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第2話:AND・Prologue―それが繰り返される悲しみの始まり―

「調子にのるんじゃねぇよ!この出来損ないがっ!」

怒声と共に降り懸かる拳に吹き飛ばされながら、ぼんやりと考えてみる。

(何で殴られてるんだろ?) 吹き飛ばされ打ち付けられた背中からの衝撃に、殴られた頬の痛みが更に増す。見上げると軽蔑と怒りが混じった眼差しを向けてくる少年の姿が見える。ふざけたかの様なオレンジに染め上げた髪をツンツンにたて、目付きの非常に悪い少年。制服―ブレザーに付いているワッペンからみて同じ高校二年生なのがわかる。

「お前の様な出来損ない、無能力者が同じ学校にいるだけで迷惑なんだよっ!」

ガッと顔に打ち付けられる足に理不尽なものを感じながらも、大体の怒りの原因に検討をつける。

「ああ…咲耶と仲良しなのが気に入らないのか」

その言葉に少年―竹中隼人は顔を歪める。

(はぁ。今更だよな)

心の中で盛大に溜息をつきつつ竹中を見上げる。

(確かさっき咲耶の乳を揉んだ時にコイツいたよな?)人一人殺せる様な回し蹴りを咲耶に浴びせられ吹き飛んだ時に顔を見た記憶がある。

「何でお前みたいなクズに神那岐が構うんだ?」

イライラした表情を見せながら睨み付けてくる竹中に

「俺に惚れてるんだろ?」

ニヘラッとあまり締まりのない顔をしながら言った瞬間に腹を蹴られる。

「ぐはっゲホッゴホッ!」「ふざけるなっ!単なる幼なじみと言うだけで、でかい顔しやがって!」

ギリッと歯を噛み締め、まるで親の敵を見るかの様な眼差し。

「知るかよ。そんなに気になるならテメエで聞けよ」

「うるせぇっ!お前見てたらイラつくんだよっ!」

怒声を繰り返し腹を蹴り続けられる。呼吸困難に陥りながら周りを見渡すと、遠巻きに見物している生徒達の瞳には、同情憐れみの他に蔑みの色が見られる。

(…そんな風に見られても慣れてるけどな)

「なんとか言えよゴミっ!」

「…なんとか」

痛みに声が掠れながらも、おちょくる様な台詞に

「…死にたいらしいな」

竹中の顔付きが変わる。全身から殺意がビンビンと伝わる程だ。おもむろにこちらに右腕を向け何か意識を集中させている様を見せると、ユラリと陽炎のごときボヤケが見え始め、次の瞬間右腕がオレンジ色の炎に包まれる。竹中の頭と同じ色の炎。それを今にも振り下ろさんばかりの形相で睨み付けている。

(おいおい。マジかよ…)

「真性の無能力者が俺に、Cクラスに逆らうとどうなるか教えてやる」

「出来れば遠慮したいんですけど…」

「死ね!」

炎が一際大きく燃え上がり体を舐め尽くさんばかりの勢いで迫って来た瞬間、白い光りが竹中の右腕―炎に襲い掛かりそれを喰らい尽くし、同時に誰かが視界に割って入ってきた。

「っ!?」

「助かったよ咲耶」

間に入って来た少女―咲耶に礼を言う。腰まで届く長く綺麗な黒髪。身長は160Cm程だろうか。陶磁器の様な白い肌に目鼻立ちがはっきりとした小顔の美少女。ブラウンに光る勝ち気な瞳を今は心配そうにしながら見つめてくる。

