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かまくらいふ!  作者: 岩越透香
そうだ、京都へ行こう

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幕間 紫戦争②

「開戦!」

その宣言を聞いた紅チームは一斉に砦を目指し走り出す。


「駿足!」

その中でも特に速いのがK。速さを重視する槍使いの男だ。彼は鎌倉の地形を理解し、最適なショートカットルートで接敵することなく砦に辿り着く。


「はっや!? 敵襲――」

「遅い!」

彼は一人目を一突きで殺し、続いてやってきたプレイヤーの攻撃を受け止め、スキルを使ってその背後に回り込み、胸を貫く。彼の動きは速いものの、敵を倒すスピードはそう早くない。彼は二人、三人を相手取ることになり、回り込むこともできなくなった。


「その横暴、許さないから!」

大太刀を持った女性プレイヤーふわりが思いっきりそれを振るう。正面の敵に意識を向けていたKはその一撃を避けられない。


「た、助かった!」

「油断しちゃだめだから! 次が本当の勝負だから!」

彼女は窓から外を見ている。彼女の目には紅チームのプレイヤーたちが映っていた。その数は紅チームの全体の八割ほど――蒼チームの総数より多い。


「攻撃さえ成功すれば持ちこたえられるから……」

彼女の額には冷や汗が浮かんでいた。



 一人目を撃退しても紅チームの勢いは止まらない。次々と侵入する敵の対処に蒼チームは追われ余裕がなくなっていた。


「私たちだけじゃもう無理だから!」

「そんなこと言わないでよ、精鋭!」

「責任重大な役職を誰もやりたがらなかっただけだから! 違うから!」

蒼チームの砦を攻める紅チームには大将と副大将以外の実力者が勢ぞろいしているため、ふわり率いる蒼チームが耐えきれなくなるのも時間の問題だ。


「こんなのおかしいから! だって、あっちには精鋭の役職が振られていてもおかしくないプレイヤーがみんな居るんだから! これじゃあ紅チームは防衛できないから!」

「……そうか!」

彼女の泣き言を遠くで聞きながら、矢を紅チームの頭から生やしていたクマーは、折れそうになっていた蒼チームの心を奮い立たせるために大声を出した。


「奴らはこちらの攻撃が開始したら死に戻りで戻るはずだ! それまで耐えればこちらの――」

彼がそう叫んでいると、忍び寄ってきた暗殺が得意な毒使いの少女ギエリがその喉を斬り裂く。


「正解! でも甘いなあ、あはっ」

彼女は僅かに口角を上げ、言い放つ。


「あはっ。その程度で持ちこたえられるのぉ?」

「で、できるからあ!」

ふわりの力任せの攻撃を彼は受け流し、腹に蹴りを入れる。ギエリは両手の短刀をくるくると回しながら嘲笑うような笑みを浮かべる。


「力もない小娘に構ってるけどぉ、大丈夫ぅ?」

彼女は周りで戦うふわりの仲間を指差しながらそう言った。しかし彼女は怯むことなくギエリに攻撃を続ける。


「何か言ったら? あはっ。もしかして、声を出す余裕もないのぉ?」

ふわりは何も答えない。反応がない彼女に、それなのに有効打を与えきれない状況にギエリの不満は募っていく。


「答えっ……なさいっ!」

「見えたから」

ふわりはギエリの動きが乱れるのを待っていた。ギエリは紅チームの主力の一人であり、その対策は練られていた。


 彼女は性格が悪い。彼女は不必要にいたぶることを楽しんでおり、そのために圧倒的に有利な立ち位置になるように立ち回っているために強い。


 その残忍さは幼さゆえのものであった。幼いゆえに、自分の思い通りになると信じているし、そうでないと不機嫌になる。そうした性格に目をつけた蒼チームはメンバーに「戦うなら無視をしろ、時間稼ぎなら話せ」と伝えたのだった。


