とりあえず治療を頑張る
沈黙の時間が続く。気まずい。漫画やなんかの主人公なら華麗な推理やら相手の心を読む特殊能力やら単なる暴力なんかで自白させるんだろうが俺にそんなもんを期待するほうが馬鹿げてる。好きで尋問しているわけじゃねえし、そもそも俺は責められるほうが好きだ!
ふぅ、と息を吐き肩の力を抜く。もう後は直接被害を被ったアルラウネに任せればいいだろ。
「もういいや。後でアルラウネから聞かれると思うからそっちで話してくれ。」
そう言って、俺は視線をカコウへと向けた。カコウは剣を使わずにやってくる敵を殴り倒している。完全に八つ当たりだな、あれは。カコウへと向かって行った奴が景気よくぽーんと飛んでいる。まるでギャグマンガのような飛び方だがおそらく手加減はしているはずだ。
実際、この里の戦闘でカコウは一人として殺していない。光を扱う精霊らしく斬った奴にわざわざ回復魔法をかけてやがったし。斬った割に血が出ねえなとじっと見ていてやっと気づいたほどの鮮やかさだった。本当に変なところで能力が高いんだよな。
戦闘力の高い2人は拘束済みで動けないし、フラウニの薬は俺には効かない。その事実が油断を招いてしまった。
「じゃあね~、ローちゃん、イェン。」
「えっ?」
「これはまた、ついてな・・・。」
3人へと目を戻した俺が見たのは、ぐったりを上半身を地面に横たえたまま身動き一つしないローズエッタとイェンの姿。そして2人の背後に立ち、両手に細い針を持ったフラウニの姿だった。その針からは2人の血だろうか赤い液体がぽたっ、ぽたっと落ち、地面にしみを作っていた。
「何してんだよ、お前・・・」
「えー、だって里には私が残した自白剤のレシピがあるんだよ。それを使われたら話さないなんて無理だし。組織のことは話しちゃダメって厳命されてるし、仕方がないよね~。」
「何を言ってるんだ、お前。命より大事なもんなんて・・・」
「じゃあね、土の精霊さん。出来るなら私たちの死体はアルラウネの習慣通り土に埋めて欲しいかな。死んだ後は森に還るんだ~。里の中はさすがに嫌がられちゃうだろうし、外でいいから。もしいつか会えたらさっき言ってた精霊草に似た草について教えてね~。」
「バカ、やめろ!」
俺が止める暇もなくフラウニが自分の心臓目掛けて針を突き刺した。そして糸が切れてしまったマリオネットのように地面に倒れる。その顔は笑っていた。まるで楽しい夢を見ているだけのように。
「カコウ、来い!!」
大声を張り上げてカコウを呼ぶ。あいつは治癒魔法を使える。あいつならまだ間に合うはずだ。死なせねえ、こんな終わり方ぜってえ許さねえからな。
俺の大声にただ事ではないと判断したのかカコウがこちらへと向いたのを確認した俺はローズエッタとイェンの拘束を解いて地面に横たえる。毒の対処法としては・・・。
目当てのものを探し、ローズエッタの腰にあったそれを取り上げ確認する。よし、イェンのとは違って綺麗なもんだし、これ以上四の五の言ってられる状態でもねえ。
ローズエッタとイェンが刺されたのは背中側の肩口、そしてフラウニは心臓にほど近い右胸の辺りを刺している。よりによって間接圧迫しにくい場所だ。本来なら全身に毒が回る時間を延ばすため緩めに圧迫するんだが。出来ねえ今はそんなことは放置だ。
フラウニが持っていた針はそこまで太くないため、傷口も小さい。そこから出ている血は本当に少しだ。その傷の上からローズエッタのナイフで切りつけ傷口を広げる。毒の応急処置として重要なのは毒をなるべく体内から排出すること。本当ならポイズンリムーバーっていう注射器みたいな専用器具があるんだがそんなもんはない。
「2号、3号、来い!傷口から毒を吸い出すぞ!」
地面から現れた2号と3号が敬礼した後、ローズエッタとイェンに向かって行く。多分あいつらなら俺の考えがわかるはずだ。頼むぞ、お前ら。
フラウニに向き合い傷口に口をつけその血とともに毒を吸い出していく。いや実際に毒が吸い出せているかはわからないから血をすすっているようなものだが出来ていると信じるしかねえ。
口で毒を吸い出すなんてのは本来なら下策だ。その毒が助けようとした本人にまで回ってしまう可能性もあるし、要救助者がエイズなどの血液を媒介とする感染症にかかっていることだってあるだろう。逆に口の中の細菌が傷口に入って余計に症状を悪化させることだってある。だが、今の俺たちならそんな心配は全くない。だからこそ出来る芸当だ。
「何をやっておるのだ貴様は。気でも狂ったか?」
口の中に溜まった血をペッと吐きだし、カコクを睨む。いや、そんなことをしている場合じゃねえ。
「毒で自決しやがったんだよ。カコウ、お前治癒魔法が使えるんだろ。頼むから助けてくれ。」
「いや、しかしこやつらは・・・」
「頼む!」
「・・・ふぅ、いいだろう。貴様の好きにすればよい。・・・いくぞ。光の祝福を!」
カコウの体がまばゆいばかりに光り、そこから3つの光の玉が3人に向かって飛んでいく。その光は3人の体へと吸い込まれるとやがて体がぼんやりとした光に包まれた。カヤノと同種の、しかし格の違う温かみを感じる。これなら・・・
やがて光が霧散していき、元の状態へと戻る。そう元の状態へと。
「おい、治ってねえぞ!」
「さもありなん。我の力をもってしても死人は生きかえらすことなど出来ん。それはもはや神の領域だ。貴様にも既にわかっていただろう。この3人が死んでいることなど。」
「違う!」
「我は貴様の我がままを聞いてやっただけだ。奇跡を願うな。現実を見よ。」
「違う!まだ助けられるはずだ!」
俺の様子にカコウがかぶりを振っている。そしてカコウの姿がゆっくりと薄くなり始めた。
「むう、やはり仮初の姿でこの術は無理があったか。我は先に戻る。我がままを聞いてやったのだ。後始末はしておけよ。わが子孫を頼んだ。」
「・・・」
そう言い残してカコウは消えていった。おそらく今頃は核へと戻って休眠状態になっているだろう。残された俺は、地面に倒れ伏したまま動かない3人を見下ろしていた。今まで襲ってきた敵を殺したこともある。それがこの世界の常識なんだと割り切ったつもりだった。
こいつらは敵だ。敵だったはずだ。なのになんで・・・
「なんでこんな後味が悪いんだよ、くそっ!!」
やり場のない拳を地面へと叩きつける。
襲ってきた敵が死んだ。それだけのはずだ。いつもなら少々気分が悪くなることはあってもすぐに気持ちを切り替えることが出来る程度には整理していたはずだった。フラウニが知り合いだったからか?そういえば知り合いが死んだのは初めてだったかもしれねえな。
ははっ、あいつは敵だったんだぞ。自分の里を襲った悪党だ。同情の余地なんてない。
地面に横たわっているフラウニを見つめる。
「なんで笑ってんだよ、お前。ばっかじゃねえの。」
吐き捨てるように言ったその言葉にもフラウニの表情は笑ったまま変わることはなかった。
組織の秘密を守るために自決した3人を生き返らせるために禁呪へと手を出したリク。しかしそのことにより呪われてしまったリクはカヤノたちの元を去る決断をするのだった。
次回:語尾ににゃーとつく呪い
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




