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かまくらいふ!  作者: 岩越透香
夜霧と愉快な仲間たち

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おまけ プレゼンテーション

「新しいゲーム、始めてみようかな……」

このゲームにはたくさんのフレンドがいて、鎌倉の混沌とした町は好きだけれど――好きだからこそ、他のゲームにも興味が出てきてしまった。興味があるといっても特定のゲームはない。ゲーム中に他のゲームのことを聞く機会なんてほとんどなかったから。


 なんてことを考えながら、プレイヤーを返り討ちにし続けていると、囲まれてしまった。考え事をしていたせいで直前まで気がつけなかった。これで死んだら今日はやめようかな、と思ったが、いつまで経っても攻撃されない。


「ここに、第一回プレゼン大会を開催するッス!」

モブ太が前に進み出てそう宣言した。


「プ、プレゼン大会!? な、何の!?」

「ゲームのッス!」

「おね、夜霧さんにやって欲しいゲームをプレゼンするんです! 新しいゲームを始めたがっていると聞いて……」

「み、みんな……!」

フレンドたちに連れられて広い屋敷に通される。紫陽隊が所有する屋敷が一番広かったため、開催地として選ばれたらしい。ただし、それはAsahiが副軍長の権限を振り回している訳ではなく、元々貸し会議室として屋敷は使われているらしい。


「えー。ではこれより……え、これ言うのか?」

仕事辞めたいさんにモブ太がサムズアップをした。モブ太が企画発案者なのだろうか。


「これより『第一回夜霧にやって欲しいゲームをプレゼンテーションする会』を開催します。……名前どうにかならなかったのか? いや、第一回ってことは二回目も予定されてるの? 俺、そもそもこんな役やりたくな――」

彼がツッコミを入れつつ文句を言っていると、爆発音が響く。はぐるまさんが爆竹を足元に投げ入れ、音を出していたらしい。一歩動いていれば足が吹っ飛んでいただろう。フレンド兼司会者に向けてやるようなことではない。


「あーもう、やりゃ良いんだろ、やれば! エントリーナンバー一番、モブ太!」

「まっ、トップバッターは主催者特典だな。いやー悪いッスねぇ。初手から正解を出しちゃうッス」

彼が机を叩くと、後ろに大きくゲームのロゴが表示される。


「世紀末デモクラシー? 色々聞きたいんだけど、とりあえず……なんで画面が映し出されているの?」

「それはッスね、つらみさんがゲーム外の映像を取り込むMODでやってくれてるッス!」

「覚えてるかしら? 労働つらみでーす。MODは機能を追加できる物って認識してもらえれば良いわ。私セレクトのゲームもあるから楽しみにしててね」

彼女はそれだけ言って裏に戻って行った。私一人のために裏方を含め、沢山の人がやってくれてると分かり、申し訳なさと嬉しさが同時にやってくる。


「えっと、中断してごめん! 説明お願いします!」

「照れてるッスね? じゃあ説明するッス。これはかまくらいふみたいなゲームッス!」

私がかまくらいふに似たゲームに興味を示すと、彼はにやりと笑った。映像を切り替えながら説明してくれる。


「このゲームの舞台は世紀末――二千年頃で、第三次世界大戦が起こってしまったもしもの世界の話ッス。進化した兵器によって荒廃してしまった世界で民主主義を復活させようって趣旨のゲームなんスけど、実際は何でもありの破茶滅茶なゲームッス!」

楽しそうに思えるけれど、ダークな世界観が私には合わない気がする。近代兵器も出てくるようだけど、遠距離武器は使うのが苦手なのはもちろん、対処も難しいから嫌かもしれない。


