とりあえず試してみる
主にカヤノによる説教は結構長かった。俺の心は正直ボロボロだ。いや、普通に怒ってるだけならこんなことにはならない。もちろん反省はするがな。俺へのダメージが大きかった原因は怒っていたカヤノが途中から泣きそうな顔をしながら説教をしていたからだ。そんなことをされた俺の心は機関銃に打ち抜かれた障子紙のようになった訳だ。
「もう二度とこんなに心配させることはしないでくださいね。」
「はい。」
なんとなく竜の体で正座したまま説教を聞いていた俺は、その言葉に素直に頭を下げる。というかそれ以外に言うべき言葉がなかった。そんな俺を見てカヤノがやっと肩の力を抜いた。一応説教はこれで終わりのようだ。
カコウの方を見るとまだエルノが諭すような優しい口調で説教をしている最中だった。カコウもその大きな体をしゅんとさせ反論もせずにうなだれている。完全に尻に敷かれてやがるな。いいぞ、もっとやれ。心の中で応援しておいた。
しばらくしてエルノの説教も終わり、2人がこちらに合流してきた。カコウが非常に疲れたような表情をしているのに比べ、エルノは普通だ。うむ、意外とエルノはSの才能があるのかもしれん。さすがに頼むわけにもいかんが。
「入ってしまったものは仕方ねえとしてまずは脱出方法を考えねえとな。」
「とりあえず、あんたそのドラゴンの格好やめたら。」
そういえば説教で受けた心のダメージのせいで変身を解除しておくのを忘れていた。いや、しかしなかなかの出来なのだ、消してしまうのももったいねえし。・・・そうだ!こいつはそのままにして俺だけ外に出ればいいじゃん。そうすれば像として残るんだし。
自分のひらめきに自画自賛しつつ、すぐに実行に移しドラゴンの姿はそのままに人型へと戻る。
「よし、話を続けるか。」
「よし、じゃないわよ。これを消しなさいよ。」
「なんてことを言うんだ。せっかく作った格好いいドラゴンだぞ。あれか、ポージングが悪いのか?それならすぐに直すぞ。」
「違うわよ。邪魔だって言ってるの。」
ミーゼと俺が言い合いを続ける中、カコウがドラゴンの像へと近づいていきそしてその胴体へと思いっきり剣を振り下ろした。っておおい!何しやがるんだ!
「やはり、そうなのか?」
「いや、いきなり斬ろうとすんじゃねえよ。」
「ほら、やっぱりカコウも邪魔だと思ってるじゃない。」
カコウの行動にミーゼが得意げに胸を張る。ちっ、確かに家の前にドラゴンの像があるのはちょっと邪魔かなと俺も思わないでもないし、仕方ねえ。隅っこの方へ動かしてやるか。
こんこんと像を剣で叩いて何かを確かめているカコウへと近寄っていく。
「邪魔なら動かすぞ。希望の場所はあるか?」
すべてなくせと言われたら悲しいのであらかじめ動かす前提の質問をしておく。しかしカコウは俺のことなど気にしないように何度も剣を使って像を叩いた後、俺を見て言った。
「これ精霊の力をはじく結界と同じ土だ。なぜ貴様が扱えるのだ?」
「はっ?」
「いや、違う。貴様が先ほど作った炊事用の台やテーブルなども同じなのだ。なぜ結界に阻まれない?」
カコウが真剣な目で見つめてくるが、俺には一向にその理由は思いつかない。確かにいつもに比べるとちょっと土が重いなとは思ったがそこまで大変ではなかったし、いつも通りに土の操作をしただけだ。うーん、ちょっと試してみるか。
家の裏にある側面の壁へと歩いていきそこへと手をかざす。イメージするのは地上へと続く階段だ。さすがにあの滑り台を登っていくのは嫌だからな。
側面の壁が凹み、俺のイメージ通りに人が3人くらい通れる大きさの階段が段々と出来上がっていく。
「「なっ!?」」「「「おー!!」」」
カコウとエルノの驚く声が聞こえ、それと同時にカヤノたちの歓声も聞こえた。俺の作った階段はしっかりと地上まで到達し、出口からはうっすらと日が差しているのが見える。
その階段を上ってみれば普通に昇ることもでき、地上へと顔を出したが周囲には同じような森が見えるだけで特に問題はなかった。念のために全身を地上へと出し、特に問題がないことを確認したうえで地下へと階段を下って降りる。そこではカコウが見えない壁を押そうとするパントマイムのような動きをしていた。
「何してんだ?」
「貴様、なぜ外へ出ることが出来るのだ!?」
「いや、なぜと言われても出来たもんは出来たとしか言いようがねえぞ。」
