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とりあえず事態を収拾する

すみません。遅れました。

 ミーゼの悲鳴が聞こえてから10分経過した。そろそろ大丈夫だろ。

 地面を伸ばして宿泊予定の部屋に戻る。戻ったんだが・・・


「あっ、リク先生。ちょうどいいところに。」


 とてとてとカヤノが窓から入ってきた俺に近づいてくる。しかし、ちょうどいいところにじゃねえなこの状況は。

 まずカヤノだがなぜか未だに全裸だ。いや、全裸と言うのは語弊があるか。一応股間の部分にはタオルが巻かれているのだが、体を拭く用の濡らしたタオルなのでピタッと張り付いていてうっすらと透けている。カヤノのゾウさんがおぼろげに見える感じだ。そしてミーゼと言えばベッドがこんもりと山になっているところを見るとそこに潜っているようだ。服なんかは脱ぎ散らかしたままになっているのでカヤノの現状と照らし合わせてみるとおそらくミーゼも全裸のはずだ。もう10分も経過して落ち着いているだろうと思っていたのになんでこんなカオスなんだ?


(どうした?って聞かなくても大体予想はできるが。)

「えっと、ミーゼさんが悲鳴を上げて潜っちゃったんです。声をかけても出てきてくれませんし。僕、どうしたらいいんでしょう?」

(とりあえず服を着ろ。話はそれからだ。)


 ミーゼがいるであろうベッドをカヤノが心配そうに見つめている。服を着ろと言う俺の指示よりもミーゼのことが心配みたいだ。着替える速度が明らかに遅い。もう一度(服を着ろ)と指示してカヤノが動き出したのを確認しミーゼに近づいていく。

 近づいてみるとミーゼがいるであろうベッドは小刻みに震えており、そして小さな声でもごもごと何か言っているのがわかった。何を言ってんだ?


「どうしよう、カヤノちゃんが男?カヤノ君?私も見ちゃったし、私の裸も見られちゃったし。えっとどうしたらいいの?こんなの習ってないよ~。」


 ・・・

 えっと、まあ意外と純情だったみてえだな。とはいってもカヤノはまだ10歳だろ。そんな子供に裸を見られたくらいでそんなに動揺するもんかね?さすがに同年代ならちょっと気になるのかもしれんが、小学4年くらいだろ。いや、俺が男だからそんなことが気にならないのか?やっぱ女だと子供の目でも気になるもんなのか?わっからんな~。

 しかしこれは俺にはどうしようもないな。とりあえずミーゼ自身で結論を出すまで放置する方向で行くしかねえか。


「あの、着替え終わりました。次はどうしたらいいですか?」

(おう、ちょっと待ってろ。)


 振り返るとカヤノが新しい服へと着替え終わって待っていた。じゃあミーゼが心の整理をする間、久しぶりにお勉強のお時間と行きますか。もちろん科目は保健体育だ。





(とまあ男と女にはいろいろな違いがあるわけだ。)

「へー、そうなんですね。自分とお母さん以外の裸なんて見たことが無かったのであんまり考えたこともなかったです。」


 まあそうだろうな。こういうのは他の子どもと遊んだり、親が教えたりして覚えていくもんなんだろうが森で母子二人で暮らしていたカヤノの場合はそんな機会は無かっただろうし、街に来てからもダブルと言うことで友達も出来なかったし、むしろその日を生きることで精いっぱいだっただろうからな。

 俺が保健体育の教科書で見るような図を描きながら説明したおかげもあってかカヤノは男と女の違いについては理解できたようだ。


「えっと僕は悪いことをしてしまったんでしょうか?」

(そんなことはねえと思うぞ。カヤノがわざと騙していたわけじゃねえし、まあ勘違いとか不幸な偶然が重なった結果だな。)


 俺が慰めてもカヤノはしゅんと萎れてしまっている。まあ悪意があった訳ではないと言えミーゼにショックを与えたのは紛れもない事実だからな。こもったまま出てこないミーゼの姿がカヤノには責められているように感じちまうのも仕方がねえか。


 とは言え後は俺に出来ることはねえし、ミーゼ次第だけどな。

 気まずい沈黙が流れること数分。突然布団の山が起き上がり、そこからミーゼの顔だけが出てきた。その顔は俺たちを、いや正確に言うならばカヤノをじっと見つめていた。泣いていたのかちょっと目が赤い。そしてミーゼが息を吸う音が聞こえた。


「結婚してください、カヤノ君!」

(お前にカヤノはやらん!!)


 いきなり何を言い出しやがる。ちゃぶ台があったらひっくり返してるところだぞ。命拾いしたな。

 カヤノの前に仁王立ちし、お腹に文字を書いた俺を見てミーゼが金魚のようにぱくぱくと口を開け閉めしている。そんな間抜けな面をしても変わらんぞ。


「なんでリクが断るのよ。私の一大決心だったのよ!!」

(一大決心か何か知らんが、俺はカヤノの保護者だ。うちの可愛いカヤノを嫁に出すのはまだ早い!)