「えーでは、審査員。判定は」

「審査員……わ、私!? ええっと……」

祈るような仕草をするモブ太には悪いと思いつつも首を振った。


「エントリーナンバー二番、シュウ!」

「そりゃそうだろ。ヨルは薙刀使いだから、近代兵器が出てくるゲームとは相性が良くないんだ。ってことで俺はこれだ!」

Anywhereと格好いいフォントで表示される。シュウが勧めている時点で戦うゲームということは分かるが想像がつかない。


「これはVR格ゲーの金字塔的作品で、十年以上も親しまれている、人気タイトルなんだ! アップデートも追加コンテンツも多いから沢山キャラがいて、薙刀使いもいるよ」

「キャラ?」

「そう。キャラごとに固有のアクションがあって面白いんだ。難しいことはほとんどないから始めやすいのも高評価!」

楽しそうだと思い、司会者の質問に肯定しようと思った時、Asahiが呟いた。


「コマンド制は合わないと思うけど」

「コマンド制?」

「同じ殴るって動作でもキャラによって変わるんだ。アッパーになったりストレートになったり。言われた通りお手軽ではあるけど、合わないんじゃないかな」

ちらりとシュウを見ると、顔を逸らして口笛を吹き始めた。どうやら都合の悪いところは黙っていたらしい。


「エントリーナンバー三番、Asahi!」

「僕は王道を行くよ」

映し出されたタイトルはCenter Of The World。空色の文字に金の縁取りで爽やかさを感じる。王道……というとRPGだろうか?


「半年くらい前に発売された国産VRMMORPGで僕もやってるんだ。ストーリーも親切な方だし、まだ人も多いよ。アップデートで和風なエリアが追加されるらしいから、薙刀も使えるかもしれない」

「MMO? かまくらいふみたいな?」

「そうそう。治安はここより良いけどね。一応言っておくと、普通は町中でのPKは良くない行為だからね?」

「そうなんッスか?」

「違うよ、対人戦こそオンラインの楽しみなのに」

「二人とも、嘘を教えないでください!」

モブ太とシュウが首を傾げてPKを擁護するが、巴を始めとする周りの反応から考えると、PKはやはり良くない行為なのだろう。


「僕もするけどね、PK」

常識人っぽくしていたけれど、Asahiもそういう人だった――! 知っていたはずなのに、どうしてだか騙されたような気持ちになる。


 話を聞くだけでは判断できないため、保留にしておいた。一週間は無料で遊べるようだし、お試しもありかな。


「エントリーナンバー四番、はぐるま!」

「どっかんばったんパズルゲーム――打ち上げ花火!」

花火が打ち上がる映像が流れる。なんとなくおすすめする理由が分かった。


「花火、好き?」

頷くと、彼は嬉しそうに笑った。


「ならおすすめ。綺麗だから」

彼は無言で映像を変えていく。四つ同じ色を揃えて消すタイプのパズルゲームらしく、ルールはとても簡単らしい。ステージをクリアすると綺麗な花火が上がり、失敗すると大爆発が起きるのだとか。……大爆発が赤字で書かれていて強調されていた。


「VR版は買い切り二千円。スマホ版は無料。どう?」

気が向いたら、と返したものの気が向くことは無いんだろうなと何となく思った。


「エントリーナンバー五番、仕事辞めたい! って俺ぇ!? なんで!? 用意してねぇけど!?」

「――司会者の癖に」

「はぐるまお前、仕組んだな! ほんっとに用意してねぇよ! 司会者も今日割り振られたんだぞ!?」

「私が、お姉様のために、やりたかったのに……」

「じゃあやって! 今からでも良いよ!?」

ツッコミが忙しそうな彼を見て申し訳なくなる。発端は私の独り言な訳だし。けれど、彼は覚悟を決めたようで、プレゼンを始めてくれた。


「面白いゲームじゃねえよ? 俺のプレイ時間が最も多いってだけだ。そのゲームの名は、VR待機室」

彼の宣言と共に、映像が流れる。くすくす笑っている観衆を見て、疑問に思った彼は振り返る。


「映像が用意されてる!?」

「ふふふ、嘘ついて逃れようとしても無駄よ」

「読まれていたなんて……」

「なんでこれが被るんだよ!?」

ケインが悲鳴に近い声を上げる。長年の付き合いでお勧めするゲームを予測したのかと思ったが違うらしい。


「ゲームというよりコミュニケーションツールなのにどうして被る!?」

「咄嗟に思いつくのがプレイ時間最長のこのゲームだったんだよ、悪いか!?」

言い争いを始めてしまった二人の代わりにつらみさんが説明してくれた。VR待機室はVRのアバターで交流したりミニゲームを遊んだりするゲームらしい。また、提携しているゲームであればVR待機室に居ながら別のゲームをしているフレンドと話すことができるらしい。基本プレイは無料で、ダウンロード数がこの国で最も多いらしい。入れても損はなさそうなゲームだ。


