とりあえず合流する
良しっ!!
思わず右腕の義手がガッツポーズする。あっ、違うわ。
アー、ナンデ ソンナトコロニ アナガ アルンダー。アブナイナー。
「リク先生・・・」
カヤノがじっとりとした目で俺を見てくるが、そっぽを向きながらピーピーとならない口笛を吹いてごまかす。いや、そんなこと出来るわけねえけど気分的にな。それでもカヤノには何となく伝わったのか「はぁ」とちょっとため息を吐いてから落とし穴に落ちたミーゼの元へと近づいて行った。
何を隠そうその落とし穴は俺が即席で作った物だ。カヤノはお前を無条件で許すのかもしれんが俺はそんなに簡単じゃねえぞ。まあ色々とカヤノの為に動いてくれていたみたいだし騙していたことは許してやろうと思ってはいたんだが、笑顔で当然のように近づいてくるミーゼの顔を見たらちょっとイラっとしたのでやってみた。反省はしているが、後悔はしていない。
「ミーゼさん大丈夫ですか?」
カヤノが穴の底で尻餅をついて痛そうにそのお尻をさすっているミーゼを見下ろす。そんなに痛いはずはないんだがな。高さ1.5メートルくらいだし、怪我しないように底の地面は十分に柔らかくしておいたんだ。お笑い番組の発泡スチロールほどではないにしろ衝撃は吸収できたはずなんだが。
あっ、大荷物背負ってるの忘れてたわ。いやー、失敗失敗。この経験は今後に生かさねえとな。
「うぅ、なんでこんなところに落とし穴が・・・。」
その言葉にカヤノが若干気まずそうに視線をそらす。大丈夫だ、カヤノ。こんな魔物がひしめく世界。落とし穴の1つや2つ自然発生するってもんだ。だから気にすんなよ、ミーゼ。
ミーゼはゆっくりと立ち上がるとお尻や手に着いた土をパンパンと払いそしてカヤノへと目を向けた。
「おはよう、カヤノちゃん。」
「おはようございます。」
2人は挨拶を交わしそして笑いあった。
ミーゼが穴から出るのを手伝い、穴の両側の地面に大きな字で(危険)と書いて2人はその穴から離れた。馬車とかがはまったら本当に危険なので2人が50メートルほど離れたところでその穴は埋めておいた。よし、証拠隠滅完了だ。俺がそんな地味な後片付けをしている間にカヤノとミーゼは歩きながら事情を話し合っていた。
「じゃあミーゼさんは本当に貴族様でしかも兵士さんだったんですね。」
「まあね。15歳になったのがつい最近だからそれまでは見習いだったんだけどね。」
ミーゼの話にふんふんと感心したようにカヤノがうなずいている。まあ大体はこの前の牢から連れ出された時に聞いていたが、改めて聞くとやっぱりちょっと驚くな。と言うよりミーゼが兵士だと言うイメージが湧かない。あの時カヤノに接していたような態度ならまあ理解できなくもないんだが、今の自然な態度からは俺にとってはただの少女のように見えるのだ。
「あっ、そうそう。それで新しい任務があって・・・ちょっと待ってね。」
ミーゼがごそごそと腰につけた30センチ四方ほどのバッグを探り出す。そしてその中から取り出したのは1枚の紙と見覚えのある冊子だった。
「これは・・・」
「うん、カヤノちゃんがフラウニからもらった調薬レシピ集。で、こっちがそれを返して来いって言う命令書。」
カヤノが差し出された命令書とレシピ集を受け取る。そういえば捕まった時に没収されてから返してもらってなかったな。俺はてっきり犯罪者が残した物だからそのまま返ってこないとばかり思っていたんだが。
カヤノと一緒にその命令書とやらを見る。そこには確かにミルネーゼに対する命令書が書かれており、カヤノに没収した冊子を返却するようにと書いてあった。もちろんハロルドのサイン付きだ。へぇ、この世界の命令書ってこんな感じなんだな。としげしげと眺めていると何気ない仕草でカヤノがその命令書を裏返す。
「あっ!?」
「えっ!?」