「私が嫁になるのよ!可愛いって何よ!」

(なんだと、カヤノが可愛くないってのか!?)


 売り言葉に買い言葉でお互いにヒートアップしていく。

 カヤノと結婚するだと?早すぎるわ。俺を倒してからそんな世迷い言は言ってもらおうか。言っておくが俺は何度でも再生するからな。覚悟しておけよ。

 シュッシュ、とシャドウボクシングをしながらミーゼをけん制する。ミーゼも噛みつかんばかりに歯をがちがちと上下させている。ふん、いい覚悟だ。

 さあ、決着をつけてやるぜ!と俺とミーゼが動き出そうかとした時、俺の手を掴む者がいた。カヤノだ。


「リク先生もミーゼさんも落ち着いてください。」

(カヤノ・・・)

「カヤノちゃん・・・」


 カヤノは俺の前に回り込むと「ダメですよ。」と小さな声で俺を叱り、ミーゼへと向き直った。そして優しい声で語りかける。


「ミーゼさん。男だって伝えていなくてごめんなさい。リク先生にさっき教えてもらって男と女の違いがわかりました。ミーゼさんの気持ちはよくわかりませんけどなんとなく恥ずかしかったんだなってことはわかります。ごめんなさい。」


 カヤノが頭を下げた。そんなカヤノを見るミーゼの視線は優しかった。俺も反省しねえとな。いくらミーゼの言葉にびっくりしたからって俺は今回に関しては部外者だ。まずはミーゼとカヤノに話をさせてやるべきだった。カヤノを嫁にはやらんがな!

 そしてカヤノが頭を上げた。


(おいミーゼ。なんでカヤノと結婚したいなんて言ったんだ。)

「私、異性に裸を見られたのって初めてなのよ。と言うより裸を見せるのは旦那様にだけって決めてたの。だから・・・」

(相手のことが好きじゃなくてもそうするのか?)

「違うわよ!私だって考えに考えてカヤノちゃんならいいかなって思ったからそう言ったのよ。誰彼構わずじゃないわ!」

(そうか。どうするんだカヤノ?)


 まあ今まで見た限りミーゼのことは俺も好ましいと思っている。カヤノと同じダブルだし、年長者らしくカヤノのフォローもしてくれる。かと思えば同年代の友達のように振る舞ったりとカヤノに色々な経験をさせてくれるという意味でも貴重さ存在であることは確かだ。

 俺としてはカヤノを嫁に出したくない気持ちは溢れてきそうなほどある。しかし最終的に決めるのは俺じゃなくてカヤノだ。ミーゼが冗談半分で言っていたり、好意もなく言っているのであれば反対もするが、その表情も言葉も真剣だ。だとしたら俺が勝手に判断できる範囲を超えている。悔しい限りだがな。


「えっと結婚するってことは家族になるってことですよね。」

(まあそうだな。)


 カヤノが自分に問いかけるようにゆっくりと聞き返す。ミーゼもコクコクと頭を縦に振って少し不安そうにしながらうなずいている。


「えっと、いいですよ。」

「いいの!?」

(そんな簡単に決めていいのか?)


 カヤノはほほ笑みながら何の躊躇もなくそう言い切った。俺とミーゼ2人ともが心配になるほどの軽さだ。俺たちの反応が不思議なのかカヤノが首をかしげる。


「何で驚いているんですか?家族が増えるのは嬉しいことですよね。」

「それは、そうね。」

(まあな。一応聞くが結婚するってどういう意味かわかってるか?)

「えっとずっと一緒にいることですよね。僕もミーゼさんのこと好きですし問題ないですよね。」

「(・・・)」


 あれっ、と首をかしげるカヤノは可愛かったが何と言うかまずそこから教える必要があるのかと俺とミーゼはがっくり肩を落とすのだった。

ついに婚約者が出来たカヤノ。幸せオーラが漂うミーゼとカヤノの中をリクは柱の陰でハンカチを口に咥えながら見ていた。そして最低な手段にリクは出てしまう。


次回:姑の嫌がらせ


お楽しみに。

あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。

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海の日記念の新作です。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。

「退職記念のメガヨットは異世界の海を今日もたゆたう」
https://book1.adouzi.eu.org/n4258ew/

少しでも気になった方は読んでみてください。主人公が真面目です。

おまけの短編投稿しました。

「僕の母さんは地面なんだけど誰も信じてくれない」
https://book1.adouzi.eu.org/n9793ey/

気が向いたら見てみてください。嘘次回作がリクエストにより実現した作品です。
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