とりあえず最後を看取る
っとと危ねえ。思わず思考が持っていかれるところだった。名前とか、服用後の豹変具合とか、ビジネスマンじゃなくて狂戦士作ってんじゃねえかとかいろいろな突っ込みが俺の中で浮かんでは消えていく。そうしている内にもタッフマンを飲んだと思われるエルフたちが奇声を発しながら防壁へと消えていく。
・・・よし、触らぬ神に崇りなしだ!
いやー、みんな元気になってよかったよな。これなら俺がいなくても魔物を撃退できそうだし俺は魔物を操っている奴でも探しにでも・・・
「「「うおおおおー!!」」」
「何だっ?」
「何かあったんでしょうか?」
「ちょっと待ってろ。少し見てくる。」
地面に潜って急いで防壁の外へと向かうとそこにいるはずの魔物の姿がはるか遠くに見えていた。その姿はどんどんと小さく、遠くなっていく。
「逃げた・・・のか?」
あれだけ俺が倒し続けても逃げるそぶりも見せなかったのにどうして?
なんとかハイエルフの里には被害を出さずに済んだとホッとする気持ちもある中でそんな疑問が頭から離れない。そもそも指揮されていると考えたのも俺の推測にすぎねえんだが。何というかもやもやする。
そんな俺とは裏腹に、防壁の大樹の上のエルフたちは狂喜乱舞している。正にお見せしちゃあいけない状態だ。おいっ、公衆の面前だぞ!ディープはやめろ!ああ、服の隙間から手を入れてんじゃねえ!こんなのエルフじゃねえ、エロフじゃねえか!?くそっ、カメラ、いや、スマホでも良い。この光景を、いや歴史的な勝利に沸くこの光景を後世に残さなくっちゃあいけねえんだ。文化の検証のために必要なんだ。だから神様、どうか記録媒体をプリーズ!!
「何をしておるのだ、貴様は?」
「あっ?この素晴らしい光景を目に焼き付け・・・じゃなくって勝利の感慨に浸ってんだよ。邪魔すんな。」
「ふんっ、慎みのない者どもなど猿にも劣るわ。貴様もいつまでも見ていないで来るが良い。黒幕らしき奴を捕まえたのだ。」
「だから邪魔すんなって・・・黒幕だと!?」
「ああ、とはいっても口はきけんようだがな。カヤノのところに寝かせてある。お前も早く来るが良い。」
「おいっ!」
言うことだけ言ってカコウは防壁の中へと戻っていった。そんな奴を里の中、しかもカヤノの近くに寝かせておくなんて危ねえじゃねえかと一瞬思ったが、あいつがカヤノを危険な目に合わせるはずもねえし、多分大丈夫なんだろう。
この歴史的な光景を目に焼き付けるという使命を果たすことが出来ないのは誠に遺憾だが、あんまりのんびりしてると俺の評価にも関わりそうだからな。仕方ねえ、行くか。
後ろ髪どころか全毛髪を引かれながらもその場を後にしてカヤノの元へと向かった。
地面を潜って再びカヤノのところへと戻ってくると、薬を飲んでいないおかげか、穏やかに勝利を喜びあっているエルフたちがいた。少し残念な気もするがカヤノの教育上よろしくねえし、本来ならこれが普通なんだろう。
カヤノは目の前で倒れている見慣れないローブの奴に向けて治癒魔法をかけているようだ。あいつが黒幕か。なんでカヤノが治癒魔法をかけているかわかんねえがカヤノの穏やかな表情を見るとそういうことなんだろう。
そんなカヤノの様子を見ているカコウは別に良いとして、その隣に立っているミーゼの顔は真っ赤に染まっており、時折防壁の方をちらっ、ちらっと見つめている。何というかわかりやすい奴だ。
こっそりと地面を移動し、ミーゼの背後に現れる。
「そういうことが気になるお年頃ですね。」
「なななな何言ってんのよ!」
面白いリアクションを見せてくれたミーゼにぐっと親指を立てて笑い返してやる。俺の腹目掛けてミーゼ渾身のストレートが飛んできた。くっ、世界を狙えるぜ、お前。俺には効かねえけど。