ミーゼが慌ててそれを止めようとしたがもう既に時遅し。俺の目に飛び込んできたのは(解雇通知書)と大きく書かれた文字。
「・・・」
「・・・」
気まずい。沈黙が辺りを支配する。やべえ今って冬だったっけ?俺温度の変化とか感じないはずなんだが寒気がするんだが。
一応内容を確認すると、身近にいながらフラウニの企みに気づかず妻を誘拐されてしまった責任をとる形での解雇のようだ。ミーゼが監視していたのはカヤノなんだし、フラウニは関係ねえのになと思わないでもなかったが、まあ誰かが責任を取らなきゃいけなかったんだろうな。そして都合よく、若くて事件に関わりが無かったとも言えないミーゼがトカゲのしっぽ切りのような形で解雇されたってところか。ご愁傷様。
「ええっと・・・」
「違うの、解雇って形だけどちゃんとお金ももらえたし、むしろ私がカヤノちゃんについて行きたいのを察したハロルド様がそうしてくれたって言うか・・・えっとだから違うの!」
わたわたと手を振りながら懸命に説明するミーゼの話を要約すると、兵士として職務を全うするためにカヤノと一緒に行きたいと言う思いを殺そうとするミーゼの背中をハロルドが押してくれたと言うことらしい。変態でちょっと外見が怖いがいいとこあるじゃねえか。
「でもミーゼさんは貴族なんですよね。勝手に出てきちゃっていいんですか?家族の方とかは?」
「あっ、それは大丈夫よ。リュラー家には絶縁状を叩きつけてきたし、本当の家族と思える人にはちゃんと挨拶してきたから。」
「絶縁状・・ですか・・・」
あっさりと告げられた衝撃の事実にカヤノは開いた口が塞がらないようだ。そんなカヤノの様子をミーゼは面白そうに眺めながら自分が本当はリュラー家の血筋では無く、養子であることを暴露した。そしてさらには・・・
「養子に出された理由は・・・これね。」
ミーゼが髪をかき上げる。そこにあったのは明らかに普通の人より長い耳だった。しかしその長さは中途半端で髪で隠れる程度、だいたい人の耳の1.5倍くらいしかない。
「まあ見ての通り私も忌み子なの。」
「ええー!!」
マジかよ!見た目ほとんど人間と変わりねえじゃねえか。カヤノなんて頭の花があるから隠すのに結構苦労してんだぞ。隠さないとダブルであるってだけじゃなくて何というかちょっと頭の緩い子みたいな感じになるし。
カヤノがミーゼの耳を食い入るように見つめている。その視線にちょっとミーゼが顔を赤くした。そしてさっと髪を戻すと外見上ダブルと判断できる場所は何処にもない。
「私の両親は人族とエルフ族。カヤノちゃんは人族とアルラウネ族よね。」
「えっとお母さんはアルラウネだったんですが、お父さんは見たことが無いのでわかりません。」
「なんかごめん。」
おお、なんかお通夜のような感じに。というかダブルに家族関係の話題は駄目だろ。この世界のダブルを取り巻く状況から考えてロクな目に遭っていないだろうし。ミーゼも養子に出されてしかも絶縁状を叩きつけてきたって言っていたからまあどんな扱いを受けてきたのかはお察しだしな。
「まあそれはそれとして、これで私を縛るものは何もないからカヤノちゃんと一緒に行けるわ。と言うより、一緒に行ってもいいかな?」
ごまかすように言葉を続け、そして不安そうにカヤノへとミーゼが尋ねる。コロコロと変わる表情がいつものミーゼらしくて何となく安心する。そんなこと聞かなくてもわかってるだろ。
「もちろんです。」
カヤノは花のほころぶような笑顔ででミーゼを歓迎するのだった。
旅のお供を増やしながら目的地となる鬼ヶ島へ向かっていくカヤノ。しかし、ついにキビダンゴが切れてしまう。その時カヤノがとった最終手段とは!?
次回:カル○スソーダで勧誘
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




