僕のフォロー無しだと何時か刺されるんじゃないかって心配だったりもしたけれど。

 そうして僕は宮廷魔術師に召し上げられた。




 宮廷魔術師となった僕は第七席を預かる事になる。本当は十までの席が用意されているが、そこに座る条件を満たせる人間は中々現れないのだそうだ。

 しかし僕はその時まで知らなかった。宮廷魔術師とは、具体的に何をすれば良いのかと言う事を。

 何となく『魔術の研究をしたり魔術具の新開発をしたりすれば良いのかな?』程度に考えていたのだ。

 けれど僕を待ち受けていたのは積み重なった内政業務だった。

 そう宮廷魔術師は貴族にも伍する権力を持つけど、その権力は王のご意見番としてだけではなく実際に国政を差配する事で得られる類の物だったのだ。



 何故こんなに世知辛い事になっているのか、これには何でも数世代前の第一席、つまりは宮廷魔術師長が絡むらしい。

 当時この国の政治は荒れに荒れて居た。国の政治を握る大貴族達が私欲を肥やす事と、権力闘争に終始していたから。

 国内の貴族達の多くが何れかの派閥に所属し、互いの足を引っ張り合い、或いは暴虐に振る舞った。

 敵対派閥を陥れる為だけの法律が施行される事すらあったそうだ。派閥の力関係が逆転すれば力を誇示する為にそれまでとは真逆の法律が施行される事も。

 時の王もそんな状況を苦々しくは思っていたらしいが、長く続いた貴族家は王家とも幾度となく血の交わりを持っており強いしがらみに縛られていた。

 何よりその時の宮廷では暗殺が横行しており、下手に動けば王といえども命が危ない状況にあったのだ。


 しかしそんな王を見かねて立ち上がったのが件の第一席、今も王宮の歴史に名を遺す傑物であるヴィクトレッド様だ。

 今も大賢者と称賛される彼は、名目ばかりになっていた国政における最終的な決定権を持つのは王である事を徹底させた。

 そしてその上で宮廷魔術師の役割であった王のご意見番と言う立場を拡大し、全ての案件は王の前に先ず自分を通す事を大臣達に要求する。

 国内の権力を王に集め直し、更に自らを王の盾としたのだ。


 

 無論普通に考えて貴族達は抵抗する。

 しかし嘗てはドラゴン討伐者ですらあった彼は、冒険者時代に溜め込んだ莫大な富と知恵、そして理不尽なまでに巨大な魔術の力で全てを黙らせて強引にその改革を押し切った。

 此れがこの国の民なら誰もが知る改革、宮廷魔術師長ヴィクトレッド様の偉業である。

 ヴィクトレッド様が宮廷魔術師長の座にある間に返り討ちにあった暗殺者は数えきれないし、取り潰された貴族家もまた多い。

 世が世なら悪の魔術師による国家乗っ取りの案件なのだが、当時の荒れ切った政治を立て直した彼を国民は諸手を上げて称賛した。




 そしてヴィクトレッド様引退の後も体制は多少の変化をしつつも引き継がれ、数世代後の後輩である僕は書類作業に埋もれているのだ。

 うっそだぁ、魔術師が国政やってるなんて、絶対大げさな話だと思っていたのに……。

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