「なっ……! 嫌、嫌、嫌っ! こんなの……! あんたより弱いわけないっ!」

ふわりは喚くギエリに刀を突き刺し、とどめを刺すと別の場所に加勢に向かった。



 一方の蒼チームもほぼ同時に砦攻略を開始していた。攻めに多くの人員を割いている紅チームは砦に残るプレイヤーが少なく、片手で数えるほどしか居なかった。戦闘が開始されると、数の暴力で見る見るうちに数の差が広がっていく。本来ならすぐに鎮圧されている人数差でも耐えているのには理由があった。


「なんであんたが……!」

「積極的に攻め込む副大将に言われても」

紅チーム大将ランランルーは煽るように言った。


「ああ、三分の一を当てる俺の運に嫉妬するなよ?」

「逆よ、今ここであんたを倒せば勝ち。不幸なのはそっちよ」

二人が睨み合っていたのは一瞬のこと。彼らはすぐに戦い始める。


 二人の使用武器は共に刀。始めはプレイヤースキルが上回るランランルーが優勢だったが、他の紅チームを倒し終えたプレイヤーが参戦すると徐々に劣勢になった。彼は致命傷は負っていないものの、顔に焦りが見える。


「流石の奴でもこの数を相手じゃ――」

言葉が途中で止まった蒼チームの男の目からは矢が生えていた。Monaは砦の外に弓を持つプレイヤーを見た。彼女が嫌な予感を覚え刀を振るうと、地面に二つに斬られた矢が落ちていた。


「みんな、外に狙撃手がいるわ!」

「おいおい、余所見して良いのか?」

悪い顔をして笑うランランルーの背後から新たにプレイヤーがニ人現れていた。


「死に戻りね。斥候かしら? ……っぐ」

外の狙撃手、目の前の強敵、そして新たな敵に気を取られた彼女は近くに迫っていたもう一人の強者に気がつけなかった。


「ギ、エリ……。居ないこと、不自然、だったのに……」

「あはっ。痺れながら、何もできない自分を恥じながら、味方が倒れるところでも見ればぁ? ちょっと早めに戻って死角に潜んでいたのは正解だったわぁ」

彼女はとどめを刺さずに悪い笑みを浮かべてMonaを見下ろす。Monaは短刀に塗られていた毒による痺れで上手く動けないながらも刀を握り、ギエリを睨みつける。


「Monaを放せ!」

ギエリに向かって矢が放たれる。彼女は容易く躱すが、意識をそちらに移した一瞬の隙に別のプレイヤーがMonaを外に運び出す。


「回復薬を」

「これくらい、なら、休めば、いいわ……。毒に、ダメージは、無かった、から。それ、に……」

彼女は同陣営のプレイヤーに支えられて味方の砦に戻る。


「私たちは、攻め切れなかった、から。せめて、守らないと。その、ために、薬は、節約、しましょう」

彼女は悔しそうに絞り出した。


 その後駆けつけたMonaたちによって蒼チームの砦攻略の勢いも弱くなり、戦況は拮抗状態に陥った。どちらかが良いところまで攻め込んでも、すぐに相手が砦へ戻り防衛し、結局落とせない。この戦いを企画した紫陽隊の大将タケシは「ミスったな、ここまでとは」と零した。



 どちらも砦を落とせず、大将も副大将も健在なまま一時間が経過した。各砦・本陣にいる紫陽隊の面々が紅連隊と蒼刃隊の戦争は終了であると伝える。


「ここからは我ら紫陽隊も参加する」

砦に居た六人は土地の機能で一度他プレイヤーを追い出し、本陣にいた二人は近くのプレイヤーを一人殺した。


「大将はタケシ、副大将はAsahi、斥候がるるで、あとは精鋭の合計九人! 期間は一時間で前半と他は同じだ! 精鋭は対応する砦を取り返すまで復活不可だ、気を付けろ!」

その宣言に両陣営に驚きが広がっていく。その隙に紫陽隊は厄介なプレイヤーたちを殺し、舞台を整えていった。

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