とりあえずギルド長室へ連れ込まれる
くそっ、俺は全く悪いことはしていないはずなのに。
ギルド長のおっさんも雷魔法が使えるだけあって昔は腕のいい冒険者だったんだろう。そこまで強く握っているようには見えねえんだが普通に外そうとしても無理だった。もちろん方法がない訳じゃない。掴まれている腕の部分をパカッと割ってしまえば簡単に逃げられるだろうがそんな猟奇的なことをした日にはもっと面倒ごとになること請け合いだしな。
階段を登り、2階の奥の方にあったギルド長室と書かれた木製の扉を開く。ギルド長室と言うくらいだから高そうな武器とかがかかっていたり、魔物の毛皮の絨毯みたいなのがあると想像していたんだが・・・
「地味だな。」
「ちょっとリク!」
いや、だってなぁ。
部屋で一番存在感があるのは中央にある楕円形の木製テーブルだ。6人分の椅子が並べられたそれは、俺の目にはギルドの1階で使われていたのと同じように見える。装飾なんかまったくないシンプルな物だ。奥の事務机にしても使い込まれている分、貫禄はあるような気がするが見た目よりも機能性重視なのが丸わかりなのだ。
その他に部屋にあるのは報告書らしきものが入っている棚なんかだけで贅沢品の類は全く見えない。あえて言えば花瓶に挿された白と紫のユリっぽい花が唯一実用的でないものといえるだろう。
「これだけあれば十分だからな。」
俺の物言いが面白かったのか、少し笑いながらギルド長が俺たちに席を勧める。カヤノとミーゼは緊張しているのか微妙にぎくしゃくしながら椅子へと座った。連れ込まれた時は怒られるのかと思ったがずいぶん対応が柔らかいな。そんなことを考えながらギルド長の対面へと座る。
俺たちが座るのを待っていたのだろう。ギルド長が少し身をのりだし、俺をじっと見た。おいおい、そんな真剣に見るなよ。おっさんに見つめられて喜ぶような趣味はねえんだよ。
「ギルドカードを出してくれ。」
「ほいよ。」
特に拒否する必要もないため3人分のギルドカードを取り出す。窓口で提出する必要があるため取りまとめておいたのだ。ちなみに全員「銅」ランクである。
正確に言うならばミーゼは既に試験にさえ受かれば「鉄」ランクに上がることが出来るのだが、どうせなら全員で試験を受けたいということで俺とカヤノを待っている状態だ。
「鉄」ランクの昇格試験からは参加者の中でパーティを組むことになるらしく、臨時パーティよりはいつも組んでいる仲間と言うことで俺たちのように合わせる冒険者がほとんどらしい。もっと上位になると複数パーティでの試験なんかもあるらしいがな。
「リク、カヤノにミーゼか。」
ギルド長が渡されたギルドカードと俺たちの顔を交互に見る。そして棚から四角い箱のようなものを持ってくるとその中へとギルドカードを入れる。するとカシャっとはまり込む音がした。なんて言うかFDみたいで懐かしいな。
ギルド長はその箱の表面を見ている。何かあんのか?
