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宮廷魔術師のお仕事日誌  作者: らる鳥
15歳の章
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王都での仕事・区画整理の後に出来る物


「まぁ学び舎、ですか?」

 僕の言葉にシスタ―・カトレアが驚いたように口に手を当てる。

 前の区画整理に絡む案件の解決から数日後、僕は再び件の教会を訪れていた。

 無論此処に来たのは仕事の為だ。仕事をさぼってお茶を飲みに来たのではない。


「はい、と言っても『学園』みたいな大仰なのでは無く、地域の、ご両親が忙しい間に子供達を預かって読み書きや数字、あとは女神様のお言葉等を教える場所にしていただきたいです」

 僕は一口、お茶請けのお菓子を口に含む。あ、このマドレーヌ美味しい……。

 前回の案件は無事に解決を迎えていた。

 当代のバルバロッサ伯爵は噂に違わぬ人物で、僕に対しても丁重に詫びの言葉を入れた後、確たる対処を約束してくれたのだ。

 嫡男たる子爵殿は徹底した再教育、それでも改善が見られぬ場合は廃嫡となるし、ワイアース商会も借金の返済と共にバルバロッサ伯爵家との取引を大幅縮小されている。


 とは言え、だ。

 当代、まあ次代も、バルバロッサ伯爵家がこの教会に何らかのアクションを起こす事は無いだろうとしても、火種は鎮火しただけで無くなった訳ではない。

 僕は一度関わったからには、この教会のシスターさん達には将来的にも不安になるような事なく過ごして欲しいと思う。

 なので問題解決ハイ終わり。にはしたくなかったのだ。

 バルバロッサ伯爵家にも、そしてこの教会周辺の土地を手に入れていたワイアース商会にも、既に了承はとってある。

 あまり素直に首を縦に振った訳では無いけれど、バルバロッサ伯爵と一緒に許可を迫ったらワイアース商会長は涙目になって許可してくれた。


「えっと、勿論お話は嬉しいのですけど……、私達に出来ますでしょうか?」

 自信無さげなシスター・カトレアに、僕は笑顔で頷いた。

 だって教会関係者って基本的にインテリが多いからね。此処のシスター達もそうなのは、以前の話の受け答えで大体判ってる。



 僕の計画は、以前提出された区画整理申請の対象となる土地に、新しい教会を併設した学び舎を作る事だ。

 バルバロッサ伯爵家とワイアース商会から、国が土地を買い上げて教会に貸し出す。

 国の慈善事業枠と言うか、大地の女神教に対する奉仕アピール枠と言うか、上手くは表現できないが、そういう枠があるので資金も問題無く確保できた。

 もし取り壊しの最中にバルバロッサ伯爵家の本当に隠し資産が見つかれば、それは伯爵家に返還した後、過去の処分に従って一部を国に納めて貰う。

 そうすれば未来の火種は完全に消えるし、バルバロッサ伯爵家も過去の因縁の清算が出来る。


 教会が作られた例の経緯も、土地と伯爵家が関係なくなり、教会自体が新しくなってしまえば無責任な他人の色眼鏡を恐れる必要も無くなるだろう。

 何よりこの地域にとってのメリットも大きい。

 働く親達も、子供達に薄暗い町を駆け回られるよりは、安心出来る場所に預けたいと考える人もきっと少なくはないだろう。

 勿論前回の区画整理申請の問題点だと感じた道の問題は、少しずつ手を付ける必要があるのだが、其れは僕の仕事が増えるだけの話である。

 バナームさんは多分手伝ってくれるし、お茶も御馳走になってるし、シスターさんも安心だろうし、この地域の為にもなるし、やりがいのある事だ。



 要するに後は、未経験の事にシスターさん達が挑戦出来るかどうかだけなのだけど、僕からそれを押し付ける事はしない。

 もし断られたら、仕方ない。バルバロッサ伯爵とかに頭を下げて無かった事にして貰うだけだ。

 話の段取りはつけて来た。判らない事は答えるし、問題があるなら解決に尽力するだろう。

 学び舎に関しては人の派遣だって可能だ。補助金枠の確保の算段だって済んでいる。

 だから後は、シスターさん達が決める事。

 シスター・カトレアを中心に、真剣な顔で相談する彼女たちを、僕は笑顔で眺めるのみだ。


「あ、あの、本当に私たちでよろしいのでしたら……」

 相談を終えておずおずと、けれど目には光を湛えて、シスター・カトレアが前に出る。

 勿論、僕は良いと思ってます。

 だって貴女達は前回も、そして今回も、身分を明かしたとは言え、ずっと年下の僕の話を真剣に聞いてくれた。ただの一度も侮る事なく。

「やらせていただきたいと思います」

 強い言葉に、僕は満足して一つ頷く。

 これから暫くは、とても忙しくなるだろう。でも今はとても嬉しい。

 来て良かった。頑張って良かった。頑張ろうって思える。


 だから最後に、

「すいません、お茶のお代わりお願いします」

 もう一杯だけお茶を飲みたいです。




 本日のお仕事自己評価100点。たまにはまんてんっていいたいきぶんです。



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