神子斗(みこと)大丈夫?」

「死にかけ5秒前…パンツ見せてくれたら生き返るかも」

倒れている体勢をこれ幸いとスカートの中を覗きこもうとした神子斗は

「!!?」

「ぐぇっっ!?」

咲耶に顔を踏み付けられ、潰れた蛙の様な鳴き声をあげる。

「おまっ…トドメさしやがって!」

「それだけ元気なら大丈夫でしょ」

顔を押さえのたうちまわる神子斗に、先程の心配気なのとは違うツンとした表情を見せるも、意識を切り替え眼前の竹中を睨み付ける。

「どう言う事かしら?返答しだいじゃ許さないわよ?」

咲耶からたたき付けられる凄まじい闘気に勝ち目がないと悟った竹中は顔を歪めながら吠える。

「くっ…何でもねぇよっ!おい天宮!命拾いしたな!女に助けられて情けねぇがな」

肩を怒らせながら去っていく竹中に溜息をつくと咲耶が呆れ半分の表情を浮かべながら神子斗を見つめてきて。

「まったく神子斗…あんた弱い癖にいつも問題起こすんだから」

はぁっと溜息を零し神子斗に手を掲げると、白い光りが体を覆い痛みが引いていくのを感じる。

「弱いから問題起きるんだよ」

この学校。星陵王華学園で最強者の一人である咲耶にボヤキをぶつける。能力値B+。学生では、いや世間でもそういない二つ名、虚無〈ゼロ〉を持つ彼女と比べて偉い違いだ。全ての(厳密には違うが)力をキャンセルし、また破壊された物質や怪我までもある程度は無かった事に、つまりゼロにしてしまう力。しかもそれだけではなくキャンセルつまり喰らった力を己の力に変換し、肉体強化やそのまま操る等出来る非常に稀有な力だ。扱いでこそB+となっているが、使い方次第では一応人類最高値とされるAクラスにも匹敵する存在なのである。

「さぁもう痛くないでしょ?愚痴愚痴言わないで、さっさと起きて。次の授業始まるわよ?」

「はいはい」

起き上がると制服に付いた埃や足跡を叩きながら咲耶に呟く。

「なぁ…何でこんなに弱いんだろ」

今まで何百何千と繰り返して来た台詞。しかし、どうしようもなく変わらない厳しい現実に咲耶は答えることが出来なかった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

今から五十年程前。いたって普通の日常を描いていた世界はガラリと様相を変えた。その原因は正体不明の《力》の顕現である。目に見えなき存在であった《力》は顕現することにより様々な現象を起こした。魔物・妖怪・精霊・妖精等と言ったお伽話の世界でしか存在しなかった生き物達の出現。またそれと同時に例外なく全人類に与えられた未知の力もだ。

当時突如現れた魔物や未知の能力に世界は未曾有の大混乱に陥り、疑心暗鬼に捕われた世界のお偉方が魔物・人関係なく大戦を引き起こした程である。

皮肉にもあらゆる生物を巻き込んだ大戦のお陰で科学力と能力の解明が飛躍的に伸び、各都市が独自に魔物や能力犯罪者から自衛の為に優秀な能力者・科学者を囲い守る形になることで戦争は鎮静化していった。もっともその爪痕は大きく復興にはかなりの年月を費やしたのだが。それから半世紀以上経った現在でも《力》の顕現理由は解明されておらず、真相は今だに闇の中となっている。

もっともなかなか解明されない理由は現実問題として《力》の正体や顕現理由より切実な問題があると言う事の方が大きい。それは人類以外の生物達や能力犯罪達の脅威だ。腕の一降りで町を破壊してしまう程の上位の魔神。また能力に溺れ犯罪に走る輩達の脅威は平和を願う一般の市民達にとっては最大の悪夢なのだ。

ここ数年は上位の魔神達の活動はあまり目立たず都市が丸々消える様な事件は起きていないが、それを除いても脅威があるのは現実だ。各都市は競う様に治安組織・研究施設等を作り上げている。神子斗達がいるこの街―愛染町にある神那岐天宮総合研究所もその一つだ。世界でも有数の研究施設であり、また神子斗と咲耶の両親が共同で作り上げた施設だ。何しろそこの長女が世界有数の力を持つのだから両親達の評価も相俟って知名度はかなり高い。そして知名度が上がる原因は神子斗にもある。顕現始まって以来の無能力者。本来無能力者とは力の低い干渉力がほとんどない人を指す言葉だ。例えスプーン一本曲げられなくても…何も出来なくても厳密には力が備わってない人間は存在しないのである。―神子斗が生まれるまでは。