軽くミーゼをからかって気分を一新した俺は改めてカヤノの隣へと立った。
「うっ!」
ローブから覗いた顔に思わず声が出てしまう。それはおそらく人間だ。おそらくとしか言えないのは顔の皮膚という皮膚に腫瘍ができており、その奥から覗くブラウンの瞳やかろうじて見える口などから判断できるだけだからだ。
そんなひどい状態にもかかわらずカヤノは治癒魔法をかけ続けていた。俺でもわかる。こいつはもう長くない。というよりは生きているのが奇跡といった状態だろう。そいつの目はカヤノを捉えていた。そして何かを話すようにもごもごと口を動かし、言葉とも言えないうめき声を発する。そしてついにその瞳から光が失われた。
カヤノが目を閉じ胸の前で腕を組んで祈っていた。守護する神のいないカヤノの祈りは誰が聞くんだろうな。そんなことをふと思った。
しばらくして立ち上がったカヤノへ少し遠慮がちに声をかける。
「大丈夫か?カヤノ。」
「はい。」
カヤノは泣いているように見えた。涙こそ流していないもののその表情はとても悲しげだった。カヤノがなぜ治癒魔法をかけたのか、なぜそんなに悲しそうなのか俺には全くわからなかった。でもそれを聞いていいのかすら俺にはわからなかった。
「リク、覚えてる?」
「何をだ?」
「バルダックにいたころ、僕の薬草を買ってくれたお兄さんがいたよね。」
「ああ。あの暴利をむさぼっていた奴な。」
「うん。今考えるとそうなんだけど、僕がバルダックで生きていけたのはお兄さんが薬草を買ってくれていたからでもあるんだ。だから・・・」
あぁ、そうか。見る影もねえし、俺にはわかんねえがカヤノにはわかったんだな。
「そいつも自分を覚えてくれている奴に看取ってもらって感謝しているだろうよ。」
「・・・はい。」
カヤノはそれ以上何も言わず、俺の胸へと飛び込んできた。俺は声も上げずに泣き続けるカヤノの頭をなでながら、こんなことをしでかしたのにカヤノに泣いてもらえる幸せな馬鹿野郎の冥福を祈っていた。
カヤノがなんとか泣き止んだころ、ニーアが10数人のハイエルフを引き連れて戻ってきた。怪我をしている者がなぜか多かったが、その目には強い意志が宿っていた。
「リク、戻ったよ。」
「おう、お疲れニーア。そっちは大丈夫だったか?」
「うん。いろいろあったけど大丈夫。彼らは協力者だよ。今回の風の精霊の対応に納得がいかない者や以前からあまり風の精霊を信じていなかったハイエルフの里のはみ出し者かな。」
そんなことを言っていいのかとも思ったが、ニーアの後ろについてきているハイエルフたちは面白そうに笑っていた。自覚があるみたいだな。
「俺たちがこれからやることについては?」
「もちろん知っている。ついでに反抗してきたハイエルフは縛って転がしておいた。エルフたちにここに運ぶようにお願いしておいたからじきに集まってくると思う。」
「そうか。お前ら一応聞いておく。やっちまっていいんだよな。」
「「「はい!」」」
ハイエルフたちが一寸の乱れもなく俺の問いに答える。もう覚悟は決まっているようだな。なら俺から言うことはなにもねえな。
仲間全員とそれぞれ目を合わせる。カコウが、ニーアが、ミーゼが、棒サイちゃんずが、そしてカヤノが俺の無言の問いかけにうなずいて返した。
「じゃあ行くぞ。風の精霊をぶったおしに!」
「「「「おう!」」」」
突然の記憶力を試す問題に戸惑うリク。しかしその制限時間は刻一刻と迫っていた。果たしてリクは正解を導き出すことができるのか!?
次回:男の名前なーんだ?
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




