とりあえず里を案内される
バザーも終わったので残りの時間はエルフの里を見学させてもらうことにした。ニーアが直々に案内してくれたのだが特に面白いと思うものは無かった。
特色と言えば、エルフのほとんどが優秀な狩人であるため、所々で解体作業をしている者がいたことと魔物の素材を使って武器や防具を作っている職人がいたくらいだ。この武器や防具をエイトロンの街へ持っていくと結構な値段で売れるのだそうな。
あんまり外との交易をしているように見えないエルフがなんでお金を持ってんのかちょっと不思議に思っていたんだが俺たちのような冒険者だけでなく、エルフ自身でも定期的にエイトロンの街へと行って、作ったものを売って欲しいものを買ってきているらしい。
それなら冒険者が持ってくるものをバザーなんてしなくてもと思ったんだがそうでもないようだ。
街に行くと言っても大人数で行くわけではないので、買ってくるものも生活必需品などの必要最小限の物だ。それに比べて売る武器や防具は高い値段で売れる。つまりその差額がエルフの里に残ってしまうのだ。
使えないお金なんて意味が全くないってことで、冒険者のバザーはその余ったお金を消費するいい機会になっており、通常では買えない珍しいものが買える可能性も。あるって訳だな。どおりでちょっと高いかと思った2割の利益でもどんどん商品が買われていくはずだ。
ちなみにエルフが作っている武器は弓矢がほとんどだった。俺は全く使わねえんで興味は無かったんだが、ミーゼが試射させてもらっていていい腕前だと褒められて照れていた。
だが俺は知っている。ミーゼから死角になっているちょっと離れた場所で別のエルフがミーゼの2倍はあろうかという距離の的の中心をやすやすと射貫いていたことを。
ミーゼはその弓矢を買っていたようだが、この事実は俺の心の中に一生閉まっておくつもりだ。さすがに不憫すぎる。
ちなみに防具は今のところあまり必要性が感じられなかったので放置したが確かにしっかりと作られていたので、今度新調するときはここで買ってもいいかなとこっそり思っている。
それはともかくとして、ふんふんとニーアの説明に頷きながら里を回る。珍しいものがないことは昨日の夜に動き回って把握しているが、改めて説明されながら聞くと新たな発見があって面白い。
ニーアが初めて長っぽく見えた。
だが、訪問した家でお菓子をもらっている姿を見てその印象もすぐに消えた。やっぱ子供だ。こいつは。
狭い里なので案内されながらでも2時間ほどで回り終えてしまった。
バザーに来た女性陣が多かったので、あちらこちらで声を掛けられ砂糖を熱望されたのにはまいった。どんだけ甘味に飢えてんだよ。
しかし考えてみればカヤノもミーゼも甘いものを食べると幸せそうな顔をするしな。やはり女性にとって甘味とは抗いがたいものなのかもしれねえな。
・・・あっ、カヤノは男だったわ。
翌早朝、俺たちは出発の準備を進めていた。行きは荷物でいっぱいだったリュックもスカスカで荷物らしい荷物と言えば集めた薬草や帰りと予備分を含めた食料や寝具ぐらいだ。普通なら夜に寝るためのテントやなんかがあるためそれが結構な荷物になるんだが、俺のコテージがあるのでそのあたりがいらないのが荷物が少ない大きな要因だ。
昨日のうちに見送りは良いって言っておいたんだがニーアは律儀にも俺たちより先に起きて待っていた。
「どう?エルフの里は?」
「・・・」
「思ったより普通だったわ。」
「魔物の解体が早くて綺麗でびっくりしました。」
ニーアの問いかけに俺が一瞬躊躇する間にミーゼとカヤノが答えた。素直な感想にちょっとほっこりする。まあ2人らしい回答だ。
俺が躊躇したのは、ニーアの瞳に一瞬ではあるが冷たいものを感じたからだ。カヤノやミーゼではなく俺だけに向けられたそれが俺のセリフを遮った。すぐに消えてしまったので勘違いかと思いたくなるが、それはちょっと都合がよすぎるだろう。
