とりあえずアルラウネの里へ行く
目の調子はまあまあです。
回復しないかもとお医者様に脅されたのでかなりビクビクものでした。治らなかったら障害認定でしたしね。
ハイエルフの里で熱烈な歓迎を受けた翌日、俺は2人の案内役のハイエルフとともにアルラウネの里へと向かっていた。昨日の歓迎の宴という名の宗教儀式については真面目に宗教を信仰している奴がはっちゃけるとあんな感じになるんだなといった感じだ。まぁ精霊信仰なんだし、俺はハイエルフにとってみれば神様のようなものだと考えれば納得ができなくもないような気がしないでもない。
俺自身あんまり神様や仏様を熱心に信じているわけじゃなかったしな。ほとんどの日本人と同じように神様がいればいいなあ的なぼんやりとした信仰だったわけだ。だからそこら辺の理解が及ばないのは仕方がねえかなとも思う。
あっ、キュベレー様については別だな。信仰というよりは思う存分屈服させてほしいとは思っている。踏んでくれればなお良しだ。まああれ以来、会うどころかコンタクトさえ取れないんだけどな。
まあそんな俺でも歓迎されていることはわかるし、ありがたいことだとは思うんだが居心地が良いかと言われたら即座に首を横に振る。俺自身そんな持ち上げられるような人物ではないことは重々承知しているのだ。ハイエルフたちの態度を見るとむず痒いというかいたたまれない気持ちになるんだよな。
まあそんな訳でもっとゆっくりしていってほしいというハイエルフたちの願いをやんわりと断り、早々にアルラウネの里を目指して進んでいるのだが現在俺は1人で行動している。つまりミーゼとカヤノはハイエルフの里で待っているのだ。
これにはいくつか理由があるんだが、カヤノとミーゼを連れて行った場合に危険かもしれねえってのが一番の理由だ。
カヤノが母親と一緒に隠れ住んでいたことや、母親が連れ去られバルダックの街へと置き去りにされた経緯はカヤノからすでに聞いている。カヤノ自身もたぶん、とかだと思う、とかではっきりしない部分はあったんだが、少なくともダブルに関してよい感情を持っているようには思えなかったからだ。
それに半ば強制的に連れていかれたカヤノの母親と普通に会うことができると考えるほど楽観もしてねえしな。
と言う訳でとりあえず俺が場所を確認し、スニーキングミッションを敢行してカヤノの母親を捜索、発見したら秘密裏にコンタクトを取りカヤノとの感動の再会というプランだ。まあはっきり言って計画なんて言うのもおこがましいぐらい行き当たりばったりになるだろうがどんな所でどんな状況なのかも全く分からねえから仕方ねえだろ。
ここで昔は問題になっていたのは俺がカヤノというか核と離れるとだんだん消耗していって最終的には気を失ってしまうということなのだがこれについての解決策は簡単なものだった。魔石を舐めていればいいのだ。
基本的に俺はカヤノのそばから離れないのでいつもは棒サイちゃんずの強化くらいにしか使っていない魔石のエネルギーだが、俺が核から離れて単独行動するときにも使えることはここまでの旅の間で実験済みだ。ただ長時間溜めておけるわけじゃなくて砂時計のように時間の経過とともにそのエネルギーがだんだん消えちまうからずっと食べ続ける必要があるんだけどな。まあ飴玉のように口の中で転がしておけばいいのでそんなに苦労はしないが。
「土の精霊様、あと1時間ほどでアルラウネの里へ着きます。」
「おう。悪いな。」
「いえ、精霊様のご案内をさせていただくなどこの上ない名誉ですのでお気になさらず。」
白い歯をきらりと見せながら振り返って俺に微笑むイケメンハイエルフ君。ちなみに名前は教えてもらえない。精霊に名前を覚えてもらうには試練を受ける必要があるらしく彼はまだその試練を突破できていないそうだ。俺はそんなこと気にしねえぞと言ってはみたのだが頑なに名前を言おうとはしなかった。
この制度?は大昔から続いていたようで、風の精霊と祖先のハイエルフが決めた約定によるそうだ。だからこそ新参の精霊である俺の言葉はその伝統の前には無意味だった。なんというかハイエルフは精霊信仰とは言っているものの風の精霊>他の精霊になっていると思う。まあ普段から近くにいる精霊を崇めるというのはわからないでもないんだがな。
「精霊様に自分の名前を呼んでいただけるのは大変な名誉で、皆がその試練を突破できるよう日々研鑽を積んでいるんです。」とキラキラした目で教えてくれたんだが、おそらくあいつの性格からしてその方が面白そうとか、名前を覚えるのが面倒くさいとかそんなくだらない理由な気がするんだが・・・さすがにそんなことは言えなかった。知らないほうが幸せなことってあるよな。
鍛えていると言うだけあり、道中に出てくる魔物は俺が相手をするまでもなくハイエルフたちによって狩られていく。ユーミルの樹海は奥へ行くごとに魔物の強さが上がっていくんだが、ハイエルフの里もそれなりに奥のほうにあるため出てくる魔物も強い。普通のゴブリンに比べて2回り以上も大きく動きも比べ物にならないほどのエリートゴブリンやエルフを襲うエロ本に出てきそうなハイオークなんかがうようよ出てくるのだ。まあそのハイオークはエルフを襲うどころか襲われてすぐに躯を晒していたんだが。この辺りにわざわざ住んでいるんだから当たり前なのかもしれないが・・・ちょっと驚いた。
俺では倒せないかと言われればそんなことは無い。基本的に俺はダメージなんか受けないので、攻撃を気にせず剣をふるうだけでいいからだ。とは言え激しく動くとその分消耗も激しくなるので今の状況ではとても助かっていた。
「そろそろですね、あっ、あちらです。」
「うおっ、こっちもすげえな。」
森を抜けた先に見えてきたのは巨大な蔦が絡まりあってできた壁だった。半径1メートルほどの太さを蔦と言って良いのかはちょっと判断に迷うがな。蔦はしばらく垂直に伸びた後中央へと向かっており、さながらドームのような形をしていた。しかし見た限り入り口のようなものは見えないし、エルフの里のように門番などの人もいない。反対側なのか?
「珍しいですね。昼間から閉じているとは。」
「閉じているって何だ?」
「アルラウネの里の外壁の役割をしているあの蔦は昼間は開いて日の光を里へ入れ、夜は閉じて外敵から身を守っているそうです。私も閉じているところは初めて見るのですが。」
「そりゃあまたすごい壁だな。ちなみに入り口はどこなんだ?」
「入り口はそこですよ。近づけば入り口がひら・・・」
その言葉は最後まで紡がれることは無かった。俺たちの目の前、もう1人の案内役のハイエルフの男のすぐ近くの蔦がうごめき、入り口が開いた。そしてその暗闇から飛んできた物体が俺たち3人の心臓に向かって太陽の光を反射しながら迫っていた。
アルラウネの里へとついたリク。開け放たれた入り口からは白いハトが大量に飛び出し、パッパ、パラッパーパッ、パーパパッパ―というラッパの音が辺りに響く。突然の出来事に驚く3人の視線の先には信じられないものが見えていた。
次回:親方!空から女の子が!!
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




