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宮廷魔術師のお仕事日誌  作者: らる鳥
15歳の章
11/73

王都での仕事・区画整理と古い教会1


「はぁ、旧市街の区画整理の申請ですか」

 書類作業がひと段落ついた昼下がり、僕は部下にあたる内務官の一人から相談を受けていた。

 何でも一度僕が却下した旧市街の区画整理を許可する様にと再三の要請が来ているらしいのだ。

 そう言えば何か、西方への出張の前にそんな書類を処理したような記憶がある。

 確か理由が不明瞭だったから却下した筈だけど、何でだろう?

 別に意地悪で却下した訳じゃないのだから、何故その区画整理が必要なのか、メリットとデメリットを説明してくれたら普通に通すのだけれども……。


「うーん、バナームさんは何て仰ってるんです?」

 困り顔の内務官だが、判断基準が無ければ僕も困るのだ。

 取り敢えず信頼する補佐官にして先生でもあるバナームさんの名前を出してみる。

 けれど、するとその内務官は顔を近づけ声を潜めて、

「ニュート補佐官は『要請に貴族の影があるので一般内務官は関わらず、セレンディル様に全てをお任せする様に』と」

 僕の耳元で囁いた。

 ……何だろう、何だかとっても厄介事感。



 ともあれ現場を見ない事には何も判らない。

 書類から見る限りは不明瞭な事が多すぎる。角度を変えて多方向から見ることで先ず話の輪郭を掴もう。

 外出用の外套に袖を通して城から出た僕の肩に、1羽のカラスが舞い降りた。

 僕の肩を宿り木代わりにして、銀髪を啄んでじゃれて来るこの人懐っこいカラスの名前はカーロで僕の使い魔である。

 魔術で知能や精神を強化した動物とパス(精神の繋がり)を通す事で作成する魔術師の従僕で、精神の接続時には遠距離での意思のやり取りや視界の共有を行う事も可能だ。

 果てしなく便利な術ではあるが、反面使用には危険も伴い、精神の接続中に使い魔が傷付いたり死んだりすればそのダメージは主である魔術師も共有する事になる。

 使い魔を持つ事で初めて導師(他者に正しく魔術の手解きが出来る者)の資格を得る事に挑戦出来る、謂わば魔術師としてのステータスだ。


 ちなみに使い魔として人気の動物は猫やフクロウ。カラスや蛇もそれなりにメジャーだが少し変わり者が選ぶとされてる。

 まあ外套やローブを羽織って杖持って、何らかの動物を連れてる人はほぼ9割9分腕の良い魔術師だ。

 要するに使い魔を連れ歩くとそれなりに目立つのだが、僕の場合は後ろにドグラがついて歩いてるので今更である。

 厳つい竜牙戦士程目立つ存在は中々お目にかかれない。

 それに、やっぱりシティアドベンチャーに使い魔は欠かせないモノだから。



 賑やかな新市街を抜ければ静かな、枯れた風情を漂わせる旧市街へとたどり着く。

 新市街の活気ある明るい雰囲気も良いけれど、薄暗いのにどこか優しさを感じさせる旧市街も僕は割と好きだったりする。夜はちょっと怖いけど。

 旧市街は住居の間隔が詰まっているので道が狭く、日の差し込みが悪い為に死角となる部分が存在するのだ。

 当然治安の良さも新市街に比べると少し落ちる。道が入り組んだ場所も多く、警邏の人間の目も届きにくかったりもする。

 区画の整理や再開発をしたい気持ちは当然判らなくも無い。判らなくもないのだけれど……。


 旧市街を歩く事しばし、僕が辿り着いたのは古い教会。そう、古いけれど敷地は割と広い教会だ。

 この教会と周囲の建物の幾つかを壊し、その跡地に倉庫と大型の商店を造る事で周辺地域を活性化させる……と言うのが申請された案件だった。

 だけど此処まで歩いて来てみてやはり思う。どう考えてもおかしいと。

 此処に倉庫や商店をつくっても、不便なだけなのだ。勿論周辺の人が新しい商店を利用する事は当然あるだろう。


 けれどそれは狭い範囲だけの話でしかない。

 活性化を図るなら人を呼ぶ為に広く道を整備する、もっと大掛かりな区画整理が必要なのだ。

 そもそも商店への商品搬入や、倉庫に置く物資運搬にも道は当然必要の筈。

 つまり案件を申請した者はこの話に本気で取り組む気は毛頭ない。敢えて区画整理と言う名前を使える最小の規模で申請して来ている。



 僕はため息を一つ吐き、教会へと視線を向ける。

 間違いなく、話の焦点はこの教会だろう。

 この国で信仰される神は大地の女神。この教会も例外じゃない。

 教会とは、大地の女神に人の声を伝える神聖な場所だ。例え土地の持ち主でも一度建てた教会を勝手に取り壊す事は許されない。


 けれど大地の女神は慈悲深い神である。本当に必要であるのなら、ご自分の教会を潰す事も敢えて飲み込んでくださる優しき神だ。

 故にこの国では名目と公の許可があれば、教会を取り壊す事も可能なのだ。

 例えば旧市街を活性化する為の区画整理、等の名目があれば。


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