剣こそ抜いていないものの同じようなプレッシャーを与えてくるカコウに肩をすくめて答える。しかし確かに俺もおかしいとは思う。現にカコウは土を取り除いても見えない壁に阻まれてこの部屋から外へ出られていないのだから。
可能性として考えられるのは俺がカコウのように普通に生まれた精霊ではなくキュベレー様によって転生させられたことで生まれた精霊だってことぐらいなんだが、さすがにそんなことは言えねえしな。
カコウは俺の言いように納得は出来ていないようだが、それ以上何も言うことは無かった。
「まあ俺が出られないって問題は解決したわけだ。次は・・・」
「「あの・・・」」
カヤノとエルノの声が重なり、2人が顔を見合わせて沈黙する。どちらが先に言うのか譲り合っている2人に苦笑しながら、ニーアへと視線を向ける。
「ニーア、結界ってのはどうやったら消せるか知ってるか?」
「「あっ・・・」」
俺の言葉にカヤノとエルノの顔に笑顔が浮かぶ。2人が何を考えたかぐらい俺にだってわかる。さすがに自分だけ出られるからカコウのことは放っておくってことはしねえよ。こんな地下にずっと捕らわれたままなんていくら何でも不憫すぎるからな。
「精霊を封じ込めるほど強力な結界に心当たりはないけど、強い結界を張るときは結界石っていう特殊な加工をした石を使うことが多いかな。里の結界もそのはずだし。」
「じゃあその石をどうにかすればこの結界は消えるってことで良さそうだな。じゃあ行ってくるぜ。」
俺について結界が効かないとわかったので普通に地面に潜って辺りを探していく。潜っていて感じたのだが、この地面は何というかぬるま湯に浸かっているような温かさがあった。何というか粘り気のある温泉って感じか?ちょっと気持ちが良い。
そして動いているとその温度が少しずつ変わっていることに気づく。まあセオリーとしては温度の高いところに何かあるんだろうと考え、そちらに向かっていくと案の定水晶のように先のとがった六角柱の赤い宝石のようなものが埋まっていた。それをとりあえず回収し地上付近へと移動させる。だがまだまだ温かいと感じる。もうちょっとありそうだな。
俺は再び結界石を探し始め、結局合計8つの結界石を発見したところで温かみを感じなくなったので捜索を終えることにした。
「らしきものがあったから除去しておいたぞ。」
カヤノたちのところへと顔を出し、それを伝えるとカヤノとエルノは互いに顔を見合わせ嬉しそうに微笑み、そしてカコウを見た。
「カコウ様!」「お父さん!」
「う、うむ。」
カコウがゆっくりと階段へと近づいていく。先ほどまで見えない壁に阻まれて進むことが出来なかった場所はカコウの体を邪魔することなく通し、カコウはゆっくりと階段を上り地上へと顔を出した。そしてそのまま動かなくなる。
しばらく待っていたが全く動かなかったので、心配して今にも追いかけていきそうなカヤノとエルノを留めて俺自身がカコウの元へと向かった。
カコウは目を見開き、空を見上げたまま声も上げず涙も流さずにだが確かに泣いていた。
カコウの性格からしてカヤノやエルノには見せたくない顔だろう。やはり俺が来て良かった。俺の気配を感じたのかカコウの視線がチラッとこちらを向く。
「良かったな。」
「ああ。」
言葉少なに返してきたこいつの胸の内を推し量るなんて俺には出来ない。いや正確には推し量ることは出来たとしてもそれがどれほどの深さを持っているかを俺は実感できないだろう。それほどこいつが地下で過ごした時間は長いのだから。
だから泣くがいいさ。満足いくまでな。
「俺たちは今後の計画を練っておく。落ち着いたら来いよ。」
そう言い残して階段を下っていく。俺がここにいてはカコウも気を使うだろう。男が泣くときは1人って決まってるもんだしな。
俺の頭が地上から地下へと入る直前、カコウがそのままの体勢のまま声をかけてきた。
「ありがとう、感謝する。」
「ああ。」
それだけを返し、心配そうにこちらを見ているカヤノたちの元へと向かう。そういえばカコウから感謝されたのは初めてだなと思い、少し笑みを浮かべながら。
遂に最難関攻略対象であるカコウを陥落させたリク。このことによりフラグが立ち、ハーレムルートが解放されるのだった。
次回:でもやっぱりカヤノルート
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