かといってここで心証を良くするような嘘を言っても意味がねえしな。
「エルフは甘味に飢え過ぎだろ。」
俺の回答に、ニーアはすこしキョトンとした後、子供らしく無邪気に笑った。
「うん、確かに飢えてるかも。森の中だとハチミツくらいしかないし、取ろうとすると命がけだし。」
「いや蜂に刺されてもそうそう死なんだろ。」
「だってこの森にはキラービーしかいないし。」
「魔物じゃねえか!?」
俺の突っ込みに嬉しそうにニーアが笑う。キラービーはギルドの資料で見た限りだと体長50センチほどの蜂の魔物だ。一匹一匹はそこまで強くないんだが、その針で刺されると一度目は高熱や意識を失う程度で済むが二度目に刺されればほぼ確実に死ぬっていうやばい魔物のはずだ。
俺なら問題はねえと思うが、カヤノとミーゼがいる時に遭遇したら速攻で逃げるつもりの奴だ。そいつが集団でいる巣穴に蜜を取りに行くなんて確かに命がけだ。
笑っているニーアを見るが・・・ダメだ冗談なのか本気なのか判断がつかん。
「はぁ、まあいいや。じゃあ行くぞ。色々助かった。」
「泊めていただいてありがとうございました。」
「じゃあね。」
「うん。また来てね。」
ニーアがわざわざ俺たちについてログハウスの外へ出て、見送ってくれる。手を振るニーアにカヤノとミーゼが何度も振り返っては手を振り返している。
まだ朝は早い。野営地には日が明るいうちに着けるだろう。それにしてもニーアの奴、俺たちの部屋をちゃんと掃除しに行くだろうな?今までの行動から見るとちょっと心配なんだが。
いや、まあ大丈夫か。たぶん。
それよりも一歩外へ出れば魔物のうごめくユーミルの樹海だ。気を引き締めねえとな。気合を入れなおし、俺たちはエルフも門番に挨拶をして帰路についた。
リクたちがいなくなったログハウスに1人、ニーアが椅子に座って空中を見ていた。
「ねえ、どう思う。」
ニーアが空中に向かって問いかけるがそれに応える者はいない。しかしいないはずの存在の話を聞くようにニーアが相槌をコクコクと首を上下に振って打っている。
「私も悪い人たちじゃないと思うけど。やっぱり気になるよね。一番はやっぱりリクかな。あっ、やっぱりそう思う。私もそうなんだけど。」
ニーアが立ち上がり、2階への階段を上がっていく。その視線は一定の方向を向いたままだ。そこには確かに何かが存在していると証明するかのように。
「うん、カヤノもちょっと変だけどね。ミーゼが一番普通かな。普通と言うかどっちかと言うとエルフに近い気がする。」
ニーアがリクたちが泊まっていた部屋のドアを開ける。部屋の中はしっかりと片づけられており、そのまま別に人を泊めても問題がないくらい整っていた。
立つ鳥後を濁さずを実践したかのようなその部屋のテーブルの上には1つだけ異物が残されていた。ニーアがその机へと近づいていき、そしてそれを見てほほ笑む。
そこにあったのはパンに野菜や肉を挟んだだけの簡易な食事と、「しっかり食べねえと大きくなれねえぞ」と書かれた木の板だった。
「よくわかんない人たちだけどまた来てほしいよね。」
早速その食事を口に頬張るニーアに同意するように、それを包んでいた包装用の薄い布がひらひらと宙を舞う。
「あははははは。」
それに合わせるように手に食事を持ち、笑いながらニーアが部屋の中でくるくると回る。
「うっ、気持ち悪い。」
しばらく回ったニーアが口を押さえてうずくまる。その後どうなったのかは誰も知らない。ただ、しくしくと泣きながら雑巾を洗っているニーアの姿が里のエルフに目撃されたそうな。
見えないお友だちがいることがわかったニーアにどう対応すればいいのかわからず戸惑うリク。なんとか話を合わせていく内に、それがニーアの悲しい過去から生まれたものだと知ったリクは果たしてどうするのか?
次回:エンドレス ワルツ
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