「ふむ、依頼達成率は100%か。雑用系、採取系が多いな。討伐系は最低限と言った感じか。」
どうもあの箱はギルドカードの中に記録されている情報を見るための端末のようなものらしいな。仕組みはさっぱりとわからんが。というかギルドカードにそんな情報が入っていたんだな。見た感じは名前と生まれた年と特技しか書かれてねえからどうやって依頼の達成数とかを共有してんのかと思ってたんだが、俺たちにはわからねえように情報が書かれているようだ。
ミーゼやカヤノのカードの内容も続けて確認していく。カヤノは俺と行動するので雑用、採取が多く、ミーゼは討伐系が多い。依頼達成率は100%なのは今のところ全員だ。
「ふむ。」っと一言呟くとギルド長が俺たちへとカードをすべらした。それぞれのカードが目の前でちょうど止まった。同時に3方向にここまでコントロールするのは地味にすごいな。
「まず聞きたいのは先ほどリクが行った心肺蘇生のことだ。あれはどういった原理なのだ?どういった時に使える?そして雷魔法の意味はなんだ?」
ギルド長は俺を真っすぐに見つめる。なんとなく昔の上司を思い出して背筋がピンと伸びた。外見は全く似ていないが、落ち着いたしゃべり方、どっしりとした雰囲気が司令補そっくりだった。
とは言っても俺が生まれ変わる前の階級である消防士長になったころはその人は消防司令になっていたんだが、最初に配属された時に直属の上司でその印象が強いんだよな。現場の判断が的確でものすごく有能だったんだ。
昔のことを少し懐かしく思い出しながら説明をしていく。
「つまりあの方法で助かるのは一部の症状の場合のみと言う訳か。」
「そうだな。外傷による怪我には効果がねえし、内臓の破裂なんかでやばい奴にも意味がねえ。まあそっちは回復魔法で治せるから問題ねえだろ。回復魔法が効かない場合なんかに有効だな。水に溺れたときとか。」
俺の話を聞くにつれて、ギルド長は少しがっかりとした様子だった。死者を蘇生させる方法と考えていた節が見受けられたからな。確かにその認識は間違っちゃあいないが、心肺蘇生はあくまで医療行為であり、奇跡を起こす神の御業なんかじゃねえしな。
俺の話をカヤノとミーゼも興味深そうに聞いている。そういえばこういった応急処置や心肺蘇生と言ったことを話すのは初めてだったかもしれん。カヤノが俺を尊敬の目で見てくるのは良いとして、ミーゼの見直したと言わんばかりの視線と表情はちょっとムカっと来るな。
「そうか。1つ頼みがあるんだが、この情報を冒険者へ共有しても良いか。虫が良い話だとは思うが・・・」
「別にいいぞ。」
「報酬はきちんと・・・何だと?」
別に秘匿するべきことでもねえしと思って返事をしたんだが、ちょっとまずかったようだ。先ほどまでの落ち着いた表情から目がスッと細められ、雰囲気が鋭くなる。空気が一気にピリピリしだし明らかに悪くなっている。
いや、なんでだよ。普通にいいって言ったじゃねえか。
「リク、お前は何者だ!?」
「・・・」
「こういった技術は普通、秘匿される。通常では一部の者にのみ引き継がれる類のもののはずだ。制限があるとは言え、一度死んだものを生き返らせることが出来ると言う奇跡のようなものを無償で提供だと。何の冗談だ?」
まさかの展開だった。無償で提供したことで疑われるとは想像もしなかった。
ギルド長の疑うような目に流れるはずのない汗が噴き出ているような気がしてくる。判断ミスで仲間をケガさせそうになった時に司令補の前で正座しながら説教を食らった思い出が頭をよぎる。怒鳴らないんだけどすげえ迫力だったんだよな。今のギルド長も同じ感じだ。
俺の正体がばれるのもまずいんだが、それ以上にこのギルド長は俺の異常性に気づいている気がする。この世界に転生したという俺の異常性に。
「・・・」
「沈黙は後ろ暗いことがあると判断するぞ。」
どう返答するか迷っている間にいつの間にかカウントダウンが始まっていたらしい。ギルド長は少し腰を浮かし、いつでも動けるような体勢になっていた。カヤノとミーゼはギルド長の気配に圧倒されたのか不安そうに俺を見つめるだけで動くことは出来なさそうだ。
そんな2人を見ていたら頭が冷えてきた。と言うか雰囲気に流されて俺が悪いような気がしていたが冷静に考えたら俺全く悪くねえじゃん。心肺蘇生法だって無償で広めていいって許可してやったのに無駄に裏読みしやがって。なんかふつふつと怒りが湧いてきたぞ。
見た感じギルド長は強そうだ。雷魔法も使えるしギルド長になるくらいだから腕もそれなりだろう。いやまあ、ギルド長に必要なのは事務処理能力だと思うから関係ねえのかもしれんが、少なくとも目の前のおっさんは違うはずだ。
今まで会ったことのある冒険者とは存在感が違う。その一言に尽きるのだ。
俺は外見上は人間に見えるが土で構成されているから雷魔法は効かないとして、どう対応するかだな。普通に攻撃しても当たる予感がしねえし不意を突くしかねえか?
ギルド長を見つめながらニヤリと笑う。机を昭和のお父さん的にちゃぶ台返ししようと腕に力を込めたとき、ゴスッと言う鈍い音と共にギルド長が床へと倒れていったのだった。
疑り深いおっさんにより正体がばれそうになり、逆ギレすることに決めたリク。ちゃぶ台返しがうなる中、カヤノは家の壁の隙間へとボールを投げて木に当てて遊んでいた。
次回:地面の星
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