人に現れた《力》の形は色々違えど、元のエネルギーは一緒である。

少なければ機械を使い上げる等と、やりようによっては出来るのだが神子斗は出来ない。

真の無能力者なのである。

もちろん両親や周りのスタッフは必死になって神子斗を調べた。何しろ《力》がステータスの世の中である。他の生物達の脅威もある。何より全人類が持ち得るはずの《力》がカケラも無いと言うのは簡単に言えば人間失格の烙印を迄押されかねないのだ。

しかし努力は報われず、肉体・精神・魂・霊に至まで調べ尽くしても何も変わらなかった。未来予知100%の能力者《全てを視る者》や能力付加置者《与える者》と呼ばれる特殊な能力者達の力を借りても、神子斗の未来は100%能力は顕現せず、またどうやっても能力をエンチャントする事は出来なかったのだ。機械やエンチャント等は、元々微々たる《力》でも無ければ増幅、付加できず例え《力》を物質に与えても能力がない神子斗には扱えないのだ。よって初めて神子斗は全人類いや全生物の中でも再下位、彼の為に作られた新たな位Zクラスを与えられる不名誉な結果となった。本来アルファベットのG迄しかないのだが、最も低い者として蔑みを含めて特別に付けられたのだ。それならせめてと体や頭を鍛えようと周りの大人や本人も頑張ったのだが、悲しいことにそちらも才能があまり無く今に至る訳である。神子斗がグレる事なく(少々卑屈ではあるがそれは仕方ない事だ)育つ事が出来たのは、本人の生来の脳天気さと、一重に周りからの深い愛情のお陰とも言える。

各々に与えられる能力値の値はAAAからG-迄。

A以上AAから上に至ってはSを称される事があるが今の所人類にはAクラス以上の存在はいない。

そもそも、このクラス分け事態があまり正確ではないのだ。

《力》の値はそれがどんな能力であれ、特異性や影響力、その《力》が示す範囲・パワー、スピードと言った物の総合で決まる。例え街一つ消し飛ばす能力があっても他が何も無ければランクは総合的に低くなるのだ。先にあげた《全てを視る者》などが良い例となる。《全てを視る者》の場合その特異性のおかげで二つ名を与えられる名誉を得ているが、ランク自体はC+と(世間では上位ランクなのだが)二つ名を持つ割には低い。

CそれもBクラス以上の上位者になってくれば、戦闘になれば例えランクが相手より低くても、咲耶の様な特異な存在ならば駆け引き次第ではAクラスにも負けないのである。

最もこれは上位者だけに当て嵌まる事でありD以下にはあまり当て嵌まらない。いくらいい加減なランク分けとは言えど力の差があるのは当たり前なのだから。ただ、人外の存在達に対してはランク分けが厳しい状況となっている。例え同じクラスだとしても元の存在が違うのだ。体力・腕力・速力等、純粋に人類とは一線を引いているし、《力》とは関係ない生物としての未知の能力が占める所が多い。一応彼等・彼女等にも同じ規準でクラス分けがされているが、これこそあまり当て嵌まらない。よってもし遭遇しても逃げるが勝ちなのである。まぁ何ともいい加減なランク分けなのだが、《力》がカケラも無く、また体術・勉学等あらゆる素質に恵まれなかった神子斗にすれば、例えいい加減でも羨ましい限りで、子供の時はよく泣いていたものだった。彼が誇れる物と言えば、親譲りの綺麗な顔立ちくらいなもの。それにしたって絶世の美少年と言う訳ではなくあくまで美少年に納まるかどうかと言った程度のものなのだから。


神子斗は思う。

生きているだけで幸せだと言うが生きている意義が見出だせ無いのなら、姿形が同じなだけで人とはまったく違う、人が当たり前に持ち得ている物が無い自分はなんの価値があるのかと。価値は自分で決めるものではなく、周りが与えてくれるものだと誰かが言っていた。なら出来損ないの自分に、価値は生きている意味は与えられてるのだろうか?


そんな彼の想いをよそに。


―世界は動き始めていた。


ゆっくりと、しかし確実に向かう滅びへのPrologue。繰り返される絶望の鎖は断ち切れる事なく足音を鳴らしてその時を迎えようとしていた。

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