「くそが。エントリーナンバー六番、労働つらみ!」

「待機室とは違って、さいっこうのゲームを持ってきたわ!」

聖リュンヌ学園〜お茶会に潜む魔物〜というタイトルのゲームらしい。ドレスを着た女性がロゴに入っている。


「乙女ゲー?」

「いやギャルゲーでしょ。女の子に囲まれたいって公言してるし」

「いや、これは絶対におかしいって!」

今まで以上に観衆が騒がしい。私もどんなゲームか分からず混乱している一人だ。


「このゲームはお嬢様学校の聖リュンヌ学園の生徒となって、お茶会を壊そうとする魔物に取り憑かれた生徒を当てるゲーム。つまり、人狼ゲームね」

推理ゲームは苦手だな。今のところ、興味は惹かれないな。


「なんといってもこのゲームの魅力は可愛い女の子に囲まれること! 欠点はプレイ人口が少ないことだからこうして布教しているの。買い切り二千円だからぜひ!」

彼女の熱量は凄く、思わず頷いてしまった。仕事辞めたいさんは「無理にやらなくていいからな」と言ってくれた。


「エントリーナンバー七番、巴!」

「六番と傾向が似てしまって悔しい……」

彼女が紹介するのはTee party!というゲームで、確かにロゴの雰囲気が似ていた。


「このゲームには戦いも爆発も騙し合いもありません。ただ、お茶会を様々なシュチュエーションで楽しむだけです」

お茶会? お茶は好きだけど、ゲームですることだろうか。周りもアクションが好きなタイプが多いようで、微妙そうな反応をしていた。巴はそんな逆境にもめげず、声を張り上げた。


「でも、それが良いんです! 凝った内装と可愛い衣装を着て! フレンドとゆっくりする時間が良いんです! ついでにお茶も美味しい! 本体はたったの五百円!」

「お茶が……美味しいの?」

「はい! 飲み物がとても充実してるんです。一番種類があるのは紅茶ですね!」

私が出演した道場通に、紅茶が好きってエピソードがあったから、それを知っておすすめしてくれているのかな。VR内での紅茶、ちょっと気になるかも。美味しいのだろうか? たった五百円なら買って試してみてもいいかもしれない。


「やったあ!」

私が興味を示すと巴は飛び跳ねて喜んだ。


「なんで……お茶会ゲームに……負ける……ッスか……」

「リサーチ力が違うんです! おね、夜霧さん愛なら負けません!」

手を床に付いて大げさに悔しがるモブ太を巴が見下している。そんな二人を横目にプレゼンテーションは進んでいく。


「やっと最後だ! エントリーナンバー八番、シマネ&トリット!」

「今回私たちが紹介するのはこちら!」

「The slider!」

宣言と共に映し出されたロゴには波が入っている。二人が勧めていることも考慮に入れると……ウォータースライダー?


「ウォータースライダーを作って滑れる楽しいゲームだ!」

「作るのにはコツがいるけど、滑るだけでもスリルがあって爽快だから、ストレス解消にもピッタリ! お値段はたったの千円! どう!?」

つらみさんの押しが強いと思っていたけれど、こっちは二人いることもあってより強い。だからといって頷いてはいけない。今度こそちゃんと意思を示すんだ……!


「そのゲームってVR酔いしますよね?」

「しないよ! ……慣れれば」

二人ともスリル満点なゲームが好きそうだったからなあ。私の三半規管は現実でもVRでも強くはないからやめておいた方がよさそうだ。


「と、いうわけで全てのプレゼンが終わりましたが……審査員、総括をどうぞ」

「え、えっと……まずは私のためにこんな会を設けていただきありがとうございます。ゲームについてあまり知らなかったので、今日知ることができて良かったです」

「真面目なコメントありがとうございますー。ってことで解散!」

仕事辞めたいさんが雑に締めくくると乗り気だった人たちから突っ込みが入る。


「第二回開催の連絡がないぞ!」

「そうだそうだー!」

「うっせー! それを読んだら参加するハメになるだろうが!」

言い争いで終わるという、なんとも締まりのない大会になってしまった。けれど、この緩さが心地よいなんて考える程度には、私はかまくらいふに毒されていた。

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